鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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家族と上司で夕食を

(何だったんだ。)
 シバが帰ってから、俺はベッドの上で頭を整理した。
(待てよ、まず初めてしたキスは、俺をなだめるためだろ……。)
 初めてのキスは、泣きじゃくる俺をどうにかしようとシバが善意でしてくれたことだ。そして、宿でした2回目も、俺が一人で寝るのを怖がっていたから。
(じゃあ、今日のは何だ……?)
 まるで恋人のように、優しいキスをされると勘違いしそうになる。俺は両手で頬をパンッと叩き、都合の良い自分の考えに喝を入れた。
 シバはスキンシップを勉強中だ。そして、俺のことを『友情』という意味で好きである。それを踏まえると、シバは友人への愛情表現の仕方が分からず、俺に過剰に接触しているのだろう。
(もし好きなら、映画みたいなキスをしてくるだろうし……。)
 ディープキスの存在はすでに本で読んでいるにも関わらず、俺達がしているのは軽く唇を合わせるのみだ。
(挨拶みたいな気持ちでしたのかな。でも、普通は友達同士でしないよね。それをシバに伝えるべき……?)
 頭ではそうするべきだと分かるが、シバの行動に嬉しいと感じる自分が邪魔をする。
 俺自身は、初めてのキスをアックスに捧げることはもう不可能であるため、何回しようが一緒だ。しかし、さすがに彼と恋人になってからもシバとこれを続けるのは良くない。
(とりあえず、次にされた時にちゃんと言おう。されたら……でいい。)
今回はノリでしたのだろうし、次は無いかもしれない。そう思うとホッとすると同時に少し残念な気持ちにもなる。
(あ~、もう寝よう。)
 俺は考えるのを止め、ベッドに倒れこんだ。

 約束通り、シバは毎日俺の部屋に来た。
 朝は一人で、そして夕方には文官達を連れて会いに来てくれた。久々に顔を合わせたシュリは、俺に抱き着いてなかなか離れなかった。
 そして、シバと2人きりの時には必ずキスをされた。
 それはいつも帰り際で、突然であるため防ぎようがない。友達同士でしては駄目だと言いたいが、した後すぐに帰ってしまうため、俺は伝えるタイミングをいつも逃していた。
(次、された時には絶対に言わないと!)

 アックスも事件の経過を伝えるために俺の部屋を訪れた。
 報告によると、城で働く俺を誘拐したエルへの判決は懲役2年、または多額の罰金で牢屋行きは免れるといったものだった。そして王都への立ち入りは今後一切禁止の予定だという。
 アックスのお見舞いイベントも無事発生し、俺はイベント④が失敗していなかったのだと安心した。
(ゲームでは、会話選択を間違えた翌日にはバッドエンドだ。……助かった。)
 イレギュラーなことは多々あったが、それでも何とか大丈夫だったようだ。後は好感度を上げたり、仕事スキルを伸ばしたり、小さいイベントをこなしながら告白イベントを待つのみだ。
「セラ!それもうできたんじゃない?」
 考え事をしながら鍋の中をかき混ぜていた俺の後ろから突然声がして肩が跳ねる。
「わっ!父さん帰ってきてたの?」
「ただいまって言っても反応しなかったのはセラでしょ。」
(……全く気付かなかった。)
 父は火を消して鍋の中を見てから、心配そうに問いかける。
「明日から仕事だけど大丈夫なの?」
「うん。ちょっとぼーっとしてただけ。」
「それでこんなに作っちゃったの?」
「……うん。」
 俺は机に並べられた料理に目を向ける。
 アックス用に作ったのかといわんばかりの品数だが、これらは全てシバの為だ。
 なんせ今日の夕方は、シバが部屋に夕食を食べにくる。
 明日からは仕事も再スタートするため、シバがこの部屋にお見舞いに来るのは最後だ。それならと夕食に招待してみたところ、来ると言ってくれた。
 足の調子はすっかり良くなり、何品か作るか……と思って始めた料理は、シバに喜んでほしいとどんどん増え、気付けば部屋の食材をほとんど使ってしまった。
 特に、前にお弁当に入れた小さいキッシュをえらく気に入っていたシバのために、今回はホールで焼いてしまった。
(まぁ、残っても明日の昼に食べたらいいし、ストックにしてもいいし……。)
 作りすぎてしまった料理を自分の中で正当化し、俺は今作ったばかりの料理を最後の一品にした。
「ラルクさんは?」
「仕事がまだあるらしくって、ちょっと遅れるけど来るよ。」
「アインラス様も少し遅くなるみたいだから、ちょうどいいかもね。」
「そっか。セラ、今日は楽しみだね。」
 父とラルクには、俺がシバと特別な仲でないことは伝えてある。俺達は仲の良い上司と部下兼友人であると説明すると、2人はびっくりしつつも、それ以上は何も言わなかった。
 父は「さ、後は父さんがやるから座ってて。」と言って、俺を椅子に座らせた。

コンコン…
「あ、来た!」
 俺は立ち上がって玄関へ向かう。そして扉を開けると、そこにはシバがいた。
「アインラス様、ようこそ。」
「今日は招待してくれてありがとう。」
(招待なんて、大げさな。)
 俺は、そんなにかしこまらなくていいと言って笑った。

「君が準備したのか……?」
「はい。その、はりきりすぎですかね?」
「嬉しいが、君の足が心配だ。」
 シバは俺の肩を抱き寄せると椅子に座らせた。
「ずっとベッドにいたので、完治してますよ。」
「それでもだ……。だが、どれも美味しそうだ。早く食べたい。」
 そう言って俺の手に触れてくる。
(なんか近すぎない?あと、何この空気。)
 父のいる前でこんな態度をされたら、また勘違いされてしまうだろうと心配になる。案の定、父は気を遣って台所へ行ったが、チラチラとこちらの様子を窺っている。

「じゃあ、先に始めましょうか。」
 俺達のやりとりを気にしつつ、父がシバの持ってきてくれた飲み物を運んできた。
「はい、セラはジュースだよ。」
 父から渡された飲み物を受け取る。父達はワインを持っており、大人な雰囲気が少し羨ましい。
「いいなぁ……。」
「君も来年は一緒に飲める。」
 俺の漏らした言葉に、シバが少し笑った。
(ずいぶん笑うようになったな。)
 まだまだ表情の乏しいシバだが、俺の前ではこうやって笑うことが増えた。目が少し細まり、口の端がほんの少し上がる笑顔は、俺の一番好きな顔だ。
 席に着いた父がグラスを上げる。
「乾杯。」
 俺はジュースを、父とシバはワインを片手に、食事がスタートした。

「それでは、アインラス様はトロント様と同期になるんですか?」
 あれから仕事を終えたラルクが参加し、夕食は賑やかになった。お酒が入り、父もラルクもシバに遠慮がなくなる。
 いつもの夕食の雰囲気は心地良いものの、シバが気分を害していないか少し不安に思った。
チラッと様子を窺うが、シバも楽しそうだ。
(良かった…。)
「ただ、同じ団では無いので、騎士団にいた頃話したのは数回だ。」
 ラルクは、陰で最強だったと噂されるシバと英雄アックスが同期であると知り、その年代は奇跡の年だと目を輝かせていた。

「あ、そういえばラルクさん!」
 酔ったラルクは、しばらくシバに剣や体術について質問していたが、空気を読んだ父が間に入り、その話は一旦中断となった。
 シバはラルクの態度に対して特に気にした様子もなく、皿にキッシュを取り分けると、それを上品に切り分けて口に運ぶ。
 その動作に、あいかわず綺麗だと感心していると、シバがこちらを向いた。
「これは本当に美味しい。」
「ふふ、気に入っていたようなので、ホールで焼いてみました。良かったら持って帰って下さい。」
「いいのか?明日食べるのが楽しみだ。」
「もちろん」
 頷くと、シバが俺の頬を撫でた。

ガタッ
 音がした方を見ると、父とラルクが俺達を凝視していた。
「あ、続けて。」
(続けてって、何だ。)
 父が手を前に出して、どうぞどうぞとしている。ラルクも父と同じポーズをしており、どうするべきかとシバに視線を送った。
「そうしよう。」
 シバは、そのまま俺の頬を撫でると、口の端を指で軽く触る。
「あの……酔ってます、か?」
「いや。」
(いや、絶対酔ってる。)
 目の前の胸を軽く押すと、シバは少し笑って「では、続きは後でしようか。」と言って食事を再開した。
 その言葉に、じわっと胸が熱くなる。
(なんだこの酔っ払いは……。たちが悪い。)
 俺は顔に熱を感じながら、それを悟られないよう、慌てて台所へ飲み物を取りに行くフリをしてテーブルを離れた。

「今日はありがとう。」
「いえいえ。あの、酔っ払い2人がすみません。」
「明るい家族だ。」
 ラルクを含めてそう言っているのだろう。たしかにラルクはうちの家族と言って良いほどに馴染んでいる。
 明日の仕事の為に帰るというシバを玄関で見送っていたが、リビングで盛り上がっている2人の声が邪魔で落ち着いて会話ができそうにない。
 シバとともに玄関から出ると、扉をパタンと閉めた。
「また来て下さい。」
「ああ。」
「明日から、またご指導よろしくお願いします。」
「ああ。」
「……あと、明日はお弁当って、ンッ……」
 話している最中であるにも関わらず、急に顔が近づきキスをされる。
 そのまま、ちゅっちゅと数回口を吸われ、顔がゆっくり引かれた。
「あ、あの……、」
(言わなきゃ。こういうことは、友人同士ではしないんだって。)
「明日は弁当は大丈夫だ。これがある。」
 シバは手に持ったキッシュの袋を持ち上げる。
「早く寝るんだぞ。」
 まるで子どもにするように、言い聞かせてくるシバ。
「はい。」
「セラ、おやすみ。」
「……シバ、おやすみなさい。」
 シバは俺から離れると、宿舎の入り口に向かって歩いて行った。
(また言えなかった……。)
 次こそーーとは思うものの、毎回失敗しており、だんだんと伝える自信がなくなってくる。
 俺は玄関を開け、笑い声のするリビングへと戻っていった。
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