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父と働く1日目
週明け最初の出勤日、俺はダライン様に言われて騎士棟の門へ向かっていた。近くまで歩いていくと、門の前に見慣れた黒い髪が見える。
「セラ、おはよう。」
「アックスおはようございます。お待たせしましたか?」
迎えに来るとは聞いていたが、わざわざ門で待っていたとは思わず申し訳なくなってくる。
「いや、ちょうど見回りが終わったばかりだ。団長は急用で外出されたから、俺が案内するよ。」
「アックスも忙しいんじゃ……、」
「今日の俺の仕事は、セラを案内することだ。」
「えっと、じゃあお願いします。」
アックスが楽しそうに笑うので、さっきまでの申し訳ない気持ちが少し薄れてくる。
騎士棟をすいすいと進み、俺は武器管理課と書かれた場所に案内された。
「あれ、ここって父の職場じゃ……、」
「今日はここで研修をしてもらう。」
「そうなんですね!父が喜びそうです。」
「今朝、セラの話は聞いているはずだから、今頃、扉の前で息子を待ってるんじゃないか?」
「……私もそう思います。」
アックスが扉を開けると、予想していた通り父が笑顔で待っていた。シシルはアックスに挨拶をすると俺の手を引いて中へ招いた。
引っ張られるままに部屋に入ると、すぐにカウンターがあり、その上には図書館のように『貸出』『返却』と書かれた板が置いてある。
「また後で様子を見に来る。仕事内容はシシル殿に聞いてくれ。」
「ありがとうございます。」
俺が頭を下げると、アックスは「またな。」と言って去っていった。
「本日こちらでお世話になります、文官の手伝いをしているセラ・マニエラです。」
「おお~、本当にシシルにそっくりだな。俺はガンダスだ。よろしくな。」
俺はとんでもなくでかい男、ガンダスと握手をする。彼は俺より30センチは高いと思われる。彼を見上げると、顔に影が落ちた。
(シバもアックスも大きいけど、こんな存在感ある人、見たことない。)
「ガンダス課長のおかげで、武器の返却率は100%なんだ!」
なぜか父が誇らしげに伝える。
(こんなに迫力のある課長なら、俺もすぐに返却するよ。)
他にも、ここにいる人達は皆ガタイが良く、父がまるで子どものように見えた。
「セラ、ここに座って。」
他の人達の前でも一通り挨拶をし、俺は父とカウンターに座ることになった。
「セラ、もし騎士の方達が来たら、笑顔で挨拶するんだよ。どの武器を借りるか聞いて、あとは笑顔でお見送り。」
「分かった。」
(とりあえずは父の働きっぷりを見てみよう。)
父が他にも注意事項を説明していると、扉がガラッと開き、若い騎士達が数名入ってきた。
「あ、来たよ。背筋伸ばして。」
「うん。」
騎士達は父を見て笑顔で手を挙げるが、横に座っている俺を見て目を丸くした。
「え、弟さんですか?」
「いやいや、この子は私の息子です。」
「え……?!こんなに大きいお子さんがいたんですか?」
(この反応、何回目だろ……。)
このやりとりは今までに何度も経験している。
「はじめまして。セラと言います。父がいつもお世話になってます。」
「可愛いな~。セラ君って言うんだ。これからここで働くの?」
「いえ、普段は文官のお手伝いをしていて、今日は職場体験でここにいるんです。」
「そうなんだ。ずっといたらいいのに。」
そう言うと、「なぁ?」と横の男に同意を求める。
「ふふ、どの武器がご入用ですか?」
父が微笑みながら尋ねると、剣を150弓を100と、とんでもない数を言われた。
「はい。では名前と所属と貸し出し希望時間をお願いします。」
父の言う通りに男がさらさら名簿に必要事項を書いていく。
「じゃあ、よろしくお願いします。」
騎士の1人が名簿を手渡しそれを確認すると、父が顔を上げてにこりと笑う。
「はい。では、時間にお持ちします。今日もお仕事頑張って下さいね。」
「今日は寒いので、無理をなさらないように。」
父の言葉に続けて、俺も騎士を労ってみる。男達は、「ぐ……っ」と呻いたかと思うと、心臓を押さえて部屋から出て行った。
「セラ、いい感じだね。あとは武器の手配をお願いして、時間にお届けに行くんだよ。」
父はさっそく、裏にいる管理課の人達に向けて大きな声を出した。
「長剣白150!弓大100!11時!」
「「あいよ!!」」
(……なんだこれ。)
父の突然の大声に驚く。まるでラーメン屋の店員のようなやりとりはいつものことなのだろう、誰も気に留めていない。
(さすが騎士棟……。)
文官棟との違いを早速目の当たりにし、俺は謎に感心した。
「ガンダス課長自ら運んでいただくことになるなんて。」
「いや、最近やけに演習が多いからな。気にするな。」
ガンダスは笑ってそう言うと、剣をどっさり乗せている車を引いた。
このところ春の繁忙期に向けて演習が増えているようで、管理課の全員が武器の貸出と回収で出払っていた。
「ここです。」
父は名簿を見ながら立ち止まる。
「ここって訓練所?」
「うん、そうだよ。今からだと……ラルクさん所属の団が演習だから、いるんじゃないかな。」
既に何人かの騎士がウォーミングアップをしている。目を凝らして探してみるが、その中に赤い髪の人物は見当たらない。
「ラルクさんいないね。」
「まだ時間じゃないから来てないのかな。あ、先に騎士の方達に武器を取りに来てもらうから、ちょっと待っててね。」
父は俺とガンダスを置いて、訓練所の真ん中へ走っていく。そして数名の騎士を連れて戻ってきた。
「ありがとうございます。夕方に必ず返却しますので。」
「はい。では後ほど。」
騎士達は手際よく武器を担ぐと戻って行った。しかし1人の騎士は名簿にサインをしながらシシルに声を掛ける。
「シシルさん、もうすぐラルクが来ますよ。顔を見せたら喜ぶんじゃないですか?」
「え……でも、仕事中ですし。」
父はチラッとガンダスを見る。
「はは、少し見学していけばいい。今日はセラもいるし、訓練の様子も勉強になるだろう。」
ガンダスはそう言うと、父と俺の頭にポンッと手を置いた。
「ありがとうございます。」
「ああ、俺は先に戻るから、ゆっくり見てから戻るといい。」
そう言って戻っていくガンダスに、親子揃ってぺこりと頭を下げた。
「良かったら近くの席で見てってください。」
「すみません。」
ガンダスと父の会話を聞いていた騎士が、見学の為に席を用意してくれる。俺と父は屋根の付いたベンチに座り、ラルクを待つことにした。
騎士達が興味津々に俺達親子を見ている中、ラルクと思わしき赤い髪が入口から入って来るのが見えた。
「おーいラルク!嫁さんと息子が会いに来てるぞ!」
俺達に席を用意してくれた騎士が、よく通る声で冗談っぽくラルクを呼んだ。
ラルクは「えッ!?」と大きな声を出してこちらに走ってくる。
(わぁ~、やっぱり犬みたいだ。)
「シシルさん、セラさん!」
ワンコ系といってもやはり立派な騎士であるラルクは、走ってきたにも関わらず全く息を切らしていない。
さすがだと感心していると、ラルクが驚いた顔で尋ねてきた。
「2人揃って、どうしたんですか?」
「今日はセラが管理課で職場体験だから、武器の貸出ついでに訓練所も見学することになったんです。」
「ああ、初日はシシルさんの部署だったんですね。」
「そうなんですよ。だから朝から楽しくって。」
「いや~、ここへ来たら2人がいるから、びっくりしましたよ。……今日は絶対、皆にからかわれます。」
ラルクは少し恥ずかしそうに言いながらも、その顔は嬉しそうだ。皆、父とラルクが付き合いだしたことを知っているのか、にやにやとしながらこちらを見ていた。
俺達はベンチに並んで、実技演習で騎士達の一騎討ちを見学する。ラルクは自分よりも大きい騎士を相手にしており、少しハラハラとしたが、見事な技で相手の剣を叩き落とした。
「わ、父さん見た?!ラルクさんって凄いんだね!」
「うん。」
身内の勝利に思わず興奮する俺を見て、父は嬉しそうに笑う。そして視線に気づいたラルクがこちらに手を振り、俺達親子も手を振りかえした。
「そろそろ戻ろうか。」
「うん。」
父にそう言われ、邪魔にならないようにそっと訓練所を出る。
管理課に戻る道すがら、俺達は数名の騎士に話しかけられ、その度に親子であることに驚かれる。これで確信したが、やはり父さんの見た目はかなり若いらしい。
(もしかしたら、俺も将来こうなるんじゃ……。)
俺の将来の目標は、ダンディーで大人な男になることだった。今はまだ無理だが、いずれ歳を重ねていけば……と期待していたのだが、父の姿を見るに難しそうだ。
「俺の理想の髭……。」
「ん、ひげ?」
父のつるつるした顎を見ながら俺が溜息をつく。
父は、突然の謎発言に、どういう意味かと首を傾げていた。
「セラ、おはよう。」
「アックスおはようございます。お待たせしましたか?」
迎えに来るとは聞いていたが、わざわざ門で待っていたとは思わず申し訳なくなってくる。
「いや、ちょうど見回りが終わったばかりだ。団長は急用で外出されたから、俺が案内するよ。」
「アックスも忙しいんじゃ……、」
「今日の俺の仕事は、セラを案内することだ。」
「えっと、じゃあお願いします。」
アックスが楽しそうに笑うので、さっきまでの申し訳ない気持ちが少し薄れてくる。
騎士棟をすいすいと進み、俺は武器管理課と書かれた場所に案内された。
「あれ、ここって父の職場じゃ……、」
「今日はここで研修をしてもらう。」
「そうなんですね!父が喜びそうです。」
「今朝、セラの話は聞いているはずだから、今頃、扉の前で息子を待ってるんじゃないか?」
「……私もそう思います。」
アックスが扉を開けると、予想していた通り父が笑顔で待っていた。シシルはアックスに挨拶をすると俺の手を引いて中へ招いた。
引っ張られるままに部屋に入ると、すぐにカウンターがあり、その上には図書館のように『貸出』『返却』と書かれた板が置いてある。
「また後で様子を見に来る。仕事内容はシシル殿に聞いてくれ。」
「ありがとうございます。」
俺が頭を下げると、アックスは「またな。」と言って去っていった。
「本日こちらでお世話になります、文官の手伝いをしているセラ・マニエラです。」
「おお~、本当にシシルにそっくりだな。俺はガンダスだ。よろしくな。」
俺はとんでもなくでかい男、ガンダスと握手をする。彼は俺より30センチは高いと思われる。彼を見上げると、顔に影が落ちた。
(シバもアックスも大きいけど、こんな存在感ある人、見たことない。)
「ガンダス課長のおかげで、武器の返却率は100%なんだ!」
なぜか父が誇らしげに伝える。
(こんなに迫力のある課長なら、俺もすぐに返却するよ。)
他にも、ここにいる人達は皆ガタイが良く、父がまるで子どものように見えた。
「セラ、ここに座って。」
他の人達の前でも一通り挨拶をし、俺は父とカウンターに座ることになった。
「セラ、もし騎士の方達が来たら、笑顔で挨拶するんだよ。どの武器を借りるか聞いて、あとは笑顔でお見送り。」
「分かった。」
(とりあえずは父の働きっぷりを見てみよう。)
父が他にも注意事項を説明していると、扉がガラッと開き、若い騎士達が数名入ってきた。
「あ、来たよ。背筋伸ばして。」
「うん。」
騎士達は父を見て笑顔で手を挙げるが、横に座っている俺を見て目を丸くした。
「え、弟さんですか?」
「いやいや、この子は私の息子です。」
「え……?!こんなに大きいお子さんがいたんですか?」
(この反応、何回目だろ……。)
このやりとりは今までに何度も経験している。
「はじめまして。セラと言います。父がいつもお世話になってます。」
「可愛いな~。セラ君って言うんだ。これからここで働くの?」
「いえ、普段は文官のお手伝いをしていて、今日は職場体験でここにいるんです。」
「そうなんだ。ずっといたらいいのに。」
そう言うと、「なぁ?」と横の男に同意を求める。
「ふふ、どの武器がご入用ですか?」
父が微笑みながら尋ねると、剣を150弓を100と、とんでもない数を言われた。
「はい。では名前と所属と貸し出し希望時間をお願いします。」
父の言う通りに男がさらさら名簿に必要事項を書いていく。
「じゃあ、よろしくお願いします。」
騎士の1人が名簿を手渡しそれを確認すると、父が顔を上げてにこりと笑う。
「はい。では、時間にお持ちします。今日もお仕事頑張って下さいね。」
「今日は寒いので、無理をなさらないように。」
父の言葉に続けて、俺も騎士を労ってみる。男達は、「ぐ……っ」と呻いたかと思うと、心臓を押さえて部屋から出て行った。
「セラ、いい感じだね。あとは武器の手配をお願いして、時間にお届けに行くんだよ。」
父はさっそく、裏にいる管理課の人達に向けて大きな声を出した。
「長剣白150!弓大100!11時!」
「「あいよ!!」」
(……なんだこれ。)
父の突然の大声に驚く。まるでラーメン屋の店員のようなやりとりはいつものことなのだろう、誰も気に留めていない。
(さすが騎士棟……。)
文官棟との違いを早速目の当たりにし、俺は謎に感心した。
「ガンダス課長自ら運んでいただくことになるなんて。」
「いや、最近やけに演習が多いからな。気にするな。」
ガンダスは笑ってそう言うと、剣をどっさり乗せている車を引いた。
このところ春の繁忙期に向けて演習が増えているようで、管理課の全員が武器の貸出と回収で出払っていた。
「ここです。」
父は名簿を見ながら立ち止まる。
「ここって訓練所?」
「うん、そうだよ。今からだと……ラルクさん所属の団が演習だから、いるんじゃないかな。」
既に何人かの騎士がウォーミングアップをしている。目を凝らして探してみるが、その中に赤い髪の人物は見当たらない。
「ラルクさんいないね。」
「まだ時間じゃないから来てないのかな。あ、先に騎士の方達に武器を取りに来てもらうから、ちょっと待っててね。」
父は俺とガンダスを置いて、訓練所の真ん中へ走っていく。そして数名の騎士を連れて戻ってきた。
「ありがとうございます。夕方に必ず返却しますので。」
「はい。では後ほど。」
騎士達は手際よく武器を担ぐと戻って行った。しかし1人の騎士は名簿にサインをしながらシシルに声を掛ける。
「シシルさん、もうすぐラルクが来ますよ。顔を見せたら喜ぶんじゃないですか?」
「え……でも、仕事中ですし。」
父はチラッとガンダスを見る。
「はは、少し見学していけばいい。今日はセラもいるし、訓練の様子も勉強になるだろう。」
ガンダスはそう言うと、父と俺の頭にポンッと手を置いた。
「ありがとうございます。」
「ああ、俺は先に戻るから、ゆっくり見てから戻るといい。」
そう言って戻っていくガンダスに、親子揃ってぺこりと頭を下げた。
「良かったら近くの席で見てってください。」
「すみません。」
ガンダスと父の会話を聞いていた騎士が、見学の為に席を用意してくれる。俺と父は屋根の付いたベンチに座り、ラルクを待つことにした。
騎士達が興味津々に俺達親子を見ている中、ラルクと思わしき赤い髪が入口から入って来るのが見えた。
「おーいラルク!嫁さんと息子が会いに来てるぞ!」
俺達に席を用意してくれた騎士が、よく通る声で冗談っぽくラルクを呼んだ。
ラルクは「えッ!?」と大きな声を出してこちらに走ってくる。
(わぁ~、やっぱり犬みたいだ。)
「シシルさん、セラさん!」
ワンコ系といってもやはり立派な騎士であるラルクは、走ってきたにも関わらず全く息を切らしていない。
さすがだと感心していると、ラルクが驚いた顔で尋ねてきた。
「2人揃って、どうしたんですか?」
「今日はセラが管理課で職場体験だから、武器の貸出ついでに訓練所も見学することになったんです。」
「ああ、初日はシシルさんの部署だったんですね。」
「そうなんですよ。だから朝から楽しくって。」
「いや~、ここへ来たら2人がいるから、びっくりしましたよ。……今日は絶対、皆にからかわれます。」
ラルクは少し恥ずかしそうに言いながらも、その顔は嬉しそうだ。皆、父とラルクが付き合いだしたことを知っているのか、にやにやとしながらこちらを見ていた。
俺達はベンチに並んで、実技演習で騎士達の一騎討ちを見学する。ラルクは自分よりも大きい騎士を相手にしており、少しハラハラとしたが、見事な技で相手の剣を叩き落とした。
「わ、父さん見た?!ラルクさんって凄いんだね!」
「うん。」
身内の勝利に思わず興奮する俺を見て、父は嬉しそうに笑う。そして視線に気づいたラルクがこちらに手を振り、俺達親子も手を振りかえした。
「そろそろ戻ろうか。」
「うん。」
父にそう言われ、邪魔にならないようにそっと訓練所を出る。
管理課に戻る道すがら、俺達は数名の騎士に話しかけられ、その度に親子であることに驚かれる。これで確信したが、やはり父さんの見た目はかなり若いらしい。
(もしかしたら、俺も将来こうなるんじゃ……。)
俺の将来の目標は、ダンディーで大人な男になることだった。今はまだ無理だが、いずれ歳を重ねていけば……と期待していたのだが、父の姿を見るに難しそうだ。
「俺の理想の髭……。」
「ん、ひげ?」
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