鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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俺は彼のもの?

「セラ、遅かったね。」
 宿舎へ帰ると、父がリビングでお茶を飲んでいた。
 夕方5時になり仕事が終わった俺は、夜に見回りがあるという仕事の時間まで、アックスと騎士棟の食堂で夕食を取って帰ってきた。
「アックスとご飯食べて帰ったんだ。あ、そうそう。俺、明日は事務室に行くんだって。」
 食事の際にアックスからスケジュールを聞いていた俺は父にそう伝える。俺が明日も来るのだと期待しては可哀想だと、早めに教えておくことにしたのだ。
 予想通り、父は肩をがっくりと落としていたが、すぐに気持ちを切り替えると、明日必ず管理課に寄って帰るよう強く言ってきた。

 それからリビングに座り、父と話をしていると電話の音が響いた。
 父の話では、今日ラルクはアックス同様、夜の見回りだ。となると……この電話は彼ではない。
(シバだ!!!)
 俺はガタッと椅子を鳴らし、急いで受話器を取った。
「はい!セラ・マニエラです!」
 「セラか。今日も元気な声だな。」
 クツクツと笑う声がする。前回も同じ理由で笑われたので、次は落ち着いて電話を……と思っていたのだが、失敗してしまった。
(は、恥ずかしい~。俺が楽しみにしてたのがバレる……!)
「セラの声が聞きたかった。」
笑い終わったシバが、低い声でそう伝えた。
「シバ……私も、です。」
「そうか。」
 素直に言ってみたものの、その直後に顔が熱くなってしまい、せっかくの電話であるにもかかわらず話題が思いつかない。シバの顔は見えないので何を考えているか分からないが、彼もそれ以上は言葉を発さず、俺達の間には謎の沈黙が生まれた。
「えっと……シバは今日、忙しかったですか?」
 俺がようやく絞り出した当たり障りの無い質問により、気まずい時間は終わりを告げた。
「やることは昨日とほぼ変わらない。教育で一日が終わった感じだな。」
「他国の方となると仕事の内容も違うだろうし、大変ですよね……。」
 しかもそんな中、教育まで任されているなんて……と、俺がしみじみ上司の手腕に感心していると、シバがゴホンと咳払いした。
「私は大丈夫だ。それよりその……セラはどうだ?昨日は俺の話ばかりだったから、君がどう過ごしているのか知りたい。」
「私は、今日は騎士棟の、武器管理課でお世話になりました。」
「……どういうことだ?」
 シバの低い声が耳に響いた。
(ダライン様から聞いてないのかな。)
 シバは俺の上司であるが、遠方にいる彼に、お手伝いの仕事内容など報告する必要はないと判断されたのだろうか。何も知らないといった様子のシバに、とりあえずなぜ自分が騎士棟にいなければならないのか説明することにした。
「騎士団長の提案で、試験的に1週間の職業体験をすることになったんです。」
「……それは、セラである必要があるのか?」
「そうですよね。俺みたいな手伝いが行ってもしょうがないとは思うんですが、」
「そういう意味ではない。セラが騎士棟にいると思うと……私が嫌なんだ。」
「シバ……? 」
「セラは私のものなのに。」
(え、ちょっと!勘違いさせるようなこと言わないでよ!そりゃ俺は文官棟所属だけど……ってことは、まぁ上司であるシバのものってことになるのか? )
 その言葉に焦りつつ、俺は冷静に自分が選ばれた理由を伝える。
「いきなり文官の方が1週間も席を空けるわけにはいきませんし、テストするには私が適任だったんですよ。」
「……誰かに言い寄られたりはしなかったか?」
「え、そんなことあるわけないですよ!それに、今日は父の部署で仕事だったんです。」
「そうだったのか。それは、シシル殿は喜んだだろう。」
(ふう……なんとか怒った声じゃなくなった。)
 父親と一緒だったと知って安心したのか、シバの声が先程と違い柔らかくなった。
「明日は事務室でお世話になると聞いています。」
「そうか。事務室は知っている者が多いので安心だが……セラ、危ないことはしないと約束してくれ。訓練所はもってのほかだ。」
「えっと、選べる立場ではないので……。でも、気を付けます。」
(既に今日、訓練所に行った上に見学までしたんだけど、それは黙っておこう。)
 この件に関しては、毎日どんな事をしたのか報告すると約束し、シバもしぶしぶながら了承した。ただ、この案を考えた団長にはシバから直々に電話をするとのことで、俺は、シバが一体何を言う気なのか少しヒヤヒヤとした。
(これがアックスと俺の会話から生まれた案だって知ったら、すっごく怒るだろうな。)
 俺がもし粗相をすれば、シバにも迷惑がかかってしまう。ただでさえ異国の地で忙しくしているシバが、俺のような手伝いの事で頭を悩ませているのは本当に申し訳ない。
 少しでも心配を掛けないよう明日から本腰を入れて職場体験に臨むことにした。

「あ、そうだ!そういえば今日、騎士棟の食堂に行ったんですが、」
 この話をこれ以上続けてはシバに心労を与えるだろうと、俺は騎士達の早食いのことや、何回も父と兄弟に間違われたことなど他愛もない話を始めた。
 シバはそのひとつひとつに短く返事をしながら、長い時間俺の話を聞いてくれていた。

「あの、時間は大丈夫ですか?」
 時計を見ると針は夜の10時を指していた。俺の用事といえば風呂に入って寝るだけであり問題はないが、シバの予定が分からない。

「もう寝るだけだから、時間は気にするな。私はこの時間を楽しみにしていた。」
「あ……ありがとうございます。」
「セラと話すと一日の疲れが癒える。」
「え、それは……良かった、です?」
 直接的なシバの言葉に、頬が熱くなってくる。パタパタと服の首元を動かし顔に風を送った。
「セラは明日も慣れない場所で仕事だろう。そろそろ寝たほうがいい。」
「はい。あの……本当はもっと話したいですが、寝ます。」
 気持ちをまっすぐに伝えてくるシバにつられて、俺も自分の気持ちを伝えた。正直凄く恥ずかしいが、電話越しだと思うと考えるより先にスルッと言葉が出てきた。
「明日も電話する。」
「はい、待ってます。」
「セラ。……いや、帰ってからにしよう。」
「え、なんですか?」
「いや、気にするな。おやすみ。」
「はい。おやすみなさい、シバ。」
 お互いに挨拶をし、受話器を置いた。
(何言いかけたんだろ……?)

ガチャ、
 父は気を利かせて風呂に入っていたようで、ホカホカとした顔で脱衣所から出てきた。
「セラ、良かったね。」
「え、何が?……あ!あの、友達だからね?」
「何も言ってないよ。」
「シバからの電話のことでしょ?!絶対違うから!」
「はいはい。」
 父のにんまりとした顔に、俺達は恋人同士ではないのだと念を押す。
「さ、セラも早くお風呂入りなよ。」
 父の言葉に頷くと、「ほんとに分かってる?」とぼやきながら、湯気の残る風呂場へ向かった。
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