鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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事務室の真面目くん

 次の日の朝、アックスは昨日同様、門まで俺を迎えに来ていた。
「アックス、お待たせしました!」
「セラおはよう。ちょうど用事が終わったとこだから、気にしなくていい。」
 そうはいっても寒空の下待たせたことは事実だ。俺は急いでアックスに駆け寄った。

「今日はこのまま事務室に案内する。こっちだ。」
「はい、お願いします。」
 歩いていると、父が案内してくれた施設が並んでいる場所に出た。地図を思い出しつつ見回すが、まだどこにどの部署があるのかさっぱり分からない。
コンコン
「失礼する。」
 アックスがノックの音と同時に事務室へ入った。
 昨日の夕方に訪れた際には、事務員が2人席にいたが、今日は10人程が席に座っている。皆資料とにらめっこしていて、文官棟に近いものを感じる。
(あ、なんか落ち着く。)
 アックスが俺を皆に紹介している間も屈強な騎士が数名出入りしている姿が見えるが、事務員達の雰囲気は文官に近い。
「セラ・マニエラです。文官棟で手伝いをしています。今日はご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします。」
 俺が頭を下げると、眼鏡を掛けた40代くらいの男性が「よろしくね。」とほほ笑んだ。
「私はここの事務室長をしているんだ。団長からざっくりは聞いてるから、今日は見学だと思って肩の力を抜いてね。」
「ありがとうございます。」
(良かった。物腰が柔らかくて優しそうな人だ。)
 アックスは室長に話しかける。
「セラをよろしく頼む。夕方4時に迎えに来るので、また会議室を予約したい。」
「了解。じゃ、また後でね。」
(アックス、今日はお昼来ないんだ。)
 忙しい立場でありながら俺の世話係もしなきゃいけない彼に少し申し訳なさを感じる。アックスは「またな。」と俺に軽く手を振り、事務室から出ていった。

「さ~て、セラ君は昨日は武器管理課だったんだね。マニエラさんの息子さんだって?」
「そうなんです。父がいつもお世話になってます。」
「彼は優秀だってガンダス課長から聞いてるよ。さ、席を用意してあるからね。座って座って。」
 室長は俺を奥の席に案内すると、隣の青年に声を掛けた。彼は俺と同じくらいの歳だろうか。顔が他の人達に比べ幼い。
「オリア君、隣の席のセラ君だよ。」
「はい。さっき聞いていました。」
「いろいろ案内してあげてね。急ぎの仕事は他に振り分けておいたから。」
「え、俺の仕事……。」
「君は働きすぎだから、今日くらいはゆっくりしてくれないと。さ、あとはお任せするからね。」
「……はい。」
 それから室長は俺とオリアを残して席へ戻った。今紹介されたばかりの彼を前に、何を話せばよいか分からずシーンとした空気が流れる。
(もしかしなくても、俺ってオリアさんにとってすごく迷惑なんじゃ……。)
 特に招かれてここへ来たわけではない。見るからに忙しそうな事務室で、俺はお荷物でしかないだろう。
 しかし、ずっとだんまりもどうかと、話し掛ける。
「あの、オリアさん?」
「あ、ああ……。では案内をする。」
 オリアはバッとこちらを向き、焦ったように奥の会議室を指差した。
「ここが会議室だ。説明はいるか?」
「いえ。昨日トロントさんとここで報告書を書いたので。」
「そ、そうだったな。では、次!」
 オリアは真面目な青年なようで、俺を次々といろんな場所に案内する。
 そして、事務室に繋がっている全ての部屋を見た後は、普段の仕事内容について説明してくれた。文官棟とは違った書類の内容が面白く、つい質問までしてしまったが、彼は俺にも理解しやすいよう丁寧に答えてくれた。

「む……久しぶりに来たが、やはり人が多いな。」
 そして昼休み。俺はそのままオリアと騎士棟で昼食を食べることになった。
「マニエラ、君は何を食べる?」
「えっと、これにします。」
 食堂は今日も混んでいて席はほぼ埋まっているが、昨日の件で皆が早々に食べ終わることを知っているため、俺はゆっくりとメニューを選ぶ。
 城の共通の食堂と違って、ここでは何個かあるセットニューを選ぶ方式だ。そして足りなければ自分で自由に主食や副菜を追加できるようになっている。
 俺は昨日は揚物を選んだので、今日は少し控え目にオムレツを選んだが、オリアが指摘してきた。
「それだけだと少ないだろう。あちらで追加もできるから、してくるといい。」
「分かりました。」
 まだ午前中しか接していないので、定かではないが、彼は世話焼きな体質らしい。
 午前も階段を降りる時はさりげなく前を歩いたり、この食堂へ来る時も騎士達にぶつからないように手で俺をガードする場面が何度もあった。

 2人で席に着く。彼は俺が取り損ねていたスプーンや手拭きの紙なども持ってきていた。
「ほら、スプーンの方が食べやすいだろう。」
「ありがとうございます。あの、オリアさんって妹か弟がいますか?」
「ああ、いるが……なんで分かるんだ。」
「今もこうやって助けてくれますし、世話が慣れてそうな感じがしたので。」
「マニエラは、なんだか世話を焼きたくなる。妹に少し似ている。」
(妹がいるのか。ていうか、似てるって雰囲気のことだよね?)
「俺とは歳が10離れていて、今は9歳なんだが、仕事で忙しくてずいぶん会えていない。」
「ということは、オリアは19歳なんですか?私と一緒ですね。」
「そ、そうなのか?マニエラは俺よりもっと下かと思っていた。すまない。」
 言わなければ俺には分からないことであるが、真面目なオリアは頭を下げて勘違いしていたことを謝った。
「気にしないで下さい。よく幼く見られるんです。身長も低いし。」
「そんなことはない!俺は大きいが、マニエラは……普通だ!」
「……ふふっ、はは、普通って……!」
 オリアは、言い方が良くなかったと呟き焦っている。そんな彼に気にするなと笑いかける。
「オリアさん笑わせないで下さいよ。」
「『さん』はいらない。あと、同じ歳なんだ…敬語はいらないし、もっと砕けた話し方でいい。」
「あ……そ、そう?じゃあオリアって呼ぶね。俺も、セラって呼んでね。」
「ああ。おい、付いているぞ。」
 オリアはそう言って俺の口元を紙で拭った。
「全く、19にもなって。」
 呆れたセリフを言いながら、彼の顔は嬉しそうに見えた。
(生粋のお兄ちゃんタイプだな。)
 俺はラルクに続き、また兄が増えたような感じがして、少しむず痒かった。

 昼食を終え、事務室に帰るとオリアの机にあった書類は全て無くなっていた。
「午後に確認しようと思ってたのに!」
 慌てて書類を探すオリアに、隣の席に座る事務員が飲み物を片手に話しかけてきた。
「ああ~、これなら私がやっておいたよ。」
「なぜですか!」
「元々私の仕事を手伝ってもらってたわけだしね。気にしなくていいよ。」
「ですが……自分から申し出たのに。」
「いいからいいから。今日は彼にいろんな仕事を見せてあげないと。あ、運動場を案内したら?オリアは今日行ってないだろ?」
「それは仕事終わりに……、」
「本来なら仕事中に行かなきゃいけないってきまりだろ?いいから、ほら、行っておいで。」
「……はい。」
 オリアは俯いて返事をすると、俺に、行くぞと声を掛けて事務室から出ていった。
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