鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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友達の作り方

 運動場へは事務室から歩いて2,3分程度と近い場所にあるらしい。
 そう教えてくれたのは先程の事務員であり、彼の顔を思い浮かべる。
「さっきの人、親切だね。」
「ああ、先輩は優しい。他の人達もいつも助けようとしてくれるんだ。」
「へぇ~、俺の職場もいい人ばっかりだよ。」
 そう話しながらも、オリアの声はどこか暗かった。

「着いたぞ。」
「昨日の訓練所とは違うね。走ってる人がいっぱい。」
 ジムのような作りであり、縄跳びやランニングなど、思い思いにトレーニングをしているようだ。
「事務仕事が多い者は運動不足になるからな。勤務時間に応じて、ここで一定時間運動しなければならない決まりがある。」
「そうなんだ。たしかにこういう時間が取れたらリフレッシュになっていいかも。」
(これは文官棟で取り入れても良さそう。)
 身体を動かすのがわりと好きな俺としては、とても魅力的なアイデアだった。
「俺はいつも仕事終わりにここへ寄るんだ。勤務中は業務に集中すべきだと思っているから。」
「ああ、それでさっき……。あの、ごめんね。俺のお世話をしてるから自分の仕事できなくなったんだよね?」
「あ、いや……顔に出してすまん。」
 正直に謝るオリアの姿勢は好印象だ。俺はそんな彼に笑いかけ、せっかくだから一緒に走ろうと誘った。

 勤務中にと決まっているにも関わらず、オリアは仕事終わり、自分の時間を使ってここへ訪れているようだ。今日1日、彼の行動を見ていたが、仕事にかなり執着しているように見える。
「あのさ、なんでそんなに頑張るの?」
「出世したいからだ。」
「どうして?」
「母と妹に楽をさせてやりたい。そうなると、俺が働いて良い給料を貰うのが一番だ。」
(俺と同じ歳で、もう家族を養ってるんだ。)
 オリアは俺より背も高く体格にも恵まれているが、まだ成人していない。それなのに家族の為にと働き、出世という野望を持っている彼はずいぶん大人に見えた。
「オリアはすごいね……。俺、まだ子どもでさ、父さんに助けてもらってばっかりなんだ。」
「父か。俺は父がいないから分からないが、今は甘えておくといい。」
「そっか。俺は母さんがいないから分からないけど、オリアもお母さんに甘えたら……嬉しいと思うよ。」
「……俺が、母に。」

タッタッタ…
 走る音だけが鳴り、オリアは黙ってしまった。
(俺、まずいこと言ったかな。センシティブな話題だったかも。)
 俺がどうしたら……と悩んでいると、オリアがピタッと止まった。
「オリア…?」
「母は、俺が頼ったら……喜ぶと思うか? 」
「え、うん。そりゃそうだよ。それに、時には妹さんに頼ってもいいと思うよ。お世話するだけが兄じゃないんだし。」
 ラルクも俺に対して、兄のように接しつつも困った時は頼ってくる。年上から頼られるのは、むず痒くも嬉しいものだ。
「そうか。」
 オリアはまた黙って走り出した。俺は横で「うん。」と返事をした。

「はぁ……、久々に運動した。」
「セラは普段走らないのか?」
「そうだね。出かけることが多いから歩くけど、運動はあまりしないかも。」
「だから筋肉がついてないのか。今後は少しでも身体を動かしたほうがいい。」
 オリアはまたお兄ちゃんモードが発動したのか、俺の腕を掴んで、「ふにゃふにゃじゃないか!」と驚いた後、勝手に俺のトレーニングメニューを提案し始めた。

 芝生に2人で座る。俺は近くの売店で飲み物を買って、オリアに手渡した。
「セラ、すまないな。」
「いいって。楽しいから、お礼だよ。」
「楽しい?」
「うん。オリアって裏がないし、話してて気が楽なんだ。今日会ったばっかなのに。」
ははっ、と俺が笑うと、オリアが自分の胸を押さえていた。
「ど、どうしたの?」
「セラ、俺と友達になってくれ。」
「え?あ、もちろん。……うん!」
(「友達になってくれ。」なんて言う人、初めて見た。)
 真面目な彼は、俺が快諾するのを見て少し笑った。

「セラ、さっき俺が出世したい理由を言ったな。」
「うん。」
 芝生に座ったまま、オリアはジョギング中に話した内容を再度持ち掛けた。
「俺の家は裕福だったが、父が亡くなってからは貯蓄を切り崩す生活をしていた。王都にも住めなくなって、家を売って今は田舎にいる。母は働いた経験がないが、俺と妹の為に何とか仕事を探し、懸命に働いてくれている。だから俺は、国で一番給金の良い騎士団で働くことにしたんだ。」
 俺は黙ってその話を聞き、オリアはそのまま続ける。
「騎士団は騎士でなくても事務員や管理員にはなれる。そして仕事をこなして成果を上げれば、いずれ管理職に就くこともできるんだ。そしたら母に、父が生きていた頃のように楽な生活をさせてあげられる。妹にもだ。」
「それで家にも帰らないで、ずっと働いてるの?」
 彼は、食堂ですら久々来たと言っていた。推測だがお昼もきちんと取らずに働いているのだろう。
「早く役職が欲しい。そのためには人一倍仕事をしなければ。」
 オリアはそう言うものの、少し寂しそうに見えた。
「あのさ、お母さんも妹さんも、オリアが働いたお金で楽したいって……そう望んでるのかな?」
「セラ?」
「家族が頑張って稼いだお金で生きようって、オリアは思ってないんでしょ?それってオリアのお母さんも一緒だと思う。」
 実際、父さんは俺のお給料を貯めるように言い、一切使わない。「父さんがおじいさんになったら頼むよ。」と笑って言う事はあるが、それが冗談であることは明らかだ。
「なんか、ごめん。オリアの家族のこと、知りもしないのに。ただ、オリアが良い奴だからさ、お母さんも妹さんも、絶対そんな人じゃないだろうなって思ったんだ。仕事ばっかしてお金送るより、たまに家に帰って甘えてくれた方が嬉しいんじゃないかなって……。」
「セラ。」
 黙るオリアに、自分がさらに余計な事を言ってしまっていたことに気付く。
「あ、ごめ……俺、本当に勝手なこと、」
「セラ、ありがとう。」
 オリアは横に座る俺の手をそっと握ると、はにかんでもう一度「ありがとう。」と言った。

「おかえり~。どうだった?」
「昼に走るのもいいですね。これからは食後に運動場に寄ります。」
「お、どうしたんだオリア。」
 さっき仕事を代わってくれた先輩が話しかけた。オリアはすっきりした表情でそう言い、先輩は嬉しそうにその顔を覗き込んでいた。
「さ~て、じゃあ午後は何個か書類を見てもらおうか。机にあるから、オリアに習ってくれ。」
 先輩はそう言うと、ご機嫌な様子で自分の席に着いた。

 あれから時間が経ち、俺が事務室にいると聞いたラルクやアックスの同僚が様子を見にきたりと、オリアはあまり仕事を進めることができなかった。俺は心配して彼をチラッと伺うが、特に焦った様子もなく会話に混ざっていた。

「セラ、お疲れ。」
「アックス!」
 夕方4時になり、時間ぴったりにアックスが事務室の扉を開けた。昨日と同様、今は人が少なく、オリアと俺のみだった。

 あとは報告書を書くだけだとオリアに告げ、俺はアックスとともに奥の会議室へ入った。
「今日はどうだった?疲れてないか?」
「楽しかったですよ。午前は案内が主で、昼からは運動場に行ったり、書類を見たりするくらいで……。あ、同僚の方がここへ来ましたよ。」
「ああ、セラに会ったと自慢された。」
「はは、自慢って!」
 俺は笑いながら、報告書に自分の名前を書く。アックスは昨日のように机に腕をペタッとつけ、その上に顔を乗せた。
「寝ますか?」
「いや、今日はセラを見ていようかな。」
「えっと、緊張するので寝てください。」
「はは……。」
「出来上がったら起こしますよ。」
 そう言って本格的に報告書にペンを走らせると、アックスはじっと黙り、俺の手元を見つめていた。
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