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騎士棟の特権「大浴場」
あれからすぐに3日が経ち、今日は俺が騎士棟で過ごす最後の日だ。
初日から武器管理課、次の日は事務室でお世話になり、その後は連日オリアが案内をしてくれ各部署の見学等をして終わった。
事務室には俺の席がずっと確保されている。残りの3日はどこか違う部署で過ごすと思っていた俺は少し拍子抜けだったが、それには理由があった。
なんと最後の3日間は、オリア自らが団長の元へ行き、直談判して実現したものらしい。
(まぁ、俺も新しい人達と……ってよりはオリアと居た方が気が楽だけど。)
結局、朝から夕方まで彼と過ごし、俺達は古くからの友人であるかのように仲良くなった。
そして今、俺は執務室で最後の報告書を書き終え、やっとこの職場体験が終わったのだと実感した。腕を上げて、うーんと伸びをしていると、報告書を確認したアックスが話し掛けてきた。
「セラ、今日で最後だな。俺のせいで今週は大変だっただろう、すまなかったな。」
「いいえ。勉強になったし、何より楽しかったです。見習いたい部分が沢山あったので、文官棟に持ち帰って情報を共有しようと思います。」
「そう言ってくれて良かった。……セラは今日そのまま帰るのか?」
「今日は父も貸出が多くて残業だと言ってたので、帰るつもりですが。」
「そうか。……もしセラさえ良かったら、今から大浴場に行かないか?」
「大浴場……?」
その言葉に、温泉好きの俺の目が輝く。
「はは、決まりだな。」
アックスはそう言って俺の頭を撫でた。
(そういえば、今の俺は騎士棟で働いてるって扱いだから、ここの施設は自由に使っていいんだった。)
それにも関わらず、お風呂の存在をすっかり忘れていた。本来なら毎日入れたのだと考えると、なんともったいないことをしてしまったのかーー…今日は思う存分風呂を楽しもうと心に決めた。
アックスと大浴場に行くと、職員達の終業時間であるからか結構な人数がいた。しかし、それでも狭いと感じさせない広い空間は、まさにスーパー銭湯のようで、俺はテンション高めに脱衣所へ向かった。
「アックス、早く着替えましょう。」
この浴場は、専用の服を着ての入浴も可能だ。俺は特に気にせず裸で入るつもりだったが、アックスが服を着ないと連れて行かないと脅すので、しぶしぶ服を受け取った。
(身体洗ったりしたかったのに……。)
「セラ、こっちで着替えよう。」
「え?こんな場所ありましたっけ?」
アックスが俺を連れてきたのは、着替えをする為にカーテンのようなもので区切られている場所。以前、見学の時に訪れた時には無かったはずだ。
「着替える場所だ。中になることに躊躇する者もいるだろうと、アインラス殿が改善点として挙げたんだ。」
「そうだったんですか。」
「中には身体に傷があり、それを見せたくないという騎士もいる。俺も気付かなかったからありがたい提案だった。」
(それって、ラルクさんにとってもありがたいよね。)
ラルクは以前、父の身体を他人に見せたくないと言って悩んでいた。結局、専用の服があることから解決はしたのだが、着替えの際のことは失念していた。
「俺は別にどこでも構いませんが……。」
「せっかくだからこっちで着替えよう。上司に感想を伝えるのも部下の仕事じゃないか?」
(そっか。シバが出したアイデアなわけだし、使ってみたよって伝えるのもいいかも!)
分かったと返事をして、アックスに続いてカーテンの中に入った。
「セラ?一緒に入るのか?」
「はい?……あ、これって1人用ですか?」
騎士達の身体の大きさを考えて広くスペースがとってあるため、間違えてしまった。俺は慌てて隣のカーテンの中に入ろうとするが、アックスが俺の腕を掴んだ。
「いや、一緒でいい。他の者が使うかもしれないから、俺達はここで着替えよう。」
「あ……はい。」
スルッ
四方をカーテンで区切られた中、俺とアックスは背中を向き合わせて着替えを始めた。着替えをするだけなので特に話すこともなく、黙々と服を脱ぐ。
「あれ?これボタンは前側ですよね?」
「……ああ。」
俺がズボンだけを履いた状態でアックスに話しかけると、彼は返事をしながら振り向き、ピタッと動きを止めた。
「ですよね。時々後ろボタンの服もあるじゃないですか。だからちょっと悩んじゃって……。」
文官棟の制服がまさにそれだ。後ろの首元にボタンが2つ付いていて、朝寝坊した時などは焦ってうまく留まらないことがある。すでに着替えたアックスに見守られながら、俺は全てのボタンを留めた。
「準備できたか?行こう。」
「はい!」
タオルを片手に、俺達は浴場の中へと向かった。
「はぁぁぁ~ 、最高です。」
「はは、セラ気持ちよさそうな顔してるな。」
大きな湯船に胸まで浸かり、身体中に血が巡る感覚がして思わず声が漏れる。
「ふぁ、身体がジンッてして……ほんとに気持ちいいです。」
「……。」
急に黙ってしまったアックス。どうしたのかと見ていると、視線は揺れる水面に向けたまま、上擦ったような声でアックスが呟く。
「今日は……剣の指導をしたから、腕が張っているようだ。」
アックスはそう言いながら腕を自分で揉みだした。強い力でグッグッと指を動かす彼に、駄目ですよと注意する。
「強く揉んだら逆効果ですよ。こうやって、優しくした方がいいってテレビ、えっと、医務室の方が言ってました。」
何度もお世話になった医務官の知識ということにしておこう。俺はそう言ってアックスの腕を取り、撫でるように揉んだ。
「……ッセラ、」
「こんな感じです。」
「ッ分かった。それくらいの力でだな。」
アックスは俺の言う事を素直に聞いて、自分の腕をさすった。
「セラの手は、柔らかいな。」
「あ、そうなんですよ。オリアにも昨日、『ふにゃふにゃじゃないか! 』って言われちゃって。」
随分驚いた顔で言われた時の事を思い出し、苦笑混じりに告げる。アックスは俺の片手を包むように掴むとじっと掌を見た。
「触れられて気持ちが良かった。」
「え……そ、そうですか?なら、良かった?です。」
アックスの顔は少し赤くなっており、そろそろ上がった方がいいかと彼に尋ねる。
「アックス、そろそろ上がります?」
「……セラ、」
下から覗きこむように様子を窺う俺の肩を、アックスが掴んだ時ーー…
「お!アックス来てたのか!!」
聞いたことのある声が、浴場に響いた。
「セラもいたからびっくりしたぞ。」
「ここに来るなら誘ってくれたら良かったのに。」
アックスの同僚2人は、笑いながら顔にお湯を掛けている。
彼らがアックスに声を掛けた時、小さい俺は陰に隠れて見えず認識できていなかったらしい。近づいて来た2人に俺がアックスの後ろから顔を出して挨拶すると、「「え?」」と声を出して驚いていた。
「文官達も入れるといいのにな~。セラ、大浴場好きなんだって?街のは入ったことあるか?」
「行ったことはあるんですが、幼い頃で覚えてなくて、また機会があれば……って思ってます。」
「なんだ、なら俺達とどうだ?あそこ最近改装したらしくて、行ってみたいんだよなぁ。」
「おい、セラを勝手に誘うな。」
俺と同僚の1人がしている会話に、横からアックスが突然入ってきた。さっきまで赤かった目元はすっかり元に戻っている。
先程2人が来て、すぐにぬるいお風呂に移動したためのぼせずにすんだのだろう。平気な様子で同僚を睨むアックスを見て安心した。
「アックス、決めるのはセラだろうが。勝手なこと言うな。」
「お前こそ、セラが困ってるだろう。」
同僚の前では少し子どもっぽい口調になるアックスが微笑ましく、思わずクスッと笑ってしまった。
「ほら、笑っちゃうよな~。英雄黒騎士がこんな心が狭いなんて。」
「ふふっ、そうですね。」
その後も、同僚2人が俺にいろんな誘いの言葉を掛け、アックスが怒るという流れが何度か続いた。
初日から武器管理課、次の日は事務室でお世話になり、その後は連日オリアが案内をしてくれ各部署の見学等をして終わった。
事務室には俺の席がずっと確保されている。残りの3日はどこか違う部署で過ごすと思っていた俺は少し拍子抜けだったが、それには理由があった。
なんと最後の3日間は、オリア自らが団長の元へ行き、直談判して実現したものらしい。
(まぁ、俺も新しい人達と……ってよりはオリアと居た方が気が楽だけど。)
結局、朝から夕方まで彼と過ごし、俺達は古くからの友人であるかのように仲良くなった。
そして今、俺は執務室で最後の報告書を書き終え、やっとこの職場体験が終わったのだと実感した。腕を上げて、うーんと伸びをしていると、報告書を確認したアックスが話し掛けてきた。
「セラ、今日で最後だな。俺のせいで今週は大変だっただろう、すまなかったな。」
「いいえ。勉強になったし、何より楽しかったです。見習いたい部分が沢山あったので、文官棟に持ち帰って情報を共有しようと思います。」
「そう言ってくれて良かった。……セラは今日そのまま帰るのか?」
「今日は父も貸出が多くて残業だと言ってたので、帰るつもりですが。」
「そうか。……もしセラさえ良かったら、今から大浴場に行かないか?」
「大浴場……?」
その言葉に、温泉好きの俺の目が輝く。
「はは、決まりだな。」
アックスはそう言って俺の頭を撫でた。
(そういえば、今の俺は騎士棟で働いてるって扱いだから、ここの施設は自由に使っていいんだった。)
それにも関わらず、お風呂の存在をすっかり忘れていた。本来なら毎日入れたのだと考えると、なんともったいないことをしてしまったのかーー…今日は思う存分風呂を楽しもうと心に決めた。
アックスと大浴場に行くと、職員達の終業時間であるからか結構な人数がいた。しかし、それでも狭いと感じさせない広い空間は、まさにスーパー銭湯のようで、俺はテンション高めに脱衣所へ向かった。
「アックス、早く着替えましょう。」
この浴場は、専用の服を着ての入浴も可能だ。俺は特に気にせず裸で入るつもりだったが、アックスが服を着ないと連れて行かないと脅すので、しぶしぶ服を受け取った。
(身体洗ったりしたかったのに……。)
「セラ、こっちで着替えよう。」
「え?こんな場所ありましたっけ?」
アックスが俺を連れてきたのは、着替えをする為にカーテンのようなもので区切られている場所。以前、見学の時に訪れた時には無かったはずだ。
「着替える場所だ。中になることに躊躇する者もいるだろうと、アインラス殿が改善点として挙げたんだ。」
「そうだったんですか。」
「中には身体に傷があり、それを見せたくないという騎士もいる。俺も気付かなかったからありがたい提案だった。」
(それって、ラルクさんにとってもありがたいよね。)
ラルクは以前、父の身体を他人に見せたくないと言って悩んでいた。結局、専用の服があることから解決はしたのだが、着替えの際のことは失念していた。
「俺は別にどこでも構いませんが……。」
「せっかくだからこっちで着替えよう。上司に感想を伝えるのも部下の仕事じゃないか?」
(そっか。シバが出したアイデアなわけだし、使ってみたよって伝えるのもいいかも!)
分かったと返事をして、アックスに続いてカーテンの中に入った。
「セラ?一緒に入るのか?」
「はい?……あ、これって1人用ですか?」
騎士達の身体の大きさを考えて広くスペースがとってあるため、間違えてしまった。俺は慌てて隣のカーテンの中に入ろうとするが、アックスが俺の腕を掴んだ。
「いや、一緒でいい。他の者が使うかもしれないから、俺達はここで着替えよう。」
「あ……はい。」
スルッ
四方をカーテンで区切られた中、俺とアックスは背中を向き合わせて着替えを始めた。着替えをするだけなので特に話すこともなく、黙々と服を脱ぐ。
「あれ?これボタンは前側ですよね?」
「……ああ。」
俺がズボンだけを履いた状態でアックスに話しかけると、彼は返事をしながら振り向き、ピタッと動きを止めた。
「ですよね。時々後ろボタンの服もあるじゃないですか。だからちょっと悩んじゃって……。」
文官棟の制服がまさにそれだ。後ろの首元にボタンが2つ付いていて、朝寝坊した時などは焦ってうまく留まらないことがある。すでに着替えたアックスに見守られながら、俺は全てのボタンを留めた。
「準備できたか?行こう。」
「はい!」
タオルを片手に、俺達は浴場の中へと向かった。
「はぁぁぁ~ 、最高です。」
「はは、セラ気持ちよさそうな顔してるな。」
大きな湯船に胸まで浸かり、身体中に血が巡る感覚がして思わず声が漏れる。
「ふぁ、身体がジンッてして……ほんとに気持ちいいです。」
「……。」
急に黙ってしまったアックス。どうしたのかと見ていると、視線は揺れる水面に向けたまま、上擦ったような声でアックスが呟く。
「今日は……剣の指導をしたから、腕が張っているようだ。」
アックスはそう言いながら腕を自分で揉みだした。強い力でグッグッと指を動かす彼に、駄目ですよと注意する。
「強く揉んだら逆効果ですよ。こうやって、優しくした方がいいってテレビ、えっと、医務室の方が言ってました。」
何度もお世話になった医務官の知識ということにしておこう。俺はそう言ってアックスの腕を取り、撫でるように揉んだ。
「……ッセラ、」
「こんな感じです。」
「ッ分かった。それくらいの力でだな。」
アックスは俺の言う事を素直に聞いて、自分の腕をさすった。
「セラの手は、柔らかいな。」
「あ、そうなんですよ。オリアにも昨日、『ふにゃふにゃじゃないか! 』って言われちゃって。」
随分驚いた顔で言われた時の事を思い出し、苦笑混じりに告げる。アックスは俺の片手を包むように掴むとじっと掌を見た。
「触れられて気持ちが良かった。」
「え……そ、そうですか?なら、良かった?です。」
アックスの顔は少し赤くなっており、そろそろ上がった方がいいかと彼に尋ねる。
「アックス、そろそろ上がります?」
「……セラ、」
下から覗きこむように様子を窺う俺の肩を、アックスが掴んだ時ーー…
「お!アックス来てたのか!!」
聞いたことのある声が、浴場に響いた。
「セラもいたからびっくりしたぞ。」
「ここに来るなら誘ってくれたら良かったのに。」
アックスの同僚2人は、笑いながら顔にお湯を掛けている。
彼らがアックスに声を掛けた時、小さい俺は陰に隠れて見えず認識できていなかったらしい。近づいて来た2人に俺がアックスの後ろから顔を出して挨拶すると、「「え?」」と声を出して驚いていた。
「文官達も入れるといいのにな~。セラ、大浴場好きなんだって?街のは入ったことあるか?」
「行ったことはあるんですが、幼い頃で覚えてなくて、また機会があれば……って思ってます。」
「なんだ、なら俺達とどうだ?あそこ最近改装したらしくて、行ってみたいんだよなぁ。」
「おい、セラを勝手に誘うな。」
俺と同僚の1人がしている会話に、横からアックスが突然入ってきた。さっきまで赤かった目元はすっかり元に戻っている。
先程2人が来て、すぐにぬるいお風呂に移動したためのぼせずにすんだのだろう。平気な様子で同僚を睨むアックスを見て安心した。
「アックス、決めるのはセラだろうが。勝手なこと言うな。」
「お前こそ、セラが困ってるだろう。」
同僚の前では少し子どもっぽい口調になるアックスが微笑ましく、思わずクスッと笑ってしまった。
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