鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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見届けた後は俺の番

 騎士棟から部屋への帰り道。本来なら手でも繋いで歩いていたであろう2人は、俺を挟んで微妙な距離感のままだ。
「あのさ、俺は何も気にしてないから……そろそろ元に戻ってよ。」
「……でも、」
 父はキス(未遂)を息子に見られたことが相当ショックなようだ。
 たしかに父とラルクが交際を始めてから、キスどころかハグや手を繋いだりしている姿さえ見ていない。
 距離が異様に近かったり見つめ合うことはよくあるが、それは付き合う以前とあまり変わらない光景だ。一度、影絵祭の日に2人がイチャイチャしている姿を偶然見たが、それ以降は、俺に見られないよう特に気を遣っているようで、そういった場面に遭遇しなくなった。
 俺はてっきり父はそういう色事に疎いのかと思っていたが、どうやら違ったようだ。
(俺に気を遣ってたのか。)
 管理課には消灯を任された父が最後に残っていたようで、他は誰もいなかった。俺がいなかったら2人は思う存分あの場でくっついていれただろう。

「ただいま。」
 とうとう気まずい雰囲気のまま宿舎まで帰ってきた。俺がカギを開けて部屋へ入ると、父とラルクは微妙な距離を保ったままリビングに入った。その様子に、溜息をつく。
「あのさ、さっきも言ったけど、俺は本当に気にしてないって。父さん達は恋人同士なんだから、そういうことしても普通だって分かってるから。」
 ラルクは俺の言葉に目を輝かせて父の方を見る。しかし父は頬を赤くして「駄目だよ。」と言う。
「息子の前でそんな……。教育に悪い。」
「だから、俺はもうすぐ成人するし、子どもじゃないから!……ていうか、そんな我慢してるから職場でああなったんじゃないの?」
「あ、あれは!だって、」
「3日も会わなかったからでしょ?……もう、いつもの2人に戻ってよ。仲良くご飯食べよ?」
 ぐぅ~と後ろでラルクのお腹が鳴る。休憩所でアックスとお菓子をつまんでいた俺とは違って、彼は仕事終わりに何も食べずに父を待っていたのだ。相当お腹が空いているはずだ。
 父は顔を赤くしたまま、チラッと俺を見た。
「セラ、本当に嫌に思わない?」
「2人がイチャイチャしててもってこと?」
「その、もしキス……とかしたら…。」
 父は、あああ~!!と悶えながら両手で顔を覆った。
「だから、2人が俺の前で仲良くしてると嬉しいって!!……ほら、もう分かった?」
俺は空腹のラルクが可哀想になり、つい大きな声を出した。
「セラ……。」
 父は照れくさそうに笑い、ラルクも横で目をキラキラさせている。並んで感動する2人に安心していたが……俺は自分の言葉を後悔することになる。

「セラ、じゃあいくよ。」
「セラさん、しますね。」
(は……?なんでこうなったんだ。)
 父とラルクはお互いの手を取り合い、顔同士は10センチの距離だ。そして「見ててね。」という謎の父の発言の後、2人の唇が重なった。
(なんで今!俺にそれを見せるんだよ!)
 父は俺が嬉しいと言ったのを、どこか勘違いしているようだ。
(「2人が仲が良いと嬉しい」って言っただけで、目の前でして欲しいって意味じゃないから……!)
 俺は死んだ魚のような目で、2人のキスを見届けた。

「だから声に覇気がないのか。」
 シバはくつくつと笑っている。
(笑いごとじゃないんだけど……。)
 あれから、すっかり明るくなった父とラルクと3人で夕食を食べ、交代で風呂に入った。そして2人が父の部屋へ入り、俺もそろそろ寝る準備を……と思っていたところで電話が鳴ったのだ。
 シバは毎日きちんと同じ時間に俺に電話をくれる。そして、俺は1日の終わりに彼と電話で話すのが習慣になってきた。
「その……父は素直な性格っていうか、言葉をそのままに受け取るっていうか。」
「セラにも当てはまるな。」
「え、俺は父とは違います!もっと考えて行動してますよ。」
 自分の父親になんて言い方だ……とも思うが、ふわ~っとしたニコニコ顔を思い浮かべると、やはり自分は父よりはしっかりしている方だと思う。
「シシル殿を遅くに迎えに行ったと言っていたが、最終日だから仕事が長引いたのか?」
「あ、いえいえ!仕事は5時に終わって、大浴場に行ったんです。」
「……なんだと?」
 シバの声が低くなる。以前、イベント③『湯煙の中で』では、シバはあの湯を気に入っていた。
(もしかして俺だけ入ったから拗ねてるのかな。)
「団長も騎士棟の人以外でも入れるように……って考えてくださってるみたいですし、次は一緒に行きましょう。」
「……君は、どうしてそこへ行ったんだ。」
「えっと、アックスに誘われて。あの……駄目でした?」
(もしかして俺が入ったことがバレたら何か問題が?)
 俺があたふたとしているのに気付いたのだろう。シバは、ふぅ……と息をつき、「セラ、」と名前を呼んだ。
「私は帰って来れないのだから、そういう事をするな。」
「へ……?あの、すみません。行っちゃ駄目って知らなくて。」
「そういう意味じゃない。どうして伝わらない。」
「え、えっと……察しが悪くてすみません。」
 俺は、上司の意図することが分からずシュンとなる。最近は電話で話しているため必然的にシバと呼んでいるが、またアインラス様と呼んでしまいそうだ。
 理解しようと頭を回転させたが、彼の言いたい事が本当に分からないのだ。俺がじっと黙っていると、シバは落ち着いてきたようでいつもの声のトーンに戻った。
「セラは俺のものだろう。そういった……肌を出す機会は避けてほしい。それと、できれば事前に教えてほしい。」
「えっと、すみません。今回は事後報告になりましたが、次からは気をつけます。」
(俺のもの……!)
 俺は文官のお手伝いであり、上司であるシバのものに変わりはないが、その言い方は……なんだか恋人扱いされてるみたいで照れてしまう。
(最近よく『俺のもの』って使ってるな。本にそんなテクニック載ってたっけ?)
 一緒に読んだ本の内容について考えてみるが、相手の呼び方やそういった類の項目はまだ学べていない。となると、単に上司として『俺の部下』という意味合いの言葉なのだろう。
 俺は、その上司が提案したアイデアが大浴場で採用されたことを思い出した。
「そういえば、シバの提案が脱衣所で実際に反映されてたんですよ。着替える時に仕切りがしてある場所がありました。」
「報告は聞いたから知っている。その中で着替えたか?」
「はい。あの、まだ怒ってますか?」
「……いや、終わった事はもういい。それよりセラの話をもっと聞かせてくれ。この電話でしか様子が分からないからな。」
「俺もシバがどう過ごしたか気になります。最近、私ばかり報告してるじゃないですか。」
 そう言うと、少し間があってシバがふっと笑った。
「あの、俺変な事言いました?」
「……いや、可愛らしいことを言うのでな。こちらの様子も伝えるから、まずはセラから聞かせてくれ。」
「えっと、今日はーー…」
 俺は騎士棟での学びを、シバは隣国の習慣で驚いたことを教えてくれ、いつもより話が弾み、寝る時間を随分と過ぎてしまった。

「あの、そろそろ寝ますか?」
「ああ。セラ……、」
(や、やっぱり今日もやるのか?!)
 今晩も俺が赤面する時間がやってきた。
 それは数日前にシバが提案してきた『おやすみのキス』制度であり、これをしなければ電話を切らせてもらえない。この流れについては、いかがなものかと悩んだ。しかし、電話口で音を鳴らすだけならばキスとは言い難い上に、あちらの世界でも挨拶でリップ音を鳴らす国があることを踏まえ、これは健全な挨拶であると判断した。
(これなら友人や上司としても、問題じゃ……ないよね。)
 口と口でしていた以前のキスとは違うのだと無理やり自分に言い聞かせ、俺は電話口でちゅっと音を鳴らした。
「あの……しました。」
「聞こえなかった。」
「え、本当ですか?!……あ、じゃあもう1回。」
ちゅ、ちゅっ
(電話だと音が聞こえにくいのかな?)
 俺は念の為に2回程音を鳴らしておく。
「セラ、可愛い。」
 低い声が耳に響いて、ビクッと身体が揺れる。そして受話器を落とさないようにしっかりと両手で握り耳にピタッと固定した時、シバのキスの音がした。
「あッ、」
「セラ?」
(わ、びっくりして変な声出た。……だって耳に近づけた時だったから!)
「え、えーっと、おやすみなさい!」
「ああ、今日はセラが3回もしてくれたから、よく眠れそうだ。」
「あ!まさか最初の聞こえてたんですか!……嘘つきましたね!」
「ふっ、おやすみセラ。」
 俺が抗議しようと口を開くと、ガチャンと電話が切れた。
(くっ……絶対今、あっちで笑ってる!)
 最近、電話口で聞こえる溢れるような笑い声に、俺は彼の笑顔を想像してみる。
 めったに笑わない彼が時々目を細める表情は、俺がずっと焦がれているものだ。
「はぁ……シバに会いたいなぁ。」
 不毛な恋だと分かりつつも、シバを想ってそう呟いた。
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