鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

文字の大きさ
80 / 115

伝言の内容

「セラお帰り。今日もずいぶん遅かったね。」
「うん。…その、ご飯食べてたら遅くなってさ。」
「オリア君と?」
「そ、そう!ははっ。」

(父さん、嘘ついてごめん!今回の件は誰にも言っちゃ駄目って言われてるんだ。)

ごまかすため不自然に笑いながら、さっさとお風呂場へかった。


「はぁ~…。」

熱いお湯に肩まで浸かると、やっと力が抜けた。ボーッと天井を見てゆっくりしていたところで、父が外から話し掛けてきた。

「セラ、さっきアインラスさんから電話あったよ。」
「本当?あ~、やっぱり父さんに伝言しといたら良かった。」

(ようやくまた電話を掛けてくれるようになってたのに…。)

心が沈むが仕方がない。これは文官長直々に任されたお願い…もとい仕事なのだ。

「どうかしたの?」
「…あのさ、もし明日も掛かってきたら、『5日後なら電話に出れます。』って伝えてくれる?」
「え!セラそんなに帰ってこないの?たしかに最近外出が多かったけどさ…。」

(俺だって出来たら早く帰りたいよ。)

湯舟に映る自分の顔はしゅんとしている。
好きな人と話す時間が奪われてるのだ。悲しくないわけがない。

「飲み会とかいろいろ予定入っちゃってさ。俺がごめんなさいって言ってたのも伝えてほしいんだけど。」
「うん、分かったよ。もし何か返事があったら聞いとくね。」
「ありがと、父さん。」

父さんは「任せて~!」と明るく言って、リビングへ戻って行った。





「あの、近くないですか?」
「何言ってるんだ。本番は腕を組んで歩くんだぞ。慣れてもらわないと困る。」
「はぁ…分かりました。」

婚約者訓練2日目。今日はウォルの家のことや生い立ちについて学んだ。とっさに聞かれた時に答えられるようにとのことだったが、仕事で疲れた頭には辛く、日頃暗記するスピードの何倍も掛かった。
そして、例の暗い部屋で並んで食事を取り、今はそのまま食後のイチャイチャを学んでいる。

「とりあえず、2回は口の端に何か付けろ。俺が取る。」
「え…マナーがなってないって思われそうで、気が進まないんですが…。」
「指示通りにするんだ。」
「はい…。」

王の右腕とも言われている切れ者の彼が言っているのだ。正しいと信じて、俺は異様に近く座っている彼を気にしないことにした。

「これが終わったらちゃんと解放してやる。」
「はい…頑張ります。」

(今回の件で貰える給料で、父さん達と何か食べに行こう。)

俺はのんきにそう考えていたが、隣ではウォルが俺の緊張感の無い横顔をじっと見つめていた。



へとへとの状態で宿舎に帰る。

(明日も仕事だ…。)

考えてみると、朝9時から5時まで働き、その後すぐに5時間も残業のようなことをしているのだ。一応ウォルはゲームの攻略者であり、目上の人だからといった理由だけでなく気を遣い、一時も休まる時が無い。

ただ、あちらから気を遣うなと何回も注意してくるので、だいぶ砕けた話し方が出来るようにはなってきた。

「セラ、お帰り~!」

明日は仕事だというのに、珍しくこんな時間まで元気に起きている父は、俺に言いたい事があって待っていたようだ。

「今日もアインラスさんから電話があって、セラの事ちゃんと伝えておいたよ。伝言も預かってるから、早く荷物置いてきて。」
「ありがとう。」

(伝言?父さんが何かぐいぐい聞いたのかな?)

玄関で靴を脱いだだけの俺は、父に言われて自分の部屋へカバンを置きに行った。


「なんて言ってた?」

ついでに部屋着に着替えた俺は、父から受けとった熱いお茶を飲んでやっとリラックスすることができた。父は待ってましたとばかりに、机に裏にして伏せていた紙を見る。

「メモしたの?」
「うん、一言一句間違えない方がいいと思って。」

結構すれ違いや勘違いでおかしいことになってしまう俺達だ。父のこの配慮はありがたい。

「セラは5日間出れませんってことを伝えたら、『もし何か思い悩んでいるなら伝えて欲しい』って言ってたよ。」

(うわぁ…前に俺が勘違いしたことを踏まえて言ってるんだろうな…。)

以前、シバの兄とその婚約者のネックレスの件で盛大な勘違いをした俺は、何日もシバを遠ざけていた。その時も『5か月後なら空いてます。』と言って彼を混乱させてしまった。もしかしたら今回も、俺が何か早とちりをして彼の電話に出ないと思っているのかもしれない。

(今回は本当に、早く帰らせてもらえないだけなんだけど…。)

念の為、父にはもし明日電話があった時は『本当に忙しい』と言うように頼んでおいた。

「アインラスさんから伝言だよ。『帰ったら一番に君のところへ行くから、その日は1日空けておいてくれないか?一緒に過ごそう。』と、あとは…」
「ちょっと待って!それ本当にシバが言ったの?」
「うん。メモしたから間違ってはないけど…どうしたの?」

(こんな恋人に言うみたいな…。)

恥ずかしくて顔から火が出そうだが、父が何とも思っていないようなので、まだ多少は冷静に聞くことができる。父は俺の態度を気に留めず「続きあるけど、」と言って紙に目を落とした。

「えっと…『君と話せない夜は寂しい。5日後に元気な声を聞かせてくれ。』だって。」
「ふ、ふーん…そっか。」

父はこの伝言の内容に特に何も思っていないようであり俺が過剰に反応するのもおかしいだろう。俺は顔に力を入れて、表情を出来るだけ変えずにいることと、そっけない返事をするので精いっぱいだった。

「大好きなセラと早く話したいってことだね。」
「ち、違うから!」

(勝手に都合良い要約しないでよ!)

「そう?じゃあ、そういう事にしとこうか。あ!アインラスさんが帰ってきたらお祝いしなきゃね!またご飯に誘ったらどう?」
「うん。誘ってみる。」

父は、前回4人で食事をしたのが相当楽しかったようだ。父とラルクはシバが持参した酒をぐいぐい飲み、最後は笑い上戸の酔っぱらいと化していた。

(シバが帰る日は、何としても空けとこう。)

暦を確認すると、彼が帰ってくる日まではあと8日。声だけでなくやっと本人に会えるのだと思うと、想像だけで舞い上がってしまう。

「さ、寝ようか。お風呂は朝入ったら?」
「そうしようかな~。疲れた…。」

父は笑って、俺に伝言を書き留めた紙を渡すと、先に寝ると言って部屋へ入っていった。

(本当にあんなこと父さんに言ったのかな…。)

父とラルクは俺達が仲が良いことは知っており、シバの距離感が近いことも理解している。シバ自身も父達の前で俺に触ったりするのを躊躇う感じではないし、こういった少し恥ずかしい伝言も平気なのかもしれない。

俺はその紙に書かれている内容をもう一度見て、シバの低い声を思い出す。

『セラ。』

(わっ、もう寝ないといけないのに、何考えてんだ俺は!)

その紙を持って自室へ入ると、攻略ノートの入っている引き出しにそっと入れ、熱い顔のままベッドへ潜りこんだ。
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

恋愛騎士物語1~孤独な騎士の婚活日誌~

凪瀬夜霧
BL
「綺麗な息子が欲しい」という実母の無茶な要求で、ランバートは女人禁制、男性結婚可の騎士団に入団する。 そこで出会った騎兵府団長ファウストと、部下より少し深く、けれども恋人ではない微妙な距離感での心地よい関係を築いていく。 友人とも違う、部下としては近い、けれど恋人ほど踏み込めない。そんなもどかしい二人が、沢山の事件を通してゆっくりと信頼と気持ちを育て、やがて恋人になるまでの物語。 メインCP以外にも、個性的で楽しい仲間や上司達の複数CPの物語もあります。活き活きと生きるキャラ達も一緒に楽しんで頂けると嬉しいです。 ー!注意!ー *複数のCPがおります。メインCPだけを追いたい方には不向きな作品かと思います。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。