鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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酔っぱらいの介抱

「お疲れ様です!」
「お帰りなさいませ!」

夕方6時から予約してあったお店は貸し切りで、かなりの人数が集まった。皆シバが帰ってきたことが嬉しいのか、代わるがわる声を掛けている。前にシバ含む班の皆で飲み会をした時は俺の歓迎会であり、彼の席は俺の隣だった。当時はそれが嫌で堪らなかったが、今はその時の幸運な自分を蹴ってやりたい。今日の俺の席は、シバからずっと離れたテーブルだった。

(あんなに遠い。俺だってずっとシバを待ってたのに…。)



乾杯が終わり、中締めが終わり、それでもシバの隣は空かない。シュリはわずかな隙を狙って買って来た茶葉を渡していた。そして、それからもシバの横は奪い合いでずっと誰かしらが座っている。遠くから見ているとモヤモヤとした気持ちになり、俺は頭を覚まそうと一旦店を出た。

「はぁ~。」

無駄に大きなため息が出る。嫉妬のような感情は、自分が持ってはならないものだ。

(俺は数日後にアックスと結ばれる。)

ゲームの通りに告白イベントが発生するなら、もうすぐ俺はアックスから「話がある」と呼び出されるだろう。

『私はセラの恋人だろう。』

電話口の言葉が蘇る。あの言葉が本当なら、シバは俺と付き合っていると思っている。そして、それは俺がシバのことが好きという感情を殺すことができず、曖昧な態度を取っていたから勘違いしたのだろう。
好きだから、シバに抱きしめられると嬉しかった。好きだから、キスを拒めなかった。好きだから、シバに「会いたい」と本音を言ってしまった。しかし、その全てが彼に誤解を与えてしまったのだ。

それに、彼がそもそも自分を好きなのかも怪しい。
シバは最初の冷徹な印象とは違って、面倒見が良く優しい。そんな彼はただ恋愛の『練習』をしたかっただけだが、俺の感情に気付いて合わせてくれているのではないか…。

「だって俺、好かれるとこなんて1個もない。」

嘘をついて、心配をかけて…反対に自分が彼にしてあげたことがいくつあっただろうか。

(あ、料理だけはシバを満足させてあげれてる、かも…。)

「はぁ。」

また大きなため息をつき、俺が店に戻ろうと扉を開けると、シバが立っていた。

「え、シバ?」
「どうして外にいる。」

シバは少しムッとした表情で俺の腕を取る。

「暑くなって、風に当たろうかと。」
「酒を飲んだのか?」
「いえ。…シバこそ、少しお顔が赤いですが。」

表情に出ないので分からなかったが、近づくと目元が赤い。そして反応も少し鈍い。

(そういえば、皆に酒を注がれてたな。)

明日は休みとはいえ、これ以上飲むのは良くないだろうと、俺はシバの頬を触った。

「あっつい。あの、お酒はこれ以上飲まないでください。」
「分かった。」
「そろそろお開きでしょうし、馬車をお呼びしましょうか?」
「頼む。」

俺は「はい。」と返事をし、シバを入口近くの席に座らせ、急いで席へ戻った。俺に気づいた眼鏡先輩に事情を説明すると、馬車を呼んでくれた。他の文官達にはシバがもう帰ることを伝え、俺はシバと一緒に外の椅子に座って馬車を待った。

「門から宿舎まで帰れますか?」
「……帰れない。」
「えっと、じゃあ宿舎の近くまで行ってもらえるか聞いてみますね。」
「…セラも一緒に帰ろう。」
「でも私は…。」
「今日は私のお祝いじゃないのか?この会の主役がセラと帰りたいと言っている。」

(相当酔ってるな…。)

シバが並んで座る俺の方へ体重をかけてくる。

「わ、重ッ!わ、分かりました!一緒に帰りましょう。」
「セラは…優しいな。」

シバは満足したのか、俺の背中に腕を回すと、肩をぎゅーっと抱いてきた。

(相手は酔っぱらい、相手は酔っぱらい…)

俺は目を瞑って、ドキドキに打ち勝とうと必死だった。





「ほら、お部屋に着きましたよ。靴を脱いでください。」
「ああ。脱ぐ。」

そう言って動かなくなったシバの足元で靴を脱がす。そして彼をベッドの部屋に連れていくと、ボスン…と座らせた。シバの目は既に瞑っていて、かなり眠たそうだ。

「疲れているのにお酒をあんなに飲むからですよ。ほら、足出して。」
「セラ…伴侶みたいだ。」
「…ち、違います。」

だいぶ酔っ払っているようで、目を瞑って横にゆらゆら揺れているシバ。
靴下を脱がせると、シャツとスラックスも寝間着に着替えさせようと、ボタンを外す。この1年、何度も酔っ払って帰った父を介抱してきたのだ。大人の着替えを手伝うのは慣れている。

「ほら、かぶせますよ。」
「ん、」

上を着替えさせ下を脱がせると、シバの下着が見えた。

(く、黒…。)

脱がせているのだから下着など見えて当たり前だ。そして男の下着など何度も見る機会はあった。しかしシバの事が好きな今、この下着は俺には刺激が強すぎる。

「あ、あの、脱いでこれ履いてください。」
「こっちを見てくれ。」
「え?」

俺が目を逸らしながら脱がせていたのがバレたのだろう。シバは「寂しい。」と言って俺の頬を優しく掴むと自分の方を向かせた。

「シバ、あの…見ますから、脱いでください。」
「ん、」

頷いて俺の言う通りにズボンを脱ぎ去り寝間着に足を通す。その間、俺はシバの下着の全貌をばっちりと目に焼き付けてしまった。


「お水を持ってきます。」
「ん、」

眠たくなったのか、倒れそうになるシバをヘッドボードにもたれ掛けさせ、急いで水を持ってくる。シバに渡すと喉が渇いていたのか、ゆっくりであるがコップ一杯全てを飲み干した。


「はい、暑くないですか?電気消しますね。」

シバに布団を掛け、俺は脱いだ服を洗面台に持って行った。しかしすぐに名前を呼ばれる。

「セラ、こっちに来てくれ。」
「はい、どうしました?」

そろそろ帰ろうかと考えていた時、暗くした寝室から彼が俺を呼んだ。
声の主が寝ているベッドに近づくと、腕を取られ無理矢理座らされる。

「セラ、一緒に寝よう。」
「今日は帰ります。お疲れなんですから、ゆっくり寝てください。」
「駄目だ。ここにいてくれ。」

(そんな子どもみたいな…。)

明日は休みであるため泊まることもできるが、どうするべきか悩む。本当ならこのまま帰るのが正解だろう。しかし想い人であるシバが自分を求めているのだ…それに応えてやりたい。
ずいぶん悩んだが、やっぱり帰ろうと立ち上がりかけると、シバが俺の背中に手を回して自分の上に被せるようにホールドした。

「ちょ、シバ…?」
「セラ。」

うなじに手のひらの熱を感じ、ぐいっと寄せられる。「あ…」と思った時には、キスをされていた。

「ん…、」

駄目だと思いながらも、身体はとろんとして力が入らない。

「っふ、」

シバに何度も口づけられ、自然に目を閉じてしまう。そして、ちゅ…と音が鳴る度に、胸も共鳴したようにドク…と鳴った。

「セラ。」

キスの間に、シバが俺を呼ぶ。

「このキスに、私達の想いは無いのか…?」
「シバ?」
「これは、本物のキスだ。」

シバはそう言って目を瞑った。俺は何も返せずに黙ってしまう。シーンとした空気の中、シバが小さな声で呟いた。

「明日の朝、一番にセラの顔を見たい。」
「それは…。」
「お願いだ。」

シバは目を瞑ったまま、スーッと寝息を立てた。

(ね、寝たの…?)

今、俺はシバの上に身体を乗せている。つい今までキスをしていたので、顔同士は近く、俺が少し俯けばまたキスをしてしまう。

そっとシバの上から退くとフラフラとリビングへ戻り、椅子に座る。

最近は夜でも暖かく、この部屋で馴染みのある暖炉の火は付いていない。運命の春がもうすぐやってくるのだと感じながら、俺はテーブルの上に両腕を乗せ、その中に埋もれてシバの言葉の意味を考えた。
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