鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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お付き合いの真相

朝、目覚めると視界は紺色に包まれていた。

(あ、シバの寝間着か…。) 

それは紛れもなく昨夜俺が着せたものであり、彼はまだ夢の中だ。

(あったかい。)

俺は今シバと向き合って寝ており、目線はちょうどシバの胸あたりだ。シバは腕を俺の首の下に敷き、その手で俺を抱きしめている。まるで離れるなというような体勢に、嬉しいような恥ずかしいような、なんとも言えない気持ちになる。

(いや、喜んだら駄目だろ!)

今日は、シバと真剣に話し合わなければならない。しかも、付き合えないとはっきり言わなければならないのだ。好きな相手が自分を好いていてくれるかもしれないのに、断るというのは辛いが、命には代えられない。

(これからは、こういうお泊りもできないんだよなぁ…。)

そう思うと、この腕の中にまだ居たいような気分になってくる。とりあえずは、話し合いも彼が起きてからのことだ。俺は目を瞑ってシバの目覚めを待つことにした。



「んぁ…っ」
「起きたか?」

遅刻を実感しながら目覚めた時のような焦りと共に、バチッと目を見開いた。目の前にはシバのドアップ。俺は驚いて起き上がる。

「わ…ッ!」
「セラ、急に身体を起こすと良くない。」
「俺、寝ちゃったのか…。」
「別に良いだろう。今日は休みだ。」

俺がボソッと呟いた言葉に返事をし、シバは「こっちへ来い。」と寝ている自分の方へ腕を引く。

「あの、もう起きましょう。話があるんです。」
「……今は頭が回っていない。後にしよう。」
「え、でも…」
「上司命令だ。こっちへ来い。」
「そんな…命令だなんて。」

ぐいっと腕を引かれ、ぽすんとシバの隣に戻る。

(早く話をしたいんだけど…。)

俺は満足そうに頭を撫でてくるシバにどう接してよいか分からず、その胸元に視線を向けていた。

「セラ、話は昼食を食べてからにしよう。それまでは、今まで通り接するように。」
「それも…命令ですか?」
「ああ。セラは逆らうことはできない。」

はぁ…と観念し、俺は目の前の大きな胸の中へと戻った。

(上司の命令だし、しかたないよね…。)

本心では、ずっと離れていたシバとこうやってくっついていたい。もし俺がアックスと恋人同士になる必要がなければ、喜んでそうしていただろう。そして今日は最高の1日になったはずだ。

「分かりました。」
「良い子だ。」

シバは俺の前髪を分け、そこにちゅっと口付けた。

「シバ…ッ!」
「なんだ。2か月前はしていただろう。」
「で、でも。」
「セラもしてくれ。朝の挨拶を怠るな。」
「え…っと、」

(これも命令だから、いい…のか?)

自分でも分からなくなってきた。アックスに申し訳ないと思いながら、まだ彼とは恋人ではないのだから…という気分にもなってくる。

(とりあえず、ご飯を食べるまでは今まで通りにするって約束したし。)

俺はシバのおでこが届く位置にズリッとベッドを蹴って上がる。しかし予想とは違い、眉より少し上に唇が乗ってしまった。緊張して目的の場所にできなかった上、離すタイミングが遅れ長めに口付けてしまう。

「えっと、」
「やり直し。」

結局、ちゃんとした位置に口付けができるまで、シバは何度も俺に朝の挨拶をさせた。



遠征に長く出ていたシバの家には食料が何もなく、出前を取ってリビングで食べた。シバはこの食事が終わるまでは以前のように過ごせと言っていたので、俺も気を抜いて沢山笑うことができた。そして、食後のお茶を淹れたタイミングで、自分の持ってきた紙袋が視界に入った。

(気まずくなる前に渡しておこうかな。)

「あの、シバに渡したい物があって。」
「私に?…何だ。」

部屋の隅に置いていた紙袋から、約2か月前に用意していたプレゼントを取り出す。

「開けていいか?」
「はい。…そんなに立派な物じゃないので、期待しないでくださいね。」

シバは青いリボンを上品な手つきで解くと、包みからキャンドルを取り出した。

「これは。」
「キャンドルです。柑橘の香りがして、リラックスできるらしいので……シバに。」
「セラが選んでくれたのか?」
「はい。良かったら使ってください。」
「もちろんだ。…ありがとう。」

まじまじとオレンジ色のキャンドルを見つめるシバ。シュリや俺でも買えるような雑貨店で売っているものであり、そんなにじっくりと鑑賞されると恥ずかしくなってくる。

「シバ、もうしまってください…。」
「飾っておく。」

シバはそれを大事そうに抱えるとガラスの器に入れてテーブルの真ん中に置いた。

「これを付けて今夜一緒に過ごしたいが、話をしないとな。」
「はい…。」

やっと本題に入るのだと、安心しつつも、この穏やかな時間は最後かもしれないと思うと辛い。

テーブルの下でグッと拳を握り、俺は目の前に座るシバに疑問に思っていたことを尋ねた。

「あの、私達はいつから、その…こい、びと、なんでしょうか。」
「キスをしただろう。あの日だ。」
「えっと、私が助けてもらって、雪の上でした…あれですか?」

イベント④の誘拐事件。シバに助けてもらったあの日、雪が舞う寒空の下で俺達はキスをした。

(いや、確かにあれは俺にとってもシバにとっても初めてではあったけど…。)

記憶をさかのぼっている俺に、シバは「違う。」と言った。

「その夜、ベッドの中でしただろう。事件直後は君も混乱していたし、あのキスで恋人にとは思っていない。」
「…はい。」
「ただ、あの時に私の気持ちは伝えたつもりだ…。」

(気持ちって、「初めてをくれないか」って言葉だよね。)

俺の気持ちを落ち着ける為に言ったのだと思っていたが、あれは本心だったと…今になってようやく分かった。

「その夜したキスは、想い合ったものだと思っていた。」
「それは…。」

シバの言う通りだ。俺は彼が好きで、その夜も一緒に居たくてキスされたのも嬉しくて…。

(でも駄目だ。今はっきりと『違う』って言わないと。)

「それは、シバの勘違いです。」

俺は自分の心を殺して、きっぱりと言った。

「あれは事件の後で、私も感覚がおかしくなっていたんです。その後のキスも…上司だから、拒めなかっただけです。」

俺は言い切ってギュッと目を瞑った。本心ではない感情を伝えるのは難しく、胸はグッと重力がかかり苦しくなる。
シバを傷つけただろうか…と、瞑った目をゆっくり開くと、彼は真剣な顔をしていた。

「嘘をつくな。」
「…え?」

きっと優しい上司は、俺に怒らず「分かった。」と言ってこの話は終わりだろうと思っていた。そしてまた上司と部下、それだけの関係になるのだと覚悟していた。しかし、彼は傷ついた様子もなく俺を嘘つきだと判断した。

「あの…嘘、とは?」
「何が君をそうさせているのかは分からないが、セラは今、私に嘘をついた。」
「何言ってッ、私は本当にそう、」
「好きだ…。」

シバは、焦って早口になっていく俺の手を優しく両手で包むと、もう一度「好きだ」と言った。

「…ッ。」

どうしろというのだ。覚悟を決めて突き放したというのに、また流されそうになる。
俺は、シバの両手を振り払った。

「アインラス様は、私の上司で…それだけです。」

今まで親しく名前を呼べていたのも奇跡なのだ。よくよく考えれば、彼は皆に慕われる文官棟で2番目に偉いシバ・アインラス。許されたからといって、気軽にその名を呼んでいい相手ではないのだ。

「…分かった。」

(納得、したのか…。)

ホッとしているのに悲しい、なんとも不思議な気分でシバを見ると、彼は腕を組んで俺を見下ろしていた。

「…アインラス、様?」
「私はこれから、毎日セラに告白をする。」
「はい…?」

(今、「分かった。」って言わなかった?)

シバはそう言うと、「これから準備をする。君は帰るんだ。」と言って立ち上がる。そして俺のカバンを拾って手渡すと、玄関へぐいぐいと連れていき、「明日、午後3時に君に会いに行く。」と告げた。

「あ、あの…。」
「午後3時に部屋に行く。」

シバはそう言って俺を玄関から押し出すと、バタンと扉を閉めた。

「…な、なんで?」

俺は訳が分からずに、玄関の扉を見ながら立ち尽くした。
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