鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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最高のデートにはご褒美を

色とりどりの花が咲く道を2人で歩く。

「アインラス様、今日は本当にありがとうございます。」
「セラが喜んでくれて良かった。」

まだ手は繋がれたままであり、俺はシバにすっぽりと覆われている自分の手に視線を移す。

「あの…もう帰るんですか?」
「花を見たいと言っていただろう。少し周ろうか。」
「いえ!あれは植物園っていったら花かなって思って…。私は鑑賞するより採取する方が好きみたいです。」
「私もだ。…では、」

シバはそう言うと、繋いでいる手を持ち上げ屈んだ。

「今夜、セラさえよければ一緒に夕食をどうだ?」

シバは俺の目を見ながら、手の甲に口を寄せた。

「え、…は、はいッ!」

手の甲にシバの唇の感触がして、思わず良い返事をしてしまう。シバは俺の緊張した顔を見て口の端をわずかに上げると、手を下ろして出口へとエスコートした。





「可愛らしいお店ですね。」
「あまり知られていないので、ここへ来ると気兼ねがないんだ。」

あれからシバと馬でやってきたのは、小さなレストランだった。植物園の植物を販売している花屋も併設してあり、店の看板にも花のモチーフが描かれている。
中へ入ると、優しい明かりに花が照らされなんとも幻想的だ。あまり花に興味がない俺でも、綺麗だと目を奪われる。

「天井にも花が!」
「あれは全部ドライフラワーだ。」

天井には花が敷き詰まるように掛けられている。こんな内装の店に来たのは初めてだが、きっと女の子であればこのフォトジェニックな店内に大はしゃぎだろう。

(あ、こんなに落ち着きない連れがいたら、シバが恥ずかしいよね。)

俺は、キョロキョロと店内を見回すのをピタッと止め、店員の案内を待った。しかし、奥のキッチンは明るいものの、誰も出てくる気配がない。

「セラ、こっちにおいで。」

シバが大人しくなった俺の手を引いてカウンターの席に連れて行く。そこへ俺を座らせると、自分は目の前のキッチンの中へ入ってしまった。

「あの、お店の方は…。」
「今日は貸し切りだ。そして私が作る。」
「……アインラス様が?」

今日は驚いてばかりだ。予想していなかった事態に、ポカンと開いたままの口。シバは少し笑って、「待ってろ。」と言うと調理の為に手を洗い出した。


ジュ~・・・
(すっごく良い匂い!)

シバが目の前で料理をする姿を見ながら、俺はいろんな質問をした。そして、ここがシバの知り合いの店であり、今日は俺に料理を作ろうと貸し切りにしたのだと知った。

「アインラス様は、料理もお上手なんですね。」
「君が作るようなものは作れない。焼いたり、煮たりするくらいはできるが。」

シバは今、ステーキを鉄板で焼いており、その目は真剣だ。
随分前に起こったイベント②『貴方とおでかけ』で俺がステーキを選んだことをずっと覚えており、彼は俺と食事をする際には肉料理を勧めてくる。今日も一応何個か候補があったようで、魚か肉かと聞かれ、俺が肉と答えた時は「やはりな。」と嬉しそうだった。

「君の料理は美味しいので、あまり自分では作らなかった。」
「あ、ありがとうございます。」
「だが、私も君に食べて欲しいと思った。」

目はずっと鉄板で焼き加減を見ており、俺に向けられていないが、その優しい声に胸がいっぱいになる。

「早く食べたいです。」

シバは俺の言葉を聞いて「もう少しだ。」と言うと、優しくその目を細めた。



「わ、凄く美味しそう!盛り付けも綺麗ですね。」
「俺は焼いただけで、付け合わせや他の料理はここの店主任せだ。」
「それでも今日のメインはお肉でしょう?…シェフ、食べてもいいですか?」
「ああ。」

俺は待ちきれずにナイフとフォークを持って切り分けていく。

(だってシバが俺の為に作ってくれたんだから、一番美味しいうちに食べたい!)

そして一口に切った肉を口に入れると、バターとニンニクの香りにステーキの旨味が…本当に美味しくて驚いた。

「美味しいっ!」
「良かった。」
「アインラス様も早く食べて下さい。焼き加減も最高ですよ。」
「食べよう。」

シバは俺が本気で美味しいと思っていることが分かり、少しホッとした顔で食事を始めた。



食べ終わると、キッチンに戻ったシバがアイスを持ってきた。俺の好きなチョコのアイスにシバの好きな生のイチゴが添えられている。

「デザートだ。」
「わぁ、至れり尽くせりで…なんだか申し訳ないです。」

一緒に向かい合って食べた以外は、ほぼ店員と同じ働きで俺をもてなしてくれたシバ。彼が今日の為にいろんな準備をしてくれていたのだと思うと、ジーンと胸が温かくなる。
そして、俺がアイスも食べきって一息ついたところで、シバが口を開いた。

「今日、セラがたくさん笑っているのを見て、幸せだと感じた。」
「……アインラス様。」
「私は、君の事が好きだ。」

店は俺達以外誰もおらず、シバの低い声は俺の耳にはっきりと届いた。しかし、俺はその言葉に返事をすることができない。じっと黙っていると、シバはそれ以上何も言わず立ち上がる。

「あ…ッ、」

急に席を立つ彼に、思わず手を伸ばす。テーブルを挟んでいるため届くはずもない指先が、中央に置いてある花にかすかに触れた。

「皿を下げるだけだ。」

食事をした後はそのままで良いと言われていたらしいが、さすがにキッチンに下げずに…とはいかないと、シバは俺の分まで皿を持つとサッサと片付け始めた。

(俺…最低…。)

シバの告白を受けるつもりはない。しかし、彼に幻滅されたのではないかと思った瞬間、縋るように手が伸びた。

(告白って勇気のいることなのに…俺、シバに何させてるんだ。)

シバは皿を全てキッチンに下げると、「行こうか。」と俺の手を取って店を後にした。俺は優しく繋がれた自分の手を複雑な気持ちで見つめた。



「アインラス様、ありがとうございました。植物園も食事も素晴らしくて、今日の事はずっと忘れません。」

シバは俺を宿舎まで送り届けてくれた。本当であれば部屋に上げてお茶の一杯でもごちそうしなければ…とは思うが、それをしてはいけない気がする。

「大げさだな。…またいつでも行けばいいし、今度は他の料理も作る。」
「……次は、皆で行きましょう。2人きりだと、あの…。」

(デートって、思っちゃう自分が嫌になる…。)

続きをどういえば分からず語尾が小さくなるが、シバは俺の言葉の意味を分かっているだろう。失礼な発言に今度こそ呆れたかと思ったが、シバの表情は変わらなかった。

「忘れられないくらい良かったのなら、私にご褒美があってもいいな。」
「…ご褒美ですか?えっと、それは、はい。もちろんお礼はします。」

(えっと…俺の話聞いてた?なんだか流されたような。)

「言ったな。では、こっちに。」

シバが両手を広げている。俺の自意識過剰でなければ、『こっちに』とは、彼の胸の中へ…という意味だろう。

「え、それは。」
「お礼をすると言ったばかりで…君は嘘つきだな。」
「え…またそんな言い方…。」

俺がその言葉にデジャヴを感じていると、シバは軽く溜息をついて動けないでいる俺を抱きしめた。

「あ…」
「君からしないとご褒美にならない。」

(え、これってシバの要求に応じないとお礼したことにならないの?)

今抱き合っているこれは、俺からの行為ではないのでカウントされなかったらしい。

「セラ、手を回してくれ。」

今度は、ぎゅっと自分の腰辺りで硬く握っている手を、彼の背中に回すよう言われた。

(応えたら…俺がシバのこと好きってバレる。)

シバは待っていたものの、何もしない俺にまた溜息をつくと、俺のガチガチになった手を撫で、自分の背中に回すよう導いた。

「アインラス様…で、ではこれで。」

手を回してずいぶん抱き合った。胸はドキドキとうるさいし、早く離れてしまわないとバレてしまう。お礼は後日改めて何か菓子でも買おうと思いながら、「離してください」と彼を見上げる。しかしシバの表情は最初と変わらず柔らかいままだ。

「セラからしないと意味がない。これも駄目だったな。」

(しないと帰らせてくれない気だ…。)

次の要求にさっさと答えて帰ろう!と決めたところで、シバは俺の唇を指で撫でた。

「ではセラ、キスしてくれるか?」
「ん…っ?」

口に指が乗っていて「え~!!」とも叫べない。驚いた顔で彼に抗議するが、シバは俺が口づけをしやすいように屈んだ。

(え、え、どんどんエスカレートしてってるし、本当にしないとマズい。)

心ではそう思うものの、身体は動かない。シバはじっと俺の顔を見ていたが、ふっと笑うと俺に近づいてきた。

(ど、どうしよ。)

俺はシバの頬に両手を伸ばした。シバは軽く目を閉じる。

ドキドキと鳴る心臓を無視して、俺は背伸びをして彼に口付けた。

「ん、」

久しぶりにしたキスは懐かしい気持ちがして、すぐに済ませようと思っていたのに離れることができない。

(シバ、好き。)

今だけ…心で想うくらいはいいだろうか。彼が好きだという気持ちを込めて目を瞑った。

「…は、ふ」
「セラ、もう1回。」

シバは背伸びをしている俺を抱きかかえると、目線を同じ高さにして見つめてきた。
どうせ身体はシバに捉えられており、ここで抵抗しても無駄だ…そう自分をごまかし、俺は目の前の彼の首に手を回し、角度を変えて口付けた。
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