鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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幸せ

「セラ~。明日本当に行かないの?まだ部屋変えれるよ?」
「うん、用事あるから。今日もあと少ししたら出掛けるね。」

父は俺の言葉にシュンとし、台所で片付けをしているラルクも残念そうに背中を丸める。

「1人じゃないって聞いて安心してるけど、遠くに行ったら駄目だよ。」
「うん、大丈夫。」

今は夜8時。あと30分後にはこの部屋を出て約束の馬小屋へ向かうつもりだ。父にも、今夜は友人の部屋に泊まると昨日の時点で伝えてある。

(緊張してたけど、父さんとラルクさんと過ごしたおかげでリラックスできた。)

父とラルクは、明日から1泊2日で旅行に行く。以前3人で泊まったのがよほど楽しかったのか、父達はすっかり旅行に目覚め、ラルクの休みに合わせて近くのホテルを予約したらしい。2人は俺にも来て欲しいと言っていたが、エンディングを迎える日に行けるわけがないと理由を付けて断った。

彼らと出掛けることが出来ない事は残念だと感じるが、父達が城から離れていてくれる部分に関してはホッとしている。

(もし何か事件が起きても、城に居なければ逃げれるかもしれない。)

昨日のアックスの様子から、もしかしたら今日も予想外な事が起きるのでは…と不安に感じていた俺は、もしバッドエンドになったとしても父だけは助かって欲しいと考えた。

しかし、父達に自分の事情を説明するわけにもいかない。信じてくれるか否かは別として、ゲームの存在を誰かに喋って良いものかが分からないのだ。

(もし、誰かに事実を伝えた時点でアウトだったら…。)

何がバッドエンドの引き金か分からないまま、父と自分を危険にさらしたくはなかった。事情は話せないものの、もし俺に何かあった場合は、巻き添えを食らわないうちに逃げてもらいたい。

(変に勘繰られないように、それとなく伝えないと。)

ラルクが皿を片付けリビングの椅子に座ったところで、俺は2人を見つめて声を掛けた。

「父さん、ラルクさん、明日…遠いわけじゃないけど気を付けて行ってきてね。」
「うん。お土産買ってくるね。」
「セラさん何がいいですか?」

行く前からお土産を考えて楽し気にしている2人に、「あのさ…」と言って注意を引く。

「これから話すこと、真剣に聞いて欲しいんだ。」
「セラ?」

出かけるまであと少しだ。俺は時計を確認して手短に伝える。

「もし、これから何かが起こったとしても、2人で幸せになる道を選んで。」
「「……。」」
「絶対に間違った選択はしないで欲しい。」
「「……。」」

何が起こるのかは俺も予想ができないので詳しく伝えることはできないが、もし父共々処刑…なんてことになった場合は、ラルクさんと逃げてでも生き延びて欲しかった。

しかし俺の言葉では何のことを言いたいのか分からないのか、2人は黙ってしまった。

「俺…本当に父さんとラルクさんが大好きなんだ。」

部屋を出る時間が迫り、俺は伝えたいことがまとまらない。
普段であれば「え?どういうこと?!」と大きな反応を返しそうな父は俺を見つめたままであり、ラルクも口を開かない。しかし俺はそのまま続けた。

「だから…2人にはずっと笑って生きててほしい。」

(って、こんなこと言われても困るよね。)

何も言わずに真剣に聞いている父達に申し訳なくなって、俺は視線を下に向ける。

「ごめん。俺の話、訳分かんないと思うけど…急にそう、伝えたくなったんだ。」

そう言ってごまかすようにハハッと笑ってみる。すると父が「分かった。」と言い、ラルクもそれに頷く。

「セラ、伝えてくれてありがとう。私からもいいかな?」
「え…あ、うん。」

父は俺の言葉に戸惑うでも笑うわけでもなく、真剣な顔で言う。

「私もラルクさんもセラが大好きだよ。だから、セラにも幸せになる道を選んで欲しいな。」
「…うん。」

アックスと結ばれることは、バッドエンド回避という意味では俺の幸せである。

「周りとか関係なく、セラさんが心のままに生きることを幸せって言うんですよ。」

俺の小さい返事を聞いて、ラルクが真剣な顔で言った。

「って、幸せな俺からのアドバイスです。」

ラルクは父の手を取ると、にこっと笑い合った。愛し合っている2人は心から幸せそうで…いつも見ている光景なのに眩しく感じる。

「俺、行ってくる。」

椅子を引いておもむろに立ち上がる。2人は手を繋いだまま「いってらっしゃい。」と俺を送り出した。





待ち合わせ場所である馬小屋まであと少し。

「はぁ…はぁ…ッ」

俺は額に汗をかきながら待ち人のいる場所へと近づく。ここまで走って来た俺だったが、暗闇の中に大きなシルエットが見えると、緊張で足が前に出なくなってしまった。

今日というこの日を目標に生きてきた。しかし今は、自分でも説明できない複雑な気持ちだ。

(なんで動かないんだ…。)

じっと自分の足元を見ていると、馬小屋の方から大きな声がした。

「セラッ…!」

馬小屋近くで待っていた男は、こちらに向かって一歩踏み出す。今は月が雲に覆われ周りは暗く、明かりは馬小屋の端に付いた小さな電球のみ。そして全身黒い服に包まれた彼は、そこから出てしまっては闇の中に紛れてしまい姿がほとんど見えない。

「…ッわ!!」

足音で側に来たのが分かった瞬間、ぶつかるような衝撃と共に抱きしめられた。

「…あ、危ないですッ!」

厚い雲に覆われていた月が少しだけ顔を出し、彼が黒ではなく紺色の上着を着ていたのだと分かる。力いっぱい俺を抱きしめていた腕の力は徐々に緩み、お互いの顔を見つめ合う。

目の前の男の瞳には月の光が反射し、ただ綺麗だと思った。

「……ふっ、」

笑ったような息が零れ、近くにある俺の唇に当たる。

「…セラ。」

彼は片手をスッと持ち上げると俺の輪郭をなぞるように辿り頬へ触れた。

「…やはり君は、嘘つきだった。」

月明りの下、シバは泣きそうな笑顔でそう告げた。
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