鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

文字の大きさ
92 / 115

『星空の下で愛を』

遡ること夜の8時半。
部屋を出て宿舎を抜けた俺は、棟の別れ道でピタッと足が止まった。

「俺…何してんだ…。」

感情のままに部屋を飛び出してしまった。しかし立ち止まって冷静になってみると、ゲーム実況動画で見た数々のバッドエンドのサムネイルが頭をよぎる。

(ずっとこれらを回避しようと頑張ってきたのに…。)

一時の感情に振り回されて地獄行きなどごめんだった。
俺は重くなった足をむり前に出すと、アックスの待つ騎士棟の方へ向かって歩き出す。

(俺は平和に生きるんだ。)

アックスとのイベントを振り返りながら騎士棟の馬小屋を目指す。

最初の出会いから彼は優しかった。別の騎士に絡まれていた俺を助けてくれたのだ。出会って間もない俺に気さくに接してくれ、英雄なのに飾らないところを好ましく思った。

(それに比べてシバは最悪だった。)

初出勤前の挨拶に来た俺に「執務室に来い。」と告げると、俺の返事も聞かずに去っていった。

『月の夜に』では、アックスとの距離がグッと縮まった。お互いに秘密を話し、そこで俺は記憶が無い事を告げたのだ。彼はそんな俺をとても心配していた。

(あ、初めてのイベントから邪魔されたんだ…。)

シバはあの日、偶然俺の宿舎に現れ上着とブランケットまで渡してきた。おかげで薄着ならではの会話選択が違ったものになり、イベント慣れしていなかった俺は焦った。

(結局ブランケットは役に立ったんだけど…。)

今も部屋のソファに掛けてある茶色いブランケットは、秋冬の間大いに活躍し、シバと離れていた2か月間はそれを被って彼を想った。

(2個目は…そうそう『貴方とおでかけ』だな…。)

2人で食事をして雑技団を見て市場を回って…そういえば、このイベントだけは最初から最後まで完璧に達成したのだった。

(あの時のシバ、寂しそうだったっけ。)

俺がアックスと出掛けるとなって寂しそうに俺の名前を呼んだシバ。「次は共に行こう。」と言われ、俺がどんなに驚いたことか。

そして、『湯煙の中で』でもいろいろあった。アックスとの会話選択は概ねこなしたし、彼は風呂を満喫していたようだった。

(あ、でもシバが水かぶったせいで…。)

掛かり湯と間違えて水を被ったシバの世話が大変だった。しかし、彼が温かい湯に浸かって頬が少し蒸気していた姿は、可愛らしいと感じた。

(最後に、すっごく怖かった『黒馬の騎士』…。)

思い出すだけでブルッと身体が震えそうだ。俺を助ける為にアックスは遠い町まで馬を飛ばして来てくれた。
しかし、エルと俺の前に現れたのは白馬に乗ったシバだった。彼はエルと口が当たってしまった俺の為に…

(初めてのキスをくれた。)

アックスとの思い出に浸るつもりだったが…思い出すのはシバのことばかり。


「俺…やっぱりシバが好きだ。」

ボソッと呟くように言う。
ラルクと父が言っていたように、初めて自分の心に従いたいと思った。

(シバに会いたい。)

そう思うといてもたってもいられず、あと何メートルかで騎士棟が見えるところで後ろを振り返る。そして、文官棟に向かって走り出した。

(俺の気持ちを伝えないと…!)

それだけを考え無我夢中で走り、文官棟横を通った時にはすでに息が上がっていた。
そして、馬小屋に控え目についた小さい明かりの下にいる彼を見た瞬間、自分はこの男が好きなのだと…それしか考えられなくなった。





「アインラス様、離してください。」
「…駄目だ。」
「あの、いつまでもこのままじゃ、」
「君を離したくない。」

シバは先ほどの言葉と同時に俺を抱きしめ、今の俺の視界にはシバの胸元のボタンしか映っていない。彼の声はまだ少し震えており、俺を離すまいとさらにぎゅっと腕に力を入れる。

「あの、もう逃げません。…ですから、顔を見て告白させて下さい。」
「……なに。」

俺の言葉に、シバはピタッと止まった。

「ですから、好きだとお伝えしたいので…顔を見せてください。」

シバは黙って、きゅう…と俺を抱きしめると名残惜しそうに腕を離した。

「アインラス様…そんなお顔をされてたんですね。」

シバの顔は、想像していた通り眉が寄っている。普通の者が見れば不機嫌なのかと問いたくなるだろうが、俺には彼が泣き出しそうであるのだと感覚的に分かった。

「セラ。名前を呼んでくれ。」
「……シバ。」

久しい名前を呼び彼の顔を見上げる。そして覚悟を決めて、彼の両手をぎゅっと握った。

「ずっと、ずっと、シバのことが好きでした。沢山傷つけてごめんなさい。……やっぱり貴方が好きです。」

ずっと伝えたかった想いを言い切って、胸が苦しくなってきた。

「私はシバと一緒に居たい。」

(あ、まずい…大事な時に…。)

さっきまではシバが泣きそうだと思っていたのに、結局は俺の目が滲む。喉はクッと詰まり、油断すればしゃくりあげてしまいそうだ。

(シバが好きだ…。)

心の中で何度も叫びながら目の前の青がかった黒い瞳を見つめる。シバは俺に両手を握られたまま顔だけを近づけ、瞼に口付けた。

「よく笑うのに泣き虫で…そんな君が愛しい。」
「…っ、」
「私のセラになってくれるんだな?」
「……ッはい。」

ズッと鼻をすすりながら返事をした。

(う、かっこ悪い。)

人生初めての告白が、まさかこんな風になるとは思っていなかった。

(…でも、いいか。)

「私も君が好きだ。」

目の前のシバは、目元をくしゃっとさせて嬉しそうに笑った。





月がまた雲に隠れ、今度は星の輝きが空に浮かぶ。

「セラ。」

抱きしめ合ったまま名前を呼ばれ、シバが俺の様子を窺いながら顔を寄せてくる。そして、それに自然に目を瞑ると、ふにっと口に柔らかい感触がした。
何度も優しいキスをされ、想いが溢れた俺は、シバの大きな身体を自分からぎゅっと抱きしめる。しかし、急に力を入れたのを不思議に思ったシバは唇をゆっくりと離した。

「セラ、どうした?」 
「もっとキスしたくて…。シバのお部屋に連れて行って下さい。」

上目遣いに見上げると、目の前の男の喉が上下に動いた。

「すまない。」

彼はそう一言言うと、俺の手を掴んで急ぎ足で宿舎へ向かった。シバは馬小屋を離れる時、後ろ髪を引かれるといった様子で、何度も愛馬であるカーズを振り返っていた。



宿舎に入ってからすぐに玄関でキスをされた。

「ん…」
「セラ、好きだ。」

夢中でお互いに長く口を吸っていた。しかし外からドンッ…と音が聞こえると、シバは俺の胸に手を置いて顔を離した。

「ん…シバ?」
「セラ。今日は君と一緒に花火を見ようと思っていたんだ。」
「そうだったんですか?」
「ああ。前に見れなかったから…次はいつなのか、ずっと前から調べていた。」

(さっきの「すまない。」って、俺に花火を見せてあげれないからってこと?)

シバは今日、『笑って泣けて驚き感動する告白』をすると言っていた。結局は俺から告白してしまったため、彼の計画を見ることはできなかったが、カーズに乗って花火を見に行くこともプランに入っていたのだろう。

「シバ、花火は見なくていいです。」
「…セラ。」
「今日はずっと、シバを見ていたい。」

自分の台詞に照れながらも思っていることを素直に伝えた。今までシバはありのままの気持ちをぶつけてくれていたのに、対する俺はずっと逃げてきた。

(今度は、俺も正直にシバに気持ちを伝えたい。)

「寝室に行きませんか?」

シバは少しだけ動揺していたが、頷くとぎこちない足取りで風呂場へ向かった。そして交互に風呂を済ませた後、口数少なく2人でベッドへ向かった。
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

恋愛騎士物語1~孤独な騎士の婚活日誌~

凪瀬夜霧
BL
「綺麗な息子が欲しい」という実母の無茶な要求で、ランバートは女人禁制、男性結婚可の騎士団に入団する。 そこで出会った騎兵府団長ファウストと、部下より少し深く、けれども恋人ではない微妙な距離感での心地よい関係を築いていく。 友人とも違う、部下としては近い、けれど恋人ほど踏み込めない。そんなもどかしい二人が、沢山の事件を通してゆっくりと信頼と気持ちを育て、やがて恋人になるまでの物語。 メインCP以外にも、個性的で楽しい仲間や上司達の複数CPの物語もあります。活き活きと生きるキャラ達も一緒に楽しんで頂けると嬉しいです。 ー!注意!ー *複数のCPがおります。メインCPだけを追いたい方には不向きな作品かと思います。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。