鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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家族と恋人

「ど、どうしたのセラ…と、アインラスさんまでそんな恰好で。」

息を切らして現れた俺達に、父とラルクはびっくりした顔でこちらを見る。
俺達はあれから走って、待ち合わせの時間を15分過ぎて門の前に着いた。馬車の御者と談笑している彼らに遠くから声を掛けると、2人は笑顔で手を振ってきたが、俺達を見てびっくりしていた。シバはシャツのボタンを明らかに掛け間違えており、俺の髪もぴょんと跳ねている。父は何かあったのかと心配そうに声を掛けた。

「ごめん…ちょっと寝坊しちゃって…!待った?」
「ううん、大丈夫だよ。御者の方と話してたし…。アインラスさんもそんなに気を遣わないで下さい。」

父が笑顔で謝ると、シバは「いや、」と言って頭を下げた。

「こちらから誘っておきながら、シシル殿とラルク殿には失礼なことをした。」

遅れた理由が理由なだけに、シバは本当に申し訳なさそうだ。
今日が大事な日だと、前から準備していたにも関わらず、昨夜あまりに盛り上がってしまい寝坊したとあって、俺も顔が少し赤くなる。

「いえいえ。行ったことのないお店だから、どんなとこだろうってラルクさんと盛り上がって…時間になったのも気づかなかったくらいですから。」

父は明るくそう言うと、「早速行きますか?」とワクワクした顔で馬車へと乗り込んだ。車中で、「広ーい!」とはしゃぐ父は俺達にこれ以上謝らせたくないようだ。俺とシバは顔を見合わせて微笑むと、彼らに続いて馬車に乗った。



「豪華な馬車でびっくりしましたよ!」

シバが今日の為に用意していた馬車は、見た目は華美ではないが中が広く座席もふかふかとした上等なものだった。何度か町で手配できる馬車に乗ったことはあるが、こんなに立派ではなかった。今日は挨拶ということもあり特別に用意したようだ。その広い座席で俺達がお互いの服を直している姿を見ながら、父もラルクも嬉しそうに笑っていた。

「ここです。」
「わぁ~、素敵な場所ですね。」

父の反応に、シバも安心したようで俺達を店の中に案内した。前回は閉まっていた花屋も開いており、街から離れているというのに何組かのお客が花を求めて訪れていた。そこを抜けて階段を上がり店内を見渡す。

(あ、あの席…。)

俺は以前ここで告白をされた時のことを思い出す。あの時はシバがキッチンに立って俺に料理をふるまってくれた。そして、好きだと伝えてくれた。

(俺、断っちゃったんだよね…。)

真摯に想いを伝えてくれたシバを傷つけてしまったのだと胸が痛む。あの時、シバがあれでおしまいだと俺を見限っていたら、今日のような日は来なかったのだ。

「セラ…?」
「あ、すみませんっ!」

皆が座ったにも関わらず、ボーッと2人掛けの席を見つめる俺にシバが声を掛けた。慌てて席に着くと、俺の気持ちを察した彼がぎゅっと肩を抱いた。部屋であればそのまま抱きしめ返すところだが、今は父達が目の前にいる。

「シバ、大丈夫です。」

笑ってそう告げると、シバは肩をスッと撫でて手を離した。

「伝えた通り、苦手なものが無ければ店に任せるつもりだが、構わないだろうか。」
「はい。」「もちろんです。」

父とラルクはそう返事をし、それを聞いていた店主がさっそく飲み物を聞きに席に来た。



「美味しそうな匂いがする~。」
「お腹空きましたね。そうそう、シシルさんが昼が楽しみだから朝食べないって言って…俺まで付き合わされたんですよ!」

父とラルクの平和な会話に、うんうんと頷いて話を聞いていたが、食事が始まる前には関係を伝えておきたいと、「あのさ…」と口を開く。

「今日は、2人に話があって…」

そう言って、ちらっとシバを見ると頷いて父達に向き直った。

「シシル殿、ラルク殿。この度、私達は交際を始めた。今後は、私もあなた方の輪に加えてもらえないだろうか。」

シバはそう言うと、2人に向けて頭を下げた。父とラルクはシバのつむじを見ながら焦りだし、「頭を上げてください!」とわたわたと手を動かした。そしてシバが頭を上げると、「良かった~。」とホッとして、もちろんだと返事をするとさっそく俺との馴れ初めを聞こうと前のめりになった。
その反応に、呆気にとられる。きっと反対はしないだろうと思っていたが、息子が上司と付き合いだしたと報告されて、少しも動揺しないものだろうか。

「あの…急に言われて、驚かないの?」
「セラさん……もしかしてアインラス様との関係、バレてないと思ってたんですか……?」
「え?」

ラルクは呆れたように言う。その言葉に、2人の代わりに俺が驚いてしまった。

「アインラス様と会った日は決まって挙動不審だし、電話の後は真っ赤な顔してぼーっとしてるし、…分かり易すぎですって。」

やれやれといった口調のラルクの言葉に、シバは「後で詳しく聞かせてもらおう。」と言って、俺の表情を窺うように見る。

「シバ!ラルクさんは大げさに言ってるだけですから!真に受けないで下さい!」

必死にそう伝える様子を見て、俺を除いた3人が目配せして笑い合っていた。

(ラ、ラルクさん!余計な事を…! )

この話は、もうこれ以上言うなと俺がラルクを突いたことで一旦は収まったが、食事が始まり勢いづいた彼は、俺達が無事に結ばれたことで無礼講とばかりにシバにいろんな事を暴露し始めた。
それは、お見舞い最終日の夕食会で俺がシバが来ることに浮かれて料理を作り過ぎた事や、電話が掛かった際には椅子を倒しそうな勢いで取りに走っていたことなど…シバに聞かれたくないものばかりだった。
シバはそれらを聞いて「ほう…」と言うと、意味ありげに俺を見た。



行きと同じ馬車で城に帰ってきた俺達は、門から宿舎への道を歩いている。

「今日はありがとうございました。」
「こちらこそ、楽しい時間だった。」

父とラルクがシバにお礼を言う。シバは前回の部屋での飲み会と今回の食事ですっかり父達と打ち解けたようで、俺にしか見せない柔らかい表情で話している。

そして、宿舎の別れ道に来たところで、父が「セラはどうする?」と聞いてきた。

(さすがに2日続けては迷惑かな…。)

着替えも無いしな…と考え、「じゃ、帰ろうかな。」と父達の方へ混ざる。

「セラ…帰るのか?」

父の隣へ足を踏み出したところで、シバが俺の袖を掴んで引き留めた。その仕草は離れたくないと言わんばかりで、彼の頭にあるはずのないシュンと垂れた犬の耳が見える。

「えっと…昨日も泊まりましたし…。」
「続けて泊まっては駄目な理由があるのか?」
「いえ、ただ飲み会と今日の食事でシバも疲れてるでしょう。…ゆっくり休まないと。」

(それに朝方までベッドで…。)

思い出して一人で顔を赤らめていると、シバが掴んでいる袖をくいっと引いた。

「私は構わない。セラがいる方が落ち着く。」
「…そ、そうなんですか…?では、着替えだけ取りに帰ります。寝間着も無いですし。」

俺がそう言うと、シバは思いもよらない言葉を告げた。

「着替えなら、ある。…寝間着も。」
「え?私そんなにシバの部屋に服を置いていないような、」
「私が用意している。…君のサイズだ。」

(え…シバが俺の服を…?)

どういうことだと頭を回転させるが、思い返してみれば、昨夜のバスローブも俺にぴったりのサイズであった。

(昨日はいろいろあって気付かなかったけど…あれもシバが用意してくれたの?)

「では……お邪魔してもいいですか?」
「もちろんだ。」

俺が尋ねると、シバの顔が明るくなった。可愛く袖を掴んでいた手を離すと、さっきまでのしおらしさはどこへやら、父とラルクに真面目に別れの挨拶をした。

「セラは責任持って明日送っていく。もう1日預かって良いだろうか。」
「はい、どうぞ。何日でも構いませんよ。」

父は笑いをこらえてそう言うと、「じゃあね~。」と手を振ってラルクと共に宿舎へ戻っていった。


父達が見えなくなるまで見送った俺は、今さっき知ったばかりの事実をシバに確認する。

「あの、俺の着替えはあるって…もしかして買ったんですか?」
「…ああ。出張先で買った……土産だ。」
「昨日のバスローブもですか?」
「…ああ。」
「揃いで買ったんですか?」
「………ああ。」

シバはそう言ってふいっと俺と反対側を向いてしまった。耳は少し赤く彼が照れているのだと分かった。

(可愛い…。)

その仕草に笑いながら、大きな手に指を絡めた。

「セラ…?」
「早く帰りましょう。なんだかシバを抱きしめたくなりました。」

俺がそう言うと、「では、早く帰ろう。」と言って俺の手を引くように早足で歩きだした。可愛い彼に顔がじわっと緩んでくる。


「一体何枚買ったんですか?」
「……10日は服に困らない。」

思った以上の数を言われ、俺は「は?!」と大きな声を出してしまった。
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