鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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噂話にご注意を

「セラ、もう出れるか?」
「…はい。」

俺とシバは一緒に宿舎を出て文官棟へ向かう。

(こんな予定じゃなかったんだけど…。)

父達との食事の後、着替えが用意してあると聞いた俺は遠慮なくシバの部屋でもう1泊することにした。空き部屋に置いてある箱には、本当に俺の為に買った服が用意してあり、泊まった際に困らないようにシバが出張先で土産ついでに購入していたらしい。結構な枚数ある中から揃いの寝間着を見つけ、俺はまた彼の可愛さに悶絶した。
そして次の日は長い時間ベッドの上で過ごしてしまった。昼過ぎまで眠ってしまっていた俺は、起きてシバがまだ目を瞑っている姿に驚いた。平気そうにしていたが、やはり出張から帰ってからも会議が続き、飲み会に食事会と疲れが出たようだ。眠っている彼を見ながら、ゆっくりとした時間を過ごした。

(それで、夕方には帰る予定だったんだけど…。)

日が暮れてきたことで帰る旨を伝えると、シバはまたシュンとした顔で「帰るのか?」と尋ねてきた。夕食を一緒にと考えていたと言われ、断れずにそのまま食事をし、今度こそと帰ろうとしたところでまた引き留められた。そして帰るまで暖炉前の座椅子でくつろいでいると、シバが俺を抱き寄せキスをしてきた。

(その後は…まぁ、俺も悪い。)

頭では明日の仕事の為に帰宅せねばと分かるが、シバにこう迫られて断れるわけがない。求めてくる彼の背中に手を回すと、座椅子に仰向けに寝かされた。

そして、気付けばシバのベッドの上で朝を迎えていた。

シバは背筋を伸ばして今日も上司の風格を崩さず仕事へ向かっているが、その手は俺の肩に回されており、周りから見れば混乱する光景だろう。

「シバ、このまま棟まで行くつもりですか?」
「…そのつもりだが。」
「あの、隠すつもりがないのは私も同じですが、これは…シバの威厳が…。」
「私に元々威厳などない。セラは嫌か?」
「…嫌、というか…仕事に向かうには相応しくないと思います。」
「…そうか。」

シバは素直に俺の肩から手を退けると、少し照れたように俺から目線を逸らした。

「恋人と出勤など…初めてなのでよく分からなかった。気を付ける。」
「えっと、仕事が終われば、いつでも…くっついて大丈夫です。」

俺がシバの袖をくいっと引いてそう言うと、「分かった。」と小さく返事が返ってきた。



(並んで歩いているだけとはいえ…目立つ…。)

宿舎周辺では俺達に注目する者は少なかったが、文官棟の門に近づくにつれ、だんだんと視線を感じるようになった。シバは俺を時折見て「一緒に執務室まで行こう。」と声を掛けてくるし、その顔は2人きりの時ほどではないが、優しく穏やかな表情である。

(まぁ、さすがに一緒に来たとは思わないよね。)

俺が執務室に朝夕通っていることは周知の事実であり、皆の前でも仕事の話をすることはある。先週末も飲み会の席でシバと共に帰ったが、あれだけ大声でシバが酔っ払っているとアピールしたのだ。近くの席の者でなければ真実を知らないはずだ。
周りの視線を気にしていないシバに習い、俺も深くは考えず、彼と話しながら棟へ入った。



「セラ、どういうことだよ!」
「説明しろよ。皆お前の話ばっかしてるぞ!」

いつも俺に絡んでくる財政班の先輩2人が、焦った様子で俺に詰め寄ってくる。執務室から出てからは特に視線も感じず、俺は普段通りに仕事部屋を訪れた。すると待ってましたとばかりに2人が俺の元へ来たのだ。

「どういうことって…何がですか?」
「だから、今朝アインラス様と一緒に来ただろ?」
「えっと、門で偶然会って。」
「嘘つくなよ!だって、アインラス様がこの時間に出勤なんて…前代未聞だぞ。」
「…え、それってどういう…。」
「だーかーらー、いつも8時ぴったりに来られるのに、今日は俺達と同じ9時に、しかもセラと談笑しながら歩いてたって…そりゃ何かあったのか気になるだろ!」

俺はきょとんとする。そういえば俺がいつも執務室に朝訪れる際には、既に何個か仕事を終わらせた形跡がある。彼の出勤時間は皆より1時間早く、そのルーティーンが崩れたことは今まで一度も無いらしい。

(それで皆があんなにびっくりしてたってのは分かるけど、談笑はしてないだろ。)

「仕事の話をしてただけですけど…。」
「いや、『今夜も泊まるか?』って会話、聞いた奴がいんだよ。」
「観念しろ、セラ!」

(き、聞かれてたのか…。たしかに通勤中そんな話もしたけど…。)

誰にでもフレンドリーで情報通な2人にはごまかせないようだ。特に言いふらすつもりもなかったが、これ以上詰め寄られても困る。俺は溜息をついて返事をした。

「はい。朝は宿舎から一緒に来ました。」
「えええ!!本当か!??」
「お部屋に泊まったのか…?!」

俺の返事は彼らの予想の範疇なのかと思っていたが、どうやらかなり衝撃な真実だったらしい。俺が「はい。」と言って肯定すると、なんでだどうしてだと経緯を聞こうと迫ってくる。
先輩の1人が「まさかアインラス様と、」と言った瞬間、扉がバンッと勢いよく開いた。

「ちょっと、セラが困ってるじゃないですか!」

現れたのは友人のシュリであり、彼女は扉の前で先輩の大声を耳にしたのか、俺の前に立つ2人をキッと睨んだ。

「断れない立場の人に対して無理やり……軽蔑します。」

この班のリーダーである眼鏡先輩に報告するとシュリが言うと、先輩2人は慌ててシュリに「違うんだ!」と言い訳をしている。

「後輩が自ら話してくれるのを待つのが、正しい先輩のあり方なんじゃないですか?」
 
シュリの冷たい目線に、2人は焦って俺に謝ってきた。
俺はビシッと先輩に間違っていると言い放つシュリに、尊敬の目を向けた。





「はぁ…シュリのおかげであれからは静かだったな。」

俺は帰り支度をして文官棟の廊下を歩いていた。
今朝、シュリが先輩達に強く言い放ったことで、他の者は俺に何も聞かないでいてくれた。先輩2人も心を入れ替えたのかシュリが怖かったのか定かではないが、黙って作業を進めており、ひとまず安心だ。

(よし、帰ったら久しぶりに料理でもするか。)

この時間、シバはダライン文官長と共に騎士棟にいるため、夕方に執務室を訪ねる必要はない。今朝、『今夜も泊まるか?』という問いには既に首を横に振っており、彼も了承済みだ。

(4連泊はさすがにね…。てか、もし泊まったら今晩寝れるか怪しいし。)

俺が寝不足の原因となったシバとの行為を思い出し一人顔を熱くさせていると、通りかかった部屋から「マニエラ君、」と俺の名前が聞こえてきた。

(ん、なんだ一体。)

俺がそっと少し開いた扉に近づくと、小さい作業部屋で女性2人が話をしていた。

「やっぱりアインラス様と付き合ってるみたい。」
「え~、ショック…。今朝の件聞いて早退した子もいるらしいよ。」

(え!俺がシバと一緒に出勤したから?!)

衝撃の事実だ。シバは厳格な雰囲気があり、仕事以外で話し掛ける者はめったにいないが、隠れた熱狂的なファンがいるようだ。

「ああいうタイプがお好きだったなんて…。」
「てっきり、落ち着いた大人の女性が好みだと思ってた。」

(ああいうタイプって……どういう意味だ。)

自分を見下ろして、少しショックを受ける。

「別に自分と付き合って欲しいとか、おこがましいこと思わないけど、恋人がいるって事実がショックなの。」
「私も同感…。アインラス様にはずっとお独りでいて欲しかった。」

(好き勝手に言ってるな…。)

アイドルみたいなものかな?と思いつつ、このような話が続くのであればさっさと帰ろうと扉から離れる。後ろを振り向いたところで、女性の1人がさっきまでの憂いの口調から変わって明るい声で「でも!」と言った。

「まだお互いネックレスはしてなかったみたい。」
「そうなの?」

(ん、ネックレスって…。)

彼女達の話を聞いて、父がラルクに告白をしたシーンを思い出した。あの日父が渡したネックレスには告白の意味が込められており、ラルクはそれはそれは感動していた。後日、ラルクも父へ揃いの物を購入したらしく、家でも酔っ払うとお互いに首元を見つめ合っている。

「だったら、本気のお付き合いじゃないのかな…。」
「軽く付き合う程度っていうか……遊びのつもりなんじゃない?」

俺は2人の話を聞いて目を丸くした。こちらの世界の恋愛観については、ネックレスが告白の意味を持つということ以外、全く知らない。
俺が焦っているのを余所に、彼女達は「遊ばれたーい!」と勝手な妄想で盛り上がっている。

(ネックレスが無い告白の場合は…遊び…なの…?!)

俺は頭にガーンと石でもぶつけられたような衝撃を受ける。それからは彼女達の話は一切耳に入らず、静かに元いた道に戻り、重たい足どりで宿舎へ戻った。
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