鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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誕生日の翌日

「狭い…ですよね。」
「いや、ちょうど良い。」

(いや、ちょうど良いってことはないよね…。)

俺達は風呂から上がり、お互いに寝る支度をするとベッドに入る。そして、1人で寝るには十分余裕のあるベッドを過信しすぎていたのだと後悔した。

(一応シングルよりは少し大きめな作りなんだけどな。)

お互いに仰向けで寝れば全くスペースが無くなってしまうため、俺達は向き合って寝ることにした。せっかく泊まりに来てくれたのに窮屈な寝床などあんまりだろう。少しでもシバの方にゆとりを持たせるためにモゾモゾ動いていると、俺の手に指が絡まった。

「セラ、今日は本当に君の誕生日なんだな。」
「…はい。黙っててすみません。でも、今日中に伝えるつもりでいたんです。」
「私があんなことを言ったから伝えられなかったんだろう…。すまない。」
「結局見つかりましたし、もう謝らないで下さい。」
「しかし…」

ちゅ…
シバがさらに謝罪を続けようとしていると分かり、その口を塞ぐ。

「セラ、」
「私は明日、シバがネックレスを受け取ってくれたらそれで幸せです。…もう終わった話はやめましょう。」
「…分かった。」

シバは泣きそうな顔を隠すように俺を抱きしめた。



(これって…俺が言い出すのを待ってるんだよね…。)

しばらくは黙ってお互いを抱きしめ合っていた俺達だったが、一向に寝ようとしないシバの様子から、どうやら俺が今日の誤解について話をするのを待っているようだ。このままずっと起きて待たせるわけにはいかず、俺は観念して「あの…」と口を開くと、今日の『計画』について話した。


「『笑顔が一番のプレゼント』か…。」
「あの!復唱しないでください!」
「…なぜだ。私は感動している。」

ネックレスを渡し誕生日だとネタバレする流れを計画していたのだと伝える間、恥ずかしくてどうにかなりそうだった。しかしシバは真剣な顔で聞いており、話が終わると俺の用意していた台詞を呟いた。

「その言葉はもう言えないので、明日はただ渡すだけです。」
「そうなのか?」

寂しそうなシバの返事に、少し戸惑う。

「ちゃんと…好きだと伝えてから渡します。」
「では、1つだけ希望を言っていいか?」

(え、まさかのリクエスト?)

思ってもみなかった言葉に少し身構える。

「普段のセラの話し方で…渡してくれないか?」
「普段の私ですか…?」
「セラの一人称は『俺』だろう。トロント殿の前ではそう言うのに、私と話す時は常に堅い言葉で…少し寂しい。」

あまりの可愛いお願いに、心臓がきゅっと掴まれる。
言ったものの照れているのか、俺から顔を背けている彼がますます愛しく、その願いをすぐにでも叶えてあげたくなる。

「あの、シバがそう言うなら……俺、変えましょうか?」

顔を覗き込みながらそう言うと、シバがこちらを向いて「…ああ。」と返事をした。

「凄く良い。」
「ははっ、…そうですか?」

シバが真剣にそう言うので、おかしくなって思わず笑った。

「自然体のセラは、とても可愛いらしい。」

シバはそう言って俺を抱きしめると、やっと「寝よう」と言ってきた。

「セラ、誕生日おめでとう。明日は存分に祝わせてくれ。」
「ふふ…楽しみです。」

クスクス笑っていると、頭のつむじにキスを落とされる。そのままトントンと優しく背中を撫でられ、俺は知らないうちに夢の世界へ旅立った。





肩をトントンと優しく叩かれ、「んん…」と声が漏れる。

(ん、何だ…?)

確かめるように手を伸ばすと、温かいものに触れる。寝ぼけた頭で柔らかく弾力のあるそれを撫でていたが、徐々に昨夜のことを思い出し、目の前のそれがシバの胸であると気付いた。

「…シバ?」

目を薄く開くと、シバがククッと笑いながら俺を見つめていた。

「セラ、おはよう。」
「……おはようございます。」

(朝からシバの笑顔見ちゃった…。)

出会った頃は、無表情で考えていることが分からなかった彼だが、この1年で表情がずいぶんと豊かになった。仕事では相変わらずだが、2人の時にはこうやってよく笑うようになり、だんだんと変わっていく彼を見ていると自分が彼を変えていっているのではと自惚れてしまいそうになる。

「セラ、もう起きよう。」

体感から、そこまで遅い時間ではないだろうと思いつつ目を擦る。

「ふぁ…はい。今何時ですか?」
「もうそろそろ昼になる。」
「…えッ!」

その言葉に飛び起きて壁に掛けてある時計を見ると、針は午前11時を指していた。

「寝すぎたっ!」

シバの部屋に泊まった時には必ずと言ってよいほど寝過ごしてしまう。彼のベッドがふかふかなせいだと思っていたが、どうやらシバと共にいることが心地よく、眠り過ぎてしまうらしい。

「私もさっき起きたばかりだ。」
「本当ですか…?」
「ああ。昨日のことでお互い疲れていたのかもしれない。」

それを聞き、昨夜のネックレス紛失事件を思い出して俺が笑うと、シバも目を細めて穏やかな笑みを浮かべた。



服を着替え、そのまま街に行こうと誘ってきたシバに頷き、俺達は城を出て馬車に乗った。

「あの、何か用事があるんですか?」
「ネックレスを買いに行く。」
「…え、それってもしかして俺のですか?」
「そうだ。」

(誕生日プレゼントとしてくれるのかな…。すっごく嬉しいけど、高いからなんか申し訳ないな。)

「あの、そんなに急がなくても…。すぐに欲しいってわけではないですし。」
「私がセラに早く付けて欲しいんだ。」

俺の目の下辺りが、シバの指の甲でスッと撫でられる。それに思わず目を瞑ると、「いいか?」と言って顔を寄せられた。今は馬車の中とはいえ外であり、こんなに近い距離でくっついていると照れてくる。

(いいもなにも、買ってくれる気なら俺は嬉しいけど…。)

シバの言葉にコクコクと目を瞑ったまま頷くと、フッと笑う声が聞こえ唇に柔らかい感触がした。



「セラ、キスなら今まで何度もしてるだろう。」
「…部屋でするのは慣れましたけど、外では恥ずかしいんです。」
「誰も見ていない。」
「それでもです。」

俺達は馬車から降りて街を歩いていた。しかし、シバは先程の馬車内での俺の行動に対して少し拗ねた様子だ。というのも、あの会話の後ずっとキスを続けていたシバは、あろうことか舌を入れてこようとしたのだ。

(だって馬車の中だよ?危ないし、もし窓が開いたりしたら見られちゃうし…。)

それに気付いた俺が胸を押すと、「嫌か?」と不安げな顔で尋ねられた。
その態度にぎゅっと胸を掴まれるが、このような場所でのディープキスはやはり良くないだろうと、心を押し殺して「嫌だ」と告げた。

「シバは先にいろいろ学んでるでしょうけど、俺はまだその段階ではないです。」
「……。」

俺に黙って勝手に恋愛の勉強を進めたことに負い目を感じているのか、シバはそれきり黙ってしまった。

「あ!あのお店です。」

俺は話題を変えようと遠くに見える建物を指差す。そこは俺がシバへのネックレスを買った宝石店だった。



「いらっしゃいませ。ああ、お客様。」
「先日はお世話になりました。」
「いえいえ、お相手の方の反応はいかがでしたか…。あの、もしやお連れ様への贈り物でしたか?」

店員は俺の隣に立つシバを見て礼をする。

「先日は連れが世話になった。今日は彼のを見繕ってくれるか?」
「はい、かしこまりました。」

シバの首元にチラッと視線を落とすと、俺達が後日ネックレスを交換し合うと察したのか、「おめでとうございます。」と言いながら店内へ案内した。



「どのようなものをお探しですか?」
「セラ、選ぶといい。君がつけるものだ。」

俺の好きなようにと言ってくれた彼に甘えて、自分の希望を伝える。

「では、彼と同じものを頂けますか?」

そう言って微笑むと、店員が俺の顔を凝視した。

「同じもの……つまり、揃いでということでしょうか?」
「はい。…あの、似合いませんかね?」

店員があまりに驚いた顔をするので、俺は少し自信がなくなる。
似合わなそうであればはっきり言ってもらおうとシバを見る。しかし彼も店員同様、かなり驚いた顔でこちらを見ている。

「えっと…。」
「いえいえ、お似合いになりますよ!ただ、お若いのにとても情熱的な方で、驚いてしまっただけです。」
「情熱的…?ただ彼と揃いのものを身に付けたいだけなんですけど。」

俺の言葉に店員が顔を上気させている。シバも耳が赤くなっており、ますます意味が分からない。
どうしたのかと聞こうとしたが、シバがゴホン…と咳払いして店員に告げた。

「彼は20歳だ。そこまで驚くことではない。」
「そうでしたか…!大変失礼しました。」

シバによる謎のフォローと店員の返しはさらに俺の頭を混乱させたが、慌てて目の前に広げられたネックレスを見ていると、彼らの会話もすっかり忘れ綺麗な青色に目を奪われた。



「ありがとうございました。」

店員に見送られ店を出てすぐにシバが俺の手を握ってきた。急な行動に「ん?」と彼の顔を窺うと、こちらをじっと見て口を開いた。

「セラ、このネックレスは君の負担にならなかったか。」

シバは支払いの際にこのネックレスの値段を知り、俺の財布が心配になったようだ。確かに給料の1ヶ月分を丸々費やしたが、シバを想えば値段も気にならなかった。

「そんなことないです…って言いたいんですが、実は少し背伸びしちゃいました。でも、告白の証だからちゃんとした物をあげたくて。」

へへっと笑ってシバを見ると、繋いだ手を持ち上げられ、ちゅっとその甲にキスをされた。すれ違った若い男女のカップルがそれを見て照れたように目を伏せる。

「シバ…ッ、」

(こんな往来で!さっきも注意したのに。)

「…本当は口にしたいのを、我慢している。」
「……えっと、」

熱を持った目でそう言われると何も言い返せなくなる。シバの手には力が込められ、少し湿ってじんわりと温かい。彼が本当に我慢をしているのだと分かり、顔が妙に熱くなった。
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