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完璧なハッピーエンド
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その日の夕方、宿舎まで送ると言ってくれたシバに甘えて部屋まで共に歩いた。
「あの、少し上がって行きませんか?」
「いいのか。」
俺も彼も離れたくない気持ちは一緒なようで、部屋へ誘うと嬉しそうな声色で返事が返ってきた。
(か、可愛い…。)
感情表現の乏しい頃の彼を知っているが故に、ここ最近の彼の表情や声のトーンにはキュンとしっぱなしだ。
そしてガチャッと玄関を開けると、父とラルクが出迎えにやって来た。
「お帰りセラ。あ、アインラスさんもいらっしゃったんですね!」
「セラさん、アインラス様に迷惑掛けなかったですか?」
ラルクの言い方に少し笑って「うん。」と返すと、どうぞどうぞとリビングへ連れられた。
「セラに沢山お祝いを頂いたみたいで、ありがとうございます。」
「いや、私がしたかっただけだ。」
シバの言葉に父とラルクはジーンと感動していたが、シバの首元に光るネックレスのチェーンに気付き父が声をあげる。
「え!!アインラスさん…それって…。」
「ああ。セラがくれたんだ。」
「セラ…!やっぱり渡すつもりだったんだ…!」
父は驚いて俺を見る。ラルクも同じくびっくりした様子で、口をあんぐり開けている。
(なんだよ、自分達だって付けてるじゃん。)
「セラが選んでくれたんだ。」
そう言って服の上からネックレスを出すシバに倣って、俺も自分のものを取り出す。お互い同じ石でできた青いネックレスは相変わらず綺麗で、俺の頬が自然と緩んだ。
父とラルクは出されたそれを交互に見比べると、少し黙ってから「ええ!」と大きな声を上げた。
「セラさん…えっと、結婚式はいつなんですか?」
「……は?」
ラルクが赤い顔で聞いてきた言葉に、俺は耳を疑った。
「セラ、やっぱり知らなかったんだね。」
「やっぱりって…、父さん詳しいこと説明してくれなかったよね…。」
シバは俺と父のやり取りを黙って聞いており、ラルクは気まずそうに目を斜め下に向けている。
ラルクのあの発言の後、俺が「どういう意味?」と聞いたことで、全員に凝視された。
この国でネックレスが告白の意味を持つことは確かだが、それを渡す行為は『結婚を前提としたお付き合い』を意味するのだという。
(だからネックレスを付けてない俺とシバは、文官棟の彼女達からしたらまだ関係が深くないように見えたのか。)
そして、俺が前日にアックスに意気揚々とネックレスを渡すのだと伝えたのは…
(婚約を申し込んできます!って宣言したようなもんか…。)
アックスやオリアが驚いていたのも頷ける。
そして一番の驚きは、ネックレスの色や贈り方によって意味が異なるというものであった。
父の説明によると、相手にネックレスを贈るのは『結婚前提でお付き合いしてください』。そして、自分と相手の分を色違いで用意した場合は『1年以内のお付き合いで結婚したい』。そして同じ色を用意した場合は『今すぐにでも結婚したい』。
(俺、プロポ―ズしたってこと?!それも熱烈な!)
ここでやっと宝石店の店員とシバがあんなに動揺していたのかが分かった。認めたくはないが、俺の見た目は実際の歳より若く見られることが多い。過去の例からしておそらく16,7歳くらいだろうか…そんな子どもが「今すぐに結婚したい」と堂々と言ったのだ。
(そっか…俺、シバに求婚しちゃったのか。)
その事実に照れていたが、考えてみるとシバは俺がネックレスの意味を知らずに渡したことをどう思っているのか気になった。
彼の兄とその婚約者であるレベッカの件で、シバは俺がネックレスの意味を理解していると思っただろう。
(知らずに渡しちゃいました!なんて…俺が逆の立場だったら辛い。)
父とラルクは空気を呼んで席を立つと、「2人で話し合って。」と言って父の部屋へ行った。
シーンとした空気に、じんわりと汗をかく。
「…シバ?」
俺は隣に座るシバをチラッと見る。また彼を傷つけただろうかと心配になったが、シバは思いの外冷静な顔であり、俺の顔を見た後、自分のネックレスを手に取った。
(え、まさか「返す」とは言わないよね…?)
ドッドッと心臓が鳴る。
「や、やだ!」
シバが石を摘まんでいる手を、ぎゅっと握る。
「俺、求婚は取り消しませんから!返したら、怒ります!!」
シバの手首を掴んだままそう言うと、シバは目はフッと笑った。
「これは返さん。」
シバはそう言って、ふんわりと宝石にキスを落とした。
「誓っただろう。ずっとお互いのものだと。」
余裕な顔でそう告げる彼に、俺は「はい。」と真っ赤な顔で返事をした。
――――――
それから5か月が過ぎた。
仕事を終え、そのまま俺の宿舎に泊まったシバは、朝からゴソゴソと部屋の掃除をしていた。
外では秋らしく虫の音が響き、以前騎士棟の前で見た大きな虫を思い出し、思わず身震いしてしまう。
「セラ、寒いのか?」
「いえ、大丈夫です。…もう少しで終わりますし、休んでてください。」
「気にしなくていい。終わったら一緒に休もう。」
今は部屋でシバと2人きりであり、なぜここを片付けているのかというと……
(俺がシバの部屋へ住むことになったから。)
ただでさえ忙しいシバともっと2人でいる時間を増やせないかと思っていたところ、彼の方から一緒に住もうと提案してくれた。そして、あれよあれよと申請は進み、明日は引っ越しの日となった。
そして入れ替わりにラルクがこの部屋へ越してくるのだ。
いつでも遊びに来れるようにと俺の部屋はそのまま残し、ラルクは客間として使っていた部屋を使う。しかし父とのラブラブな様子から、ずっと父の部屋で寝ることになる気がする。
そして、ネックレスの持つ意味を知った次の日。
休み明けに揃って出勤した俺達は、文官棟で再び注目の的となった。シバに何かを尋ねてくる者はいなかったが、俺には2人の噂好きな先輩がおり、制服の下に忍ばせていたチェーンまで目ざとく見つけられてしまった。
以前シュリに注意されしばらくは大人しくしていた彼らだったが、ネックレスを付けて職場へ現れた俺にとうとう「教えて下さい!」と頭を下げた。あまりに必死な態度に、俺はシバと付き合っているのだと正直に告げた。
そしてシバと俺が何度も共に出勤する姿に噂は広まり、一時期は女性による攻撃的な視線が痛かった。しかし今では完全に落ち着いている。というのも…
(シバがあんなこと言うから。)
シバと共に帰ろうと文官棟の廊下を歩いていると、例の小部屋で女性達が大きな声で井戸端会議をしていた。どうやらかなり盛り上がっているようだが、その内容はやはり俺とシバに関することであった。
「アインラス様とマニエラ君って本当に付き合ってるのかな?」
「なんか…2人ともネックレスしてたって聞いたんだけど…。」
「ただの噂でしょ。だって全然釣り合ってないし。」
「でも、もし本当だったらどうする?私達のアインラス様が…!」
シバは自然に耳に入った声を聞くと、その部屋へ迷いなく入り口を開いた。
「私達の交際に、何か言いたいことがあるのか?」
淡々とした冷たい声に、その場は凍ったように固まる。憧れの彼にそう言われ動揺する彼女達に、シバは「私はセラを愛している。」とはっきりと告げた。そして「無駄話でいつまでも棟に残るな。」と告げ俺の手を取ると、さっさと小部屋を後にした。
その言葉は、俺達の交際を認めたくなかった彼女達にとっては辛いものだろう。
(推しロスで仕事休まないといいけど…。)
少し心配に思いつつも、シバが言った「愛している」の言葉が頭で反芻し、緩んだ顔を隠すために下を向いて歩いた。
(あれからは棟で噂を聞くこともなくなったなぁ…。)
思い出に浸りながら手を動かす。
2人で片付けをしている理由の1つとして、『シバの部屋に揃っているものを判断してもらう』というのがある。シバは俺が越してくることに浮かれて何点か家具を購入したらしい。無駄に物を持って行き邪魔になるのも…と考え、先ほどから家具を手にとってはシバに必要かどうかを尋ねている。
「シバ、この本立てはいりますかね?」
「いや、もう部屋に用意してある……いや、それは持って行こうか。」
いらないと言ってすぐにその言葉を変えるシバに、どうしたのかと振り向くと、彼が近くまで来て俺を後ろから抱きしめた。
「シバ?どうしたんですか?」
「…この本棚に、絵を挟んでいるだろう。」
「絵…ですか?」
恥ずかしい話だが、机に置きっぱなしでめったに整理をしてこなかった本棚には乱雑にいろんなジャンルの本が並んでいる。シバの言う通りに右端の本の隙間を見ると、小さいメモが挟まっていた。
手に取ってみると、そこには人物の陰絵…俺がここへ来て最初に描いた攻略者のうちの1人だった。
「……これって。」
「セラのお見舞いにここへ来た時、それがめくれているのを見たんだ。」
イベント『黒馬の騎士』の後、走りすぎて肉離れを起こした俺に、シバは毎日お見舞いに来てくれた。
持ってきたケーキをこの机に置こうとした彼が驚いた様子だったが…これが原因だったとは。
「あの時は、セラがこの部屋で私の絵を描いていたのだと思い、堪らずキスしてしまった。」
俺を後ろから抱きしめているシバは、俺が少し震えているのを感じ心配そうにこちらを窺う。しかし俺は、あまりの衝撃に驚くばかりでうまく返事ができない。
今持っているこの絵は、ゲーム『Love or Dead』のシークレットキャラを描いたものだ。ゲーマー達がどれだけ攻略に勤しんでもその正体は明かされず、分かるのは横顔のシルエットのみだった。
(…ラルクさんじゃなかったんだ。)
シークレットキャラは隣国のアラブ王子ゼルではないかと疑った時期もあったが、奥さんが13人いるという時点でリストから消した。そしてそれをラルクだと決めつけてからは、絵の存在もすっかり忘れており、今シバに言われて初めてこのメモをここに挟んでいたのだと気付いた。
じっと絵を見つめる。無造作で男らしいシバの髪型とは違い、絵の中の彼はきちっと髪をまとめている。しかしそれは、彼が俺とのデートや告白の時にしていた髪型だ。
(だから最初はシバが攻略対象者だって分からなかったんだ。)
攻略なんて考えなくとも、シバはありのままの俺を好きになってくれた。そして俺をバッドエンドから救った上に最高のハッピーエンドをくれた。
俺のつむじの辺りから心配げに聞こえる「セラ?」という声に、ゆっくり振り返って抱き着く。
「シバが俺を好きになってくれて、幸せです。」
「…あたりまえだろう。私は、セラの運命だ。」
そう言って抱きしめ返すシバに唇を寄せると、寸前で意地悪く笑われた。
「ふっ、まだ片付いていないだろう。」
「…後でしましょう。今はシバとこのまま…愛し合いたいです。」
そう言ってシバを見つめると、合った視線に熱が籠りだしたのが分かる。
「セラ、あまり可愛いことを言うな。」
「困るのは俺だから、いいんです。」
「……残りの整理は私がしよう。」
シバはそう言って俺を抱え上げると、ベッドへ優しく下ろし被さるようにキスをした。
「あの、少し上がって行きませんか?」
「いいのか。」
俺も彼も離れたくない気持ちは一緒なようで、部屋へ誘うと嬉しそうな声色で返事が返ってきた。
(か、可愛い…。)
感情表現の乏しい頃の彼を知っているが故に、ここ最近の彼の表情や声のトーンにはキュンとしっぱなしだ。
そしてガチャッと玄関を開けると、父とラルクが出迎えにやって来た。
「お帰りセラ。あ、アインラスさんもいらっしゃったんですね!」
「セラさん、アインラス様に迷惑掛けなかったですか?」
ラルクの言い方に少し笑って「うん。」と返すと、どうぞどうぞとリビングへ連れられた。
「セラに沢山お祝いを頂いたみたいで、ありがとうございます。」
「いや、私がしたかっただけだ。」
シバの言葉に父とラルクはジーンと感動していたが、シバの首元に光るネックレスのチェーンに気付き父が声をあげる。
「え!!アインラスさん…それって…。」
「ああ。セラがくれたんだ。」
「セラ…!やっぱり渡すつもりだったんだ…!」
父は驚いて俺を見る。ラルクも同じくびっくりした様子で、口をあんぐり開けている。
(なんだよ、自分達だって付けてるじゃん。)
「セラが選んでくれたんだ。」
そう言って服の上からネックレスを出すシバに倣って、俺も自分のものを取り出す。お互い同じ石でできた青いネックレスは相変わらず綺麗で、俺の頬が自然と緩んだ。
父とラルクは出されたそれを交互に見比べると、少し黙ってから「ええ!」と大きな声を上げた。
「セラさん…えっと、結婚式はいつなんですか?」
「……は?」
ラルクが赤い顔で聞いてきた言葉に、俺は耳を疑った。
「セラ、やっぱり知らなかったんだね。」
「やっぱりって…、父さん詳しいこと説明してくれなかったよね…。」
シバは俺と父のやり取りを黙って聞いており、ラルクは気まずそうに目を斜め下に向けている。
ラルクのあの発言の後、俺が「どういう意味?」と聞いたことで、全員に凝視された。
この国でネックレスが告白の意味を持つことは確かだが、それを渡す行為は『結婚を前提としたお付き合い』を意味するのだという。
(だからネックレスを付けてない俺とシバは、文官棟の彼女達からしたらまだ関係が深くないように見えたのか。)
そして、俺が前日にアックスに意気揚々とネックレスを渡すのだと伝えたのは…
(婚約を申し込んできます!って宣言したようなもんか…。)
アックスやオリアが驚いていたのも頷ける。
そして一番の驚きは、ネックレスの色や贈り方によって意味が異なるというものであった。
父の説明によると、相手にネックレスを贈るのは『結婚前提でお付き合いしてください』。そして、自分と相手の分を色違いで用意した場合は『1年以内のお付き合いで結婚したい』。そして同じ色を用意した場合は『今すぐにでも結婚したい』。
(俺、プロポ―ズしたってこと?!それも熱烈な!)
ここでやっと宝石店の店員とシバがあんなに動揺していたのかが分かった。認めたくはないが、俺の見た目は実際の歳より若く見られることが多い。過去の例からしておそらく16,7歳くらいだろうか…そんな子どもが「今すぐに結婚したい」と堂々と言ったのだ。
(そっか…俺、シバに求婚しちゃったのか。)
その事実に照れていたが、考えてみるとシバは俺がネックレスの意味を知らずに渡したことをどう思っているのか気になった。
彼の兄とその婚約者であるレベッカの件で、シバは俺がネックレスの意味を理解していると思っただろう。
(知らずに渡しちゃいました!なんて…俺が逆の立場だったら辛い。)
父とラルクは空気を呼んで席を立つと、「2人で話し合って。」と言って父の部屋へ行った。
シーンとした空気に、じんわりと汗をかく。
「…シバ?」
俺は隣に座るシバをチラッと見る。また彼を傷つけただろうかと心配になったが、シバは思いの外冷静な顔であり、俺の顔を見た後、自分のネックレスを手に取った。
(え、まさか「返す」とは言わないよね…?)
ドッドッと心臓が鳴る。
「や、やだ!」
シバが石を摘まんでいる手を、ぎゅっと握る。
「俺、求婚は取り消しませんから!返したら、怒ります!!」
シバの手首を掴んだままそう言うと、シバは目はフッと笑った。
「これは返さん。」
シバはそう言って、ふんわりと宝石にキスを落とした。
「誓っただろう。ずっとお互いのものだと。」
余裕な顔でそう告げる彼に、俺は「はい。」と真っ赤な顔で返事をした。
――――――
それから5か月が過ぎた。
仕事を終え、そのまま俺の宿舎に泊まったシバは、朝からゴソゴソと部屋の掃除をしていた。
外では秋らしく虫の音が響き、以前騎士棟の前で見た大きな虫を思い出し、思わず身震いしてしまう。
「セラ、寒いのか?」
「いえ、大丈夫です。…もう少しで終わりますし、休んでてください。」
「気にしなくていい。終わったら一緒に休もう。」
今は部屋でシバと2人きりであり、なぜここを片付けているのかというと……
(俺がシバの部屋へ住むことになったから。)
ただでさえ忙しいシバともっと2人でいる時間を増やせないかと思っていたところ、彼の方から一緒に住もうと提案してくれた。そして、あれよあれよと申請は進み、明日は引っ越しの日となった。
そして入れ替わりにラルクがこの部屋へ越してくるのだ。
いつでも遊びに来れるようにと俺の部屋はそのまま残し、ラルクは客間として使っていた部屋を使う。しかし父とのラブラブな様子から、ずっと父の部屋で寝ることになる気がする。
そして、ネックレスの持つ意味を知った次の日。
休み明けに揃って出勤した俺達は、文官棟で再び注目の的となった。シバに何かを尋ねてくる者はいなかったが、俺には2人の噂好きな先輩がおり、制服の下に忍ばせていたチェーンまで目ざとく見つけられてしまった。
以前シュリに注意されしばらくは大人しくしていた彼らだったが、ネックレスを付けて職場へ現れた俺にとうとう「教えて下さい!」と頭を下げた。あまりに必死な態度に、俺はシバと付き合っているのだと正直に告げた。
そしてシバと俺が何度も共に出勤する姿に噂は広まり、一時期は女性による攻撃的な視線が痛かった。しかし今では完全に落ち着いている。というのも…
(シバがあんなこと言うから。)
シバと共に帰ろうと文官棟の廊下を歩いていると、例の小部屋で女性達が大きな声で井戸端会議をしていた。どうやらかなり盛り上がっているようだが、その内容はやはり俺とシバに関することであった。
「アインラス様とマニエラ君って本当に付き合ってるのかな?」
「なんか…2人ともネックレスしてたって聞いたんだけど…。」
「ただの噂でしょ。だって全然釣り合ってないし。」
「でも、もし本当だったらどうする?私達のアインラス様が…!」
シバは自然に耳に入った声を聞くと、その部屋へ迷いなく入り口を開いた。
「私達の交際に、何か言いたいことがあるのか?」
淡々とした冷たい声に、その場は凍ったように固まる。憧れの彼にそう言われ動揺する彼女達に、シバは「私はセラを愛している。」とはっきりと告げた。そして「無駄話でいつまでも棟に残るな。」と告げ俺の手を取ると、さっさと小部屋を後にした。
その言葉は、俺達の交際を認めたくなかった彼女達にとっては辛いものだろう。
(推しロスで仕事休まないといいけど…。)
少し心配に思いつつも、シバが言った「愛している」の言葉が頭で反芻し、緩んだ顔を隠すために下を向いて歩いた。
(あれからは棟で噂を聞くこともなくなったなぁ…。)
思い出に浸りながら手を動かす。
2人で片付けをしている理由の1つとして、『シバの部屋に揃っているものを判断してもらう』というのがある。シバは俺が越してくることに浮かれて何点か家具を購入したらしい。無駄に物を持って行き邪魔になるのも…と考え、先ほどから家具を手にとってはシバに必要かどうかを尋ねている。
「シバ、この本立てはいりますかね?」
「いや、もう部屋に用意してある……いや、それは持って行こうか。」
いらないと言ってすぐにその言葉を変えるシバに、どうしたのかと振り向くと、彼が近くまで来て俺を後ろから抱きしめた。
「シバ?どうしたんですか?」
「…この本棚に、絵を挟んでいるだろう。」
「絵…ですか?」
恥ずかしい話だが、机に置きっぱなしでめったに整理をしてこなかった本棚には乱雑にいろんなジャンルの本が並んでいる。シバの言う通りに右端の本の隙間を見ると、小さいメモが挟まっていた。
手に取ってみると、そこには人物の陰絵…俺がここへ来て最初に描いた攻略者のうちの1人だった。
「……これって。」
「セラのお見舞いにここへ来た時、それがめくれているのを見たんだ。」
イベント『黒馬の騎士』の後、走りすぎて肉離れを起こした俺に、シバは毎日お見舞いに来てくれた。
持ってきたケーキをこの机に置こうとした彼が驚いた様子だったが…これが原因だったとは。
「あの時は、セラがこの部屋で私の絵を描いていたのだと思い、堪らずキスしてしまった。」
俺を後ろから抱きしめているシバは、俺が少し震えているのを感じ心配そうにこちらを窺う。しかし俺は、あまりの衝撃に驚くばかりでうまく返事ができない。
今持っているこの絵は、ゲーム『Love or Dead』のシークレットキャラを描いたものだ。ゲーマー達がどれだけ攻略に勤しんでもその正体は明かされず、分かるのは横顔のシルエットのみだった。
(…ラルクさんじゃなかったんだ。)
シークレットキャラは隣国のアラブ王子ゼルではないかと疑った時期もあったが、奥さんが13人いるという時点でリストから消した。そしてそれをラルクだと決めつけてからは、絵の存在もすっかり忘れており、今シバに言われて初めてこのメモをここに挟んでいたのだと気付いた。
じっと絵を見つめる。無造作で男らしいシバの髪型とは違い、絵の中の彼はきちっと髪をまとめている。しかしそれは、彼が俺とのデートや告白の時にしていた髪型だ。
(だから最初はシバが攻略対象者だって分からなかったんだ。)
攻略なんて考えなくとも、シバはありのままの俺を好きになってくれた。そして俺をバッドエンドから救った上に最高のハッピーエンドをくれた。
俺のつむじの辺りから心配げに聞こえる「セラ?」という声に、ゆっくり振り返って抱き着く。
「シバが俺を好きになってくれて、幸せです。」
「…あたりまえだろう。私は、セラの運命だ。」
そう言って抱きしめ返すシバに唇を寄せると、寸前で意地悪く笑われた。
「ふっ、まだ片付いていないだろう。」
「…後でしましょう。今はシバとこのまま…愛し合いたいです。」
そう言ってシバを見つめると、合った視線に熱が籠りだしたのが分かる。
「セラ、あまり可愛いことを言うな。」
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