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7.ルシアの苦しみ
しおりを挟む明日、朝一番の馬車で帰るつもりだったが気が変わり、ルシアはその日の夜に伯爵家を発つ事にした。
今から伯爵家を出るから除籍の書類は別荘に送ってくれ、別荘からも1ヶ月以内に出て行くと父親に告げるとようやくルシアが本気なのだと理解したようで急に慌て出した。
ルシアはそんな父親の言葉にも耳を貸さず、部屋に置いてあった荷物を片付けると玄関に向かった。
夜行の貨物馬車を見つけて別荘に帰るつもりだった。女性が一人で夜遅くで動き回るのは危険であることはディランにも散々言われていてわかってはいたが、ルシアは幸い魔草薬を作れるだけあって魔力を多少持っていた。
暴漢の一人や二人くらい退治できると思い、ルシアは家を飛び出そうとした。
「おねえちゃん」
子供っぽい舌足らずな声が聞こえてルシアは振り返った。そこには微笑むナタリアがいてルシアは身構えた。
昔からルシアはナタリアが苦手だった。物やお金で人を測る癖があって、価値のあるものを見つけるとすぐに飛びつき、自分のものにならないと泣いて駄々をこねる。
最後に見たナタリは7歳で、11年経った今ナタリアは18歳の年頃の少女に成長していた。金の髪はより一層艶やかに輝き、華やかなドレスを見に纏ったナタリアはとても美しかった。
見た目は美しく成長したが中身は夕食の時の態度からして何も変わっていないのだろうと思い、傷つく前にこの場を去ろうとしたが、ナタリアは追い打ちをかけるようにルシアの背中に言葉を突き刺した。
「本当に戻ってくるなんて言わないよね」
「え…」
「権利だけ伯爵家に渡して別荘に帰りなよ。新しい大きな収入源が見つかったってパパが言うから何かと思えばおねえちゃんなんだもん。お金をちらつかせて家に戻ってくるなんて卑怯ね。おねえちゃんはこの家の子じゃないのに。そんな必死で戻ろうとするなんて本当に醜い」
ナタリアの言葉には明らかに悪意がこもっていて、やはりナタリアに嫌われているのだと思うと悲しくなって、父親にとっても金蔓でしかないのだと突きつけられて胸が苦しくなった。
伯爵家にくる前に念のため伯爵家の財政状況は調べていた。昔よりも苦しい状態に追い込まれていることも知っていた。
だからもし、一人では不便で寂しいだろうから伯爵家に来ないかと言われたら、ディランを弟子と名乗らせて2人で伯爵家に戻って、魔草薬の研究をしながら伯爵家を立て直すための手伝いをしてもいいと思っていたのに。
「大丈夫、戻らないよ」
「そう。よかった。でも私が焦る事自体おかしいのにね。それが当たり前なんだもの。私とおねえちゃんは違うから」
ナタリアはとても安心したようだった。
伯爵家の令嬢はナタリアだけ。愛されるのもナタリアの特権で、お金をかけられるのも、褒められるのも、この家にいるべきなのも全てナタリア。ナタリアとルシアは全く違う。そう言われているのだとわかってルシアは俯いた。
少なくとも伯爵家の血は確かに引いているのに、と思いながらも言い返す元気も勇気もなくてルシアは黙り込んだ。
だってここにルシアの味方は誰もいないから。ルシアの言葉を聞いてくれる人は誰も。
「それじゃあね」
結局ルシアは前妻の子だ。よその家のことは知らないが、世襲制の貴族社会では蔑ろにされても仕方のない存在だ。
できるだけ早く伯爵家から籍を抜く手続きをとって、本当に他人になろう。
それが正しい決断のはずなのに、ルシアの胸はまだ希望を捨てきれないのかじくじく痛む。家族に憧れるルシアにとって全てを捨てる決断はとても苦しいものだった。
ディランも16歳でまだ若い。いずれ世帯を持つかもしれない。それこそナタリアのように若くて可愛い女の子と。
そうしたらルシアは本当の一人ぼっちになる。伯爵家から出てしまったら、ルシアのことを一瞬でも頭に思い浮かべてくれる人は本当に誰もいなくなる。
「そうだ、おねえちゃん、別荘に男の人連れ込んでるんだって?」
その言葉にルシアは固まった。
「おねえちゃんのことを調べたパパが言ってたの。その話を聞いて私もびっくりしたわ。堅物そうに見えて以外と男好きなんだって。それもかなり歳の離れた若い男の子」
「違う」
「何が違うの。毎晩その子と楽しんでるんでしょう。発情した猫みたいに」
「ナタリア…!」
「ああ汚らわしい。パパもママもそう言って笑ってたわ」
ナタリアの笑い声が耳に響いて、体が震えて声が出ない。
否定したいのに、言い返したらもっと酷い言葉を浴びせかけられるのではないかと思うと怖くて言い返せない。
ルシアはバンと屋敷の扉を開けて勢いよく外に飛び出した。
胸が苦しくて、息が浅くなって、心臓がばくばくと音を立てた。ここから出ていかなきゃ。そうしないと心が潰れてルシアがルシアでなくなってしまう。
慌てて駆け出したルシアは夜行の馬車が乗り入れる停留所にたどり着くとお金で御者を黙らせすぐに馬車を出させた。
危なさそうなごろつきや浮浪者はそれなりに出くわしたが、あまりにも鬼気迫る顔をしていたからか、彼らは様子のおかしいルシアを見るなり目を逸らして避けていった。
馬車は夜通し走り続けて朝方には別荘のある街に到着した。
そのまま別荘に戻ってしまうと夜行の馬車で帰ってきたことがディランにバレてしまうため、ルシアは街をぶらついて時間を潰してから夕方ごろ別荘に戻ることにした。
馬車の時間を逆算して組み立てた完璧な計画だったのだが。
「どうしてこんな時間にここにいるんですか」
街をぶらつき始めて1時間も経たないうちに街中でディランに捕まってしまった。
ディランは日用品や食料、魔草の買い出しのために数日に一回は別荘の外に出る。そのこともちゃんと踏まえて、絶対にディランの使わない道を歩いていたのに、目印でも付いているかのようにすぐに見つかってしまった。
ディランは見るからに怒っていた。
ルシアの前までずかずかと近寄ってくると手を取り、怪我などしていないか念入りに調べると不機嫌そうにしていた。
怒っていることはわかっていたが、ルシアのことを心配して気にかけてくれることがとても嬉しくて心がじわじわと暖かくなってルシアは顔を歪ませるとディランの胸に飛び込んだ。
突然のことにディランは驚き、体をびくりとさせたが、ルシアは構うことなく顔を押し付けて抱きしめた。
約一日ぶりのディランの香りはとても落ち着いて、心が安らいでうっとりとする。ディランだ、ディランが目の前にいる。ルシアのことを見て、抱きしめて、話を聞いてくれる人が、ルシアの味方がここにいる。そう思うだけで嬉しくてぎゅうぎゅうと抱きしめた。
「…僕をどうするつもりですか」
あまり人気のない道だったが、道端で抱きつかれたディランは呆れていて、でも嫌そうな素振りは見せなくて、ルシアの頭を撫でてくれた。
16歳のディランはもうほとんど見た目は大人の男でルシアを抱きとめる体も腕も手も全てルシアよりも大きく男性の中でもかなりがっしりとしていた。
ナタリアの顔がふと浮かんで、2人で並んだら釣り合いが取れるだろうなと思いながら小さく呟いた。
「ただいま」
「早く帰りますよ」
ディランはまだ少し不機嫌そうだったが、抱きつかれた衝撃で怒りはどこかに飛んでいったようで、大きな旅行鞄を奪い取るとルシアの体を引き剥がして歩き出す。ただルシアの腰に手はしっかりと回したままで、ルシアはディランにエスコートされて別荘に帰宅した。
それから数日が経った。
ディランには何があったのかしつこく尋ねられたがルシアは少ししたら話すと言ってまだ何も伝えていなかった。
突然、1ヶ月以内にこの別荘から出ていくことになりましたと言っても、今後どのように生活していくのか目処が立っていないとディランは不安に思うだろうし、なぜ別荘から出ていかないといけないのかを話すに当たって伯爵家とルシアの関係を話す必要があり、ルシア自身の心の整理がついていないこともあり、まだ伝えられる段階ではなかった。
幸い魔草薬で稼いだお金があるため、そのお金を使って適当な家を買い取って住むことはできるだろう。
普通の一軒家でもいいし、一階を販売スペースにして2階を住居兼研究室にしてもいい。この町でひとまず適当に借りて数年かけて理想の街に引っ越すのもいいかもしれない。家のことはどうにでもなる気がした。
問題はルシアの心の整理だった。どこからどうやって話そう。ディランに何と伝えよう。話そうと思えば思うほど、自分がいかに間抜けで惨めな人間かを改めて思い知らされて心の整理をしようとするだけでなぜか涙が出てくる。
一向に進まず、ただ、1ヶ月以内に出ていくという期限がある手前、そう長く引き伸ばすわけにもいかずルシアはどんどん疲弊していった。
言わないと、言わないと。
そう思っているうちに一日が過ぎていき、そのうち切迫感から夜も眠れなくなって、ベッドの上で横になっているのさえ辛くなってルシアはその日の深夜、のろのろと動き出して別荘の外に出た。
目的は特になかった。街に行くつもりもなかった。ただ、夜風に当たりたくなって夜着のまま何も羽織らずに別荘のそばの森の中を少し歩いて、いつもディランと一緒に聖水を汲みに来る場所の側の湖にたどり着いた。
特に何かをするつもりはなかったが、何となく湖のほとりに座り込んで湖を眺めた。
波ひとつ立たない静かな湖。水面には夜空に輝く星が映り込みとても美しかった。
ディランが幼い頃夏の夜に何度かここに星を見にきたことがあった。その頃からディランは無口でかなり大人びた子供だったが、ルシアはルシアなりにディランにしっかりと愛情を注いで立派に育てようと心に誓った。
ちゃんとルシアの愛情がディランに届いていたかはわからないが、ディランはとても立派に育ってくれた。かっこよくて、頭が良くて、優しくて、お行儀は…初めから良くて。とにかく恥ずかしくないくらい。むしろ鼻高々な完璧な青年になった。
「もう、ルシアはいらないね」
伯爵家にとってもいらない子。ディランにとってももう用済みのお姉さん。26歳で子供も夫もいないのはこの国では完全な嫁ぎ遅れできっと嫁の貰い手もない。
ディランは優しいからルシアの側にずっといてくれるかもしれないが、きっとそれは、たくさんあるディランの選択肢の幾つかを潰す事になる。
ルシアは水面に浮かぶ星をじっと見つめていた。ぼうっとしながら星に手を伸ばす。
ルシアも綺麗に輝く星になろうかな。
衝動的にそう思って前のめりになる。涙をこぼすルシアの姿が水面に映り込んで、体が前に傾いて水面の星に手が届きそうになった瞬間。
背後からがりしと体を掴まれ抱き寄せられた。
「何のつもりですか」
「お、お星様を…取ろうと思って」
震える声で告げるとディランは荒々しい手つきでルシアの体を強引に抱き上げ自由を奪った。
存在を確かめるように力任せに肩を掴んで、大きな手でルシアの形を感じて、暖かいことを確認すると大きく息を吐いた。
湖の方を睨みつけるとすぐさま立ち上がり危険な場所だと言わんばかりにルシアを抱えたままその場から立ち去ろうとする。
ディランの顔はとても怖くて、なのに手は微かに震えていて、心臓は激しく音を立てている。ルシアは俯いた。
耳をすませば息も荒い。ルシアのことを走って探してくれたのだとわかり申し訳なくなった。
ルシアはディランを待たせているのに、心配させて、迷惑かけて、夜中に走らせて、運ばせて。いい歳した大人が何をしてるんだとまた惨めな気持ちになって。
でもどうしたらいいか全くわからなくて、家に戻るディランの腕の中でただじっとしていた。
ディランはルシアを部屋まで連れ帰るとベッドの上に下ろして告げた。
「寝てください」
寝れないと言うとそれでも寝てくれと、寝るまで見ていると言われ部屋に居座られた。あんな光景を見せてしまった手前、そのうち寝るから放って置いて、なんて言えるわけもなく、ルシアは大人しく布団の中に入って目を瞑った。
寝れない。さっきまで寝れなかったのだから突然寝れるようになるわけがない。
何度もうつらうつらとはするが意識があやふやになった途端、伯爵家での出来事が頭の中に流れて息が苦しくなる。声が出なくなって、体を動かしているつもりなのに動いていなくて、水の中で溺れているような金縛りのような状態になってディランに揺り起こされた。
ひどく驚いたような、心配したようなディランの顔が目の前にあって、ディランの顔を見た途端急に落ち着いてしまって涙がこぼれた。
「ごめんね」
一回りも下のディランにこんな頼りない姿見せたくなかったと思いながら呟くとルシアは優しく抱きしめられて、ベッドに押し戻された。
寝たくない。あんな光景、もう思い出したくない。
「お願いだから許して。離して」
そう言って暴れると、ディランはルシアを宥めるように何度も背中を叩きながら一緒にベッドに横たわる。
「誰にもルシアを傷つけさせません。安心して寝てください」
ディランに抱きしめられて、何度もおまじないのようにそう囁かれると本当に、ディランの腕の中なら誰かに嫌なことをされても全てディランが弾き返してくれるのではいかと、そんな気がしてきて、少しずつ気持ちが落ち着いて行った。
暴れるのをやめると静かになって、ルシアが顔を見上げるとディランはぼんやりとルシアを見つめていた。
心臓の音がとくんとくんと聞こえて、その音が心地よくてディランの胸元に耳を押し付ける。
暖かい。すぐそばにディランがいる。そうわかると体はなぜ急激に落ち着いていき、気づいたら体から力が抜け呼吸が穏やかになった。
そういえば昔も添い寝をしていた時期があったなとその時の記憶に浸っていると、心地よい眠気に襲われルシアは瞳を閉じる。
まだ拾ったばかりの頃のディランはそわそわとして落ち着かない様子だったから、毎晩ルシアが胸に抱きしめて添い寝をしてやった。
それなのに今はディランの胸にルシアが抱かれている。逆転してしまったと思うと少しおかしくて、微かに笑うとこわばっていた力がどんどん抜けてルシアは深い眠りに包み込まれた。
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