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第二章 あの悪魔を退治しよう

15 せめて最後は悪魔ではなく

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 地面にあるソレは、悪魔の身体に流れる、闇色の血液に酷似していた。

「…………」

 見つめ続ける少女の視線は外れない。無表情だが、その顔は悲しみの色に染まりきっている。

「……クリス殿……」
「その顔は、当たって欲しくない予感が外れなかったか」

 どう声を掛ければいいか、分からずオロオロする朧月。冷静に指摘するアプドルク。



 彼等は何故、ここに居るのか? その理由は、ほんのちょっと前のこと。

 二人から、館にいた事情を聞いていたアプドルクは、クリスが村人達に売られたかもしれないという話を聞き、あることを話だした。


 Night:Mareの主人公は、行方不明の友人を捜して旅をしていた。そんな時、ある村へと辿り着く。
 親切で明るい住人達からの手厚い歓迎。楽しい食事をして一眠り。目覚めると、館の中にいる。

「それは、クリス殿の時と似ているではござらんか!?」
「……村も、こっちにあった……?」
「いや、それは違う。Night:Mareに関するものが全て用意されているなら、館にはオレじゃないアプドルクが配置されていた筈だ。だがいなかった、違うか?」
「確かに、間違いないでござるが……なにゆえ?」
「キメラギオン戦で、オレの悪魔態を初めて見た反応だったからな。館があるのは推測だが、アイツの名前が館の主であるからだと思っている。もう一人のアプドルクがいなかったのは、他の要素がラスボスとして特に必要ないから。そうなれば、村も関係ないことになる」
「むっ? 名前はキメラギオンではござらぬのか?」

 館の主であると共にラスボスの探究の悪魔キメラギオンであると説明されていたので、気になったのだろう。
疑問を口にする。

「悪魔態の名前は、悪魔としての名称だ。本名ではない」
「そうなると、アプドルク殿も?」
「ゲームでも、設定資料集でも不明だ。それで、村についての続きだが──」


 エンディング中に、隠しコマンドを入力すると、主人公は村へと再び辿り着く。
 そこで、もう一つの真実を知る。実は、その村は────。


 その話を聞いた途端、クリスはすぐに行くことを決意した。しかし、何処にあるかは詳しく分からない村。
 どういう村であったかクリスの説明を聞いた二人は、館に向かう途中で見掛けた村との類似点から、そこではないかと思い付き、三人共にテレポートで跳んで向かった。

 そうして、行ってみると村の住人達が変わり果てた状態になっているのを発見してしまった。


「館の主は、もう用意していた。ここは既に【人形の悪魔:ドールマン】の村にされていたんだ」

 人格と記憶は元のまま。肉体と心は悪魔。ドールマンは、館内の悪魔とは違い、自分達がもう人ではないと知らずに人間として生活をする悪魔。

 心が人のままである例外は、ほぼ成功に近い失敗作のアプドルクのみ。

「側を通った際は特に面妖な気配は感じず、こうして直接見なければ、信じられない存在でござるよ」

 館にいた人間態は、悪魔態に変わる前にも、この世界の人間とは明らかに違う異常な雰囲気を纏っていた。
 それだけに、彼は驚いている。まさか、全く分からなかったなんて。

「自覚なく無意識下で存在を潜める隠蔽特化悪魔だ。
オレも気付けないなら、お前が分からないのも無理はない。あぁそうだ、液状態になっている場合、集まりきるまで手を出すな。攻撃は意味がない」

「……その悪魔を作るのは、何のために……」

 気持ちが、ほんの少しだけ落ち着いたクリスが会話へと加わる。どうしても、気になったのだろう。

「……アイツの狂った悪趣味の一つ。自己満足を満たす為だけの、胸糞悪い人形遊びを邪魔されないようにするためだ」


 ドールマンは、村に来る人間を主への献上品とする。その行為が、罪であると認識することは出来ない。
 神へと捧げる生贄のように、喜んで差出す。そうすることで与えられる報酬は、天からの恵みのように喜ぶ。

「人形にされた者は、館の主を神のように敬う。
讃えられるアイツは、それを喜ぶ。
歪んだ自己顕示欲を満たす為の行為の一つだ」

「……村のみんなは親切で優しくて、料理がとても美味しかった……」

 非人間的な冷たさは、何一つとしてなかった。人としての温もりが、あの村には溢れていたから。


「……人形の素材は、元々この世界にいた人達……」
「──そうだ」
「……助ける方法は、無い……」
「世界中を探せばあるかもしれないが、今すぐでなければ意味はないな」

 確かめる問いに、はっきりとした答えが返ってくる。この村は、元々良い人達ばかりだった。
 だから、悪魔という人形にされても、善意に薄っぺらさや嘘臭さが無かったのだ。

 親切も笑顔も本物。嘘は、住人が人間ではなかったこと。

「おニ方、警戒なされよ」

 警告、そしてズルズルと何かが這いずる物音。発生源は麦藁帽子と服から離れていく。

「──始まったか」

 村の中心に黒い粘液が集結して、小さな山が形成されている。全て集まり出来たのは、造形が崩れかけているオオサンショウウオに似た何か。


【人形の悪魔:ドールマン】の群れが暴走合体して誕生した悪魔態。

「~~~~~!!」

 喉も口も無いのに叫ぼうとして、ゴボゴボッと泡が湧きだすだけの産声を上げる。

「主がいなくなったことによる暴走か。
操る糸の無い人形は動かないものだというのにな」

「強いでござるか?」

 不知火を構えていた朧月は、前から目線を逸らさない。不定形の巨体をどうするか攻めあぐね、警戒している。

「隠しボスだが、戦闘力は低い。暴走により再生能力が超強力になっているが、待っていれば自滅する。
……疲れているなら無理をするな。放って置いても、勝手に死ぬんだぞ」

 説明の後半は、フラつきながらケルベロスモードになっているクリスへ向けたもの。

「ク、クリス殿!? 無理をしてはいかんでござるよ!!」

「……まだ、いける……」

 返答の声色は苦しさを押し殺しているが、辛そうな様子は隠せていない。
 魔法装甲製のマスクの下は、今にも卒倒してしまいそうな程に顔色が悪くなっている筈だ。
 明らかに無理をしている。止めろと言わないのは、二人とも気持ちが分かるからか。

「……わたしの必殺魔法なら、最後だけでも人へ戻せる……」

 アキュートインパクトは必殺魔法。文字通りに必ず殺す。救済は不可能。
 だが、時間を操る応用で、最後を元の状態にすることだけは可能。
 助けられないなら、せめて一秒でも早く悪魔の姿から解放させてあげたい。


「……だから、あの悪魔を退治しよう……」

 伝わる声は震えている。金属に覆われた顔の下で、少女は確かに泣いていた。



 後日、謎の館があった場所。そして誰もいない村に鎮魂碑が建てられた。それは、教会への多大な寄付と共に依頼され、作られたもの。

 完成したその日には、いつの間にか花束が添えられていたという。

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