断罪のアベル

都沢むくどり

文字の大きさ
164 / 190
上弦の章 帝国内乱

帝国議会議事録 上弦 三巻

しおりを挟む
「くだらん幻想を抱き、帝国の秩序を崩壊手前まで追い込んだ蛆虫達。彼奴らの生き残りがいるかもしれないと、私は思っているのだよ」

「生き残り…………………ですか?」

 ジョージ・ベネットは苦虫を噛んだような顔で問う。

 彼にとって救済の使徒サンリエラが掲げていた思想、平等、無差別は商会の立場から言わせると不愉快極まりないことだからだ。

 富を均等に分配する。

 そんな綺麗事が通るならば、遠の昔に人々が行っていただろう。

 争いも起きず、財を築かないで隣人と分け合う。

 そんな幸せな世界は何を意味するか。

 自我の消失だ。

 人間が他の動物と違い、人間足らしめるのは何か。

 自我である。

 足りない何かが欲しい、新しい何かをしたい。

 新たな発見、知識の会得。

 それらを考えるのは自我あっての事だ。

 欲望が技術を生み出し、技術が恩恵を与え、それで満たされた人々が、さらなる欲望を願う。

 つまり、文明の発展に欲は不可欠。

 その欲を上手く信用、金銭と言う形に変え、それらを増やす行いを生業とした帝国一の大商会、ベネットの頭領にとって、教団の思想は自分達の存在否定に他ならなかった。

「あぁ、そうとも。勿論使徒と呼ばれていた首領は全員死んだはずだがね、私はむしろ生き残りがいると推測している」

 余裕たっぷりの表情のジーク。

 それを見たウリヤノフは憤慨する。

「バカな!? 真理の使徒エラスムス、宣教の使徒レイン、探究の使徒ドロシー、洗礼の使徒ウォルター、戒律の使徒ダグラス、永眠の使徒パンドラ、天罰の使徒カイン! 小奴らの亡骸、死に目を見たものはこの議会にもまだ多くいるぞ!! 出任せに邪教の事を口走るでない!!!」

「あまりにも軽率な考えではないか?」

 心底バカにした様子だった。

「何じゃと!?」

「パンドラとカイン。この両名だけは説明がつかないと私は思うがね。まずパンドラは極秘戦争の頃、数多の死体を操り大軍勢を率いていた事があったではないか。おまけにこの使徒はそれ以外にも巨大な化け猫や、自身を強化したりと本来の死霊術と大きく異なる面がある。そのような稀代の死霊術師ネクロマンサーなら、もしかしたら己が魂すら蘇生できるかもしれないだろう?」

 ジークはそう推測していた。

「そのような事例、聞いたことなどないわっ! 貴様の妄想も大概にしたらどうだっ!」

「確かにそうかもしれないが、念には念を、であろう。フレデリカ殿はいかがお考えかな?」

「えっ!?」

 いきなり話を振られたフレデリカは驚く。

(確かに、当時の極秘戦争の話をお父さんに聞かされた時、あんな死霊術ネクロマンス見たことがないって言ってたけど、基本的に本人が生きてないと発動しないはずだしなぁ)

 ちなみに、パンドラがヴァルト出身だった事を知るのはこの中でフレデリカだけである。

 当時のパンドラは、ヴァルトへの憎悪を戦場で散々吐いていたらしいが、その理由までは言わなかったし、ヴァルト側からしても、家の裏切り者が帝国に牙を剝いた事実をわざわざ公表する必要もなかった。

 ただ、ドロシーに関してはヴァルトが教えていた事実を認めざる負えなかった状況が帝国議会内で起こっていた為、当時の当主エルヴァスト・ヴァルツァーは、ドロシーの生首を持ちながら議会で謝罪している。

死霊術ネクロマンスの最低条件は死体と魂、術者ですよね? なら、使い手が死亡した場合、その人物の蘇生は不可能だと思います」

「なるほど、フレデリカ殿はそう思われるか」

 ふむ、と唸るジーク。

「ではカインはどうかな? 奴は帝国最北端に位置する救済の使徒サンリエラの聖地、嘆きの聖堂から落ち延び、最後は断崖絶壁の氷海から落ちた。そして、誰もその死体を見ることが無かった」

 それに答える者は、誰もいなかった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...