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新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌
ギルドへ
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一人だと目的地まで自分の都合でいけるので準備だけはすぐに終わる。右側のベルトポーチに財布、左はすぐ出せるナイフケースに小型の投擲剣2本、左ももにもケースをベルトで巻いて同じものを2本。あとは、安価な剣を左の鞘に収める。
護身のためには念入りに、だ。
俺がこれだけの装備をしているのは過剰でもなんでもない。この2年間各地を渡り歩いたがどこにでも出てくるのだ。盗賊が。
ここには出ないかもしれないが、やはり警戒するべきだろう。
普通、盗賊は民衆の集合地から離れ、都市と都市を繋ぐ交易路で待ち伏せしてるのが一般的だが、頭の良いのは何故か警備の目を潜り抜けて忍び込む。
入ったあとはもう夜道、裏通りを歩いた不幸な人間に躍りかかる。盗賊になる前は近くの都市や町で暮らしてたのが多いので死角になる場所も把握している。達が悪い。
前襲われた時は5人だったなぁ。
長旅の癖かローブに付属しているフードで頭をすっぽり覆ってしまったが、どうみても町中 じゃぁ、不審者だな……………。外そう。
忘れ物はないな。
「さて、いこう」
宿のドアを開けて、階下に行く。階段を下りる度にギシギシと悲鳴をあげた。宿代は先払いなのでそのまま出てくのも構わないのだが人と話すこともあまりないせいか、誰でもいいからとりあえず話したいと思った。ちょうどカウンターにいる、宿屋の店員を見かけたので話しかけることにした。
「ベッドがふかふかで最高だったよ、素敵な宿をありがとう」
「いえいえ、お客様に快適に過ごしていただき、とても良かったです。むしろ我々が礼をするべきでしょう」
柔和な微笑みでそう答えた。教育の賜物だな。営業のためにここまで自然に笑顔を出せるとは。
俺には仮面をつけているようで怖いが。状況に応じて瞬時に表情を作れるのは相当な練習があったのだろう。
「あの、お客様? 大丈夫ですか?」
いかん、考えすぎるのは俺の悪い癖だ。すぐ直さねば。
「いやぁ、久しぶりにゆっくりできたもんだから、気が抜けてしまったよ」
ぎこちなく返答する。
「旅は命懸けですからね、お気をつけ下さいませ」
「あぁ、とりあえずギルドに行って仕事の仲介でももらうとするさ」
そろそろ時間なので立ち去り際に言う。
後ろから優しさにあふれんばかりの声でありがとうございましたと声が響く。
宿からでると心地よい風が吹いた。絶好の外出日和。太陽は顔を出したばかりで人が起き始めるにはまだ早い時間を示している。
しかし、仲介業をしているギルドは朝すぐに行かないと混むのが常だ。関心なことにお役所と違い、早朝からすでに仕事をしているので朝駆けしても損はないだろう。
まだ住宅街は一部の規則正しい住民が体をほぐしに家の前で運動してるぐらいだ。四十ぐらいのおじさんが木刀を振るっている。朝早くお疲れ様です。
来たばかりの二日前は人とぶつかりまくったからな、すいすいと魚の様に進めていい。しばらく歩いていると香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。家族のために肉でも焼いているのだろう。
家族………………。
その言葉を反芻する。ただの二文字なのに胸を締め付けられる。どうしても会いたい家族が一人だけいるから。あれからもう幾年も過ぎて、お互い顔も分からないだろう。
けれども一度でいい。顔だけでも見たい。俺にとって家族と胸を張って言えるのはただ一人なんだ………………。
向こうが俺という存在そのものを忘れていたり、覚えていても追放された俺を嫌っている可能性だってあるかもしれない。
例えそうだとしても……………。
会いたいんだ……………。
「叶わぬ夢だな………………」
もう俺は『あの一族』の人間ではない。今まで散々自分に誓ったじゃないか。
過ぎ去った過去を取り戻すことは出来ない。どんな偉大な魔導師、魔術師や王でさえ過去を見る魔眼で他者の過去を覗き見るくらいだ。現実的に考え、過去に飛ぶことなど出来ない。実現しようとした魔導師や魔術師達は皆、失敗し、無惨な最後を遂げている。
魔術とは万能ではないのだ。
もう考えるのはよそう。俺はただの一般人、『アベル』として生き様を刻むんだ。権力など必要ない。ただ、平凡で幸せな生活を送る、それだけで充分だろう?
そう思い、歩を進めた。
一度北ブロックの表通りは見て回ったのでそんなに時間も経過せず、ギルドの入口の前に到着した。
早速中に入ったが、どうすればいいか分からなかったので右側に待機している従業員らしき人に教えてもらうことにした。
「あの、ギルドで登録したいんですが、従業員の方ですよね? どうしたら………」
「すみません、私はここの従業員ではありませんので」
「いやでもその服………」
「従業員ではありませんので」
二回言われた……………。営業用スマイルで。
どっからどう見てもここの女性用制服だろ。ほら、受付案内の一人の女性と同じ制服だぞ!
でもさっきのことで疲れたし、いつまでも問答を繰り返す体力もないので、別の人に当たろう。
護身のためには念入りに、だ。
俺がこれだけの装備をしているのは過剰でもなんでもない。この2年間各地を渡り歩いたがどこにでも出てくるのだ。盗賊が。
ここには出ないかもしれないが、やはり警戒するべきだろう。
普通、盗賊は民衆の集合地から離れ、都市と都市を繋ぐ交易路で待ち伏せしてるのが一般的だが、頭の良いのは何故か警備の目を潜り抜けて忍び込む。
入ったあとはもう夜道、裏通りを歩いた不幸な人間に躍りかかる。盗賊になる前は近くの都市や町で暮らしてたのが多いので死角になる場所も把握している。達が悪い。
前襲われた時は5人だったなぁ。
長旅の癖かローブに付属しているフードで頭をすっぽり覆ってしまったが、どうみても町中 じゃぁ、不審者だな……………。外そう。
忘れ物はないな。
「さて、いこう」
宿のドアを開けて、階下に行く。階段を下りる度にギシギシと悲鳴をあげた。宿代は先払いなのでそのまま出てくのも構わないのだが人と話すこともあまりないせいか、誰でもいいからとりあえず話したいと思った。ちょうどカウンターにいる、宿屋の店員を見かけたので話しかけることにした。
「ベッドがふかふかで最高だったよ、素敵な宿をありがとう」
「いえいえ、お客様に快適に過ごしていただき、とても良かったです。むしろ我々が礼をするべきでしょう」
柔和な微笑みでそう答えた。教育の賜物だな。営業のためにここまで自然に笑顔を出せるとは。
俺には仮面をつけているようで怖いが。状況に応じて瞬時に表情を作れるのは相当な練習があったのだろう。
「あの、お客様? 大丈夫ですか?」
いかん、考えすぎるのは俺の悪い癖だ。すぐ直さねば。
「いやぁ、久しぶりにゆっくりできたもんだから、気が抜けてしまったよ」
ぎこちなく返答する。
「旅は命懸けですからね、お気をつけ下さいませ」
「あぁ、とりあえずギルドに行って仕事の仲介でももらうとするさ」
そろそろ時間なので立ち去り際に言う。
後ろから優しさにあふれんばかりの声でありがとうございましたと声が響く。
宿からでると心地よい風が吹いた。絶好の外出日和。太陽は顔を出したばかりで人が起き始めるにはまだ早い時間を示している。
しかし、仲介業をしているギルドは朝すぐに行かないと混むのが常だ。関心なことにお役所と違い、早朝からすでに仕事をしているので朝駆けしても損はないだろう。
まだ住宅街は一部の規則正しい住民が体をほぐしに家の前で運動してるぐらいだ。四十ぐらいのおじさんが木刀を振るっている。朝早くお疲れ様です。
来たばかりの二日前は人とぶつかりまくったからな、すいすいと魚の様に進めていい。しばらく歩いていると香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。家族のために肉でも焼いているのだろう。
家族………………。
その言葉を反芻する。ただの二文字なのに胸を締め付けられる。どうしても会いたい家族が一人だけいるから。あれからもう幾年も過ぎて、お互い顔も分からないだろう。
けれども一度でいい。顔だけでも見たい。俺にとって家族と胸を張って言えるのはただ一人なんだ………………。
向こうが俺という存在そのものを忘れていたり、覚えていても追放された俺を嫌っている可能性だってあるかもしれない。
例えそうだとしても……………。
会いたいんだ……………。
「叶わぬ夢だな………………」
もう俺は『あの一族』の人間ではない。今まで散々自分に誓ったじゃないか。
過ぎ去った過去を取り戻すことは出来ない。どんな偉大な魔導師、魔術師や王でさえ過去を見る魔眼で他者の過去を覗き見るくらいだ。現実的に考え、過去に飛ぶことなど出来ない。実現しようとした魔導師や魔術師達は皆、失敗し、無惨な最後を遂げている。
魔術とは万能ではないのだ。
もう考えるのはよそう。俺はただの一般人、『アベル』として生き様を刻むんだ。権力など必要ない。ただ、平凡で幸せな生活を送る、それだけで充分だろう?
そう思い、歩を進めた。
一度北ブロックの表通りは見て回ったのでそんなに時間も経過せず、ギルドの入口の前に到着した。
早速中に入ったが、どうすればいいか分からなかったので右側に待機している従業員らしき人に教えてもらうことにした。
「あの、ギルドで登録したいんですが、従業員の方ですよね? どうしたら………」
「すみません、私はここの従業員ではありませんので」
「いやでもその服………」
「従業員ではありませんので」
二回言われた……………。営業用スマイルで。
どっからどう見てもここの女性用制服だろ。ほら、受付案内の一人の女性と同じ制服だぞ!
でもさっきのことで疲れたし、いつまでも問答を繰り返す体力もないので、別の人に当たろう。
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