断罪のアベル

都沢むくどり

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新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌

登録における説明

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 従業員じゃない従業員らしき人を通りすぎ、中央のホールまでさっさと歩くと入口から見て左は酒場、右は仲介所と書かれた看板を左手に持った石像が置かれている。右手はワイン瓶を持っており腰の左右に長刀を差している。ベルトの上にはちきれんばかりの腹がのっかっていた。顔だけはキリッと締まっていて俺を見つめている。

 なんだ? この石像は?  顔面真面目だから全然醜悪に見えん。不思議な石像だ。受付に聞いてみよう。

 酒場はまだ用がないので、右に曲がる。

 四つある受付の内迷わず一番奥へ。なんか落ち着くんだよなぁ。

 応対してくれた受付嬢は黒髪のショートヘア、いかにもおとなしめで清楚系な人そうだ。


「あ、はじめまして、私受付担当のナツメと申します。登録に来たんですよね?   先ほどあの子と話し合うところ見ましたよ、従業員じゃないって言われました?  フフフ、彼女は王から派遣された査察官です。

 登録制度が開始しても荒くれが多いので我々べネット商会で厄介事にならないか見張っててくれるんですよ。この前なんか酒場で酔った方が勢いでセクハラしようとしたら、その前に素手で六メートルも投げ飛ばしたんです! すごいですよね!?

 でも制服が一緒のせいでここに勤務してるのは皆、脳筋なのかと疑われてしまいましたよ。

 ハァ………………。

 話は変わりますがあの石像はこの商会を一代で築き上げたジョン・べネットです。一見肉屋のオッサンですけど天性の交渉術を駆使して今やこの国での地位を不動のものにしました。今はその長男が亡き父親の意思をついで、べネット商会を取り仕切っています。母親に似たのか超絶イケメンですよ! おっと、そろそろ本題に入りましょうか。まずはこの書類に必要事項を書いてほしいのですが、読み書きは出来ますか?」



 全てを理解するのに三十秒ほどかかっただろうか。

 誰だよ、いかにもおとなしめって言ったのは………!。

 口から生まれたのか!?

 こちらが聞こうとしてたところを先回りしてしゃべる。俺の行動も把握してるあたり、洞察力に関しては申し分ない。

 ただ、もう少し間をおいて欲しい。五月雨の如くしゃべる猛攻に俺の気力が持たん。

「一応一通り書けますよ」

「おや、珍しいですね。ご実家は何を?」

 そう言いながら書類をこちらに渡す。この国では識字率はあまり高くない。町中にいる子供も書けるのはごく一部だろう。大人でも書けないのは沢山いる。経済的に発展しても書物は平均で二十万ウォルス。とても庶民がそうやすやすと買える値段ではない。

「辺境の小さい村にある魔術師です。兄が継いだので私は実家からでて一旗あげようかと思ったんです」

 経歴詐称だがこの際仕方ない、本当の事を話したら素性がばれて連行されてしまう。

「そうですか、では書類を書いてくださいね。時間はまだまだありますのでゆっくりで良いですよ」

 紙には名前、性別、特技、出身地など基本的な質問事項が並んでいた。そう時間もかからずに終わり、受付嬢に渡すと、

「はい、これで大丈夫です。では次に、仕事の説明をさせて頂きますね、大事な話もありますので面接室に行きましょうか、あ、ツバキちゃーん。面接室の三号室の鍵ちょーだーいっ!」

 すると、奥から黒髪ロングの小さい子が出てきて、

「ナツメうるさい」

 眠り眼で目を擦り、鋭利な声で呟きながら鍵を渡した。

「グス、ツバキちゃーん、おねぇちゃんに冷たくしないでよぉ。家じゃあんなになついてく………」

「うるさい」

「はい……………」

 ナツメさんがしゅんとなった。地面に座り込んで指で地面をなぞり始めたが、当の妹は、

「すぐ戻るよ、いつもこうだから」
 と言いあくびをしながら奥に戻っていった。

「………」

「………」

「お待たせしました、じゃあ行きましょうか、案内しますのでついてきてくださいね♪」

「あっ、はい」

 すぐ戻ったよ、切り替え早いな。

 一度中央のホールに戻り、その奥にある部屋の一つに入る。何故か高い位置に窓があり、鉄格子がついていた。落ち着かないが、座ったらすぐにさっきの査察官も入ってきた。俺なんかやらかしたのか!?

「そんなに緊張しなくても良いですよ、ただの立会人ですから」

 いやするよ、あんた怪力らしいし。何で帯刀してるの!?

 やましいことは何もしてないけど……。いや、したがあれは必要悪だ!

「これからお話しすることは先ほど申し上げた通り、仕事についてです。始めに雇用形態ですが、基本的に我々が仲介する仕事は単発の仕事です。あなたはまだここに来て日が短いので失礼ながらべネット商会の信用を得てません。なので始めはそこまで重要でない仕事しか任せられませんがそこは覚悟してください」

 先ほどとは違い、ナツメさんは真剣な表情で俺の両目を覗いてくる。

「分かりました」

 無理もない。人の信用を貰うためにはそれだけ功績がないといけないからな。俺の場合、大きな仕事をすればまずいから重要な仕事は避けよう。

「報酬は我々を通じて渡す仕組みなので仕事が終了したらギルドへ戻ってくださいね。受け渡し方法は二種類ありまして、現金でそのままもらうか、銀行業を営んでるギルドの口座に預けるかのどちらかになりますがいかがいたしましょう?」

「恥ずかしながら手持ちが少ないので現金の受け渡しでお願いします」

「かしこまりました、それではこちらをお持ちください、登録証と通帳です。身分証にも使われるのでくれぐれもなくさないようにしてくださいね」

 そう言いながら商会の刻印が押されているポケットに入るくらいの厚紙と羊皮紙を組み合わせたカードと通帳を渡してきた。

「以上で説明は終わりです。長い間ありがとうございました」

 ドアを開けて査察官と俺を退出させる。ギルドの入口にある窓から太陽が見え、来たときから随分時間が経ったと告げている。受付嬢と査察官は既に元の定位置に戻っていた。

 さて明日から頑張るか。

 ギルドを出てそのまま宿に戻る道を歩きだした。

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