39 / 190
新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌
平和的な生活 6
しおりを挟む
カラスのなく夕暮れ頃に、待ちに待った開放の瞬間にやっと巡り会えた。
よっぽど嫌いな相手だと、よくわかったよ、カレンさん。人よりも記憶力が高い俺は右から左に聞き流しても何となく残ってしまう利点にも欠点にもなる才能に恵まれている。今回はデメリットでした。
ただ延々とカレンの呪詛を聞いて一日の大半を終えた俺はもう疲労困憊で、体力の限界を越えたので風呂屋で汗を流したら寝ることにした。向こうもストレス発散したからか、なにやらハミングとスキップをしながら帰宅していったのであった。
翌朝早朝、写本と原本を納品し、次の仕事を受理するためギルドにて手続きを行って今に至るのだが、
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「あのぅ…………ナツメさん?」
「……ハイ…ダイジョウブ……デス………」
ナツメさんの目が死んでいた………。何より目の下のクマがすごいことに。反射的に受け答えしたものの、明らかに思考を停止させている。書類を持ったまま固まっていた。
「えぇと、仕事を受けたいんですが……」
「ダイジョウブ…………ダイジョウブ…………」
いかん、会話にならなくてらちがあかない。どうしようかと思案していると、
「ナツメ、代わるから奥で寝てなさいよ」
ツバキちゃん登場。ナツメさんはそれを聞いて、
「ハイ……………………」
一向に動かなかった。
「ごめん、ちょっとナツメ寝かせてくる」
茫然自失のナツメさんを引き連れ、天使は羽ばたいて行った。
そして舞い降りて来た。
「おまたせ」
「なぁ、ツバキちゃん。ナツメさんどうしたの?」
「アレクスター王国討伐に派遣した傭兵達の分の書類手続き。四人が担当だったんだけど過労で二人倒れちゃって…………。連日徹夜してようやく片付いたんだって」
「それでなんで休みがないのかな」
「え? 今日はナツメの出勤日だからだよ」
さも当然と答えるツバキちゃん。
ブラック。まさにブラック。べネット商会とは時間外労働をしても何もないかくも恐ろしい組織なのか…………。盗賊退治報告の時もナツメさんやつれてたな。今日ほどじゃなかったけど。
「それで、今日はどの仕事にするの?」
五枚の書類が並べられた。
「どれどれ、町中のごみ拾い、エイドマッシュルーム集め、チラシ配り、土木作業、裁縫。裁縫? 写本はないのか」
内職ではあるが写本がない。どういうことだ。
「なんかこの前、自分は偉大な詩人だとか豪語してる帽子を被った頭のおかしい人が根こそぎ受注してたよ。詩人協会で作った身分証明書は既に持ってた上に、そこまでわるそうな人に見えなかったし、写本専門でいいらしいから多目に頼んだんだよ。えぇと、…………あった! 二十件引き受けてる」
奪われた。俺が仕事を教えたばっかりに。二十件ってなに、そんなに写本する暇があるならせめて半分にして本業に集中してほしかった。俺の貴重な収入源がぁぁぁっ!
だがいつまでも考えている暇もない。こうなったら、
「じゃあエイドマッシュルーム集めで」
「あれ、てっきりチラシ配りやるかと思った。体の負傷からして」
不思議そうに首を傾げるツバキちゃん。
無理もない。あれだけの深傷を負いながら本当、不思議な事にもう完治しているのだから。
「たぶん治癒薬のお陰かな」
「でも前回のエイドマッシュルームの依頼で盗賊に遭遇したんでしょ? 今回はやめたらどう?」
「なんだ、心配してくれるのか?」
ふざけた調子で言うと、
「ち、違うし! あんたが死んだらナツメ怒られるし、私のマルドラフ相手がいなくなっちゃうからよ! べ、別にあんたがどうなろうと知ったこっちゃないんだからぁ!!!」
口ではあぁいってるけど本当は心配してくれてるんだなぁ。
「大丈夫! 今回は同じ失敗は繰り返さないよ」
「ならいいんだけど…………」
そう、俺には算段がある。ギルドとは別の収入源を開拓するためのな。
そのためにも残り六日のリミットでいかにより多く稼ぐか検証する必要があった。
よっぽど嫌いな相手だと、よくわかったよ、カレンさん。人よりも記憶力が高い俺は右から左に聞き流しても何となく残ってしまう利点にも欠点にもなる才能に恵まれている。今回はデメリットでした。
ただ延々とカレンの呪詛を聞いて一日の大半を終えた俺はもう疲労困憊で、体力の限界を越えたので風呂屋で汗を流したら寝ることにした。向こうもストレス発散したからか、なにやらハミングとスキップをしながら帰宅していったのであった。
翌朝早朝、写本と原本を納品し、次の仕事を受理するためギルドにて手続きを行って今に至るのだが、
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「あのぅ…………ナツメさん?」
「……ハイ…ダイジョウブ……デス………」
ナツメさんの目が死んでいた………。何より目の下のクマがすごいことに。反射的に受け答えしたものの、明らかに思考を停止させている。書類を持ったまま固まっていた。
「えぇと、仕事を受けたいんですが……」
「ダイジョウブ…………ダイジョウブ…………」
いかん、会話にならなくてらちがあかない。どうしようかと思案していると、
「ナツメ、代わるから奥で寝てなさいよ」
ツバキちゃん登場。ナツメさんはそれを聞いて、
「ハイ……………………」
一向に動かなかった。
「ごめん、ちょっとナツメ寝かせてくる」
茫然自失のナツメさんを引き連れ、天使は羽ばたいて行った。
そして舞い降りて来た。
「おまたせ」
「なぁ、ツバキちゃん。ナツメさんどうしたの?」
「アレクスター王国討伐に派遣した傭兵達の分の書類手続き。四人が担当だったんだけど過労で二人倒れちゃって…………。連日徹夜してようやく片付いたんだって」
「それでなんで休みがないのかな」
「え? 今日はナツメの出勤日だからだよ」
さも当然と答えるツバキちゃん。
ブラック。まさにブラック。べネット商会とは時間外労働をしても何もないかくも恐ろしい組織なのか…………。盗賊退治報告の時もナツメさんやつれてたな。今日ほどじゃなかったけど。
「それで、今日はどの仕事にするの?」
五枚の書類が並べられた。
「どれどれ、町中のごみ拾い、エイドマッシュルーム集め、チラシ配り、土木作業、裁縫。裁縫? 写本はないのか」
内職ではあるが写本がない。どういうことだ。
「なんかこの前、自分は偉大な詩人だとか豪語してる帽子を被った頭のおかしい人が根こそぎ受注してたよ。詩人協会で作った身分証明書は既に持ってた上に、そこまでわるそうな人に見えなかったし、写本専門でいいらしいから多目に頼んだんだよ。えぇと、…………あった! 二十件引き受けてる」
奪われた。俺が仕事を教えたばっかりに。二十件ってなに、そんなに写本する暇があるならせめて半分にして本業に集中してほしかった。俺の貴重な収入源がぁぁぁっ!
だがいつまでも考えている暇もない。こうなったら、
「じゃあエイドマッシュルーム集めで」
「あれ、てっきりチラシ配りやるかと思った。体の負傷からして」
不思議そうに首を傾げるツバキちゃん。
無理もない。あれだけの深傷を負いながら本当、不思議な事にもう完治しているのだから。
「たぶん治癒薬のお陰かな」
「でも前回のエイドマッシュルームの依頼で盗賊に遭遇したんでしょ? 今回はやめたらどう?」
「なんだ、心配してくれるのか?」
ふざけた調子で言うと、
「ち、違うし! あんたが死んだらナツメ怒られるし、私のマルドラフ相手がいなくなっちゃうからよ! べ、別にあんたがどうなろうと知ったこっちゃないんだからぁ!!!」
口ではあぁいってるけど本当は心配してくれてるんだなぁ。
「大丈夫! 今回は同じ失敗は繰り返さないよ」
「ならいいんだけど…………」
そう、俺には算段がある。ギルドとは別の収入源を開拓するためのな。
そのためにも残り六日のリミットでいかにより多く稼ぐか検証する必要があった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
52
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる