断罪のアベル

都沢むくどり

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新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌

ファルネーの戦い 3

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 ブラムは主人のお言葉を、アレクスター王国に伝えるため、すぐさま馬を走らせた。

「『レイ・プロテクティオ』…………」

 力なく詠唱後、すぐに宝玉のごとき、澄んだ光沢のある水色の障壁をブラムと愛馬を守る様に前方に展開される。

 (使者とは難しいものだ。言葉に対して武器が飛んでくる。自分より前に閣下の使者用に仕えていたバリバリの文官タイプであった父は、交渉術では人に長けていたものの、魔術が使えず、運動音痴だった。
そのせいで二年前、はるか東に位置するなエルフ達の森での戦いで、後ろから矢で狙撃されて呆気なく死んだ。苦しさに喘ぎ、敵に命乞いする醜態。あんな無様な死に様だけはさらしたくない。俺はあいつとは違う! あぁ、思い出したくないことを思い出してしまった…………)

 とため息をこぼしながら思う。

 ちなみにここでのエルフとの戦いがあった森は、区画を八等分したベルギウス森林群とは別で、帝都であるベルギウスから東北の方角で迂回し、どんどん東に言った先にある。極東に位置する辺境伯領と帝都の中間地点辺りの距離が妥当か。

(とにかく、命令通りにやる。俺にはそれが一番楽な生き方だ…………)

 そして城門前にて止まる。

「…………ベルギウス帝国の使者として、降伏勧告を通達しに来た。今すぐ降伏すれば、命だけは助けてやる…………。答えるまで、10分待つ。城門を開けろ…………」

 やる気の無さそうな声でありながら、城の中まで届くくらいの大きな声。

(ただし、男は乳飲み子含めて皆殺し。女は兵士の慰み者として、それからは保証できない。子供は物心ついてない幼い女のみ後々の奴隷として生かすがな………)

 これは決して彼の意見ではなく、主人のユリアスの意思である、いや貴族ならほとんど同じことをするだろう。

 商人でない金持ち、特に貴族は、今ある土地や資産、領民から搾取した収入を投資に使うことを極端に恐れている。先祖代々続く収入源に甘んじて自己生産能力を持っていないからだ。そして生活が圧迫され始めた時に必ずと言ってやること。それは、領民を酷使して無理矢理生産物を税で取り上げたり、土地を切り売りしたり。

 そのなかでも貴族にとっての最大収入は、


 戦争だ。勝つか負けるかのギャンブルではあるが、物資の略奪、女子供をさらって売り飛ばしたりとやりたい放題である。ベルギウス帝国とアレクスター王国は種族こそ同じ真人ヒューマ厶だが、民族は違う。彼らにとって、他民族は同等と見てないため、このような家畜扱いさえなんとも思わないのだ。

 本来なら法の名のもと、禁止されてる行為であるが、戦時下なら国が承認する皮肉。理由は言わずもがな。

 村を焼けば、食料生産を減らせるし、町を占領すれば、経済に打撃を与えられる。都市を落としてしまえばすべての産業に大打撃を与えれる。まさに願ったり叶ったり。

 ユリアスは今回、利益目的よりも、功績が欲しいようだが、副産物としてそちらも期待してるかもしれない。



 ちょうど10分経って、城門が開門される。
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