1 / 76
プロローグ
プロローグ
しおりを挟む
“どうせ、夢なんて叶うわけねーよ”
ある日の昼休み。クラスメイトの誰かが言ったこの一言に、俺はそりゃそうだよなと心の中で同意した。
将来の目標。将来の夢。
もちろん、それらを掲げて見事に達成する人間がこの世にいることはわかってる。
だけど、そんなのはごく一部の、それこそ何かが人並外れた才能とか、あるいは強運とか、生まれつき環境や人脈に恵まれていたりする、そんな人間だけが享受できる特別なものでしかない、凡人には正に夢の話だ。
机の上に左腕で頬杖をつきながら文庫本を読んでいた俺は、そんなことを考えながらさり気なく教室内を一瞥する。
今ここにいるクラスメイトの何人が、夢や目標を叶える人生を手にするのか。
無難に就職できればそれで良い、卒業したらずっと行きたかった有名なテーマパークへ遊びに行きたいみたいな、無難で比較的イージーな目標くらいなら、誰でも達成はできるだろう。
だけど、到達が困難なゴールを設定すれば当然、難易度は爆上がりになる。
オリンピックに出たい。超優秀なプログラマーになりたい。大企業の経営者になりたい。
そんな大きな夢を実現できる人間なんて、この世にいるのは何パーセントくらいなのか。
追うだけ無駄。やるだけ無駄。
世の中の大半が、そう思い割り切ってしまうのはある意味で必然であり、仕方のないことなのかもしれない。
だけど――。
――確かに叶わないのかもしれないけど、それでも挑戦するのはワクワクするんだよな。
俺にも一応夢はある。だけど、何もしないまま諦めるなんて考えはない。
例え十中八九、いや、それ以上の確率で無理だとしても、可能性がゼロじゃないなら自分の夢に挑戦したい。
夢なんてどうせ叶わない。その気持ちは、滅茶苦茶共感できる。
でも、その到底不可能な未来をもし、自分のこのちっぽけな手で実現できたら。
そう考えると、ジッとなんてしていられない。
それが俺の性格だし、そして。
「おはよう、才樹」
「ああ、おはよう」
名前を呼ぶ声に、俺は文庫本へ落としていた視線を上へ向ける。
そこにいたのは、小さい頃から一緒に育ってきた幼馴染の姿があった。
「今日は何読んでるの?」
俺と同じく小説が好きで、物心ついたときには共に小説家を目指す仲間となっていた気心の知れたライバル。
彼女――星咲妃夏もまた、俺と同様……いや、それ以上に夢を追うことに夢中で生きる眩しい存在で、読むことも書くことも、未来への情熱も全て、今の俺じゃ敵わない存在だった。
「村川重樹の新刊。昨日学校の帰りに買ったんだ」
「え!? うそ、もう買ったの? うわ、あたしまだ買えてない。他の本買い過ぎて、財布の中身がもう底を……」
「そうか。悲惨だな」
「その軽い言い方……他人事だと思って」
「今日中に読み終わっちゃうと思うけど、明日にでも貸そうか?」
「ううん、遠慮する。ちゃんと自分で買いたい」
俺の親切心を、丁重に断りにんまりと妃夏は笑う。
「そっか。じゃあ、それまでにいっぱいネタバレしてやるからな。楽しみにしとけよ?」
「はぁ? しても良いけど、それやったら才樹の原稿データ、全部削除するからね? 楽しみにしてて?」
「それはお前、えげつないにも程が……」
「お互い様でしょ」
毎日のように飽きることなく繰り返される他愛のない会話に、俺と妃夏は笑い合う。
自分たちの好きなことについて気兼ねなく話せる仲間たちとの、何気ないけど恵まれた日常。
そんな当たり前のように過ぎていく時間の中で、俺たちはこれからそれぞれの未来を揺らがせる細やかで深刻な、夢を持ってしまったが故にぶつかる葛藤を間近で見ることに、このときはまだ気づくことなんてできなかった。
ある日の昼休み。クラスメイトの誰かが言ったこの一言に、俺はそりゃそうだよなと心の中で同意した。
将来の目標。将来の夢。
もちろん、それらを掲げて見事に達成する人間がこの世にいることはわかってる。
だけど、そんなのはごく一部の、それこそ何かが人並外れた才能とか、あるいは強運とか、生まれつき環境や人脈に恵まれていたりする、そんな人間だけが享受できる特別なものでしかない、凡人には正に夢の話だ。
机の上に左腕で頬杖をつきながら文庫本を読んでいた俺は、そんなことを考えながらさり気なく教室内を一瞥する。
今ここにいるクラスメイトの何人が、夢や目標を叶える人生を手にするのか。
無難に就職できればそれで良い、卒業したらずっと行きたかった有名なテーマパークへ遊びに行きたいみたいな、無難で比較的イージーな目標くらいなら、誰でも達成はできるだろう。
だけど、到達が困難なゴールを設定すれば当然、難易度は爆上がりになる。
オリンピックに出たい。超優秀なプログラマーになりたい。大企業の経営者になりたい。
そんな大きな夢を実現できる人間なんて、この世にいるのは何パーセントくらいなのか。
追うだけ無駄。やるだけ無駄。
世の中の大半が、そう思い割り切ってしまうのはある意味で必然であり、仕方のないことなのかもしれない。
だけど――。
――確かに叶わないのかもしれないけど、それでも挑戦するのはワクワクするんだよな。
俺にも一応夢はある。だけど、何もしないまま諦めるなんて考えはない。
例え十中八九、いや、それ以上の確率で無理だとしても、可能性がゼロじゃないなら自分の夢に挑戦したい。
夢なんてどうせ叶わない。その気持ちは、滅茶苦茶共感できる。
でも、その到底不可能な未来をもし、自分のこのちっぽけな手で実現できたら。
そう考えると、ジッとなんてしていられない。
それが俺の性格だし、そして。
「おはよう、才樹」
「ああ、おはよう」
名前を呼ぶ声に、俺は文庫本へ落としていた視線を上へ向ける。
そこにいたのは、小さい頃から一緒に育ってきた幼馴染の姿があった。
「今日は何読んでるの?」
俺と同じく小説が好きで、物心ついたときには共に小説家を目指す仲間となっていた気心の知れたライバル。
彼女――星咲妃夏もまた、俺と同様……いや、それ以上に夢を追うことに夢中で生きる眩しい存在で、読むことも書くことも、未来への情熱も全て、今の俺じゃ敵わない存在だった。
「村川重樹の新刊。昨日学校の帰りに買ったんだ」
「え!? うそ、もう買ったの? うわ、あたしまだ買えてない。他の本買い過ぎて、財布の中身がもう底を……」
「そうか。悲惨だな」
「その軽い言い方……他人事だと思って」
「今日中に読み終わっちゃうと思うけど、明日にでも貸そうか?」
「ううん、遠慮する。ちゃんと自分で買いたい」
俺の親切心を、丁重に断りにんまりと妃夏は笑う。
「そっか。じゃあ、それまでにいっぱいネタバレしてやるからな。楽しみにしとけよ?」
「はぁ? しても良いけど、それやったら才樹の原稿データ、全部削除するからね? 楽しみにしてて?」
「それはお前、えげつないにも程が……」
「お互い様でしょ」
毎日のように飽きることなく繰り返される他愛のない会話に、俺と妃夏は笑い合う。
自分たちの好きなことについて気兼ねなく話せる仲間たちとの、何気ないけど恵まれた日常。
そんな当たり前のように過ぎていく時間の中で、俺たちはこれからそれぞれの未来を揺らがせる細やかで深刻な、夢を持ってしまったが故にぶつかる葛藤を間近で見ることに、このときはまだ気づくことなんてできなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
負けヒロインに花束を!
遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。
葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。
その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる