遠い空のデネブ

雪鳴月彦

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第四章:決壊する絆

決壊する絆 6

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「そんな照れることないですよ、守草先輩。星咲先輩の言ってることは正しいですし。わたしも、前に書いた詩を読んでもらったとき、参考になるアドバイスを何度かしてもらえて嬉しかったですし。ありがたい存在です」

 妃夏に便乗し、お地蔵様を拝むような仕草をしながら泉が言う。

「そうだよね、ありがたいよね」

 それを見た妃夏も守草を拝み始めたため、流れに乗るべきと判断した俺もひとまず黙って守草へ手を合わせておいた。

「何なの、みんなして。休み明けでおかしくなってる?」

 からかう俺たちを見回す守草と一緒になって笑い合い、今日の活動はこの辺で終わりにしようかという雰囲気になったタイミングで、校内にチャイムが鳴り響いた。

「今日はそろそろ帰ろっか?」

 時計を見上げた妃夏が、誰にともなく問いかける。

「そうですね。やっぱり、先輩たちと一緒にいると時間が経つの早く感じます。冬休みも良いですけど、誰かと一緒に創作ができる空間があるって、恵まれてるんだなぁってしみじみ思いましたよ」

「そうだよ、一人より大勢で協力し合えた方が楽しいのは当たり前じゃん」

 泉が告げた何気ない言葉に、妃夏が当然だという風に満面の笑みで応じる。そして――。

「だから、九条先輩にも進学のこととか色々落ち着いたら、また一緒に活動してほしいよね。一緒にいられる時間が限られてるから、なおさら」

 さも当然というくらい自然に、九条先輩の名を口に出す。

「……そうだな」

 そんな妃夏の仲間を想う気持ちに、俺と泉そして守草全員が同意し強く頷きお互いに視線を交わし合う。

 進学も就職も、人生においては絶対的と言えるくらいに大切なイベントだろう。それは間違いない。

 だけど、それだけを理由に創作を、物作りをしたいという気持ちを消してほしくはない。

 そういう想いを持つメンバーだからこそ、こういう瞬間に意見は一致する。

 改めて、俺は妃夏はもちろん泉も守草も出会えて良かった仲間だと実感することができた。



「…………」

 だけどこのとき、和気あいあいと談笑し頷き合う俺たちを静かに見つめていた有野先生の表情が、露骨に悲しみを帯びたものへと変容しているという違和感には、誰一人として気がつくことはできずにいた。
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