遠い空のデネブ

雪鳴月彦

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第四章:決壊する絆

決壊する絆 12

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「詩季、いい加減に夕飯食べちゃいなさい。具合でも悪いの?」

 部屋の外から、私を心配するお母さんの声が聞こえてきた。

 時刻は夜の九時半。学校が終わって家に帰ってきてからずっと、私は部屋に閉じこもり続けている。

 親と喧嘩をしたというわけではないし、具合が悪いわけでもない。

 ――いや。

 ある意味では悪いと言えるだろうか。

 体調ではなく、精神面がズタズタになってしまっているのを、嫌でも自覚できてしまう。

 今日は朝からずっと、落ち着かない時間を過ごしていた。

 応募した小説賞の、中間発表。

 そのことで頭がいっぱいで、授業の内容もほとんど覚えていない。

 学校で結果を見るのは嫌だったため、家に帰るまではひたすらサイトページにアクセスしないよう我慢を続けた。

 そうして、帰宅してすぐ。真っ直ぐに自室へと向かい、気もそぞろにスマホで中間結果を確認した私は、その場で無気力になり座り込んでしまった。

 最終選考に残っていた作品は、十二作品。

 その中に、私が書いた小説は一作も含まれてはいなかった。

 想定外。その一言が、真っ先に頭に浮かんだ。

 これまでで一番、自信を持って応募した作品だった。

 少なくとも、最終選考には一作くらいなら残れると確信に近い思いを抱いていた。

 それが全て、あまりにもあっけなく無になってしまった。

 そして何よりも。

 ここで結果を残せなかった以上、創作活動を終わりにしなくてはいけないという、お父さんとの約束。

 この先の人生、私はもう創作には打ち込めない。

 作家を生業としているお父さんは、あまり私が小説家を目指すことが無謀であると、こういう結末を始めから見抜いていたのだろうか。

 ――そもそも、私には才能がなかったのかな。

 これだけ書いてきて、未だに成功の兆しも見られない。

 後輩にすら先を越されるような体たらくでは、お父さんの言う通り私の夢を追う人生はここが潮時と潔く受け入れることが幸せなのか。

「……あ」

 そこで、私は今日が星咲さんが最終選考に残った賞も結果発表だったことを思い出した。

 彼女は、どうなったのだろう。

 万が一にも、受賞を果たしている結果を目の当りにしたら……。

 他人事と割り切り、見ない方が精神衛生上は良いにきまっている。

 そう思う気持ちと同時に、怖いもの見たさに似た感情も湧き上がる。

 床に放置していたスマホをそっと拾い電源ボタンを押した私は、少なくとも今はやめておくべきだと告げてくる本能を意識しつつ、最終結果が載せられたページへとアクセスしてしまった。

 意味もなく、心臓の鼓動が速くなる。

 見たくないモノとわかっていて見てしまう直前の、言葉に言い表せない複雑な感情を抱きながら、慎重に画面をスクロールさせ表示された結果を確認していく。

「…………」

 そうして、大賞から佳作までの全てを見終えた私は、無意識に深いため息を吐き出し、無意識のまま緊張していたらしい身体を弛緩させた。
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