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第四章:決壊する絆
決壊する絆 17
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問題を抱えている当事者である九条先輩にとっては、お節介に受け取れる言葉なのかもしれないが、それでも俺は妃夏の言うことは正論だと思えた。
犯罪やよほどモラルに反した行為ででもない限り、自分がやりたいと思うことを他人の意見で押し潰してしまう必要なんてどこにもない。
だからこそ、九条先輩の不本意に夢を諦めた態度は、妃夏にとっても見過ごせないこととして映ったのだろう。
どんなかたちであれ、また創作に復帰してほしいという妃夏の、そして俺たちメンバーの想いを理解し考えを改めてくれたら――。
そんな淡い期待で全員が見つめる中、九条先輩はフッと鼻で笑うような仕草をすると、まるで嫌なものを見るような視線を妃夏へ向けた。
「ありがとう、星咲さん。でも、そういう綺麗事は星咲さんが自由な環境に身を置いているから言えることよ? この世の人たち全員が、自分の思い通りに未来を選べるわけじゃない。それに、星咲さんは才能があるみたいだから、気持ちにも余裕があるんじゃないかしら?」
「才能って……そんなの、みんな同じじゃないですか。九条先輩だって充分に――」
「同じじゃないわよ」
まさかの拒絶を滲ませた九条先輩の反応に、若干怯みながら言葉を返そうとした妃夏だったが、それを遮って九条先輩の否定の声が重なった。
「全然、同じじゃないわ。才能だって、不条理なくらい十人十色。周りの人たち以上に必死になって努力をし続けても、結果を残せない人間はいくらでもいる。努力なんてする必要もなく、あっさりと夢を叶える人もいる。これが同じなの?」
「……いえ、あたしが言いたいのはそういうことじゃなくて。簡単に夢を叶える人がいるとか、苦労をしても思うような結果がなかなか出ないとか、そういう部分を気にするのって意味がないですよ」
「それじゃあ、星咲さんは自分が落選したことを全く気にしていないの?」
「……それはまぁ、がっかりはしましたよ。でも、見方を変えればこれまでで一番の結果を残せたわけだし、良い経験になったから良かったなって思ってます。またこれから頑張ればいいだけですし」
嘘も謙遜もない本心の言葉だというように、妃夏ははっきりとそう断言する。
「そう。それじゃあ、星咲さんはその気持ちを大切にして、これからも頑張るといいわ。私はもう帰るわね。何だか、ここではもう場違いな存在になっちゃったみたいだし」
「え?」
「邪魔をしてごめんなさい。みんな、頑張ってね」
「あ、ちょっと……九条先輩?」
慌てて引き留めようと腰を上げる俺には目もくれず、九条先輩は鞄を手に取り立ち上がると、俺たち全員へ小さく手を振り部室から出ていってしまった。
「どうしちゃったんだろう、九条先輩」
「何だか、前と随分雰囲気が変わりましたよね? 勉強のストレスでしょうか……」
九条先輩の出て行ったドアを見つめたまま、守草と泉が戸惑った声音で囁き合う。
「九条先輩、思ってたより深刻な状況になってるんじゃないか?」
そんな二人の声を耳に入れつつ、俺は妃夏へ話しかける。
「うん。あたし、ちょっと追いかけてくる」
「は?」
「だって、嫌でしょ? こんな終わり方。あたしは納得できないよ」
決意したように一人で力強く頷くと、妃夏はすぐに立ち上がり九条先輩が出て行ったばかりのドアを開け、廊下へと駆けだしていってしまった。
「……大丈夫だろうな」
呼び止める暇も与えらず、ポカンとする他の二人と顔を見合わせるだけの俺を置いて、妃夏の足音は静かな廊下に響きながら徐々に遠ざかっていった。
犯罪やよほどモラルに反した行為ででもない限り、自分がやりたいと思うことを他人の意見で押し潰してしまう必要なんてどこにもない。
だからこそ、九条先輩の不本意に夢を諦めた態度は、妃夏にとっても見過ごせないこととして映ったのだろう。
どんなかたちであれ、また創作に復帰してほしいという妃夏の、そして俺たちメンバーの想いを理解し考えを改めてくれたら――。
そんな淡い期待で全員が見つめる中、九条先輩はフッと鼻で笑うような仕草をすると、まるで嫌なものを見るような視線を妃夏へ向けた。
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「才能って……そんなの、みんな同じじゃないですか。九条先輩だって充分に――」
「同じじゃないわよ」
まさかの拒絶を滲ませた九条先輩の反応に、若干怯みながら言葉を返そうとした妃夏だったが、それを遮って九条先輩の否定の声が重なった。
「全然、同じじゃないわ。才能だって、不条理なくらい十人十色。周りの人たち以上に必死になって努力をし続けても、結果を残せない人間はいくらでもいる。努力なんてする必要もなく、あっさりと夢を叶える人もいる。これが同じなの?」
「……いえ、あたしが言いたいのはそういうことじゃなくて。簡単に夢を叶える人がいるとか、苦労をしても思うような結果がなかなか出ないとか、そういう部分を気にするのって意味がないですよ」
「それじゃあ、星咲さんは自分が落選したことを全く気にしていないの?」
「……それはまぁ、がっかりはしましたよ。でも、見方を変えればこれまでで一番の結果を残せたわけだし、良い経験になったから良かったなって思ってます。またこれから頑張ればいいだけですし」
嘘も謙遜もない本心の言葉だというように、妃夏ははっきりとそう断言する。
「そう。それじゃあ、星咲さんはその気持ちを大切にして、これからも頑張るといいわ。私はもう帰るわね。何だか、ここではもう場違いな存在になっちゃったみたいだし」
「え?」
「邪魔をしてごめんなさい。みんな、頑張ってね」
「あ、ちょっと……九条先輩?」
慌てて引き留めようと腰を上げる俺には目もくれず、九条先輩は鞄を手に取り立ち上がると、俺たち全員へ小さく手を振り部室から出ていってしまった。
「どうしちゃったんだろう、九条先輩」
「何だか、前と随分雰囲気が変わりましたよね? 勉強のストレスでしょうか……」
九条先輩の出て行ったドアを見つめたまま、守草と泉が戸惑った声音で囁き合う。
「九条先輩、思ってたより深刻な状況になってるんじゃないか?」
そんな二人の声を耳に入れつつ、俺は妃夏へ話しかける。
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「だって、嫌でしょ? こんな終わり方。あたしは納得できないよ」
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