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第五章:未来への兆し
未来への兆し 18
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当然、誤解を解こうと私も真摯に詩季と向き合ったが、お互いの意見や考えがうまく噛み合わず、長時間に渡る話し合いの末に、最低限だけは私の意見を尊重するが基本的には自分のやりたいことを続けていくという、詩季の意見を受け入れるかたちで話はまとまった。
これに対して私も、結果的にはそこまで悪い結論だとは思っていない。
詩季自身も、将来において無難に進学と就職をしておくことの重要性は理解してくれているようではあったし、そこを見誤らないのであれば、詩季の言う通り自分の人生を自分の意志で選択するというのは、当然の権利であることは間違いない。
――娘にあそこまでの影響を与える友人、または教師がいたのだろうか。
だとすれば、詩季はとても良い人間環境に恵まれていたという証明だ。
娘と揉めてしまったことは残念だが、自分にも非がある以上は責められないし、どのようなことがあったにせよ、私の親としての不器用さが詩季の成長するきっかけに使われてくれたのなら、救いはあったとも思える。
「お父さん、今日は食べるの遅くありません? 詩季が良くなったと思ったら、今度はお父さんが悩み事でもできたんですか?」
「ん? いや、考え事をしていただけだ。詩季のおかげで、私も色々と学ばせてもらったなと思ってな」
「えぇ? 何です急に。気持ち悪いこと言い出して」
「気持ち悪い……。そんな言い方はないだろう。本当のことだ。詩季ももう、いつまでも子供ではないんだなと今更ながらに実感させられたよ」
眉を顰め、おかしなものを見るような眼差しを向けてくる妻へ肩を竦めつつそう告げて、私はしみじみとした気持ちで口元を緩める。
「そんなこと、当たり前じゃないですか。あの子もう今年で高校を卒業するんですから、いつまでも子ども扱いしている方がおかしいんですよ」
「……そうか。そうだな」
同じ親でありながら、常に隣に付き添ってくれてきた妻ですらわかっているような簡単なことを、このタイミングまでわからずにいた自分が情けない。
執筆にばかり追われ、家族の時間を――娘に構ってやる時間をほとんど取れずに生きてきた人間の欠陥が、露呈するべくしてしたということなのだろうと自己分析し、私は胸中で反省をする。
「これからは、詩季の生き方をもっと尊重した上で、あの子にできる助けをしていこう」
父親として、そして一人の小説家として。
この先、何度となく訪れるであろう人生の節目に、詩季がどのような選択肢を選んで生きていくにせよ、自分にできる理解と助言を。
「え? 何か言いました?」
ポツリとこぼした私の呟きに、また味噌汁へ口をつけようとしていた妻が反応し顔を上げてくる。
「いや、何でもない。ただの独り言だ。食事が終わったら、また書斎に籠る。明日中に済ませたい原稿があるんだ」
そんな伴侶へ薄く笑いながらそう言葉を返し、私は夕食の残りを片付けることに専念した。
これに対して私も、結果的にはそこまで悪い結論だとは思っていない。
詩季自身も、将来において無難に進学と就職をしておくことの重要性は理解してくれているようではあったし、そこを見誤らないのであれば、詩季の言う通り自分の人生を自分の意志で選択するというのは、当然の権利であることは間違いない。
――娘にあそこまでの影響を与える友人、または教師がいたのだろうか。
だとすれば、詩季はとても良い人間環境に恵まれていたという証明だ。
娘と揉めてしまったことは残念だが、自分にも非がある以上は責められないし、どのようなことがあったにせよ、私の親としての不器用さが詩季の成長するきっかけに使われてくれたのなら、救いはあったとも思える。
「お父さん、今日は食べるの遅くありません? 詩季が良くなったと思ったら、今度はお父さんが悩み事でもできたんですか?」
「ん? いや、考え事をしていただけだ。詩季のおかげで、私も色々と学ばせてもらったなと思ってな」
「えぇ? 何です急に。気持ち悪いこと言い出して」
「気持ち悪い……。そんな言い方はないだろう。本当のことだ。詩季ももう、いつまでも子供ではないんだなと今更ながらに実感させられたよ」
眉を顰め、おかしなものを見るような眼差しを向けてくる妻へ肩を竦めつつそう告げて、私はしみじみとした気持ちで口元を緩める。
「そんなこと、当たり前じゃないですか。あの子もう今年で高校を卒業するんですから、いつまでも子ども扱いしている方がおかしいんですよ」
「……そうか。そうだな」
同じ親でありながら、常に隣に付き添ってくれてきた妻ですらわかっているような簡単なことを、このタイミングまでわからずにいた自分が情けない。
執筆にばかり追われ、家族の時間を――娘に構ってやる時間をほとんど取れずに生きてきた人間の欠陥が、露呈するべくしてしたということなのだろうと自己分析し、私は胸中で反省をする。
「これからは、詩季の生き方をもっと尊重した上で、あの子にできる助けをしていこう」
父親として、そして一人の小説家として。
この先、何度となく訪れるであろう人生の節目に、詩季がどのような選択肢を選んで生きていくにせよ、自分にできる理解と助言を。
「え? 何か言いました?」
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「いや、何でもない。ただの独り言だ。食事が終わったら、また書斎に籠る。明日中に済ませたい原稿があるんだ」
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