遠い空のデネブ

雪鳴月彦

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エピローグ

エピローグ 8

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「ええ、構わないわ。と言うか、実はもうプロットは完成しているの。これなんだけれど、見てもらっても良いかしら?」

「え! もうできてるんですか?」

「時間があったから、いつでも書き始められるようにと思って用意はしてたのよ。どうぞ」

 横に置いていたバッグから、私はプロットの書き込まれたノートを取り出し、驚きと喜びが混ざり合ったリアクションをみせる前園さんへと手渡す。

「ありがとうございます! いやぁ、助かります。もう、とんとん拍子ってやつですね。九城先生、さすがです!」

「褒めたって、原稿以外は何も出ないわよ」

「原稿さえ頂ければ、もうこちらとしては充分です。ちょっと、確認させてもらいますね」

「ええ。ゆっくりで良いわよ。今日は時間に余裕があるから」

 ノートを開き、プロットを確認し始めた前園さんを確認してから、私は待つ間の暇潰しにとここへ来る途中で買っていた雑誌をバッグから取り出した。

 普段は買うこともない雑誌だったが、特集に私の大切な仲間であり、作家としての人生を繋ぎとめてくれた恩人でもある後輩のインタビュー記事が掲載されているのが理由で購入したものだった。

「あ、それ……確か九城先生のご友人の伊紀先生がインタビュー受けてる雑誌ですよね?」

 ノートからチラリと顔を上げ、前園さんが訊いてくる。

「ええ。最近はお互い忙しくて会えていないけれど、相変わらず精力的に執筆は続けているみたいね」

「伊紀先生も、売れっ子と言っても過言ではない方ですからねぇ。お二人が知り合いだったって知ったときは、わたしビックリしましたよ。同じ高校出身なんでしたっけ?」

「そう、一応私が一つ先輩。作家としては、あっちが圧倒的に上だけど」

「いえいえ、九城先生も充分にすごいですって」

 社交辞令のような言葉を返してくる前園さんへ微笑んで、私は目的のページを開き目を通す。

 昔の面影を残しながらも、大人の女性に成長した星咲さんの写真が掲載されているのを見て、懐かしい気持ちが込み上げた。

《伊紀先生が小説を書く理由とは、いったいどういったものなのでしょうか?》

 インタビューの中盤辺りに書かれた質問に、私の目が止まる。

《純粋に、楽しんでほしい。それだけです。あたしの書く物語が、読者の方たちの人生に少しでも寄り添えたらなって》

《寄り添うとは、具体的にはどういった意味でしょう?》

《人って、誰しも何かしらの悩みや不安とか、そういうマイナスのものを抱えていると思うんです。そういったものに、人生を見失いそうになったり諦めそうになったりしたときに、何と言うかほんの少しでも支えになれるような、そういう物語を提供できたら最高かなって》

《辛いときの支えとなる娯楽、みたいなものでしょうか?》

《そうですそうです! あたしの書く物語で、みんながほんの少しでも楽しいとか続きを読むために明日も頑張ろうかなって思ってもらえたら、嬉しいじゃないですか。だから、物語を書きたいなって》

《なるほど。ご自身の作品が、読者の救いになれたらという願いが先生の物語には込められているんですね》
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