200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚

文字の大きさ
56 / 244
第2章

第五四話 生業

しおりを挟む
 ノイリン移住後、俺と由加、金吾と珠月の四人は、真剣に生活するための生業(なりわい)を考えなくてはならなくなった。

 ノイリンはヒト社会だ。生活のための労働をしなければ、生きてはいけない。
 生業が必要なのだ。
 だが、この世界のヒト社会において、俺たちは生きていくための決定的な術〈すべ〉が欠けていた。
 由加は元自衛官、俺は元IT系企業の営業マン、金吾は高校を卒業したばかりの大学生、珠月は中学生だった。
 農業の知識はなく、漁業も無理、狩猟もダメ。野生のベリーの実の採集くらいしかできない。

 同じ悩みは、ディーノと彼の孫のシルヴァ、デュランダルとベルタと彼らの養子の家族にも共通していた。
 若者は互いに連携し、この環境に適合しているが、ある程度の年齢に達した俺たちには難しいことだった。
 俺は、まだ若い金吾と珠月の離脱を覚悟していたが、意思を確認すると二人は「その気はない」と断言した。

 最初は金吾とディーノによる無線の修理・販売から始まった。
 珠月は精霊族との通訳をしていたが、交流が増えていくとその仕事は成り立たなくなっていく。言葉を解す人々が多くなっていったのだ。
 俺と珠月は、パソコンやスマホの修理を始める。物理的な破損の修理は無理だが、多くはOSの入れ替えで動くようになるし、ハードウエアの修理ではバッテリーやハードディスクドライブ、SSD(メモリドライブ)の交換で動作するようになるものも少なくない。
 そして、部品ほしさに物理的に壊れた電気・電子機器を買い取るようになる。
 金吾とディーノは、いろいろな部品を組み合わせて、無線を作り始めていた。
 これは、非常な高額で売れた。破損した電気・電子機器の買い取り価格は極端に安価で、その部品を利用して組み立てた〝新造〟機は非常な高額で売れる。
 特に無線一セットは破格だ。

 さほど時を経ずに銃器が持ち込まれるようになる。
 銃は修理や売却依頼で持ち込まれた。
 こちらは、由加、ベルタ、デュランダルが対応し、中古銃器の買い取り・販売を始める。
 この需要はとても高かった。
 ドラキュロが跋扈するこの世界では、銃は空気や水と同等に必要なものなのだ。
 持ち込まれる銃器は、この世界で製造されたものがほとんどで、外見は同じだが、部品の互換性はほぼない。量産品ではなく、すべてがハンドメイドだからだ。
 単純な部品交換による修理は不可能で、微妙な調整が必要だった。
 こういったことは、由加、ベルタ、デュランダルは得意。ごく短期間で、修理依頼が減り、下取り・買い換え需要が増えていく。
 ガンマン以外のヒトは、銃器の修理を待っていない。修理中にドラキュロに襲われたら、死を免れないからだ。

 そして、相馬とウルリカも俺たちの生業に参加するようになった。この二人も俺たちと似たような悩みがあったのだ。

 銃器の買い取りを始めると、ごく少数だが元世界製も持ち込まれる。
 それらの多くは弾薬の補給がないか、非常に古いかのどちらかだ。
 拳銃弾は、四四口径レミントン弾と九ミリパラベラム弾しか供給がない。
 小銃弾は、七・六二×五一ミリNATO弾、五・五六×四五ミリNATO弾、旧ソ連制式七・六二×三九ミリ弾の三種だけ。
 この五種以外、ごく少数の例外を除いて、この世界では使われていない。
 特にこの世界で代を重ねた人々は、四四口径レミントン弾だけを使用している。
 だが、この四四口径レミントン弾には、拳銃用の通常弾、ライフル用の強装弾、黒色火薬を充填した安価な弾がある。
 この三種混在は事故の原因となっている。特に、拳銃に強装弾を誤用して、シリンダーが割れる事故は頻発している。
 さらにややこしいことに、強装弾を発射可能な拳銃も存在し、銃身の刻印をよく見ないとそれが判断できないのだ。
 その刻印が〝嘘〟のこともある。
 一般に、中古で売買される拳銃は、通常弾での使用を推奨されている。

 俺たちの店は、街の中心部北端にあった。廃材で建てたバラックだが、そこそこ立派な外見だ。
 防犯のために、俺、金吾、デュランダル、相馬が順番に夜間警備で泊まり込んでいる。
 電気・電子機器と銃器の修理は、居館にほど近い見かけのよくない石造小屋で行っていた。

 俺が店番をしていると、微妙な顔立ちの若い男が訪れた。この世界で代を重ねたようにも見えるし、新参者にも感じる。特に中央アジア系のヒトは、新参か古参か見分けがつきにくい。

「いらっしゃいませ。お探しものでしょうか?」
「買ってもらいたいものがあります」
「パソコンでしょうか?
 銃でしょうか?」
「銃です」
「お持ちいただいたのですか?」
「はい。馬車に積んできました」
 俺は、窓越しに店前に止まっている小型の一頭立て馬車を見た。
 馬車には、若い男がもう一人乗っている。
「拝見しましょう」
「では、持ってきます」
 男は店外に出て、もう一人の若い男と大きくて重そうな木箱を運んできた。
 木箱の短辺側に、太いロープの取っ手が付けられていて、二人はその各取っ手を片手に提げて、店に入ってきた。
 箱を運び込むと、馬車に残っていた男が無言のまま店外に出る。
 店内に残った男が、木箱の上蓋を開けた。M1ガーランド小銃が無造作に一二挺入っている。
 荒く扱われていたわけではなく、使い道がなくなったので、適当に保管していたような感じだ。
 銃は全体に薄く埃を被っている。
 俺は一挺を取り上げ、尋ねた。
「いつ頃のものですか?」
「曾祖父がこの世界に持ってきました。
 この世界に持ってきた時点で、かなりの年代物だと聞いています。
 混乱期の直前に修理されて、売りに出ていたと聞きました」
 製造年を確認すると、1955と刻印されている。M1ガーランドとしては、最末期の製造ロットに近いだろう。
 俺は男に尋ねた。
「なぜこれを売りたいのですか?」
「弾なしで。
 スプリングフィールドの七・六二ミリ弾は手に入らない……」
 確かにその通りだ。七・六二×六一ミリ弾は入手不可能だ。
「それでこれを、売ろうと?」
「えぇ。
 中古でいいので、できるだけ多くのウィンチェスターと交換してほしいんです」
 男は弾なしの半自動小銃一二挺と、レバーアクションライフルとの交換を申し入れてきた。
「たぶん……ですが、七・六二ミリNATOにコンバージョンできますよ」
「装弾数が八発じゃ、人食いとは戦えませんよ。
 それに、この銃は八発撃ちきらないと、補充装弾できない欠陥品なんです。
 人食いがうろつく場所じゃ、使えません。
 人食いがうろつかない場所なんてないし……」
 その通りだ。
 売りたい理屈は通っている。
 しかし、同時に買いたい動機がなくなる。
 俺は、カウンター内に戻り、背後にあるガンラックから二挺のレバーアクションライフルを取り出し、カウンターの上に置いた。
 そして言った。
「二挺と交換でどう?」
「四挺は欲しいんですが……」
 遠慮がちな声音だ。
「それでは三挺、これ以上は無理だ」
 男はガンラックを見渡す。そして、店の入口から一番遠い、売れ残りになっている銃に目をとめる。
「その古そうなコルト二挺でいいので、四挺にしてもらえませんか?」
 俺は、銃床に傷がある年季の入ったポンプアクション・ライフル二挺をカウンターに置く。
「古い銃だが、銃身は摩耗していないし、きちんと修理してある。
 見かけは悪いが、銃としては確かだ」
「ありがとう」
 そう言って、男は四挺を抱えて店を出た。

 俺は、この一二挺を七・六二×五一ミリNATO弾にコンバートすれば、かなりの値で売れると判断したのだが、由加とベルタは半自動小銃を他者に売るなど考えなかった。
 相馬がベレッタM59の弾倉が使えるように改造する設計を行った。そのための部品がチェスラクに発注され、改造後は居館近くの武器庫に収められた。

 自動火器は、極めて貴重なのだ。

 それと、五・五六ミリNATO弾やロシア製五・四五ミリ弾はドラキュロの突進を止める力が足りず人気がない。
 対人戦闘ならともかく、ドラキュロ相手では一〇発命中させても食い殺されてしまった例もあると聞く。
 小口径小銃弾でもドラキュロを殺せる。だが、ドラキュロの痛痒に対する耐性が高く、銃弾威力で吹き飛ばさないと、死ぬ前に噛まれるのだ。
 とにかく、小口径ライフル弾は需要がない。
 それは、俺たちも実体験で知っている。
 もともと、普及が進んでいなかった五・五四ミリ弾の供給はない。五・五六ミリ弾に関しては、この世界に多数が持ち込まれた自動火器のために、若干数が製造されているだけだ。
 そんな事情から、俺たちの店にはAK‐74が持ち込まれることが一度だけあった。
 AK‐47の五・四五ミリ弾バージョンがAK‐74だが、弾切れになれば使い道がなくなる。
 だが、この時は買い取らなかった。一挺だけ改造することは、非効率だからだ。改造するならば、最低でも五挺は欲しい。
 一方、ロシアの七・六二×五四ミリR弾を使用する銃は、積極的に七・六二×五一ミリNATO弾仕様に改造した。
 特に、ロシア製をはじめとする各国製のドラグノフ狙撃銃は根強い需要がある。中国のノリンコやユーゴスラヴィアのツァスタバは特に。

 なお、店番は、俺と相馬、それにウルリカが担当することが多い。

 意外な大物の売り込みもある。
 それは、蛮族からだった。
 豪華な毛皮のコートを着たひげ面の大男は、四人の配下を連れていた。
 配下の二人は店の中に入り、二人はドアの外にいる。
 店に入ってきた三人は、善良そうな男たちには見えない。
 だが、それは外見であって、内面ではない。蛮族の多くは、善良な人々だ。
 大男がウルリカから店番を替わったばかりの俺に言う。
「この店は、武器を買うと聞いた」
「はい、その通りです」
「異教徒の武器を売りたい」
「どのような銃ですか?」
「銃ではない」
「では、どのような……」
「奇妙な……。
 砲だと思う。
 異教徒が似た砲を使ったと聞いた。
 この店は異教徒が店主と聞いたので、価値の有無がわかろう、と考えた」
「ご持参いただいたのですか?」
 大男と彼の配下は手ぶらだ。
 大男が向かって右半歩後方に立つ配下を見る。
 その男が店外に出て、店外にいた男から何かを受け取り、再度店に入ってきた。
 店に入ってきた男は、布に包まれた八〇センチほどの円筒状のものをカウンターに置いた。
 俺はヒンジの付いた天板を上げ、コンビニレジ風のカウンターから出て、大男の横に立った。一人の配下が若干後ろに下がる。
 大男は俺よりも頭一つ分、背が高く、胸板は倍ほども厚い。
 威圧感がすごい。
 俺は、巻かれていた布をほどいた。
「他の部品は?」
 二人の配下が、一つずつ部品を運んできた。「これで全部ですか?」
 大男がこの男の体格からすれば、小箱を出した。
 箱をカウンターに置き、開ける。
 コリメーター照準器だ。
「弾は?」
「やはり、砲か?」
「そうです。
 六〇ミリ迫撃砲という軽砲です」
「弾はないが、異教徒ならば作れるだろう」
「そう簡単ではないんですよ」
「買ってはもらえぬか?」
「ご希望は?」
「あの荷車に積めるだけの、固形の燃料でどうか?」
 俺は窓越しに荷車の大きさを確認する。
 ロバが引く、御者台さえない一軸二輪の小さな荷馬車だ。
「買いましょう」
「助かる。次の冬は寒く、春まで薪だけでは過ごせそうにないんだ」

 俺は燃料工場にメールを送る。
 すぐに返信があり、絞りかすの藻を固めた薪状燃料を持ってきてくれることになった。

 軽トラから荷馬車への積み替えがたいへんだった。
 軽トラに満載してきたのだが、ロバが引く馬車の荷台はそれよりも小さく、積みきれない。
 だが、大男と彼の配下は、一本たりとも積み残すまいと、長い時間をかけて積み替えていく。

 全部積み終わると、大男がニッと笑った。
 日が傾き始め、風が一層冷たく感じる。大男たちは、徒歩で住処に戻るようだ。
 俺は心から、道中の無事を祈った。

 蛮族も銃を作る。
 彼らの銃は元込単発で、四四口径(一一・二ミリ)で薬莢長が七〇ミリもあり、発射薬に黒色火薬を使用する。
 一弾の威力が大きく、ドラキュロを確実に阻止できる。命中すれば、周囲の筋肉組織を広範囲に破壊する。骨があれば砕く。
 だが、連射はできない。
 速射性は、異教徒が作るレバーアクションやポンプアクションの連発銃が圧倒的に優れる。
 この世界で、ボルトアクションが普及しなかった理由は、前二形式と比較すれば速射性に劣るからだ。
 ドラキュロとの戦いは、大量の弾丸を短時間でばらまかなくては勝てない。

 俺たちが中古の銃を販売するようになると、多くの蛮族が客としてやって来た。
 ノイリンは、異教徒であろうが、蛮族であろうが、街内でのルールを守る限り、一切入域を拒まない。それは、精霊族や鬼神族に対してもも同じだ。
 例外は、白と黒の魔族、そしてフルギア人のみ。
 蛮族うち、北方系の民族は総じて体格がいい。身長二メートル以上がざらにいる。身長一八〇センチだと、小柄とされる。胸板が厚く、筋肉も発達している。
 おそらく、寒冷な気候が大きく関係している。寒冷化が大型化を誘発しているのだ。
 蛮族は銃を買いに来るだけでなく、彼らの銃、閉鎖方式にローリングブロックを採る頑丈な単発銃を売りにやって来る。
 これらの銃は、鬼神族に人気がある。鬼神族は頑丈な銃を好み、異教徒の華奢な連発銃は欲しないが、蛮族の強力な弾を発射する頑丈な単発銃は掘り出し物と感じるようだ。
 実際、鬼神族のトラップドアに似た閉鎖機構の単発ライフルよりも蛮族のローリングブロックのほうが壊れにくく、動作が確実。そして、銃自体の作りも頑丈だ。使用する弾薬は同じ。

 そんなこともあり、店にはいろいろな客が訪れる。
 そして、情報も集まる。かなり遠方の動静もわかるのだが、元世界のピレネー山脈以西についてはまったく不明。
 ユーラシア大陸東端のことでさえ不確実ながら情報があるのに、これはかなり不自然なことだ。
 過去二〇〇万年の間に造山運動があったらしく、ピレネーには三〇〇〇から四〇〇〇メートル級の高峰が連なるという。
 異教徒でも、蛮族でもないヒトが住んでいて、白魔族と死闘を繰り広げているという伝説はあるが、過去一〇〇年以内の具体的で確実性のある情報はまったくない。
 ヒト、精霊族、鬼神族にとって、ピレネー以西は未知の領域だ。

 ドラキュロは、一頭見つけたら一〇頭いる、と言われる。
 一頭のドラキュロに発見されたら、一〇頭に襲われる、とも言われる。
 だから、ライフルの装弾数は大事だ。装弾数が少ないと、生死に直結する。
 チェスラクが、インド製リー・エンフィールドであるイシャポール2A1を改良して、二〇発着脱箱形弾倉装備のボルトアクション小銃を開発したのも、装弾数の多少が銃としての有効性の決め手となるからだ。
 この銃は、精霊族と鬼神族の銃器商人から数百挺ベースの注文が入っている。
 だが、装弾数の増加と速射性の向上がなされれば、従来のレバーアクションやポンプアクションの代替が期待できることは、容易に想像することができた。
 異教徒が作る従来のライフルは、チューブ式の弾倉で装弾数は多いが、撃ち切ったあとの再装弾に時間がかかる。
 ドラキュロに襲われたヒトは、弾切れ後、剣を抜いて生死を賭けて最後の戦いをする。
 そして、二頭か三頭斬って、生きたまま食われる。それが、ヒトの運命だ。
 もし、弾倉の交換が素早くできれば、生存可能性が高まる。
 俺は、相馬に「カラシニコフの弾を使う三〇発着脱弾倉のポンプアクション・ライフルの開発は可能かなぁ」と尋ねてみた。
 相馬は「名案だね!」と一言。
 こうして、〝ノイリンPAR‐30〟と名付けられた小銃の開発が始まる。

 開発は早かった。
 ノイリンで入手した元世界のかなりくたびれたレミントンMODEL7600ポンプアクション・ライフルの機構をベースに、AK‐47の弾倉をそのまま利用する、89式5・56ミリ小銃のデザインとよく似た銃を設計。
 チェスラクに試作を依頼する。

 チェスラクは相馬の設計通りに試作しなかった。
 彼曰く「独立型ピストルグリップより、曲銃床のほうが好まれる」と。
 相馬とチェスラクの間で一悶着あったが、設計は現実的で確実、試作は丁寧で完璧とあって、実に確実な動作をした。
 相馬は89式小銃のデザインをそのまま拝借し、ガスオペレーションを廃して、ポンプアクションに変更した。
 外観の違いは、銃身上のガスシリンダーがなくなり、放熱カバーに被せるように取り付けたハンドガード(先台)を前後にスライドさせることで、排莢と装填を行う点だ。
 ポンプの感触は確実性がありながら軽く、トリガーは節度感十分でいい感触だ。
 全長一一〇〇ミリの比較的大柄な銃だ。
 増加試作銃三挺を店頭に並べたが、その日のうちに全部売れた。

 だが、新銃は中古よりも利益率が低い!

 それでも、これ以降、俺たちの店は新銃を扱うようになった。
 そして、客層も少し変わっていく。同時に、得られる情報にも変化が現れる。
 各種族、部族、民族の上層部の情報が入るのだ。ゴシップ的な話題から、他部族とのトラブルまで、いろいろだ。そして、相互の関係がよくわかる。
 こういった情報も生き残るために必要だ。

 PAR‐30は、異教徒と蛮族の戦い慣れした連中に歓迎された。訓練すれば、半自動小銃並みの連射が可能で、装弾ジャムが起きても、不発があっても、強制排出が確実にできるからだ。
 製造過程の問題なのか、それとも品質管理の甘さなのか、この世界で作られた小銃弾には、数十発に一発、不発がある。
 この世界で代を重ねた人々は、不発弾、不良弾の混入を受け入れてしまっている。
 仕方のないことだと……。
 だから、自動火器よりも、動作確実な手動火器を好む。
 大佐やクラウスの護衛隊員には、PAR‐30を欲しがるメンバーが多数いた。
 銃本体は三・四キロと比較的軽いが、全長は一一〇センチと長く、取り回しに難があった。直銃床とピストルグリップ、オーソドックスな曲銃床の二種類があるが、チェスラクの主張通り、曲銃床のほうが売れた。
 それと、より威力のある七・六二×五一ミリNATO弾(=・308ウィンチェスター弾)仕様が用意されると、当初の意図とは異なりそちらが主流になる。
 弾倉は二〇発が標準で、三〇発が別売でラインナップされていた。弾倉はベレッタM59の二〇発箱形弾倉と同じだ。
 レバーアクションのウィンチェスターM1873の複製派生型とポンプアクションのコルト・ライトニングの複製派生型は、どちらも四四口径拳銃弾を使用するが、PAR‐30が発射する七・六二×五一ミリNATO弾ははるかに強力だ。
 その上、標準で前二形式に勝る二〇発の装弾が可能。
 生産数の少なさと相まって、非常な人気商品となった。

 だが、由加とベルタは、この銃を良とはしなかった。
 二人は相馬に「もっと戦闘に向いた銃」を要求する。
 仕様は、全長九〇〇ミリ以下、本体重量二五〇〇グラム以下、使用弾薬七・六二×三九ミリ弾、銃身内部にクロムメッキ、折りたたみ可能なバットストック(銃床)、ピカティニーレール装備。
 そして、給弾システムはポンプアクションだ。

 相馬は、89式5・56ミリ小銃を原型として、ガスオペレーションシステムを撤去し、油圧ピストンによる手動装填とした小銃をごく短期間で設計した。
 形状自体は、89式小銃のピカティニーレールを機関部上面に装備した後期生産型とうり二つ。
 金属製のハンドガードを前後に二〇ミリスライドさせるだけで、排莢と装填ができる。ポンプアクションなので、初弾を装填するためのコッキングボルトのハンドルは本来は不要だが、この銃にはついている。ロック不良の際は、このハンドルを押して、強制的にロックできる。外観上の明確な相違点は、銃身先端のバイポッド(二脚)がない。
 ピストルグリップに木が使われているが、それ以外はすべて金属だ。

 この銃の試作は、最近多くなっているノイリンに移住してくるカンガブルの職人たちにパーツごとに発注した。
 チェスラクに発注すれば、彼の独断で〝独自改良〟してしまうからだ。

 カンガブルでは、工業製品を作る職人が独立するには、一種のギルドに加盟しなければならない。
 その加盟料と加盟し続けるための会費が、経済的に不安定な独立したばかりの業者には非常な負担だった。
 そして、独立しない限り、永遠に低賃金の使用人のままだ。その給金では、家族を養えない。
 ノイリンやシェプニノにはこういった制度はないが、シェプニノは他所の職人・技術者を無条件では受け入れない。
 長期間にわたる厳正な審査を経て、ようやくシェプニノで開業できる。そして、審査を通過する確率は低い。
 その点、ノイリンはいい加減だ。住まいと仕事場を確保すれば、開業できるし、規則に従う限り退去を求められない。
 開業資金、あとは技術と信用だけで、商売ができるのだ。
 それで、カンガブルからノイリンへの移住が増えている。
 そして、ノイリンには仕事がある。

 我々のグループ、北方低層平原脱出以降に合流した多くのグループのすべて、は、ノイリン全体の運営に深く関わってはいない。
 ノイリンの運営が民主的であれば、それ以上の要求はない。
 ただ、特定の大グループが〝支配〟しないように、常に注意している。また、小グループがことさらに不利益を被ることがないよう、監視もしている。
 だが、決して表立って、ノイリンを〝指導〟しようなどとは考えていない。
 我々のグループには、新参者、代を重ねた人々、異教徒、蛮族、フルギアの元奴隷、フルギアの被支配民、少数だが精霊族もいる。
 これだけ多様な構成のグループは他にはない。ノイリンの縮図でもある。

 由加とベルタは、武器の不足を案じている。特に小銃が足りない。かき集めても、一五歳以上に一人一挺ないのだ。
 由加とベルタは、相馬が新製したPAR‐89小銃を、予算が確保でき次第、一〇〇挺整備すべきだと主張している。
 それも、密かに。
 武器の大量調達は、他のグループから不審に思われるからだ。
 他のグループも我々を監視している。我々が武装蜂起して、ノイリンの乗っ取りを企む可能性だってあるのだ。
 我々にその気はなくとも、そうと勘ぐる人々が必ず現れる。

 雨季が終わろうとしている。
 まもなく短い夏。
 二〇〇人収容の要塞は着工さえできていないし、Mi‐8中型汎用ヘリコプターも修理できていない。
 小銃一〇〇挺の新造もまだだ。
 我々は、生きていくだけで精一杯だった。

 そして、ノイリンの外郭の濠の発掘は遅々として進んでいない。
 暖かくなれば、ドラキュロの活動が活発化する。
 この状況は、極めて危険であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

異世界で農業を -異世界編-

半道海豚
SF
地球温暖化が進んだ近未来のお話しです。世界は食糧難に陥っていますが、日本はどうにか食糧の確保に成功しています。しかし、その裏で、食糧マフィアが暗躍。誰もが食費の高騰に悩み、危機に陥っています。 そんな世界で自給自足で乗り越えようとした男性がいました。彼は農地を作るため、祖先が残した管理されていない荒れた山に戻ります。そして、異世界への通路を発見するのです。異常気象の元世界ではなく、気候が安定した異世界での農業に活路を見出そうとしますが、異世界は理不尽な封建制社会でした。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

処理中です...