きっと、君が一番好き

ざっく

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始まり(良平)

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仕事中、スマホが震えた。
作業をしながらちらりと視線を動かすと、義理の妹からだった。
食事を全面的に面倒見てくれる有難い相手に、無視はできないと、すぐさまとった。
『お兄ちゃん、煮物持っていくけど、今、家にいる?』
二年前に妹になった新菜は、俺を『お兄ちゃん』と呼ぶ。父の妻となった人の頼みらしいが、35歳の男捕まえて『お兄ちゃん』は無いと思う。・・・無いと思うが、非常に可愛いことも否定できない。
仕事が遅くなるから中に入って置いておいてと言えば、心配そうな声が聞こえた。
以前、俺が残業続きで、会社のことをブラック企業だと言ったことを未だに信じているのだろう。そろそろ冗談だと教えなければならない。
仕事柄、取引先から連絡があればすぐに駆けつけなければならないので、ちょっとした医者並みの呼び出しがかかる。年末などは、殺気立って呼ばれることもあるので、ほぼ計画は立てられない。
その分、残業手当は出るし、なかなかいい給料も出るのでブラックとは言えないのだが、あんまりきついときだったので、言ったら、真面目に信じた。
うわ~、可愛い。などと思って放置したことは言えない。
新菜は、ぱっと見、あまり派手な化粧も華やかな服も着ないので地味な感じだが、はにかんだように笑う癒し系のかわいい系だ。
出会った頃の太った自分を見ても嫌悪を抱いたような表情もなかったし、オレの部屋にはフィギュアなどを置いているが、特に反応もしない。普通の飾りくらいに思っているような態度だ。一緒に美少女について語ってくれなんて濃いことは全く望まないし、逆に何も気にせずに、有りのままをそのまま自然に受け止める新菜に好感を抱いた。
しかし、さすがに、ひと回りも下の義妹に手を出したりはしない。ただ、料理をリクエストしたりすると、すごく張り切って作りに来てくれるところなどはとても可愛い。嫁にしたいとまで思う。・・・そんなことを言えば、父に殴られそうだが。
まあ、そうやって食生活が改善すると、体型も改善するようで、学生の時のような体型に戻っている。
時間があるならと、野菜スープをリクエストして電話を切った。
そして、目の前のバグを前にため息を吐く。
誰ですか、このプログラミング組んだやつ。担当者出てこい。
えらく遠回りして、命令を出しているから、処理に時間がかかるわ、途中でバグが来るわ、最悪だ。最初から作り替えた方がいいかもしれない。
そう思って、気分を変えようと振り返ったところで、非常に申し訳なさそうな・・・・・・今にも倒れそうな顔色で後輩が立っていた。
――嫌な予感しかしない。
「くっ、楠本さん!」
聞きたくない。
「その、ソフト、古いやつでした!バグ出まくったから作り変えて、新しくしたやつが、ありましたあ!」
思わず手が出た。スパン!と良い音がした。
「痛いっす」
当たり前だ、馬鹿野郎。俺の午後の仕事をどうしてくれる。作り変える前に見つかったことが、不幸中の幸いだ。
新しい方のソフトを立ち上げると、よくある単純な書き換え。
「くっそ、終わった」
「早い!さすがです!素晴らしいです」
三十分程度で作業が終わると、後輩が必要以上に褒めたたえた。もう一回殴ってやろうか。
「確認作業はお前がやれ。俺は帰る」
「もちろんです!お疲れ様でした!」
思った以上に早く仕事が終わった。もしかしたら、新菜がまだ家にいるかもしれない。電話をして確認すればいいが、気を使って待たせてしまっては申し訳ないので、家にいたらラッキーくらいで帰ろうと思った。まだいてくれたら、久々にできたての夕飯が食べられるかもしれない。
そんな期待をしながら、家路を急いだ。
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