結婚が決まったそうです

ざっく

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こうして回る ver.オリバー

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結婚を急がせたのは、両親だ。
オリバーが結婚してくれないと、後を継がせることができない。継いでくれないと隠居できない。まどろっこしいことはいいから、とにかく結婚しろと言う。
無茶苦茶だ。
そもそも、そんなに急がないといけないほどオリバーは焦っていない。
さすがにもう少し時間が欲しい。
彼女を知ることから始めないと。
そう思って向かったのは、ライラー伯爵のもと。つまり、財務大臣の執務室だった。
「殿下?ようこそ?」
『ようこそ』にまで疑問をくっつけるとは何事だ。
「聞きたいことがあってな」
アリーチェの人となりを聞こうとしてきたのだが、
「アリーチェは、婚約のことをどう言っていた?」
口を開けば、突然の婚約のことを彼女がどう思っているかの心配だった。
「はあ……。特に何も。承知したと言っておりました」
……本当にそんな、任務のような受け答えだったのだろうか。
「嬉しいとか、目を輝かせたとか、感動のあまり涙を……とか、ないのか」
「ありませんね」
ライラー伯爵は、すぐさま答えた。うちの娘に限ってそれはないと思っているような受け答えだ。
王太子と結婚するのだから、驚きすぎて失神してもおかしくないと言うのに、彼女は何も反応が無かったようだ。
胸がむかむかする。
「ちょっと仮眠室を貸してくれ」
「はあ、まあ、私が寝ているところで良ければどうぞ」
彼の背後にある仕切りを開けると、こじんまりしているが、居心地の良さそうな空間が広がっていた。ライラー伯爵は、趣味は悪くなさそうだ。
しかも、彼はオリバーにほぼ気を遣わない人間だった。
王太子がここで寝ているとなったら、「お茶を準備させる」だの「必要なものはないか」だのと聞いてくる人間ばかりだと言うのに、「は?何かいるんだったら自分で言ってくださいよ」とでも言いそうだ。
……これに似た言葉で丁寧さを上乗せして言われたこともある。

ここが、オリバーとアリーチェの逢瀬の場になった。※一方的に

アリーチェは、良く父親を訪ねて、この執務室にやってきていた。
王城は、新しい美味しい食べ物があふれていて、いくらいても飽きないと毎回、どこからか、菓子を貰ってきていた。どうやらそれがめあてのようで、菓子を持ってライラー伯爵のもとでしゃべって、飽きたら帰るということをしていた。
仮眠室で、彼女の声を聞くたびに、彼女に惹かれていった。
率直な意見は気持ちがいいし、的を射ている。けれど、こちらを不快にさせない柔らかな言い回しで、交渉術を身につけているのではないかと思わせるほど。
一度だけでは……などと言い訳していたが、何度彼女の声を聞いても、オリバーは彼女にどんどん惹かれていく。彼女ではダメだとは思わない。彼女でなければだめだと思ってしまう。
直接言葉を交わしたいけれど、今更、ずっとここに居て、話を聞いていたとばらして出て行くのか。
今日はたまたまここにいたのだと装えればいいが、もしもバレてしまったら。
ずっと盗み聞きを続けていた。これは気持ちが悪がられてしまうかもしれない。
では、執務室以外の場で会ってみてから捕まえればいいと思った。

「婚約披露しないのに、エスコートはやめておきなさい」
舞踏会に誘おうと思ったら、母から忠告を受けた。
今まで交流の無かった令嬢を、突然エスコートをするべきではないと言うのだ。
知らされていない貴族は怒るし、知っていても眉を顰めるだろうと。
「もうすぐ結婚するのだから、いいでしょう。好きな食べ物など聞いていてね。一緒にここで暮らすのが楽しみだわ」
彼女をエスコートすることは、結婚後までは無理そうだ。
オリバーは、母を見ながら、ふと気が付いたことを言っておく。
「母上、こそこそと、国外旅行を計画をするのはやめてください」
隠居して最初に、世界旅行に行きたいなどと、両陛下が言い出して、旅行の準備を進めている。
そのせいで、隣国から訪問者がくるだの、こっちがあっちに輿入れするなど噂になっているのだ。
「あら、少しくらいいいじゃない。遠出だもの、少しずつ準備したいわ」
オリバーはため息を吐いて、窓から外を眺めた。
もうすぐだ。もうすぐ、彼女と夫婦になれる。
結婚までは、デートもエスコートも我慢させられるが、ここだけ我慢をすれば、後は彼女は永遠に自分の物なのだ。

だからこそ、今は、ライラー伯爵の執務室の仮眠室で、アリーチェがやってくるのを待つだけ。
「殿下……さすがに居つきすぎです」
野良猫のような物言いをされてしまった。
「会いたいんだ」
「……(会っていませんが)」
「彼女は素晴らしい。愛らしい顔立ちに、叡智溢れる才能、朗らかな性格に、涼やかな声。全てが完璧で、早く結婚したい」
「そうですか……?」
ライラー伯爵は、いぶかしげな顔をする。
しかし、身内だからこその謙遜だろう。アリーチェを可愛くないと言う人間がいるはずはない。
「結婚をもっと早めたいが、無理だろうな」
「そうですね。それに向けて予算も動かしましたので、公共事業のこともあるので諦めてください」
娘の結婚式と公共事業を並べるところが、ライラー伯爵の不思議なところだ。
「彼女の美しさをより引き出す演出もしたい。ああ、しかし、彼女の美しさを知らしめてしまうのも惜しいような気がするな」
「美しさなど、無いものを引き出すのには予算がかかるので、ご理解ください。予算内で動いてください。追加予算はありません」
アリーチェの父親だったよな?と確認したくなった。
しかし、王太子の結婚は一大事業だ。華やかになればなるほど経済が動くのも事実。オリバーが言うまでもなく、充分盛大なものが予定されているのだ。
オリバーは、結婚を指折り数えて待ち望んでいた。

――相手に知られていないとも知らずに。

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