結婚が決まったそうです

ざっく

文字の大きさ
8 / 8

反省 ver.オリバー

しおりを挟む
いつものように、アリーチェが執務室にやってきた。

「私、結婚がきまったのですか」

いつものように仮眠室でくつろいでいたオリバーは耳を疑った。
――今更!?
すでに一年、結婚準備をしてきたはずだ。
「……言ってなかったか?」
「聞いてませんね」
「聞いたことを、お前が覚えてない可能性は……」
「結婚の話を?」
「うん……いや、すまなかった」
そんな簡単に済ませていいはずがない。花嫁が、結婚することを知らなかった?
オリバーは転がっていたベッドから起き上がり、出て行こうと服を整えた。
「で、お相手はどなたです?」
相手が分からないほどなんて。オリバーの頭の中が特大の鐘が鳴り響いて頭に言葉が入ってこない。
「決まっているだろう?」
「隣国の第二王子でしょうか?」
「違う」
「アランダ国の王太子様でしょうか?」
「違う。どうしてその方が出てくる」
「結婚の申し込みを受けたので、ごり押ししてきたかと」
「聞いてないぞ」
――私だって聞いていない!しかも、外国の人間ばかり出てくる。
リーチェは外国に嫁ぎたいのか?
有り得ない。オリバーだってしていない結婚の申し込みを、他の誰がしたというのだ。
イライラと怒りが溜まって、そう考えた時……嫉妬の中に、自己嫌悪が生まれる。
そう、していない。
オリバーは、本人に結婚の申し込みをしていないのだ。
彼女は、オリバーの名前を出しても、嬉しそうな声もない。
「婚約はなくなったのかと思っておりました」
「なぜだっ!?」

――なぜだっ!?

目の前が暗くなった。あれだけ逢瀬を繰り返していたのに。※一方的に。
そうして、アリーチェから語られる自分の行動に眩暈がする。
自分の行動には、全て理由があった。
納得して、それが良いと判断して行っていた。
――が。
全くアリーチェに説明していなかった。

「……あれ、言ってなかったか?」
「聞いてませんね」
一番伝えてくれていると思っていたライラー伯爵さえも、当人に伝えていない。
オリバーがどんな気持ちでいるかなんて、伝わるはずがない。
「王太子殿下は嫌いじゃないよなっ!?」
ライラー伯爵は、オリバーがここに居るかどうかを、気にしなくなっていた。どちらかというと忘れがちだ。休憩を終えて戻ろうと顔を出すと、ぎょっとした顔でオリバーを見ることがしょっちゅうある。彼は忘れっぽい。
多分、今、ようやくここにオリバーがいる事実を思い出したに違いない。

「そうではなく、結婚相手として、好ましいよなと聞いている」
ライラー伯爵の言葉に、全身が緊張する。
アリーチェの戸惑うような雰囲気が伝わってくる。それにどんな意味があるのかを問うような。
ライラー伯爵は、オリバーに気を遣って、娘に首肯させようとしている。
オリバーは有難く、彼女の言葉を受け取ろうと――
「私に選択肢があるとすれば、ですが……彼、トト様がいいですわ」
泣きそうだった。
自分としては、優秀だし、顔はいいし、憧れに似た気持ちがあって、嬉しいと言われてもおかしくない相手だと思う。
しかも、話を振られたトトという文官の気の抜けた受け答え。
アリーチェに好ましいと言われておきながら、その返事!覚えておこうと思う。
しかも、さらに話を良く良く聞けば、誰でもいいような物言い。
それだというのに、オリバーは嫌だと言うのか?
眉間にしわが寄るのが分かる。
普段からあまり表情を動かさないように気を付けているが、我慢できなかった。
自分の愚かしさに笑みがこぼれる。一人で突っ走って、相手に何も伝えていないなど、何て愚鈍な人間だ。

「興味深い話をしている」

思った以上に低い声が出た。
アリーチェの目が丸くなって、オリバーを見つめている。
正面から目を見たことは、茶会の日以来だと気が付いた。
「あなたの婚約者は私だ」
だけど、今更、結婚を無かったことにはできない。
国の動きも、予算も、それに向けて動き始めているからと言うのもある。しかし、何より、オリバーが無かったことになどしたくない。
もう、彼女が隣にいる将来を想像してしまった。それ以外の未来はない。
彼女が、オリバーを結婚相手として見ていなかったのは、彼自身の責任だ。
夜会に誘えなくても、訪問すればいい。
変なプライドに惑わされずに、直接本人に愛を伝えなければならなかった。
これは、
「婚約者の交流を持たなければならないな?」
一人頷いて、彼女を抱き上げた。
彼女に触れるのも初めてだ。
真っ赤な顔で抵抗する彼女が愛らしい。
無理強いはしたくないが、了承してもらえないならば、無理矢理することになる。
矛盾するような気持ちをかかえて、オリバーは自室へと足を向けた。
婚前交渉を持つ気はない。
今まで放っておいた男が、いきなり性的に迫るほど最低なことはしない。
ただ少し、反応が見たくて、そういうことを匂わせた。
さらに真っ赤な顔になった。
真っ青にならなかっただけいいのではないか?

あと半年。
全てを使って、彼女を口説き落とさなくてはならない。
跪いて、愛を乞おう。
愛のない政略結婚になどする気はない。

だから、まずはプロポーズをしよう。

しおりを挟む
感想 54

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(54件)

ねこのたま
2024.08.03 ねこのたま

え!こんだけ。続きプリーズ。
当て馬(?)令嬢のその後なども読んでみたいです。

解除
リアマ
2023.12.24 リアマ
ネタバレ含む
解除
cana
2022.02.25 cana

続き読みたい

解除

あなたにおすすめの小説

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました

鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と 王女殿下の騎士  の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、3話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。

帰ってきた兄の結婚、そして私、の話

鳴哉
恋愛
侯爵家の養女である妹 と 侯爵家の跡継ぎの兄 の話 短いのでサクッと読んでいただけると思います。 読みやすいように、5話に分けました。 毎日2回、予約投稿します。

公爵令嬢ローズは悪役か?

瑞多美音
恋愛
「婚約を解消してくれ。貴方もわかっているだろう?」 公爵令嬢のローズは皇太子であるテオドール殿下に婚約解消を申し込まれた。 隣に令嬢をくっつけていなければそれなりの対応をしただろう。しかし、馬鹿にされて黙っているローズではない。目には目を歯には歯を。  「うちの影、優秀でしてよ?」 転ばぬ先の杖……ならぬ影。 婚約解消と貴族と平民と……どこでどう繋がっているかなんて誰にもわからないという話。 独自設定を含みます。

うちに待望の子供が産まれた…けど

satomi
恋愛
セント・ルミヌア王国のウェーリキン侯爵家に双子で生まれたアリサとカリナ。アリサは黒髪。黒髪が『不幸の象徴』とされているセント・ルミヌア王国では疎まれることとなる。対してカリナは金髪。家でも愛されて育つ。二人が4才になったときカリナはアリサを自分の侍女とすることに決めた(一方的に)それから、両親も家での事をすべてアリサ任せにした。 デビュタントで、カリナが皇太子に見られなかったことに腹を立てて、アリサを勘当。隣国へと国外追放した。

あなたでなくても

月樹《つき》
恋愛
ストラルド侯爵家の三男フェラルドとアリストラ公爵家の跡取り娘ローズマリーの婚約は王命によるものだ。 王命に逆らう事は許されない。例え他に真実の愛を育む人がいたとしても…。

【完結】あなたに嫌われている

なか
恋愛
子爵令嬢だった私に反対を押し切って 結婚しようと言ってくれた日も 一緒に過ごした日も私は忘れない 辛かった日々も………きっと……… あなたと過ごした2年間の四季をめぐりながら エド、会いに行くね 待っていて

殿下をくださいな、お姉さま~欲しがり過ぎた妹に、姉が最後に贈ったのは死の呪いだった~

和泉鷹央
恋愛
 忌み子と呼ばれ、幼い頃から実家のなかに閉じ込められたいた少女――コンラッド伯爵の長女オリビア。  彼女は生まれながらにして、ある呪いを受け継いだ魔女だった。  本当ならば死ぬまで屋敷から出ることを許されないオリビアだったが、欲深い国王はその呪いを利用して更に国を豊かにしようと考え、第四王子との婚約を命じる。    この頃からだ。  姉のオリビアに婚約者が出来た頃から、妹のサンドラの様子がおかしくなった。  あれが欲しい、これが欲しいとわがままを言い出したのだ。  それまではとても物わかりのよい子だったのに。  半年後――。  オリビアと婚約者、王太子ジョシュアの結婚式が間近に迫ったある日。  サンドラは呆れたことに、王太子が欲しいと言い出した。  オリビアの我慢はとうとう限界に達してしまい……  最後はハッピーエンドです。  別の投稿サイトでも掲載しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。