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イライラする
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最初の会議はスムーズに終わった。
直哉がデザインの説明をして、陽花里がこれからの計画を提示する。
方向性が分かれば、後は定期会議以外はそれぞれの仕事を始めるだけだ。
「じゃあ、渋谷さん。よろしくね。席は私の隣に持ってきてもらうわね」
席と言っても、大きなテーブルにチェアーを持ってくるだけだ。
そこに資料を持ってきて、名刺などの注文もしなければならない。
「ええ~、私も加藤さんの隣がいいですう」
「……は?」
席の場所について、いきなり意見を言われると思わなくて、一瞬思考が固まった。
座る場所としては、直哉が広い場所に座り、その横に陽花里、直哉と反対側に瑠衣のつもりだった。
直哉を挟んでサポーター二人が座ると言うことか?
「いや……それは、仕事がやりにくいし」
陽花里と瑠衣が連絡を取り合うことの方が多いはずだ。
何より、設計図を開く直哉の場所をサポーターが邪魔しては何もならない。
「ははっ。仕事を教えてもらわなくてもよくなったらおいで。それまでは、そこで頑張れ」
陽花里が何と答えようかと考えていると、直哉が笑って答えた。
「じゃあ、すぐにそうなります!」
「期待してるよ」
両手を胸の前でこぶしを握る彼女に、直哉は優しく笑う。
その視線が、そっと下に動いて彼女の胸を見たことに陽花里は気が付いた。
陽花里が気が付くほどだ。見られた本人はしっかりと分かっているだろうに、うふふと知らぬふりで胸を強調させるように肘を寄せていた。
「渋谷さん、じゃあまずは、いくつか見積もりに出すための資料を……」
陽花里がその様子を無視して書類を広げると、不満そうにため息を吐かれた。
その書類を見ると、直哉もチーフと話をしに行った。
瑠衣は、座りながら陽花里を横目に見て
「空気が読めないんですね」
呆れたと言わんばかりに吐き捨てた。
彼女の態度から予想していたことなので、その言葉を無視をして陽花里は彼女に仕事を割り振っていった。
一週間後、陽花里は彼女の態度に毎日イライラしている状況だった。
「渋谷さん、会議室予約出来てないの?」
会議の予定だった部屋に、他の予定が入っているのを見て、陽花里は隣の瑠衣に聞いた。
彼女はいじっていたスマホから顔を上げて
「できてますぅ」
ふんと鼻を鳴らしながら返事をした。
「でも、実際、予定が入ってないから聞いてるんでしょ?どうなって――」
「あれ、陽花里聞いてない?第三会議室に予約出来たって、俺、連絡受けたよ」
陽花里の後ろから、直哉が不思議そうに言う。
「え?第三?」
「第一が予定が入ってたから、第三でもいいかって聞かれて、良いよって返事したよ」
「あ……そう」
瑠衣を見ると、またスマホに戻っている。
デザインの勉強をしているということだが、この態度はどうだろう。
陽花里は、大きく息を吐き出して、イラ立つ気持ちを落ち着けて声を出した。
「渋谷さん、会議室の予約をお願いしたのは私よね?だったら、その結果は私に教えて。変更も知らせてもらえないと、他の人に連絡をしないといけないでしょ?」
一生懸命冷静な声で話したつもりだが、そもそも息を吐いたところから、陽花里が怒っていることは分かるだろう。
「変更の連絡は俺がしたよ。そんなに怒るなよ」
――私が知らないのよ!
思わず声を荒げそうになってしまった。
ここは怒るべきところだ。そして、連絡をサポーターがしないなんて。
「私は渋谷さんに注意をしているの。直哉は口を出さないで」
陽花里が彼を睨み付ける。しかし、彼は瑠衣を心配そうに見ていた。
「だって、泣きそうじゃないか」
「そんなの関係ないの」
間髪入れずに返事をする陽花里に、彼は肩をすくめてパソコン画面に視線を移す。
そして、陽花里はもう一度瑠衣に視線を向ける。
彼女が採用されて一週間。
彼女は仕事ができないことは無い。--が、やる気が足りない。
直哉が見ているところでは、ものすごくやる気に満ちている。
このスマホでデザインを検索するのも、直哉に「いろいろなデザインの見るのは勉強になるよ」と言われたから始まった悪癖だ。
まだまだ、仕事の内容を覚えなきゃいけない時に、デザインの勉強も何もない。
しかも、彼がいなければ、その画面がSNSなどに変わるのを陽花里は知っている。
「渋谷さん、私の言うこと分かる?」
泣きそうだと直哉に評価された顔は、赤くなって涙はにじんでいる。しかし、彼女の眼は陽花里を睨み付けてきた。
「すみません。私、気が付かなくって」
気が付かないってこと、ある?
頼んだ人間に返事をするなんて、当然ではないのか?
同じ間違いを二度としないように繰り返し言うと、瑠衣は涙をこらえるように陽花里を見上げてきた。
「朝月さん、ずるいです」
またも思考が止まりそうだった。
今、陽花里は彼女を怒っているところだった。何故に、ずるいとかいう言葉を出せるのか。
「同じサポーターなのに、加藤さんとは朝月さんばかり話すし、私はお話しできないじゃないですかっ!それに、それにっ……お二人は名前で呼び合ってるのに、私は名字のままだし」
お友達ごっこがしたいのか。
お話ができないと泣かれたことは無かった。
陽花里は呆れた目を彼女に向けて、口を開こうとした。
「なんだ。名前くらい。直哉って呼んでいいよ」
――だから、口を挟まないで!
一瞬で頭に血が上った陽花里を尻目に、二人は仲良くお話を始める。
「本当ですか?嬉しい!私も瑠衣って呼んでくださいっ」
「ああ。――いいよな?陽花里?」
陽花里を宥めるように顔を覗き込んでくる彼に、睨み付けることで返事をする。
ここでこれ以上何かを言えば、陽花里一人が悪者だ。
彼女は疎外感を感じていただけだし、直哉と話したかっただけ。
陽花里はそれをわざと邪魔していたということか。
「分かったわ」
呼び名とか、誰がそんな話をしていたと言うんだ。
呼び捨てにされようとどうだっていいことだと、陽花里は言いたいことをぐっと飲み込んで、これ以上関係を悪化させないために頷いた。
直哉がデザインの説明をして、陽花里がこれからの計画を提示する。
方向性が分かれば、後は定期会議以外はそれぞれの仕事を始めるだけだ。
「じゃあ、渋谷さん。よろしくね。席は私の隣に持ってきてもらうわね」
席と言っても、大きなテーブルにチェアーを持ってくるだけだ。
そこに資料を持ってきて、名刺などの注文もしなければならない。
「ええ~、私も加藤さんの隣がいいですう」
「……は?」
席の場所について、いきなり意見を言われると思わなくて、一瞬思考が固まった。
座る場所としては、直哉が広い場所に座り、その横に陽花里、直哉と反対側に瑠衣のつもりだった。
直哉を挟んでサポーター二人が座ると言うことか?
「いや……それは、仕事がやりにくいし」
陽花里と瑠衣が連絡を取り合うことの方が多いはずだ。
何より、設計図を開く直哉の場所をサポーターが邪魔しては何もならない。
「ははっ。仕事を教えてもらわなくてもよくなったらおいで。それまでは、そこで頑張れ」
陽花里が何と答えようかと考えていると、直哉が笑って答えた。
「じゃあ、すぐにそうなります!」
「期待してるよ」
両手を胸の前でこぶしを握る彼女に、直哉は優しく笑う。
その視線が、そっと下に動いて彼女の胸を見たことに陽花里は気が付いた。
陽花里が気が付くほどだ。見られた本人はしっかりと分かっているだろうに、うふふと知らぬふりで胸を強調させるように肘を寄せていた。
「渋谷さん、じゃあまずは、いくつか見積もりに出すための資料を……」
陽花里がその様子を無視して書類を広げると、不満そうにため息を吐かれた。
その書類を見ると、直哉もチーフと話をしに行った。
瑠衣は、座りながら陽花里を横目に見て
「空気が読めないんですね」
呆れたと言わんばかりに吐き捨てた。
彼女の態度から予想していたことなので、その言葉を無視をして陽花里は彼女に仕事を割り振っていった。
一週間後、陽花里は彼女の態度に毎日イライラしている状況だった。
「渋谷さん、会議室予約出来てないの?」
会議の予定だった部屋に、他の予定が入っているのを見て、陽花里は隣の瑠衣に聞いた。
彼女はいじっていたスマホから顔を上げて
「できてますぅ」
ふんと鼻を鳴らしながら返事をした。
「でも、実際、予定が入ってないから聞いてるんでしょ?どうなって――」
「あれ、陽花里聞いてない?第三会議室に予約出来たって、俺、連絡受けたよ」
陽花里の後ろから、直哉が不思議そうに言う。
「え?第三?」
「第一が予定が入ってたから、第三でもいいかって聞かれて、良いよって返事したよ」
「あ……そう」
瑠衣を見ると、またスマホに戻っている。
デザインの勉強をしているということだが、この態度はどうだろう。
陽花里は、大きく息を吐き出して、イラ立つ気持ちを落ち着けて声を出した。
「渋谷さん、会議室の予約をお願いしたのは私よね?だったら、その結果は私に教えて。変更も知らせてもらえないと、他の人に連絡をしないといけないでしょ?」
一生懸命冷静な声で話したつもりだが、そもそも息を吐いたところから、陽花里が怒っていることは分かるだろう。
「変更の連絡は俺がしたよ。そんなに怒るなよ」
――私が知らないのよ!
思わず声を荒げそうになってしまった。
ここは怒るべきところだ。そして、連絡をサポーターがしないなんて。
「私は渋谷さんに注意をしているの。直哉は口を出さないで」
陽花里が彼を睨み付ける。しかし、彼は瑠衣を心配そうに見ていた。
「だって、泣きそうじゃないか」
「そんなの関係ないの」
間髪入れずに返事をする陽花里に、彼は肩をすくめてパソコン画面に視線を移す。
そして、陽花里はもう一度瑠衣に視線を向ける。
彼女が採用されて一週間。
彼女は仕事ができないことは無い。--が、やる気が足りない。
直哉が見ているところでは、ものすごくやる気に満ちている。
このスマホでデザインを検索するのも、直哉に「いろいろなデザインの見るのは勉強になるよ」と言われたから始まった悪癖だ。
まだまだ、仕事の内容を覚えなきゃいけない時に、デザインの勉強も何もない。
しかも、彼がいなければ、その画面がSNSなどに変わるのを陽花里は知っている。
「渋谷さん、私の言うこと分かる?」
泣きそうだと直哉に評価された顔は、赤くなって涙はにじんでいる。しかし、彼女の眼は陽花里を睨み付けてきた。
「すみません。私、気が付かなくって」
気が付かないってこと、ある?
頼んだ人間に返事をするなんて、当然ではないのか?
同じ間違いを二度としないように繰り返し言うと、瑠衣は涙をこらえるように陽花里を見上げてきた。
「朝月さん、ずるいです」
またも思考が止まりそうだった。
今、陽花里は彼女を怒っているところだった。何故に、ずるいとかいう言葉を出せるのか。
「同じサポーターなのに、加藤さんとは朝月さんばかり話すし、私はお話しできないじゃないですかっ!それに、それにっ……お二人は名前で呼び合ってるのに、私は名字のままだし」
お友達ごっこがしたいのか。
お話ができないと泣かれたことは無かった。
陽花里は呆れた目を彼女に向けて、口を開こうとした。
「なんだ。名前くらい。直哉って呼んでいいよ」
――だから、口を挟まないで!
一瞬で頭に血が上った陽花里を尻目に、二人は仲良くお話を始める。
「本当ですか?嬉しい!私も瑠衣って呼んでくださいっ」
「ああ。――いいよな?陽花里?」
陽花里を宥めるように顔を覗き込んでくる彼に、睨み付けることで返事をする。
ここでこれ以上何かを言えば、陽花里一人が悪者だ。
彼女は疎外感を感じていただけだし、直哉と話したかっただけ。
陽花里はそれをわざと邪魔していたということか。
「分かったわ」
呼び名とか、誰がそんな話をしていたと言うんだ。
呼び捨てにされようとどうだっていいことだと、陽花里は言いたいことをぐっと飲み込んで、これ以上関係を悪化させないために頷いた。
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