真神ノ玉-雪原に爪二つ-

続セ廻(つづくせかい)

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第五夜 水よりも濃く

卅八 働かざる者食うべからず②※


 斯様に容姿端麗、文武両道を体現したかのような篤実と、田舎の座頭十兵衛の生活には意外な落とし穴があった。

「……なんじゃこのにおいは」
「ああ十兵衛、おかえり。夕餉の仕度をしておった」
「いや、それは…見当がつくんじゃがその、な……」
「…どうかしたか? 今日は雉を分けてもらった」

 篤実が竃の前で振り返ると、帰宅した十兵衛が鼻の前に手を掲げて立ち止まっていた。

「焦げて…ねえか、若君」
「? 生で食っては腹を壊すであろう。しっかりと火を通さねばなるまい」

 篤実が鍋の蓋を開けると、黒い煙と共に真っ黒になった夕餉になる予定の物が、変わり果てた姿で現れた。

「はぁ…」

 その反応からして篤実が作る料理は、どうにも十兵衛の舌には合わぬらしい。手を変え品を変え、村の女衆から習っては披露するのだが、いつも耳や尻尾の反応が芳しくない。

 それは篤実にもわかるのだが。

「じゃから、飯は儂が作りますと何度も」
「早く家に帰った方が仕度をすれば良かろう」
「なら、その……若君は下ごしらえだけ……」
「何故だ」

 折角の雉の肉が焦げて苦く、パサパサになっている。味は何故か妙に甘く、噛んでいて時折ガリッと歯に固い物が当たった……のだが、篤実はどういう訳か同じ物を黙々と平らげる。

「…………」
「不味いか。十兵衛」
「………………」
「そうか。……すまぬ、無理をさせたな」
「いや……食えねえことは……な…」
「次は辛くしてみるか」

 篤実がそんな調子なので十兵衛は篤実から見えぬ角度でこっそり尻尾を萎びさせるのだった。

 それともう一つ。篤実の粗相についても、状況は中々変わらなかった。

「……ん……はっ……」
 篤実は庵の外、村の者達と顔を合わせている昼間に於いては辛うじて淫欲を堪えられた。しかし、十兵衛と交尾まぐわって三晩と経たぬ内に、篤実の身体は腹の底からそわそわと疼き始め、庵の中で十兵衛と過ごす間見るからに落ち着きを無くす。

 たとえ十兵衛に筒抜けであろうと、篤実は己を律しようとした。

「おやすみなせぇ、篤実殿」
「……ああ、十兵衛」

 そう言って二人布団を被る。しかし夜半、十兵衛を起こさぬように布団からそろりと這い出し、身を起こす。この男のにおいがするだけで、内股がぴくぴくと強ばり、腰がビクンと勝手に跳ねる。

 ざらついた筵に手をついて立ち上がり、細く差し込む月明かりだけが頼りの暗さに目も慣れる頃、庵を出て裏に回る。雪が溶けた山の中は新たな緑のにおいがした。

 周囲は黒と青、そして月明かりの白で描かれた屏風絵の様。そんな中で、熱を持て余した体だけがまるで異物のように感じられた。

「は……んっ……ぅ」

 衣から、己と十兵衛のにおいがする。交尾いの最中に着物を被せてくれた男の、熱い掌を思い出す。

「だめ……じゃ」

 そっちに触っては、いつまで経ってもこの情け無い体の儘だと分かっているのに、触れてしまう。

「はっ、あ」

 もどかしい胸の肉粒。意識してしまうと服が擦れる些細な刺激も甘くもどかしい。

「ふ……ん、う♡ は……」

 股座に手を伸ばし、男の証に触れる。先端の包皮を剥いて、赤い鈴口を露出させた。そのままくにくにと皮を弄びながら自身の小振りな物の裏筋を擦るのだが、何かが違う。

「――ッ う……く、あ」

 己の薄く柔らかな手でそこを嬲っても、切なくなるのは体のもっと奥の方だった。

「はぁ……あっ」

 陰囊を撫でても、下腹がひくひくと震えるばかりで快楽の波は自分から遠いところで寄せては返すばかり。

「ん――ぁ や …イき…たい……は ぅ、あ」

 井戸に身体を押し付け、髪を垂らし、声を殺しながらもっと強くて決定的で、痺れるようなあの感覚を求めてしまう。

「じゅ、うべ…ッ ん、く 〰〰〰ッ♡」

 ぶるりと身体が震えた次の瞬間、下腹の内側がが決壊して股座が温かく濡れていく。

「は…ぅ、あ… ひ、ぐっ う ――ッ」

 雄を呼ぶ雌のように粗相して、外気で冷たくなった雫を内股に滴らせる。粗相の跡を汲み上げた水で流すと、肌は打ち据えられたかのように震え、痛んだ。

 そんな思いをして過ごした翌日、決まって十兵衛はそれとなく篤実の傍から離れない。

「……じゅう、べ…」

 そうして持て余した欲の熱が、彼を呼ぶ小さな声となって篤実の赤く潤んだ唇から漏れ出すと、太い腕の中に隠すように抱き寄せられた。
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