自称『神様』との不思議な暮らし

宇彩

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若干(というか大分)アホな神様

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「んん…」

  寝ていた脳が少しずつ覚醒し始めた私は寝返りを打つため布団の中でもぞもぞと動き回る。しかしなぜか何かが上に乗っかっているような感じがして動くことができない。

「金縛り…?」

  久々に感じた、金縛りに似た感覚に少し顔を顰めながらもう一度動こうとするがやはり動けない。

  なんだろうな…と思いながら、しかしふと右手を目の上において少し感覚を研ぎ澄ましているとなにやらお腹の上がほんのり温かいし、何かがもぞもぞと動いているのに気付いた。

「…温かい?…あれ?」

  なぜか温かい事にも驚いたが、それよりも金縛りにあっているはずなのに手が動かせていたことに驚く。試しに両足を動かそうとすると動かしたいと考えた通りにばたばたと動いた。

「あれ、金縛りってこんなんだっけ…」

  そう呟きながら相変わらず足をばたばたし続けているとふいにお腹の上の何かが小さく動いた。

『んぅ…ふにゅ~…』
「あ」

  その声を聞いて金縛りの犯人に思い当たる節があることを思い出し、顔と上体を少しあげてお腹の方を覗き込む。

  そこには案の定金色のふさふさの毛玉がいた。くるっと丸まった背中からは耳がぴこぴこと動いているのが見える。

  しばらく無言でじーっと見つめていると毛玉は寝言をつぶやきながらぐぐっと伸びた。

『りー…これ美味しいねぇ…』

  私の出てくる夢を見てるんだなぁ…と考えながら、先程伸びたことで見えるようになった狐の顔をまじまじと見つめていると何か違和感に気付く。程なくしてその違和感の正体に気付いた私は寝起きとは思えないスピードでばばっと上体を起こす。起きた勢いで布団からころころと落ちそうになった毛玉を片手で抱えながら思わず叫んでしまった。

「布団にヨダレ垂らしながら寝るなぁぁぁ!!」
『ふにゅー…』


~・~・~


『ふああ…りーおはよぉ~』
「おはようアホ狐」

  私が起きてから軽く1時間ほど経った頃、瑠璃は寝起きだからか若干ふらふらしながら疲れて座っていた私の隣へ歩いてきた。
  私はあの後、瑠璃を布団から下ろして急いでカバーを洗濯する羽目になった。休日なんだからもう少しゆっくり寝たかったのに…と考えながらジトーっと瑠璃を見つめていると、しばらく不思議そうな顔で私の顔を見ていたが何を思い出したのか『あー!』と突然叫んだ。

「どうしたの急に」
『あのね、さっき起きたらね、なんでか床で寝てたの』
「…で?」
『床冷たいし硬いしで目覚めちゃったの』
「ふーーん…」
『りー?』

  私の反応を見て不思議に思ったのだろうか、クリクリとした目でこちらを見つめながらこてんと首をかしげている瑠璃の顔を左右から手でぱしっと挟み内側に向けて少し力を加えながら口を開いた。

「あなたのせいでしょうがアホ狐」
『えー?』

  すっかり忘れた様子の瑠璃は私の手から逃げるために頭をブンブンと振っているが離すまいと顔に添えたままにする。しばらくすると諦めたのか頭を振るのをやめ、怒ってます!とでも言いたそうに頬を膨らませたので仕方なく離してやる。

「毎日洗濯はさすがにきついんですけど」
『大丈夫だよ?瑠璃悪いことしないから』
「瑠璃さんや、説得力皆無だって気付いてるかい?」
『ちゃんとするもん!』
「はぁ…買い物行って瑠璃用のベッド買ってくるか…」
『買い物!?』

  そう言うと瑠璃はひょいっと一回転しながら飛び上がり、あたりに白い煙を漂わせたと思うとすぐさま昨日と同じような人の姿になった。 というかこうやって変身してたんだ、狸みたいだと思った私はきっと間違っていない。

「瑠璃も行く!!!買い物!!!」

  そう言いながら私の前でぴょんぴょんと跳ねている瑠璃の全身を見ながら当たり前のことを伝える。

「あなた耳とか尻尾とかそのめちゃくちゃ目立つ服はどうするのよ…」
「え?」

  そう言うと瑠璃は不思議そうな顔をしながら当たり前のことを言うような顔をした。

「耳と尻尾隠せるよ?神様だもん、人の中に溶け込めるようになってるの」
「あー、うん、神様だもんね」

  呼んでもいないのに現れたり狐のはずが喋ったり突然女の子になったりと意味のわからないことばかり見てきた為か「神様だから仕方ない」と納得出来てしまっている自分がいた。

  さてでは耳と尻尾の問題は解決した、あとは夏でもないのでその浴衣のような服をどうにかしなければ出かけるのは無理だろう。

「明日連れてってあげるから今日は諦めてくれない?」
「やー!行きたい!」

  子供のように駄々をこねる瑠璃に対し、後でちゃんと出かけられるような服を買ってきてあげるから今日は諦めてほしいと伝え、丁度いい時間なので朝食にしようと立ち上がる。

  キッチンへ向かいとりあえず棚にあった食パンを焼こうと考えている間も相変わらず瑠璃は足元で駄々をこねていた。

「りーのいじわるー!」
「はいはい、朝ご飯にしよ」
「つーれーてーってー!」
「ええい脚にまとわりつくな!」

  昔実家で飼っていたチワワがよく「さんぽ!さんぽいきましょ!」やら「その手に持っているのはおやつですか!ください!」やら言いたげに足元でグルグル回っていたのを思い出して(やっぱこの子狐より犬の方が似合う…)と思っていた。



「ほい、時間も時間だしトーストと簡単なコーンスープだけだけど」
「わあっ!」

 先程まであれほど駄々をこねていたというのにこんがりと美味しそうに焼けたトーストを見た瑠璃は金色の瞳を輝かせながら嬉しそうな声を上げる。なんとも単純である。

  「いただきます!!」と言いながらぱしっと手を合わせた後、大きく口を開けてその中に吸い込んでいくかのような勢いで食べていく。そんな瑠璃を見ながら「急がなくても取らないのに…」と小さく微笑み、温かいうちにと自分も食べ始めた。

「ボロボロこぼしてる」
「え?」
「ちょっ!コーンスープに髪入りそう!」
「んー!」
「首ぶんぶん振らないの!!」

  …もちろん平穏になんて食べられないが。それでも楽しいと思ってしまう自分がいた。


~・~・~


「さて、と。買い物行こうかな」

  朝食の洗い物を済ませた私はそう呟きながらググッと伸びをするとその呟きが聞こえていたのか、ふわふわの毛玉に戻った瑠璃がリビングから私の足元へ向かって勢いよく転がってきた。そして私の足元まで来ると狐とは思えないような勢いでぴょんぴょんと跳ねて自己主張を始める。

『瑠璃も行く!一緒行く!』
「それなんだけどさ、ちょっと提案があるの」
『え?』

  今までの対応からして否定されるか、はたまた連れてってもらえるかと考えていたのであろう瑠璃は、私がそういうとこちらにお腹を見せた状態のままきょとんとした顔をして小さく首をかしげた。私はしゃがみこみながら先程考えた案を瑠璃に告げる。

「このアパートの近くには服屋があります」
『うん』
「で、私があなたの寝床を買いに行こうとしてたショッピングモールは少し遠いところにあります」
『うん』
「だから服だけ先買ってきて1度帰ってきて、その後に一緒にショッピングモール行くのはどうでしょうか」
『そうする!一緒に行く!!』

  嬉しそうにそう言う瑠璃の頭をぐりぐりと撫でてやりながら「瑠璃にはどんな服が似合うかなー」と考えていた私はふと根本的な問題に気付く。

「あなた身長何センチくらいよ」
『身長?』
「うん」
『わかんない!』

  いっそ清々しいほどの笑顔でそう答えた瑠璃にやっぱりねと小さくため息をつくと立ち上がってリビングへ向かい、山積みになっているまだ荷解きされていないダンボールの中の一つを漁って裁縫道具を取り出す。流石に身長計などないのでまあ今日はこれでいいだろう。

「ほらおいで、身長測ろ」
『なにそのヒラヒラしたやつ!』
「メジャーっていうの。本来は布の大きさとか測るやつなんだけどまあいいかな」
『ほうほう!』

  目新しいものに目を輝かせた瑠璃は引き出すほうをぱくりと咥えると後ろに下がって私から遠のいていく。引っ張ると伸びるということに興味を持ったのだろうか。

『みて!伸びるよ!!』
「うん、知ってる」

  そう言いながら嬉しそうにぐるぐるとその場で回り始める瑠璃を見ながら、これから起こるであろう事態を予想していると案の定…

『りー!たすけてぇ~~』
「期待を裏切らないねあなたは!!」


 狐の簀巻きもどきの完成っと。



「解くだけで疲れた…」
『目ぇ回ったー…』

  5分ほどかけてぐるぐる巻きを解いた後は2人とも疲れ果てていた。ちなみに瑠璃が目を回しているのは解く時にゴロゴロと転がしたからでまあ申し訳ないとは思っている。
  いい加減に測ろうかと思い「測るから立って」と伝えると瑠璃は『わかった!』と言って立ち上がった。

  ……狐の姿のまま。

「…狐の胴の長さ測ってどうしろと。犬用の服買ってくればいい?」
『あっ』
「これからアホっ子瑠璃って呼んでいい?」
『アホじゃないもん!』

  この子のあだ名が決まった瞬間だった。
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