ちっぽけな世界

senko

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ダメ人間と海 ③

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  結局夜の19時くらいまでのんびりと釣り続け俺達は、それなりの釣果を得た。

 小アジ、キス、少し大きいところではシーバスなんかも釣れて、遊びで行ったにしては十分な結果だ。

 「夕飯には困らないくらい釣れたし、そろそろ帰るかー」

 「だねー。キス天作るついでに野菜のてんぷらも食べたいから買い物して帰ろ?」

 「日向はナスと大葉だろ?」

 「おおー!さすが私のことよくわかってるね~!」

 「まあ、こんだけ一緒に過ごしてれば勝手に覚えるわな」

 「えへへ。ちなみに、環くんはかぼちゃと鶏肉でしょ?」

 「惜しい。今日はエリンギと鶏肉の気分だわ」

 「くっ...!そっちの日もあるのかー」

 二人で釣りの片付けをしながら、夕食の献立を考える。
 
 夏になり、日は伸びてきたが19時を過ぎてあたりはすっかり暗くなった。

 工場の稼働する音もしなくなり、日向と俺の会話の声と、生ぬるい風が草木を揺らす音だけが聞こえる。

 まるで世界に二人だけしかいないような感覚がした。

 「よし、片付け終わり。さっさと買い物いって家でダラダラしようぜ」

 「ねっ。海風と汗で身体ベタベタだから早くお風呂入りたいー」

 一通り片付け終わった俺達は帰路についた。

 帰り道、家の近くにあるスーパーに寄って買い物をする。

 いつもの通り俺がカゴを持ち、日向がスマホでレシピを調べながら必要なものをポイポイとカゴに入れていく。

 「天ぷら粉でしょ。ナス、大葉、エリンギ、鶏肉、アジフライ用にパン粉も買っていこっか」

 「ああ、いいな。アジフライうまいよな。添えるキャベツもいるな。」

 「あと、アイスとポテチとコーラは必須だね。」

 「チョコレートもお願いします。」

 「甘いものホント好きだよね」

 「やっぱ普段頭使って生きてる分、糖分が欲しくなるんだろうな」

 「そうだよね、ちょっとエッチな自撮りあげてるインスタグラマーの投稿を探すのにも頭使うもんねっ!」

 「なんでばれてんだよ…。赤ちゃんより頭を使わずに生きてる私はたまごボーロにします。これで許してください。」

 謝罪の意を込めてたまごボーロをカゴに入れる。
 
 なぜ俺の性癖が日向にバレているのか…。誰にも言っていないのに。まあ、日向以外に言うような友達もいないんだけど。

 そんなこんなで必要な物を買い終えて、家に帰ってきた。

 夕食の前にとりあえず順番に風呂に入ることにした。

 「私天ぷらの準備しとくからさ、環くんお風呂洗いお願いね」

 「ほいほい。あー腹減った」

 風呂を洗ってお湯をはる。いつもは二人ともシャワーで済ませることも多いが、今日は釣りをして疲れているから珍しく風呂に入ることにした。

 俺は、さっと入浴を済ませて日向から料理を引き継ぎ、衣をつけた食材を油に入れていく。

 一人の時ならめんどくさくて絶対天ぷらなんてやらなかっただろう。そもそも休日に外出しようという発想にもならなかった。

 「俺も結構変わったのかな…」

 「何が?」

 「っ!風呂もう上がってたのか」

 「お腹すいて我慢できなくてね。それで、何が変わったの?」

 日向はニヤニヤしながらこちらの顔をのぞき込んでくる。

 こいつは恐らく分かってやっている。いつもの俺をいじって楽しそうにしているときと同じ顔だ。

 「いや、生活とかさ、色々だよ。一人の時は天ぷらとか面倒な料理って絶対やらなかったなとか。風呂も朝に入ってたりとか」

 「あー、たしかに。私もそんな感じだったよ。一人だと色々とどうでも良くなっちゃうよね」

 「気楽ではあるけどな。まあでも、一人暮らしのときに比べて今の方が確実にまともな生活を送ってる。」

 「だね。まあ、お互いに基本的にダメ人間だからねー。二人で相互監視をすることでなんとか生きてるって感じだよね」

 相互監視。そこまで強制力のあるものではないが、間違ってはない。

 他人の目があって、自分ひとりの生活ではないからこそ完全に堕落してしまうことはない。

 お互いに一人だったら、あの頃の生活に逆戻りするのは目に見えていた。それだけは避けなければいけない。

 「あー、キス天うまぁ!」

 「やっぱり自分で釣ると違うね!買ったやつより美味しい気がする」

 「野菜もうまい。衣つけて揚げただけなのにな天ぷらってすごいわ」

 「そうだねー。また釣りに行って天ぷらやろうね」 

 「おう、次は別の魚狙うか」

 大満足の夕食を終えて、一息つく。スーパーでアイスやコーラを買ったのも忘れて二人ともウトウトしてきた。

 運転して、釣りをしてとインドアな俺達にはハードな一日だった。

 「今日はもう寝るか」

 「…うん。寝るー」

 「じゃあおやすみ」

 「おやすみー」

 そう言って日向は部屋に置いてある布団に、俺はキッチンのある廊下に布団を敷いてそれぞれ眠りにつく。

 ほんの少し前までは、何もしない一日をずっと繰り返してきた。体は疲れていないはずなのに、心はすり切れそうで、明日が怖くて、眠りにつけなかった。

 でも、今日は疲れてはいるけど、それが心地よかった。

 明日が怖くない。こんなことは日向に伝えるのは恥ずかしいから言えないけれど。

 永遠になんて言えないけど、もう少しもう少しだけこんな日が続けばいいなと思った。

 
 



 
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