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ダメ人間と秋雨
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夏も終わりに近づき、少しずつ秋の匂いが感じられるようになってきた。
近年は夏が終わったら、すぐに冬がやってくるように感じる。秋がどんどん短くなっているような。
「ふー、今日はここまでにしておくか」
自室でカタカタとパソコンを叩く手を止めて、一息つく。
窓の外はすっかり暗くなっていた。
あと1時間もしないうちに日向がバイトから帰ってくる。それまでに夕食の準備くらいは済ませておきたい。
「とりあえずご飯炊いて、おかずは適当に野菜炒めでいいか」
二人暮らしを始めて半年くらいになり、それなりに慣れた手つきで料理ができるようになってきた。
ふと、窓の外を見て小雨が降り始めていることに気付いた。
「これ、降りそうだな」
あっという間に小雨は初秋の夕立ちに変わり、土砂降りになってしまった。
ちょうど日向が帰ってくる時間のはず。たぶん傘持ってないよなー、と考えながら料理の手を止める。
「しゃーない、迎えに行くか」
日向のバイト先は駅前にある。俺達の家からは歩いて10分くらいのところだ。
日向の分の傘を持って、自分の傘をさして出発する
「土砂降りだな。通り雨だったらいいけど」
足元を濡らしながら、駅まで半分くらいのところまで来た。遠くの方には急な雨に降られたのか、傘もささずに、びちゃびちゃになりながら走って来る人の姿も見える。
傘を忘れて、迎えに来てくれる人もいなかったらああするしかないよな。かわいそうに。なんて思いながら眺めていたが、近づいてくるにつれてよく見知った姿であることに気付いた。
「あれ日向じゃん…。何してんだよ、迎えに行くって連絡入れたのに。」
大雨の中全力で走っている日向はようやくこちらに気づいたようだ。
「おーい、環くん!なんでいるのー?っあ。」
そう言って走ってこっちに向かってくる途中で、日向は盛大にすっ転んで水たまりの中にダイブした。
大きな水しぶきを上げて倒れ込んだ日向はしばらく動かなかった。
「日向?大丈夫か?ケガしてないか?」
俺は急いで駆け寄り、日向の手を取って起こした。
「…グスン。脚擦りむいた…。痛いし、ビシャビシャだし…もう歩けない。もう、私はこの水たまりで余生を過ごすしかないんだ…」
日向は心が折れてしまったようで、うつむいて泣き始める。
「ほら、とりあえず家帰ろうな。このままだと身体冷えちゃうから。」
「でも、足痛くて歩けない…。」
「おぶってやるから、傘だけ持ってくれ」
「でも…、私びちゃびちゃだし、泥だらけだよ?」
「俺も結構濡れてるから変わらん。いいから、乗れって。」
「…うん。ありがと。」
良くないことは重なるものだ。うまくいかないときは徹底的にうまくいかない。人生そんなものだ。
少し弱まってきた雨の中、日向をおぶって家に向かう。
「今日のバイトはどうだった?」
「...うん、いつも通りだよ。渡されたデータを淡々と入力していくだけの単純作業。」
「事務作業補助だっけか」
「人と話さなくて済むし、一人でできるから楽ではあるよ」
俺も友達は多い方ではないが、日向は友達がほとんどいないらしい。俗に言うコミュ障というやつで、色々あって人間不信になってしまっている。
「コミュ障だもんなぁ...」
「そんなしみじみと言われたら流石に傷つくよ!」
「ごめんて、でもさこうやって喋ってる分には普通に話せてるのにさ。なんでなんだろうな」
「相手が環くんだからね。緊張もしないし、何言っても大丈夫だってわかってるから」
俺相手だったら何を言ってもいいと思われてるのは釈然としないが、ある種の信頼はされているのだろう。
俺と日向の関係は一言で言い表すには難しい。家族でもなければもちろん恋人でもない。
かといって友達かと言われたら、そんなに単純な関係ではないと思う。
「他の人相手でも、その感覚で話せたらいいんだけどな。まあ、難しいわな。俺もできない」
「やっぱりさ、こいつはダメなやつなんだって他人から思われるのが怖いんだよね。自分のダメなところを見せて
嫌われるのが怖い」
「人間は誰だってダメなところがあって、苦手なことがあってなんとか折り合いつけながら必死に生きてるのにな。それが分からずに人が傷つくようなことを簡単にするやつがいっぱいいる」
「ダメ人間の私達にとっては、なんとも生きづらい世の中だよね」
「ほんとにな。俺達みたいにお互いの傷を舐め合いながらやってける相手がいるのって幸福なことなのかもな」
「環くんに傷を舐められるのはちょっと...」
「おい、今いいこと言ってただろ俺」
日向はようやく元気になってきたようだ。
「ね、環くん、今日の夕ご飯どうする?」
「余ってた野菜で野菜炒めにしようかと思ってた」
「焼き肉食べたい!」
「ええー、でも家に肉ないぞ。今から買いに行くって言っても日向歩けないんだろ?」
「大丈夫!もう歩けるようになったから!」
「都合の良いことで。まあたまには焼き肉もいいか。」
「そうと決まったらお肉買いにいこ!」
すっかり元気になった日向と二人並んでいつものスーパーに向かう。
いつの間にか雨は止んで、空には月が見える。
秋の夜がやってくる。
近年は夏が終わったら、すぐに冬がやってくるように感じる。秋がどんどん短くなっているような。
「ふー、今日はここまでにしておくか」
自室でカタカタとパソコンを叩く手を止めて、一息つく。
窓の外はすっかり暗くなっていた。
あと1時間もしないうちに日向がバイトから帰ってくる。それまでに夕食の準備くらいは済ませておきたい。
「とりあえずご飯炊いて、おかずは適当に野菜炒めでいいか」
二人暮らしを始めて半年くらいになり、それなりに慣れた手つきで料理ができるようになってきた。
ふと、窓の外を見て小雨が降り始めていることに気付いた。
「これ、降りそうだな」
あっという間に小雨は初秋の夕立ちに変わり、土砂降りになってしまった。
ちょうど日向が帰ってくる時間のはず。たぶん傘持ってないよなー、と考えながら料理の手を止める。
「しゃーない、迎えに行くか」
日向のバイト先は駅前にある。俺達の家からは歩いて10分くらいのところだ。
日向の分の傘を持って、自分の傘をさして出発する
「土砂降りだな。通り雨だったらいいけど」
足元を濡らしながら、駅まで半分くらいのところまで来た。遠くの方には急な雨に降られたのか、傘もささずに、びちゃびちゃになりながら走って来る人の姿も見える。
傘を忘れて、迎えに来てくれる人もいなかったらああするしかないよな。かわいそうに。なんて思いながら眺めていたが、近づいてくるにつれてよく見知った姿であることに気付いた。
「あれ日向じゃん…。何してんだよ、迎えに行くって連絡入れたのに。」
大雨の中全力で走っている日向はようやくこちらに気づいたようだ。
「おーい、環くん!なんでいるのー?っあ。」
そう言って走ってこっちに向かってくる途中で、日向は盛大にすっ転んで水たまりの中にダイブした。
大きな水しぶきを上げて倒れ込んだ日向はしばらく動かなかった。
「日向?大丈夫か?ケガしてないか?」
俺は急いで駆け寄り、日向の手を取って起こした。
「…グスン。脚擦りむいた…。痛いし、ビシャビシャだし…もう歩けない。もう、私はこの水たまりで余生を過ごすしかないんだ…」
日向は心が折れてしまったようで、うつむいて泣き始める。
「ほら、とりあえず家帰ろうな。このままだと身体冷えちゃうから。」
「でも、足痛くて歩けない…。」
「おぶってやるから、傘だけ持ってくれ」
「でも…、私びちゃびちゃだし、泥だらけだよ?」
「俺も結構濡れてるから変わらん。いいから、乗れって。」
「…うん。ありがと。」
良くないことは重なるものだ。うまくいかないときは徹底的にうまくいかない。人生そんなものだ。
少し弱まってきた雨の中、日向をおぶって家に向かう。
「今日のバイトはどうだった?」
「...うん、いつも通りだよ。渡されたデータを淡々と入力していくだけの単純作業。」
「事務作業補助だっけか」
「人と話さなくて済むし、一人でできるから楽ではあるよ」
俺も友達は多い方ではないが、日向は友達がほとんどいないらしい。俗に言うコミュ障というやつで、色々あって人間不信になってしまっている。
「コミュ障だもんなぁ...」
「そんなしみじみと言われたら流石に傷つくよ!」
「ごめんて、でもさこうやって喋ってる分には普通に話せてるのにさ。なんでなんだろうな」
「相手が環くんだからね。緊張もしないし、何言っても大丈夫だってわかってるから」
俺相手だったら何を言ってもいいと思われてるのは釈然としないが、ある種の信頼はされているのだろう。
俺と日向の関係は一言で言い表すには難しい。家族でもなければもちろん恋人でもない。
かといって友達かと言われたら、そんなに単純な関係ではないと思う。
「他の人相手でも、その感覚で話せたらいいんだけどな。まあ、難しいわな。俺もできない」
「やっぱりさ、こいつはダメなやつなんだって他人から思われるのが怖いんだよね。自分のダメなところを見せて
嫌われるのが怖い」
「人間は誰だってダメなところがあって、苦手なことがあってなんとか折り合いつけながら必死に生きてるのにな。それが分からずに人が傷つくようなことを簡単にするやつがいっぱいいる」
「ダメ人間の私達にとっては、なんとも生きづらい世の中だよね」
「ほんとにな。俺達みたいにお互いの傷を舐め合いながらやってける相手がいるのって幸福なことなのかもな」
「環くんに傷を舐められるのはちょっと...」
「おい、今いいこと言ってただろ俺」
日向はようやく元気になってきたようだ。
「ね、環くん、今日の夕ご飯どうする?」
「余ってた野菜で野菜炒めにしようかと思ってた」
「焼き肉食べたい!」
「ええー、でも家に肉ないぞ。今から買いに行くって言っても日向歩けないんだろ?」
「大丈夫!もう歩けるようになったから!」
「都合の良いことで。まあたまには焼き肉もいいか。」
「そうと決まったらお肉買いにいこ!」
すっかり元気になった日向と二人並んでいつものスーパーに向かう。
いつの間にか雨は止んで、空には月が見える。
秋の夜がやってくる。
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