最強勇者を倒すため。ボクは邪剣に手を染める

はりせんぼん

文字の大きさ
18 / 42

第3話 真っ二つ その1

しおりを挟む
 あれは、第六階層の主と呼ばれる吸血鬼ノスフェラトゥとの戦闘時だった。

 吸血鬼ノスフェラトゥは自身が強力な魔物だ。
 とは言え、単体では『勇者』たるルークの敵ではない。
 まともに戦えば、苦戦をする理由はない。

 しかし、強力な魔物と言う奴は、大抵まともには戦ってくれない。
 吸血鬼ノスフェラトゥも例には漏れない。

 吸血鬼ノスフェラトゥ自身の影から無限に近い数の眷属を召喚する。
 眷属一匹一匹はそう強くは無い。
 ただし、その総量は、物理的に近づく事を困難にさせられる。

 特に厄介なのは、常に噴き出してくる吸血コウモリの群れだった。
 雲霞の如く現れて、洪水の如く一塊になって襲いかかってくる。

 『勇者』たるルークや『剣聖』イーゲルブーア、『魔剣士』コーザにとっては、傷もつかない攻撃だが、後衛の『聖女』二人にとっては、放っておける攻撃ではない。
 結局、ルークは飛び交うコウモリの群れを潰して回らなくてはならなくなる。
 そして、潰しても潰しても、コウモリはどんどん影から補給されていく。

「こりゃあ中々に堪らんぞ。何か良い考えは無いものですかな。勇者殿」

 イーゲルブーアの剣が人の形をしたトカゲのような眷属をまとめて二体切り裂いた。
 ルークの脳裏に一瞬、フレアとアリアの二人を見捨てるという選択肢が浮かんだ。
 個人的には魅力的なアイデアだった。
 ただ、親友はそう言う非道は許してくれない。
 だから、駄目だと思った。

「ルーク。あれはどういう魔物なの?」

 背後からシオンの声がした。
 シオンは盾を振り回し、フレアとアリアに近づく吸血コウモリを叩き落としている。
 自身の身体には、至る所に噛み傷がついている。
 致命傷には程遠いカスリ傷だが、積もり積もればどうなるか分からない。

 回復役のフレアは何をしているのか。
 やはり見捨てるべきかと、ルークは割と本気で検討し始める。

「ご友人。見て分からぬか?」
「見て分からない事が、ルークには分かるかもしれないですよ」

 嫌味を言うコーザに、シオンは真っ直ぐ目を向ける。
 シオンはいつだって正しい。
 正しい道をルークに指し示してくれる。

 吸血鬼ノスフェラトゥの【窓】を凝視する。
 【窓】が次々と開いて行って、吸血鬼ノスフェラトゥの能力の詳細が開示されていく。
 数値化された体力や魔力。
 所持する特殊能力。
 そしてその特殊能力の詳細を書き記した【窓】が、ルークの前に開示される。

「……あいつが影から出せるのは、無制限という訳では無いようだ。同時に出していられる魔物の数は限られる。弱い魔物は大量に出せるが、強くなるほど数は少なくなる。そういう事らしい」
「さすがルーク。それなら、散開すれば一人あたりのコウモリの密度を下げられる」
「散開しても塊になって追ってきますわよ」
「アリアさんはボクが守ります。フレアさんは防御の魔法で耐えていただければ」
「どうして私達が貴方の指示に従わないといけないのです?」

 不満げなアリアとフレア。
 不満を顔に出しているのはイーゲルブーアとコーザも同じだ。
 こんな新人の若造の意見など、誰が聞くものかと言う空気が漂う。

「オレも新人の若造なんだけどなぁ」
「何か言われましたか?」
「いいや何も。……フレアは魔法で自分を防御。アリアはシオンと一緒に散開。遠間から魔法で眷属の数を減らしてくれ。イーゲルブーアとコーザは露払いだ。オレがつっこむ」

「後、ローケンさんも。隠れていないで撹乱お願いします」

 シオンが言った。

「切った張ったは俺の仕事じゃねえんだけどもよ」

 どこかに消えていたローケンが、闇の中から声を返す。

「遠くからコウモリを散らしてもらうだけでいいので」
「へいへい。坊やがいると楽させてもらえねえなぁ」

 ルークが間合いを詰めれば、吸血鬼ノスフェラトゥは強力な魔物で足止めをする必要に迫られる。
 しかしそれは、後衛を攻める吸血コウモリの数を減らすと言う事だ、
 そして、コウモリの数が減る程、後衛が自由に動けるようになる。
 後衛の援護によって、ルークはさらに前進出来る。
 これが戦局の分岐点だ。

 魔物と言うものは得てしてそうだ。
 倒すための道筋が分かれば、後は流れ作業に近い。
 強力な力は持っていても行動には一定のパターンがあり、自ら考えて不測の事態に対応するという事をしない。

 第六階層の主と呼ばれる吸血鬼ノスフェラトゥですら、結局はただの魔物と変わらない。

「いくぞ」

 光を纏ったルークの剣が居並ぶ眷属を蹴散らし進む。
 その歩みが進む度、影からはより強力な魔物が現れる。
 その歩みが進む度、魔物の密度は減っていく。

 アリアの魔法が魔物をまとめて焼き払う。
 いびつな人型の魔物が影から現れて、その瞬間に勇者の剣の露と消える。

 周囲にたかる吸血コウモリから自由になったフレアが、イーゲルブーアとコーザの武具に魔力を纏わせる。
 影から巨大な牙と顎の怪物が現れて、その瞬間に『剣聖』と『魔剣士』の剣に屈した。

 勇者の光の刃が吸血鬼ノスフェラトゥに迫る。
 滑るように退く吸血鬼ノスフェラトゥ

「【術技:雷歩】」

 ルークの脚のそこかしこに【術技】が生み出した雷が纏わりつく。
 雷は見る間に脚を覆い尽くし、脚そのものへと同化して、半ば稲妻そのものと化した脚が床を蹴る。

 吸血鬼ノスフェラトゥに倍する速度でルークは駆け、手にした剣を振りかざす。

「【術技:裂光】」

 光が爆発した。
 凝集された光が槍のように吸血鬼ノスフェラトゥの腹を貫いた。
 そして爆発。

「やれやれ。厄介な相手だったな。なあシオン……」
「ルーク!」

 背後から声がした
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...