最強勇者を倒すため。ボクは邪剣に手を染める

はりせんぼん

文字の大きさ
19 / 42

第3話 真っ二つ その2

しおりを挟む
 シオンの声だ。
 声は意外な程に近かった。

 振り返る。
 シオンがいた。目の前にいた。
 剣を振りかぶっていた。
 既に剣の間合いの中だった。

 浮かび上がった【窓】が、赤文字で警告を発していた。
 こいつは危険だ。
 こいつは敵だ。
 こいつは殺すべき相手だ。

 やかましいくらいに飛び交う警告表示。
 ルークの中で【術技】が、今こそ自分を使う時、と主張を始める。
 【術技:裂光】を使った直後に、振り向きざまに発動出来る【術技】が、リストになって脳裏に浮かぶ

「ルーク! 足元っ!」

 刃が閃く。
 シオンの刃が向かってくる。
 親友の顔が、飛び交う【窓】でよく見えない。

「足元! 影! 敵っ!」

 ガン、と鋼が床を叩く音。
 シオンが奮った刃で地面を叩く。

「……っ!?」

 床ではなかった。
 倒したはずの吸血鬼ノスフェラトゥの影がそこにあった。
 影から牙と顎が生えていた。

 吸血鬼ノスフェラトゥが遺した影から、巨大な獣が出現しようとしていた。
 一口でルークの全身を覆い尽くせる程の顎。
 剣よりも長い牙。
 口の中は深淵の闇に繋がっている。

 獣は出現と同時にルークを脚から齧り取ろうとしていた。

 強大なその獣の顎内に、シオンの刃が傷をつける。
 かすり傷程度の小さい傷。
 獣を倒すには遥かに足りない。
 顎を閉じるその速度を、一瞬止めたそれだけだった。

 そして、ルークにはその一瞬で十分だった。

「【術技:螺旋竜】!」

 獣の【窓】が見えた瞬間、ルークは【術技】を【窓】に定める。
 竜に似た光の軌跡を描いて、ルークの剣は振り下ろされる。

 動きは螺旋。
 周囲すべてを切り裂いて。
 周囲の敵を切り裂いて。
 獣は瞬時に肉塊に変わる。
 敵を示す【窓】はすべて消えていた。

「……あ」

 影から現れた獣の【窓】も
 刃を持って駆けつけた親友の【窓】も。

「シオン! シオン! 大丈夫か?」

 親友の肩にざくりと剣が刺さっていた。
 びゅうびゅうと、真っ赤な血が噴き出していた。
 半ばまでつきたてられた刃が、咄嗟に我が身を守ったシオンの剣と盾を砕いて、肺の手前で止まっていた。

「ごめん。ごめんシオン! 大丈夫? 大丈夫か! 誰か、治癒を、治癒を早く!」

 親友を斬ってしまった。
 窮地に駆けつけてくれた親友を斬ってしまった。

 【窓】のせいだ。
 真っ赤な警告表示の【窓】が、ルークの周りを飛び交っていた。
 刃を持って駆け込んでくる親友を、【窓】は敵と表示し続けていた。

 だから、【術技】に巻き込んでしまった。

「目障りだったから……」

 【窓】が、目障りだったから。
 親友を斬ってしまった。

 シオンは何も悪くない。
 オレも親友を傷つけるつもりは無い。

 言い訳にすらならない事を知りながら、ルークはただ侘び続ける事しかできなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...