27 / 42
第3話 真っ二つ その10
しおりを挟む
『真紅の女主人』亭の二階。
紅い毛の長い絨毯の先にある一際大きい扉の向こう。
レオナ専用の応接室がそこにある。
先日、シオンが通されたその部屋だ。
勇壮なオークの肖像画。
その足元に捧げるように、二本の両手剣が立てられている。
それを背負ってレオナが座る。
まるで正面の相手に挑みかかるように。
「さて。それじゃさっさと要件を済まそうか」
レオナの両脇にはシオンとラフィが立っていた。
シオンの腰には使い慣れた片手剣。さすがに鎧と盾は用意していない。
ラフィはいつもの道衣姿。腰の後ろにサイが刺さっている。
「そうですな。こういうのはあまりいい気分ではありませんからな。お互いに」
対する冒険者側。
現れたのは二人組だった。
椅子に座ってにこやかに笑う男と、その護衛らしい大剣を帯びた男の二人だった。
どちらもシオンは見た事はある。
話したり、名前を知ってる程の相手ではなかった。
その事実に、少しだけシオンは安堵して、安堵した事実に少し驚いた。
自分はもう、彼らを敵と認識しているのだと。
その事に気付いた。
椅子に座ってレオナと話す男は、冒険者の取りまとめ役だ。
国だかどこかの役人で、冒険者達には『役人』とか『御用聞き』と呼ばれていた。
冒険者間の利害関係の調整や、外部からの依頼の取りまとめと配分のため、冒険者の溜まり場にいつもいる。
いつも笑った物腰の柔らかい男だが、どうにも逆らい辛い奴だと言う評判の男だった。
もう一人は冒険者だった。
名前まではよく知らない。
宿で乱暴な口をきき、仲間と喧嘩をしたり暴れたりするのを見かけたので覚えていた。
これ見よがしに背負う大剣は血の跡がついている。
額に大きな刀傷。目付き鋭い大柄な男。
『粗暴な冒険者』を絵に描いたらこうなるのだろうなと、初めて彼を見た時シオンは思ったものだった。
「それではまず。これが三人分の財産となります。そちらの要求額には届きませんが、これが彼らの全財産ですので」
『役人』が、じゃらりと硬貨の入った布袋を三つ差し出した。
「しょっぼ」
ラフィは嘲りを隠さず呟いた。
明らかに聞こえるように言った声だった。
『役人』の笑っていない目がぎろりとラフィの顔を見る。
「相変わらずクソだな。これだからモグラは」
「ま、もらえるもんは貰っておくわ。こいつらの葬式代わりにパーっと使い切ってあげるからさ。一晩で」
一般に、金を溜め込んでいる冒険者は少ない。
冒険で得た金は、大半【術技】の習得と日々の生活に使われる。
金を残すくらいならば、【術技】と装備品に使った方が有用だからだ。
そして、有用でない楽しい使い方も、街の中にはいくらでもある。
そうやって金を使い果たして、そうしてようやくダンジョンへと腰を上げる。
それが普通の冒険者だ。
いくらかでも財産が残っていた三人組は、冒険者としてはかなりマシな部類に入る。
「ところがそうは参りません」
ラフィが銭袋に手を出そうとした瞬間、『役人』の声がそれを遮った。
「は?」
心底呆れた顔のラフィ。
「三人は依頼の途中でした。『魔剣士』コーザ様からの正式な依頼です。故に彼らは正統な業務をしていたに過ぎない。これに対し、我々は抗議を申し上げに参りました」
『役人』の声は冷静だった。
感情を見せない声色で、説いて聞かせるように言う。
「は? 馬鹿?」
無論、ラフィが説かれるはずも無い。
愛らしい顔を力いっぱい歪めて見せて、『役人』を見下している。
「仕事の途中なら街中で武器を振り回して、無実の人間を殺害しようとして良い。という話は初耳だな」
レオナも形の良い眉をしかめている。
『役人』の言う通り、街中での殺傷行為が許容される場合は確かに存在する。
大きくは三通りの場合だ。
一、兵士、衛視、もしくはそれらの委託を受けた者が必要やむを得ない理由がある場合。
二、決闘。すなわち、両者の同意があり、どれかの神殿の認定がある場合。
三、魔物に対処する場合。
一つ目は賞金稼ぎが賞金首を狩る場合だ。
非常事態等、街や国の公的な依頼によって冒険者や傭兵が街中で戦闘する場合もこれに含まれる。
二つ目は両者の同意と、神殿での審議の上で許可される。
騎士や冒険者同士の争いを決着させる裁判の一形態だ。
そして三つ目。
まれに街中にまで魔物が出没する事がある。この時、冒険者が対応する場合だ。
それ以外は全て違法とされている。
しかし、シオンと三人組の争いは、そのどれにも当てはまらない。
シオンにはそのように思える。
シオンに限らず、レオナにもラフィにも明らかだ。
「即ち、コーザ様の依頼の対象。つまりその少年が、魔物であると言う事です。少なくとも、その疑いがある」
にんまりと、今度こそ心から『役人』は笑って言った。
いやらしい。悪意のこもった笑みだった。
紅い毛の長い絨毯の先にある一際大きい扉の向こう。
レオナ専用の応接室がそこにある。
先日、シオンが通されたその部屋だ。
勇壮なオークの肖像画。
その足元に捧げるように、二本の両手剣が立てられている。
それを背負ってレオナが座る。
まるで正面の相手に挑みかかるように。
「さて。それじゃさっさと要件を済まそうか」
レオナの両脇にはシオンとラフィが立っていた。
シオンの腰には使い慣れた片手剣。さすがに鎧と盾は用意していない。
ラフィはいつもの道衣姿。腰の後ろにサイが刺さっている。
「そうですな。こういうのはあまりいい気分ではありませんからな。お互いに」
対する冒険者側。
現れたのは二人組だった。
椅子に座ってにこやかに笑う男と、その護衛らしい大剣を帯びた男の二人だった。
どちらもシオンは見た事はある。
話したり、名前を知ってる程の相手ではなかった。
その事実に、少しだけシオンは安堵して、安堵した事実に少し驚いた。
自分はもう、彼らを敵と認識しているのだと。
その事に気付いた。
椅子に座ってレオナと話す男は、冒険者の取りまとめ役だ。
国だかどこかの役人で、冒険者達には『役人』とか『御用聞き』と呼ばれていた。
冒険者間の利害関係の調整や、外部からの依頼の取りまとめと配分のため、冒険者の溜まり場にいつもいる。
いつも笑った物腰の柔らかい男だが、どうにも逆らい辛い奴だと言う評判の男だった。
もう一人は冒険者だった。
名前まではよく知らない。
宿で乱暴な口をきき、仲間と喧嘩をしたり暴れたりするのを見かけたので覚えていた。
これ見よがしに背負う大剣は血の跡がついている。
額に大きな刀傷。目付き鋭い大柄な男。
『粗暴な冒険者』を絵に描いたらこうなるのだろうなと、初めて彼を見た時シオンは思ったものだった。
「それではまず。これが三人分の財産となります。そちらの要求額には届きませんが、これが彼らの全財産ですので」
『役人』が、じゃらりと硬貨の入った布袋を三つ差し出した。
「しょっぼ」
ラフィは嘲りを隠さず呟いた。
明らかに聞こえるように言った声だった。
『役人』の笑っていない目がぎろりとラフィの顔を見る。
「相変わらずクソだな。これだからモグラは」
「ま、もらえるもんは貰っておくわ。こいつらの葬式代わりにパーっと使い切ってあげるからさ。一晩で」
一般に、金を溜め込んでいる冒険者は少ない。
冒険で得た金は、大半【術技】の習得と日々の生活に使われる。
金を残すくらいならば、【術技】と装備品に使った方が有用だからだ。
そして、有用でない楽しい使い方も、街の中にはいくらでもある。
そうやって金を使い果たして、そうしてようやくダンジョンへと腰を上げる。
それが普通の冒険者だ。
いくらかでも財産が残っていた三人組は、冒険者としてはかなりマシな部類に入る。
「ところがそうは参りません」
ラフィが銭袋に手を出そうとした瞬間、『役人』の声がそれを遮った。
「は?」
心底呆れた顔のラフィ。
「三人は依頼の途中でした。『魔剣士』コーザ様からの正式な依頼です。故に彼らは正統な業務をしていたに過ぎない。これに対し、我々は抗議を申し上げに参りました」
『役人』の声は冷静だった。
感情を見せない声色で、説いて聞かせるように言う。
「は? 馬鹿?」
無論、ラフィが説かれるはずも無い。
愛らしい顔を力いっぱい歪めて見せて、『役人』を見下している。
「仕事の途中なら街中で武器を振り回して、無実の人間を殺害しようとして良い。という話は初耳だな」
レオナも形の良い眉をしかめている。
『役人』の言う通り、街中での殺傷行為が許容される場合は確かに存在する。
大きくは三通りの場合だ。
一、兵士、衛視、もしくはそれらの委託を受けた者が必要やむを得ない理由がある場合。
二、決闘。すなわち、両者の同意があり、どれかの神殿の認定がある場合。
三、魔物に対処する場合。
一つ目は賞金稼ぎが賞金首を狩る場合だ。
非常事態等、街や国の公的な依頼によって冒険者や傭兵が街中で戦闘する場合もこれに含まれる。
二つ目は両者の同意と、神殿での審議の上で許可される。
騎士や冒険者同士の争いを決着させる裁判の一形態だ。
そして三つ目。
まれに街中にまで魔物が出没する事がある。この時、冒険者が対応する場合だ。
それ以外は全て違法とされている。
しかし、シオンと三人組の争いは、そのどれにも当てはまらない。
シオンにはそのように思える。
シオンに限らず、レオナにもラフィにも明らかだ。
「即ち、コーザ様の依頼の対象。つまりその少年が、魔物であると言う事です。少なくとも、その疑いがある」
にんまりと、今度こそ心から『役人』は笑って言った。
いやらしい。悪意のこもった笑みだった。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!
花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】
《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》
天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。
キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。
一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。
キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。
辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。
辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。
国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。
リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。
※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい
カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる