最強勇者を倒すため。ボクは邪剣に手を染める

はりせんぼん

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第3話 真っ二つ その10

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 『真紅の女主人』亭の二階。
 紅い毛の長い絨毯の先にある一際大きい扉の向こう。
 レオナ専用の応接室がそこにある。
 先日、シオンが通されたその部屋だ。
 勇壮なオークの肖像画。
 その足元に捧げるように、二本の両手剣が立てられている。

 それを背負ってレオナが座る。
 まるで正面の相手に挑みかかるように。

「さて。それじゃさっさと要件を済まそうか」

 レオナの両脇にはシオンとラフィが立っていた。
 シオンの腰には使い慣れた片手剣。さすがに鎧と盾は用意していない。
 ラフィはいつもの道衣姿。腰の後ろにサイが刺さっている。

「そうですな。こういうのはあまりいい気分ではありませんからな。お互いに」

 対する冒険者側。
 現れたのは二人組だった。
 椅子に座ってにこやかに笑う男と、その護衛らしい大剣を帯びた男の二人だった。
 どちらもシオンは見た事はある。
 話したり、名前を知ってる程の相手ではなかった。

 その事実に、少しだけシオンは安堵して、安堵した事実に少し驚いた。
 自分はもう、彼らを敵と認識しているのだと。
 その事に気付いた。

 椅子に座ってレオナと話す男は、冒険者の取りまとめ役だ。
 国だかどこかの役人で、冒険者達には『役人』とか『御用聞き』と呼ばれていた。
 冒険者間の利害関係の調整や、外部からの依頼の取りまとめと配分のため、冒険者の溜まり場にいつもいる。
 いつも笑った物腰の柔らかい男だが、どうにも逆らい辛い奴だと言う評判の男だった。

 もう一人は冒険者だった。
 名前まではよく知らない。
 宿で乱暴な口をきき、仲間と喧嘩をしたり暴れたりするのを見かけたので覚えていた。
 これ見よがしに背負う大剣は血の跡がついている。
 額に大きな刀傷。目付き鋭い大柄な男。
 『粗暴な冒険者』を絵に描いたらこうなるのだろうなと、初めて彼を見た時シオンは思ったものだった。

「それではまず。これが三人分の財産となります。そちらの要求額には届きませんが、これが彼らの全財産ですので」

 『役人』が、じゃらりと硬貨の入った布袋を三つ差し出した。

「しょっぼ」

 ラフィは嘲りを隠さず呟いた。
 明らかに聞こえるように言った声だった。
 『役人』の笑っていない目がぎろりとラフィの顔を見る。

「相変わらずクソだな。これだからモグラは」
「ま、もらえるもんは貰っておくわ。こいつらの葬式代わりにパーっと使い切ってあげるからさ。一晩で」

 一般に、金を溜め込んでいる冒険者は少ない。
 冒険で得た金は、大半【術技】の習得と日々の生活に使われる。
 金を残すくらいならば、【術技】と装備品に使った方が有用だからだ。
 そして、有用でない楽しい使い方も、街の中にはいくらでもある。

 そうやって金を使い果たして、そうしてようやくダンジョンへと腰を上げる。
 それが普通の冒険者だ。
 いくらかでも財産が残っていた三人組は、冒険者としてはかなりマシな部類に入る。

「ところがそうは参りません」

 ラフィが銭袋に手を出そうとした瞬間、『役人』の声がそれを遮った。

「は?」

 心底呆れた顔のラフィ。

「三人は依頼の途中でした。『魔剣士』コーザ様からの正式な依頼です。故に彼らは正統な業務をしていたに過ぎない。これに対し、我々は抗議を申し上げに参りました」

 『役人』の声は冷静だった。
 感情を見せない声色で、説いて聞かせるように言う。

「は? 馬鹿?」

 無論、ラフィが説かれるはずも無い。
 愛らしい顔を力いっぱい歪めて見せて、『役人』を見下している。

「仕事の途中なら街中で武器を振り回して、無実の人間を殺害しようとして良い。という話は初耳だな」

 レオナも形の良い眉をしかめている。

 『役人』の言う通り、街中での殺傷行為が許容される場合は確かに存在する。
 大きくは三通りの場合だ。
 一、兵士、衛視、もしくはそれらの委託を受けた者が必要やむを得ない理由がある場合。
 二、決闘。すなわち、両者の同意があり、どれかの神殿の認定がある場合。
 三、魔物に対処する場合。

 一つ目は賞金稼ぎが賞金首を狩る場合だ。
 非常事態等、街や国の公的な依頼によって冒険者や傭兵が街中で戦闘する場合もこれに含まれる。

 二つ目は両者の同意と、神殿での審議の上で許可される。
 騎士や冒険者同士の争いを決着させる裁判の一形態だ。

 そして三つ目。
 まれに街中にまで魔物が出没する事がある。この時、冒険者が対応する場合だ。

 それ以外は全て違法とされている。
 しかし、シオンと三人組の争いは、そのどれにも当てはまらない。
 シオンにはそのように思える。
 シオンに限らず、レオナにもラフィにも明らかだ。

「即ち、コーザ様の依頼の対象。つまりその少年が、魔物であると言う事です。少なくとも、その疑いがある」

 にんまりと、今度こそ心から『役人』は笑って言った。
 いやらしい。悪意のこもった笑みだった。
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