28 / 42
第3話 真っ二つ その11
しおりを挟む
『役人』と後ろに控える冒険者。二つの心臓がどくどくと強く脈打ち始めるのをシオンは聞いた。
じわりと汗の臭いが漂う。
漂う戦闘の気配に、シオンは気取られぬように細く長く呼吸を始める。
いつ、どの瞬間でも動き出せるように。
「馬鹿だこいつ」
面白くなってきた。とラフィは顔で言っている。
ラフィの呼吸も姿勢も変わりない。変わっている様子をシオンは感じ取れない。
常時の状態が臨戦態勢なのか。それともシオンに感じ取れない場所で戦いの準備を整えているのか。
その区別は今のシオンには分からなかった。
「疑いがあるから殺して良い。と言う話は初耳だな」
レオナはソファに身体を沈めて天を仰ぐ。
ここからどう、剣を取って戦う姿勢に変わるのか。
それとも、切った張ったはシオンとラフィに任せる気なのか。
この姿を、敵はどう考えるのか。どう狙うのか。
それをシオンは考える。
「ですが、疑いがあるならば、確認しなくてはならない」
『役人』が、ぐいと顔を前に出す。
伸ばした首筋を斬って下さいと言わんばかり。
素人丸出しの動きだった。
自分は斬られない。その確信があると言うことだろうか。
「どうやって? シオンの頭をパカって開くと『魔物です』とか書いてあるとか言い出すのかな?」
「報告書の写しを送ったはずだが。もしかすると字が読めない方だったかな?」
「どう言われようと。彼が魔物では無い証拠を示していただかなくてはなんとも出来ませんな」
「お前の方で、魔物である証拠を示してからだな。話にならん」
レオナはもう、『役人』に目を向けてすらいない。
バカバカしいと言わんばかりの表情で首を振り、ついでにちらりと護衛を見る。
仁王立ちをしているようで、いつでも剣を抜ける姿勢。
気付かれないように低く小さくした、しかし隠し切れない荒い息。
激しい鼓動と、じわりと浮かぶ汗は身体が緊張状態にある事を示している。
合図を待ちきれないように、姿勢は僅かに前傾していた。
つまりは最初からそのつもりで来たのだ。
「こちらとしても退く訳には参りません。彼の引き渡しを拒むならば、当方は貴方達を魔物を匿う敵対集団と判断せざるを得ませんなぁ」
いけしゃあしゃあと言う『役人』。
声色は、自分の言葉も信じていないと語っている。
こちらも最初からそのつもりで。
自分は殴られない位置にいる。そう思い込んでいる。
こういう奴を殴りつけて這いつくばらせてやったら気分が良いのだろうと。
唇を歪ませてレオナは思った。
そしてラフィは完全にそのつもりになっていた。
こいつは殺すと。
「つまり、最初からそのつもりだったと言う事ですか。ボクは、交渉の材料だと」
シオンの声は震えていた。
悔しい。間違っている。
明確に向けられた悪意に震えが走る。
そして何より、自分の存在がレオナ達の迷惑になる事が不甲斐ないと思う。
「さて、何の事か。私には判りかねますな。それよりもどうされますかね、『戦士』シオンくん」
座り直して『役人』は、シオンを見上げてそう言った。
にこやかに悪意を込めるその顔は、まだまだ手札を残していると語っている。
シオンは改めて、『役人』が冒険者達を取りまとめていた事実を思い出していた。
じわりと汗の臭いが漂う。
漂う戦闘の気配に、シオンは気取られぬように細く長く呼吸を始める。
いつ、どの瞬間でも動き出せるように。
「馬鹿だこいつ」
面白くなってきた。とラフィは顔で言っている。
ラフィの呼吸も姿勢も変わりない。変わっている様子をシオンは感じ取れない。
常時の状態が臨戦態勢なのか。それともシオンに感じ取れない場所で戦いの準備を整えているのか。
その区別は今のシオンには分からなかった。
「疑いがあるから殺して良い。と言う話は初耳だな」
レオナはソファに身体を沈めて天を仰ぐ。
ここからどう、剣を取って戦う姿勢に変わるのか。
それとも、切った張ったはシオンとラフィに任せる気なのか。
この姿を、敵はどう考えるのか。どう狙うのか。
それをシオンは考える。
「ですが、疑いがあるならば、確認しなくてはならない」
『役人』が、ぐいと顔を前に出す。
伸ばした首筋を斬って下さいと言わんばかり。
素人丸出しの動きだった。
自分は斬られない。その確信があると言うことだろうか。
「どうやって? シオンの頭をパカって開くと『魔物です』とか書いてあるとか言い出すのかな?」
「報告書の写しを送ったはずだが。もしかすると字が読めない方だったかな?」
「どう言われようと。彼が魔物では無い証拠を示していただかなくてはなんとも出来ませんな」
「お前の方で、魔物である証拠を示してからだな。話にならん」
レオナはもう、『役人』に目を向けてすらいない。
バカバカしいと言わんばかりの表情で首を振り、ついでにちらりと護衛を見る。
仁王立ちをしているようで、いつでも剣を抜ける姿勢。
気付かれないように低く小さくした、しかし隠し切れない荒い息。
激しい鼓動と、じわりと浮かぶ汗は身体が緊張状態にある事を示している。
合図を待ちきれないように、姿勢は僅かに前傾していた。
つまりは最初からそのつもりで来たのだ。
「こちらとしても退く訳には参りません。彼の引き渡しを拒むならば、当方は貴方達を魔物を匿う敵対集団と判断せざるを得ませんなぁ」
いけしゃあしゃあと言う『役人』。
声色は、自分の言葉も信じていないと語っている。
こちらも最初からそのつもりで。
自分は殴られない位置にいる。そう思い込んでいる。
こういう奴を殴りつけて這いつくばらせてやったら気分が良いのだろうと。
唇を歪ませてレオナは思った。
そしてラフィは完全にそのつもりになっていた。
こいつは殺すと。
「つまり、最初からそのつもりだったと言う事ですか。ボクは、交渉の材料だと」
シオンの声は震えていた。
悔しい。間違っている。
明確に向けられた悪意に震えが走る。
そして何より、自分の存在がレオナ達の迷惑になる事が不甲斐ないと思う。
「さて、何の事か。私には判りかねますな。それよりもどうされますかね、『戦士』シオンくん」
座り直して『役人』は、シオンを見上げてそう言った。
にこやかに悪意を込めるその顔は、まだまだ手札を残していると語っている。
シオンは改めて、『役人』が冒険者達を取りまとめていた事実を思い出していた。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!
花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】
《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》
天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。
キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。
一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。
キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。
辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。
辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。
国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。
リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。
※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい
カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる