最強勇者を倒すため。ボクは邪剣に手を染める

はりせんぼん

文字の大きさ
34 / 42

第4話 そして勇者は夢を見る その2

しおりを挟む
 汗と共に疲れが流れ落ちていく。
 握った剣を放せないほど緊張しきった全身が、サウナの熱に溶けていく。
 ドナとミケラの二人がかりで身体をほぐし、香油を肌に塗られると、痛みも傷も消えていた。
 最後に冷水を頭からかぶると、溶け落ちた返り血で真っ赤に染まっていた。

 それでもう、シオンの体調は元通りになっていた。
 驚く程に軽くなった身体に、シオンは命をかけた戦いが、どれほどの疲労になるのかを理解した。

「それでは、本日はもうおやすみいたしましょう」

 いそいそと背中を押すドナ。
 いつも楽しそうに下がった目尻が、今は溶けそうなほどに垂れていた。

「嬉しそうですね」
「それはもう。ね、お姐さま」
「シオンの事はお任せいたしましたわよ。お姉さま」

 そう言って、ミケラも自室へと戻っていく。
 鏡写しのような二人が別々に動くのは、何度見ても慣れないなとシオンは思う。

「本日の疲れは、しっかり眠って癒やしてしまいましょうね」

 漂うドナの香り。
 香水のような花のような不思議な香り。
 隣に彼女がいるだけで、それが体中に纏わり付くようで。
 それだけで、不思議とシオンは眠くなる。

 きっと今夜も、布団の中に入った時には夢の世界にいるだろう。
 そう思いながら、シオンは寝室のドアを明ける。

「……遅かっったな……」

 寝室には先客がいた。
 間違いなくシオンの寝室だった。
 たった二日寝ただけだが、間違いようのない自分の部屋。
 身体に馴染んだ白いベッドの上に、赤い顔したレオナが座っていた。

「……何だよ。なんか文句あるか?」

 レオナが着ているのは、褐色の肌に映えるような水色の縦縞の寝間着。
 赤い髪にはナイトキャップ。
 顔の下半分は黒い布をつけている。

「……あ、いえ。ちょっと驚いたので」

 昼間の派手で華やかな彼女とは違った装いに、シオンは動揺してしまう。
 ぴちぴちと張り出すレオナの身体の輪郭は、野暮ったいくらいの作りの寝間着を内側から押し上げている。
 漂う香水と彼女の独特の匂いは、普段より一段濃いようにシオンには感じられた。

「レオナは貴方のためにベッドを温めて待っていたのですよ、シオン」
「いやらしい言い方をするなよドナ」
「ベッドを温めていたのは事実でしょう?」

 まあな、とレオナは目を反らす。

「……あの、レオナさん。どうしてここにいるのでしょうか」

 シオンとしては、そもそもそれが分からない。
 そんなシオンの手を取って、レオナは半ば強引にシオンの身体を布団に沈める。

「そ、添い寝してやるから!」

 声が上ずっていた。

「レオナがいやらしい事をしないように、わたくしが見ていて差し上げます」

 あらあらと、ご満悦声のドナ。

「やらしい事なんかしない」

 赤くなって言い返すレオナ。
 言い返しつつも、いそいそと布団の中に自分の身体も潜らせる。

 ふわふわの布団の中は、レオナの体温と匂いが染み込んでいた。

「見ていなかったらするでしょう? ちょっとくらい」
「…………」

 聞こえなかった振りをして、レオナはシオンに手を回す。

 布団とは違う女性らしい柔らかさ。
 シオンの心臓はうるさいくらいに鳴り響く。

「これじゃ眠れませんよ……」

 泣きそうな声で言うシオン。
 目の前には、レオナの整った顔がある。

「大丈夫ですよ」

 ドナがシオンの額を撫でる。
 爽やかな匂いが染み込んで。
 温かい体温と柔らかさに包まれて。
 次の瞬間には、シオンは夢の世界に落ちていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

処理中です...