35 / 42
第4話 そして勇者は夢を見る その3
しおりを挟む
『勇者』が眠りについていた。
魔物避けのまじないを施したキャンプの中、毛布を巻いて眠る少年。
目を開けば暴威を振るう『勇者』も、眠る顔はまだ幼い少年のものだった。
「よくお眠りで」
その寝顔にアリアは手を伸ばし、触れる直前で手を戻す。
触れたら『勇者』は目覚めてしまうだろう。
それは彼女には、避けたい所だった。
「ええ。よくお眠りね」
皮肉げなフレアの声。
この姉妹は、どうやっても意見が合わない。
それでも行動を共にするのは、お互いの利害が一致するからだ。
瓜二つの美人姉妹。と言うのも、彼女らの大きな価値の一つでもある。
血筋や家柄だけで生きていける程、世の中は甘くは無かった。
「それで? コーザ様は色々とご活躍なされているご様子ですが。報告はどのような?」
アリアが尋ねる。
魔物避けのまじないをかけたのは彼女だ。
コーザが人目を避けてキャンプを離れ、何者かと接触していた事は彼女にとっては手に取るように分かる事だった。
「言う必要がありますかな?」
「あら、仲間ではありませんでしたっけ? 私たち」
コーザに蔑みの視線を向けるアリア。
それにフレアも同調する。
「仲間であれば、隠し事は必要ありませんものね」
「よもや勇者様の害になる事など、考えてもおりませんでしょう? それなら、お話いただけるはずですわよね」
話さないならば、その事をルークに告げ口する。
二人は表情でそう言って、コーザは忌々しげに舌打ちをする。
「ご友人が、某の向けた『試練』を撃退された」
「あら、あの三人組を?」
『試練』とは良く言ったものだと、フレアは笑う。
『勇者』が依存気味に連れて回していた少年。
彼女は名前も覚えていない。
しかし、その命が失われたと知ったら、いったいどんな事になってしまうのか。
こいつはそれが分かっているのか。
他人事のようにフレアは内心呆れる。
「あの程度の輩。手ぬるいとしか言いようがありませんわね」
アリアの呆れは別の理由だ。
彼女としては、『勇者』のお気に入りの相手は、早々に排除したいのが本心だった。
「奴らだけではない。他に一人、手練を差し向けたが、それも乗り越えられた」
コーザの声は感心しているようにも聞こえる。
それが二人の癇に障る。
「貴方が大したことの無い輩ばかりを差し向けているのではなくて?」
「貴方の目的が分かりかねますわね」
「某は、あのご友人の才を認めておる」
非難がましい二人の声も、コーザの声色を変えるには及ばない。
「某があの方に『試練』を差し向けるのは、ご友人の将来に期待しておる。それだけの事」
コーザの声は静かに、しかし熱が籠もっている。
「故に、出来る限り険しく難しい『試練』を差し向けておる。あの三人や『真っ二つ』ガランを撃破したと言うならば、他のいかなる試練を与えたとしても、あの方は成し遂げた事であろう」
熱と、そして狂気を孕んだ声だった。
「すなわち、某の見識は正しかったと言うことですな」
それにアリアはぞっとした。
いつからだろうか。
コーザがシオンの事を『あの方』と呼ぶようになったのは。
そして、尊称で呼んでなお、刺客を差し向け命を狙うのは何故なのか。
これは、何者なのだろうか。
『勇者』の傍を護る『魔剣士』コーザ。
音に聞こえたその人が、今のアリアには人ならざる何かに見えていた。
「私にはコーザ様の言葉が矛盾しているように感じますわね」
「あの子供を殺す事と生かす事。どちらを望んでおられるのですか?」
フレアがアリアの声を継ぐ。
「子供を育てるためには、大人が本気にならねばなりません。故に、某はあの方に出来うる限りの試練を与えましょう。きっと彼はそれを乗り越える事でしょう。そうしてはじめて、彼は『勇者』の隣に立てる男に成長するのです」
「……なるほど。道理ですね」
試練を超える程、人は強く育っていく。
その事にフレアもアリアも異論は無い。
「それでもし、彼が『試練』を乗り越えられなかった場合は?」
「その時は、それまでの男だった。それだけの事。しかし、某は信じておりますよ。あの方が一人前の男に成長する事を」
胸を張って言うコーザ。その目に僅かな迷いも曇りも無い。
アリアは思う。こいつは馬鹿だと。
フレアは納得する。こいつは気狂いだと。
これ以上の問答は、やるだけ疲れるだけだと、二人はつくずく納得した。
「……さて。そろそろ出発の時間ですわね」
「そうねフレア。出立の準備をさせて頂戴。私はルーク様を起こします」
「楽な役割がお好きよね。アリアは」
「『勇者』様のご機嫌を乱さないようにお目覚めいただく手段を、貴方はご存知なのかしら、フレア」
「それはアリアの思い込みではなくって?」
冷たい目でにらみ合う二人。
その視線の下で安らかに眠る『勇者』の目が、突然ぱっと、見開かれる。
「『勇者』さま。ご機嫌麗しゅう」
「ルーク様。お目覚めのお茶を今お持ちいたしますわ」
すり寄る二人にルークは青い瞳をきょろりと向けて。
それから興味も無さそうにテントの中をぐるりと見渡す。
「今の階層は、第八階層だったよな」
誰にともなく言う。
現在攻略中のダンジョンは、全部で十三階層だと言う。
何かしらの原因で拡大していない限り、後の階層は五つ。
そのすべてが未踏破の階層だ。
『勇者』を擁する彼らであっても、すべてを攻略するには数ヶ月。あるいは年単位の月日を必要とするだろう。
今回も、第八階層の半分程度の攻略をもって、街に帰還する予定だった。
だから、当然のように言った『勇者』の言葉を、居並ぶ誰もが一瞬理解出来なかった。
「今日中にダンジョンを全部攻略する」
魔物避けのまじないを施したキャンプの中、毛布を巻いて眠る少年。
目を開けば暴威を振るう『勇者』も、眠る顔はまだ幼い少年のものだった。
「よくお眠りで」
その寝顔にアリアは手を伸ばし、触れる直前で手を戻す。
触れたら『勇者』は目覚めてしまうだろう。
それは彼女には、避けたい所だった。
「ええ。よくお眠りね」
皮肉げなフレアの声。
この姉妹は、どうやっても意見が合わない。
それでも行動を共にするのは、お互いの利害が一致するからだ。
瓜二つの美人姉妹。と言うのも、彼女らの大きな価値の一つでもある。
血筋や家柄だけで生きていける程、世の中は甘くは無かった。
「それで? コーザ様は色々とご活躍なされているご様子ですが。報告はどのような?」
アリアが尋ねる。
魔物避けのまじないをかけたのは彼女だ。
コーザが人目を避けてキャンプを離れ、何者かと接触していた事は彼女にとっては手に取るように分かる事だった。
「言う必要がありますかな?」
「あら、仲間ではありませんでしたっけ? 私たち」
コーザに蔑みの視線を向けるアリア。
それにフレアも同調する。
「仲間であれば、隠し事は必要ありませんものね」
「よもや勇者様の害になる事など、考えてもおりませんでしょう? それなら、お話いただけるはずですわよね」
話さないならば、その事をルークに告げ口する。
二人は表情でそう言って、コーザは忌々しげに舌打ちをする。
「ご友人が、某の向けた『試練』を撃退された」
「あら、あの三人組を?」
『試練』とは良く言ったものだと、フレアは笑う。
『勇者』が依存気味に連れて回していた少年。
彼女は名前も覚えていない。
しかし、その命が失われたと知ったら、いったいどんな事になってしまうのか。
こいつはそれが分かっているのか。
他人事のようにフレアは内心呆れる。
「あの程度の輩。手ぬるいとしか言いようがありませんわね」
アリアの呆れは別の理由だ。
彼女としては、『勇者』のお気に入りの相手は、早々に排除したいのが本心だった。
「奴らだけではない。他に一人、手練を差し向けたが、それも乗り越えられた」
コーザの声は感心しているようにも聞こえる。
それが二人の癇に障る。
「貴方が大したことの無い輩ばかりを差し向けているのではなくて?」
「貴方の目的が分かりかねますわね」
「某は、あのご友人の才を認めておる」
非難がましい二人の声も、コーザの声色を変えるには及ばない。
「某があの方に『試練』を差し向けるのは、ご友人の将来に期待しておる。それだけの事」
コーザの声は静かに、しかし熱が籠もっている。
「故に、出来る限り険しく難しい『試練』を差し向けておる。あの三人や『真っ二つ』ガランを撃破したと言うならば、他のいかなる試練を与えたとしても、あの方は成し遂げた事であろう」
熱と、そして狂気を孕んだ声だった。
「すなわち、某の見識は正しかったと言うことですな」
それにアリアはぞっとした。
いつからだろうか。
コーザがシオンの事を『あの方』と呼ぶようになったのは。
そして、尊称で呼んでなお、刺客を差し向け命を狙うのは何故なのか。
これは、何者なのだろうか。
『勇者』の傍を護る『魔剣士』コーザ。
音に聞こえたその人が、今のアリアには人ならざる何かに見えていた。
「私にはコーザ様の言葉が矛盾しているように感じますわね」
「あの子供を殺す事と生かす事。どちらを望んでおられるのですか?」
フレアがアリアの声を継ぐ。
「子供を育てるためには、大人が本気にならねばなりません。故に、某はあの方に出来うる限りの試練を与えましょう。きっと彼はそれを乗り越える事でしょう。そうしてはじめて、彼は『勇者』の隣に立てる男に成長するのです」
「……なるほど。道理ですね」
試練を超える程、人は強く育っていく。
その事にフレアもアリアも異論は無い。
「それでもし、彼が『試練』を乗り越えられなかった場合は?」
「その時は、それまでの男だった。それだけの事。しかし、某は信じておりますよ。あの方が一人前の男に成長する事を」
胸を張って言うコーザ。その目に僅かな迷いも曇りも無い。
アリアは思う。こいつは馬鹿だと。
フレアは納得する。こいつは気狂いだと。
これ以上の問答は、やるだけ疲れるだけだと、二人はつくずく納得した。
「……さて。そろそろ出発の時間ですわね」
「そうねフレア。出立の準備をさせて頂戴。私はルーク様を起こします」
「楽な役割がお好きよね。アリアは」
「『勇者』様のご機嫌を乱さないようにお目覚めいただく手段を、貴方はご存知なのかしら、フレア」
「それはアリアの思い込みではなくって?」
冷たい目でにらみ合う二人。
その視線の下で安らかに眠る『勇者』の目が、突然ぱっと、見開かれる。
「『勇者』さま。ご機嫌麗しゅう」
「ルーク様。お目覚めのお茶を今お持ちいたしますわ」
すり寄る二人にルークは青い瞳をきょろりと向けて。
それから興味も無さそうにテントの中をぐるりと見渡す。
「今の階層は、第八階層だったよな」
誰にともなく言う。
現在攻略中のダンジョンは、全部で十三階層だと言う。
何かしらの原因で拡大していない限り、後の階層は五つ。
そのすべてが未踏破の階層だ。
『勇者』を擁する彼らであっても、すべてを攻略するには数ヶ月。あるいは年単位の月日を必要とするだろう。
今回も、第八階層の半分程度の攻略をもって、街に帰還する予定だった。
だから、当然のように言った『勇者』の言葉を、居並ぶ誰もが一瞬理解出来なかった。
「今日中にダンジョンを全部攻略する」
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!
花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】
《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》
天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。
キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。
一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。
キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。
辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。
辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。
国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。
リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。
※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい
カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる