傷だらけのアイドル候補生

水谷いけと

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1.挫折と決意

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スマホをぎゅっと握りしめながら、私は画面に映し出された冷たいメッセージをじっと見つめていた。


【残念ながら今回はご縁がございませんでした。ご応募ありがとうございました。】


やがて文字がぼやけて見えてきた。

肩が小刻みに震え始める。


力は出し切ったはずだった。

筋肉痛が残るほどダンスを練習した。

鏡に向かって何百回も笑顔を作った。

喉が枯れるまで歌った。

それなのに!


冷たいものが頬に落ちるのを感じた。

外から聞こえる蝉の合唱が、私をあざわらっているように聞こえる。




「みゆ、夕飯できたよ~」


母親ののんきそうな声が部屋響いた。

私はスマホをベッドに叩きつけると、


「いらない!」


叫ぶように返事をして布団に潜り込んだ。

いつしか夢の始まりを思い返していた。


小学校6年生のとき。

地元に来た有名アイドルのライブ。

叔母さんのチケットが余って、私が行くことになった。

ステージの上で、

キラキラした笑顔で踊って、歌って、

 観客みんなを幸せにしている人たち。


学校ではいじめられていた私でさえ、その時間だけは、悩みのすべてを忘れられた。


ライブが終わったあと、私は拳を握りしめていた。


「私も、いつか、あそこに立ちたい!」


あのときの気持ちは、高校生になった今でもかがり火となって胸の奥で燃え続けている。

目の前の画面は、けれども、氷のような現実を突きつけていた。


「やっぱり……私には無理なのかな……」


呟いた瞬間、涙は嗚咽に変わった。




翌朝。

身体の奥から鈍い痛みがした。


カーテンを開けると、ひたすら黒い雲が広がっていた。


冷たい水で顔を洗う。

水が右腕の古い傷に染みた。


重い身体を引きずるようにリビングに行くと、父親が新聞を広げて座っていた。


私を見ると押し殺した声で言った。


「これで目が覚めたんじゃないか?」


言葉にならない呻きが漏れた。


「お父さん……」


「アイドルになるなんて、現実離れした夢は捨てなさい。学生の本分は勉強だ」


何かを言おうとした。

言葉の代わりに膝がガクンと折れて、その場に座り込んだ。

肩がぶるぶると震える。

喉から苦いものを絞り出すような叫びが出た。


「そんなの関係ない!!

私は、絶対に、アイドルになるんだから!!」


私は今きっとひどい顔をしているだろう。

朝食を残したまま、私は階段を勢いよく駆け上がった。


部屋のドアをバタンと閉める。

ふと鏡に映った自分の凶悪そうな表情が目に入った。

また泣けてきた。


実の父親に夢を否定された。

胸が締め付けられそうだった。




私は机の引き出しを乱暴に開けた。

中から鋭利なハサミを取り出した。

そうして右腕の古い傷の上に、新しい傷をつけようとした。



でも、

違う、

そうじゃない!


私はハサミを全力で投げ捨てた。

呼吸が荒くなる。


「違う……」

「こんなことで、終わりたくない!夢を終わらせたくない!」


新しい傷は増えなかった。


私は荒い呼吸のままあえぐようにつぶやいた。

「絶対に、アイドルになるんだから!」





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