1 / 6
1.挫折と決意
しおりを挟むスマホをぎゅっと握りしめながら、私は画面に映し出された冷たいメッセージをじっと見つめていた。
【残念ながら今回はご縁がございませんでした。ご応募ありがとうございました。】
やがて文字がぼやけて見えてきた。
肩が小刻みに震え始める。
力は出し切ったはずだった。
筋肉痛が残るほどダンスを練習した。
鏡に向かって何百回も笑顔を作った。
喉が枯れるまで歌った。
それなのに!
冷たいものが頬に落ちるのを感じた。
外から聞こえる蝉の合唱が、私をあざわらっているように聞こえる。
「みゆ、夕飯できたよ~」
母親ののんきそうな声が部屋響いた。
私はスマホをベッドに叩きつけると、
「いらない!」
叫ぶように返事をして布団に潜り込んだ。
いつしか夢の始まりを思い返していた。
小学校6年生のとき。
地元に来た有名アイドルのライブ。
叔母さんのチケットが余って、私が行くことになった。
ステージの上で、
キラキラした笑顔で踊って、歌って、
観客みんなを幸せにしている人たち。
学校ではいじめられていた私でさえ、その時間だけは、悩みのすべてを忘れられた。
ライブが終わったあと、私は拳を握りしめていた。
「私も、いつか、あそこに立ちたい!」
あのときの気持ちは、高校生になった今でもかがり火となって胸の奥で燃え続けている。
目の前の画面は、けれども、氷のような現実を突きつけていた。
「やっぱり……私には無理なのかな……」
呟いた瞬間、涙は嗚咽に変わった。
翌朝。
身体の奥から鈍い痛みがした。
カーテンを開けると、ひたすら黒い雲が広がっていた。
冷たい水で顔を洗う。
水が右腕の古い傷に染みた。
重い身体を引きずるようにリビングに行くと、父親が新聞を広げて座っていた。
私を見ると押し殺した声で言った。
「これで目が覚めたんじゃないか?」
言葉にならない呻きが漏れた。
「お父さん……」
「アイドルになるなんて、現実離れした夢は捨てなさい。学生の本分は勉強だ」
何かを言おうとした。
言葉の代わりに膝がガクンと折れて、その場に座り込んだ。
肩がぶるぶると震える。
喉から苦いものを絞り出すような叫びが出た。
「そんなの関係ない!!
私は、絶対に、アイドルになるんだから!!」
私は今きっとひどい顔をしているだろう。
朝食を残したまま、私は階段を勢いよく駆け上がった。
部屋のドアをバタンと閉める。
ふと鏡に映った自分の凶悪そうな表情が目に入った。
また泣けてきた。
実の父親に夢を否定された。
胸が締め付けられそうだった。
私は机の引き出しを乱暴に開けた。
中から鋭利なハサミを取り出した。
そうして右腕の古い傷の上に、新しい傷をつけようとした。
でも、
違う、
そうじゃない!
私はハサミを全力で投げ捨てた。
呼吸が荒くなる。
「違う……」
「こんなことで、終わりたくない!夢を終わらせたくない!」
新しい傷は増えなかった。
私は荒い呼吸のままあえぐようにつぶやいた。
「絶対に、アイドルになるんだから!」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない
七星点灯
青春
雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。
彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。
しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。
彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる