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蛹
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黒板かホワイトボードか、何か激突した後があったから
「一体何があったのかな」とチョークまでどうにかなって、ひっくり返ったところを観たら、後ろから何かと修理を頼まれた人たちが物音立て、やいやい入ってきた。とりあえずは
「鹿、鹿」
あっちの方では熊から人まで聞こえた。扉の上を確認して、何もないので足元には、ここに水色のチョークが粉砕されていた。
「またいた。または、鹿と踏んだ」
左も右も来ていないので、振り返って目だけ入って、
「なにがいたって」
脅したのではないかと、ぶつぶつ言っていた。それだけの発散にこだわって、要らない教室は、いつまで要るんだろう。何かを測ろうと延びている。
──3回言ったでしょう!!
そのぼやけた注意のポスターの続きは読む気にもなれない。
本当に面倒だ。
決められたコースで点検するので、学校の最後は墓ばかり見ることになる。うちにはない。あんな酷い庭は。あのひとには六つも建てられた広い墓庭がある。丁寧に、浸るように水をかけて、苔をかまぼこ板で削って取り去り、墓ごとに囲む段や枠だけが死んでいるように見えた。虫がついていたら気になりますか。そう聞かれて、まあ、昆虫学者ですからと嘘をついた。この間はイルカの調教師でした。誰の嘘かわからない。虫ですよ、ええ、虫でしたよ。
「虫ですか?」
聞くとこれら墓というのは蝶の蛹だと言う。それなら生きている。死んでいるという。死んでいる蛹もある。出て行った蛹もいる。帰省中や巣だけ借りることは──微妙──どれがどれだ──。一番上を陣取る人なので、見下ろせば、──どれもですか?──誰もがですか?──これがとても重要になる。
「ええ、誰もがなりますよ。縦に長く在るとか、およそ蛹です」
「復活は有りますか」
ああして──みた方向の群像は、地面に埋もれた冷たくて頑丈な絨毯みたいだった。
「あれはどのように復活しますか、あれも蛹になりますか」
「わかりません」
蛹であれば、周りの囲いは糸だったのか。踏んでもいい台も、骨の入るつなぎとめたのは蛹の殻だけか。何の虫です、たとえば、アゲハチョウではない。あれは地下に潜るのかもしれない。潜って──
「火山ではないですか?」
少し面白くない。まだある気がする。眠る蛹にしては土に潜りすぎている。カブトムシか、蝉の幼虫か。
「どうやって生きたいですか」──それは今の時点でどこの地点や位置で語る。墓の中なのか──死んだ地点や時点はどこだと思いますか?
「生きていますよ、はなしますから」
はなしますよね。りんとした花畑もなくて。生き返ったら何を食べるんだろう。さっきのホワイトボードからも何か出ていったのか。図書館まで歪んでいたのがわかる。実は昨日から何かが生きようとか、逆になろうとしている。ぐさぐさっと薮から踏んで来て、うさぎのようなものが出てきてどこかへ行った。よく来ます、何か食べています──だって、そんなこともないくらいに変な色の墓の立ち並びしか見えないのに、だから、見えないんですよ、生きているからですよ、と諭されて。じゃあ、まあ、チョークと漢字で書けますか、と不機嫌そうにしてみた。
白墨ですかと言われて、まあ──「そうだったかな?」──逆に狼狽えて、むしろ、チョーク、慌てて堊について思い出して。
「そんなものは常用漢字以外ですから」
それはそうですが、あ、ですか。さっきの、うさぎが、悪いよ、聞きなさんな。目つきの変わらないうさぎは睨むので、嫌いだった。人参も耳から生えないのに。
「あっちの海まで行ってチョークになるものを拾います」
──どうぞ、どうぞ。ああ、どうせ、どうぞ、どうぞ、ホワイトボードを破壊してください。墓達が不思議なテレビ番組のように、ホワイトボードに激突して、派手に大きなアゲハチョウが出てくるように、正解で、ばさばさと、それで羽ばたいたら──あの扉の面倒くさい欠片も吹き飛ぶのになあ。
「鹿って、よく見られますか」
苔に埋もれた蒲鉾板が、かんから手から落ちて、すり身を想像した。うわあ、もう要りません。意味不明の台詞を笑いと一緒に練習を断った。
「ポスターの色も、こんな色でしたね」
知りませんよ、緑色ですよね。雁字搦めだ。こんな整いすぎた角のない墓などからは、そのままどうにもならなさそうだから、もっと儚くて、壊れるような──人間の復活には耐えられる殻が必要です。なるほど。中身も要らないのでは? 空洞ですか。叩こうとしたから。天罰が静電気に変わる。
「空だと音が鳴りますよ」
ほら、西瓜玉の確かめ方と同じだった。
「真っ黒の西瓜もありますからね」
色までわかりませんよ、なんて言われた。黄色と言ったかな。そこの、隙間から出たなんらかの雑草も、そこはかとなく蔓で、どちらにも絡んでいる。容赦なく先ほどの蒲鉾板で攻撃されていた。──わかった、わかった。うさぎが帰ってきて後ろ足を痒そうに踏み鳴らしている。
整然とも乱立とも言えない、言うほど増えない蛹の──「殻ばかりですか。復活の鳳蝶もいますか。わかりますか」
「中身が死ぬこともありますが」
死んだのに、もう一度死ぬ儀式は要らないような。どれがどの何の、誰のための墓なんだ──?
やめたらよかった。今度から点検はここまで来なくても学内だけで広すぎる。
壊れた教室はガムテープで封じてしまおう。
「一体何があったのかな」とチョークまでどうにかなって、ひっくり返ったところを観たら、後ろから何かと修理を頼まれた人たちが物音立て、やいやい入ってきた。とりあえずは
「鹿、鹿」
あっちの方では熊から人まで聞こえた。扉の上を確認して、何もないので足元には、ここに水色のチョークが粉砕されていた。
「またいた。または、鹿と踏んだ」
左も右も来ていないので、振り返って目だけ入って、
「なにがいたって」
脅したのではないかと、ぶつぶつ言っていた。それだけの発散にこだわって、要らない教室は、いつまで要るんだろう。何かを測ろうと延びている。
──3回言ったでしょう!!
そのぼやけた注意のポスターの続きは読む気にもなれない。
本当に面倒だ。
決められたコースで点検するので、学校の最後は墓ばかり見ることになる。うちにはない。あんな酷い庭は。あのひとには六つも建てられた広い墓庭がある。丁寧に、浸るように水をかけて、苔をかまぼこ板で削って取り去り、墓ごとに囲む段や枠だけが死んでいるように見えた。虫がついていたら気になりますか。そう聞かれて、まあ、昆虫学者ですからと嘘をついた。この間はイルカの調教師でした。誰の嘘かわからない。虫ですよ、ええ、虫でしたよ。
「虫ですか?」
聞くとこれら墓というのは蝶の蛹だと言う。それなら生きている。死んでいるという。死んでいる蛹もある。出て行った蛹もいる。帰省中や巣だけ借りることは──微妙──どれがどれだ──。一番上を陣取る人なので、見下ろせば、──どれもですか?──誰もがですか?──これがとても重要になる。
「ええ、誰もがなりますよ。縦に長く在るとか、およそ蛹です」
「復活は有りますか」
ああして──みた方向の群像は、地面に埋もれた冷たくて頑丈な絨毯みたいだった。
「あれはどのように復活しますか、あれも蛹になりますか」
「わかりません」
蛹であれば、周りの囲いは糸だったのか。踏んでもいい台も、骨の入るつなぎとめたのは蛹の殻だけか。何の虫です、たとえば、アゲハチョウではない。あれは地下に潜るのかもしれない。潜って──
「火山ではないですか?」
少し面白くない。まだある気がする。眠る蛹にしては土に潜りすぎている。カブトムシか、蝉の幼虫か。
「どうやって生きたいですか」──それは今の時点でどこの地点や位置で語る。墓の中なのか──死んだ地点や時点はどこだと思いますか?
「生きていますよ、はなしますから」
はなしますよね。りんとした花畑もなくて。生き返ったら何を食べるんだろう。さっきのホワイトボードからも何か出ていったのか。図書館まで歪んでいたのがわかる。実は昨日から何かが生きようとか、逆になろうとしている。ぐさぐさっと薮から踏んで来て、うさぎのようなものが出てきてどこかへ行った。よく来ます、何か食べています──だって、そんなこともないくらいに変な色の墓の立ち並びしか見えないのに、だから、見えないんですよ、生きているからですよ、と諭されて。じゃあ、まあ、チョークと漢字で書けますか、と不機嫌そうにしてみた。
白墨ですかと言われて、まあ──「そうだったかな?」──逆に狼狽えて、むしろ、チョーク、慌てて堊について思い出して。
「そんなものは常用漢字以外ですから」
それはそうですが、あ、ですか。さっきの、うさぎが、悪いよ、聞きなさんな。目つきの変わらないうさぎは睨むので、嫌いだった。人参も耳から生えないのに。
「あっちの海まで行ってチョークになるものを拾います」
──どうぞ、どうぞ。ああ、どうせ、どうぞ、どうぞ、ホワイトボードを破壊してください。墓達が不思議なテレビ番組のように、ホワイトボードに激突して、派手に大きなアゲハチョウが出てくるように、正解で、ばさばさと、それで羽ばたいたら──あの扉の面倒くさい欠片も吹き飛ぶのになあ。
「鹿って、よく見られますか」
苔に埋もれた蒲鉾板が、かんから手から落ちて、すり身を想像した。うわあ、もう要りません。意味不明の台詞を笑いと一緒に練習を断った。
「ポスターの色も、こんな色でしたね」
知りませんよ、緑色ですよね。雁字搦めだ。こんな整いすぎた角のない墓などからは、そのままどうにもならなさそうだから、もっと儚くて、壊れるような──人間の復活には耐えられる殻が必要です。なるほど。中身も要らないのでは? 空洞ですか。叩こうとしたから。天罰が静電気に変わる。
「空だと音が鳴りますよ」
ほら、西瓜玉の確かめ方と同じだった。
「真っ黒の西瓜もありますからね」
色までわかりませんよ、なんて言われた。黄色と言ったかな。そこの、隙間から出たなんらかの雑草も、そこはかとなく蔓で、どちらにも絡んでいる。容赦なく先ほどの蒲鉾板で攻撃されていた。──わかった、わかった。うさぎが帰ってきて後ろ足を痒そうに踏み鳴らしている。
整然とも乱立とも言えない、言うほど増えない蛹の──「殻ばかりですか。復活の鳳蝶もいますか。わかりますか」
「中身が死ぬこともありますが」
死んだのに、もう一度死ぬ儀式は要らないような。どれがどの何の、誰のための墓なんだ──?
やめたらよかった。今度から点検はここまで来なくても学内だけで広すぎる。
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