不老ふしあわせ

くま邦彦

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第三章 和二一族( 太康十年・西暦二八九年)

船作り

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 さっそく次の日から、大型船を作る者と土地を開墾する者に手分けし、また、何人かは沃沮の民と一緒に漁に出て、大海での舟の扱いを覚えた。
 大型船は海岸沿いで、出来上がった船を運び出しやすいところに造船所作った。これは、舟づくりの名人の指示である。山から切り出した木を運び出す手間が増えるが、出来上がった船を海に出すことを考えたら仕方がない。
 船を作り始めると、沃沮の若者五人がやってきた。
「儂らも手伝うから、島に一緒に連れて行ってくれ」
 事情を聞くと、身寄りが一人もいない者たちだという。ハンのように他国へ行くことも考えたが、不安で決断できなかったという。これだけの大人数で島を目指すなら心強いので、ぜひ仲間に入れてほしいとのことだ。
 二組の家族を途中、中継基地に残して来たので、五人増えることは問題はない。あとは、この五人の人柄だ。ハンは他国での生活があったので、ワニ一族の生活にすぐに慣れたが、この五人は初めての経験である。一族に馴染まない者が加わると、それだけ問題を抱え込むことになる。
「働き具合を見せてもらう。その結果で、いっしょに連れて行くかどうか判断する。それでいいか」
 五人は了解し、次の日から船作りを手伝い始めた。
 このことは、村長にも話しておいた。今は平和だが、いつ何時挹婁や高句麗が襲ってくるかもしれない。その時に若者が少なくなれば大変なことになる。
 村長は了解してくれた。これまでも若者が村を離れていったことがあったという。無理やり引き留めるほど、今の村に魅力はないので仕方がないという返事だった。
 コオルウミを出発して六年目の春を迎えた。
 大型船は四隻出来上がった。各船に二十数名ずつが乗り込むことになる。
 ここでもアキトモは考えた。家族は四人、各船に一人ずつ分かれて乗せよう。そうすれば、もしその中の一隻が難破して乗組員が全員死んだとしても、その家族が滅びることはない。ワニ一族はそうやって、長い年月一族を維持してきた。
 だからこそ、他の船に乗っている家族のことをお互いが思いやり、四隻すべてが無事に島にたどり着けますようにと、心から神に祈ることができる。
 食べ物は十日分と沃沮の武器も積み込んだ。もっとも、沃沮の武器は気休めのようなものだ。戦いを好まない一族の武器など大して役には立たない。しかし、これは沃沮の村長がワニ一族への餞別として送ってくれたものだ。開墾地にできた五穀と野菜畑の礼である。アキトモはありがたく受け取った。
 改めて一行を見ると、この六年間でみんなたくましくなった。新天地では、子供たちの力が必要になってくる。沃沮の若者五人とハンも一緒に島をめざすことになった。
 船出を明日に控えて、アキトモは長男のタカトモを呼んだ。島まで無事に着ける保証はない。
 アキトモはタカトモに話しておかなければならないことがあった。族長だけに語り伝えられてきた秘密である。
 アキトモが父親からその秘密を聞かされたのは、二十七歳の時だった。それから二十年、いよいよタカトモにそれを伝える時がやってきた。
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