不老ふしあわせ

くま邦彦

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第三章 和二一族( 太康十年・西暦二八九年)

沃沮人

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 アキトモはできるだけ多くの武器と食料を残し、東へ向けて出発をした。
 アキトモは扶余や高句麗、挹婁との戦いには心配はなかった。しかし、出来る限り接触は避け、早く東へ進みたかった。そのことはハンにも伝えていたので、ハンも細心の注意を払いながら案内をしてくれた。
 秋に入る頃、ようやく沃沮人の住む村に到着した。ハンにとっては十数年ぶりの同胞との再会だ。さぞかし嬉しいだろうと思ったが、そうでもなさそうだ。ここは彼の生まれ故郷ではなく、見知った人間は一人もいない。いまでは、ワニ一族の方が身内のような気持でいた。
 沃沮人はアキトモの一行に親切だった。ハンがいたことも影響しているのかもしれないが、他民族との接触が少ないためか、人を疑うということをしない民族のように思える。
 ハンとの生活で、一行は沃沮の言葉が多少分かるようになっていた。彼らと自然に話すことができることも一因かもしれない。言葉が通じるということは大切な事なのだ。
 アキトモは大海の向こうにあるという島について、村に着くごとに聞いてみた。
 しかし、実際に島に行ったことのある者はいなくて、みな噂で聞いたことばかりだった。ハンが教えてくれたことと違ったのは、いきなり弓矢で襲われて逃げ出した者もいたということぐらいだった。すべての島人が友好的だとはいえないようだ。
 アキトモは、ハンの言っていた沃沮の舟を見せてもらった。自分たちがコオルウミで使っていた舟と比べて、大きさはそれほど変わらないが、大海の波を乗り切るためなのか舳先が鋭くなっている。問題は乗れる人数だ。これではせいぜい十人が限度というところだ。
 舟作りの名人がいるというので、早速案内してもらった。
「四、五十人が一度に乗れる大型船は作れないものだろうか」
 名人の返答はあっさりしたものだった。
「作れるさ」
 普段は、そんなに多くの人数が乗る必要がないから作っていないだけで、かつては大型船を作って朝鮮半島の国々に売ったことがあるという。
 問題は金だ。アキトモには大型船を買い取る金などない。今は駱駝も山羊もいない。ワニ一族に伝わる丸薬は、これ以上減らすわけにはいかない。
 金の代わりに大型船を作ってもらう方法はないかハンにも相談すると、「彼らが喜ぶ物と交換するしかないでしょう」と言う。
 沃沮人の生活の糧は、狩猟採集と漁である。海と山ばかりのこの土地では当然のことだが、アキトモは村近くの森に目をつけた。ワニ一族もコオルウミにやってきた時、先祖は木を切り開いて農地を開墾したという。ここでもそれができるのではないか。
「ハン、儂らは五穀と野菜の種をもっているのだが、これらを栽培して収穫できれば、大型船と交換できるだろうか」
「アキトモ様、それはよい考えです。栽培がうまくいけば、沃沮人の生活も楽になります。きっと皆は喜びます」
「大型船が出来上がるには一年以上はかかるだろう。その間に、木を切り出した土地を農地に開墾し、そこで五穀と野菜を育てよう」
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