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第三章 和二一族( 太康十年・西暦二八九年)
六角の石柱
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族長が認め、当事者の国王二人が納得しているのだから、他国の王が口を挟む余地はなかったが、スサノオとクマノクスビは、これですべてが丸く収まるとは思っていなかった。
田植えの時期を終えていたので、スサノオは収穫を終えた秋に国替えをしてはどうかと提案したが、タカシレウクはすぐにでも国替えをしたいと言う。
農民は自分が植えた苗の収穫をしたいと考えるものだが、タカシレウクにはそのような農民の気持ちもわからないようだ。出雲国の交易で出る利益が欲しくてたまらないのだろう。
いずれにしても、クノマクスビに異論はない。ワニ一族を淡海国で保護するには早い方が良い。国替えは国王だけが入れ替わるのではない。土地だけを残し住民すべてが入れ替わる。道具も何もかもである。年寄りにとっては、生まれ育った土地を離れる不安は、大きな負担だっただろう。
クマノクスビは、移ってきた住民の配置に気を配った。まず、ワニ一族が目指してきたという六角の石柱の場所がまだ見つかっていない。アキトモは、ワニ暦の十二月にならないと光の帯がどこに降りるかわからないという。それまでは国王の館近くに一行を住まわせることにした。国王の館はタカシレウクの使っていた淡海が狭くなる南の畔の館を、そのまま使うことにした。この辺り一面は田圃で米の収穫の中心地である。淡海国は淡海を取り囲むように土地が広がり、舟を使えば広い淡海国の行き来にも便利である。そのため、農民と漁民は広い範囲に住まわせても不自由はなさそうである。
しかし、朝鮮半島との交易で働いていた住民はその職を失ってしまった。そこでクマノクスビは新しい仕事を見つけ出さなければならない。そこでまず、鉄を作る鍛冶屋と隣国との物の交換に携わる商人を作った。
そうこうしているうちに、ワニ暦の十月に入った。アキトモはこの淡海のどこかに六角の石柱があると考えていた。しかし、国替えで元の住民一人もいない。自分たちで探すしかない。
ただ、クマノクスビの世話になっているので、一族の全員が探すのに狩りだすわけにはいかない。男十人を選び出し、あとの者は米作りや漁の手伝いをするように命じた。
淡海をぐるりと取り囲むだけで五百八十里にも及ぶ。しかし、見て回ったがそれらしい石柱は見当たらない。次に淡海に浮かぶ島である。広いところでは対岸は見えない。島がいくつあるのかさえ分からない。
王の館近くの狭くなった場所から、六艘の舟を用意し二人ずつが乗り込むと、北に向かって相手の舟が見える範囲まで広がりながら進んだ。右手に大きな島が見える。
島を一周したがそれらしい石柱は見つからない。アキトモは、淡海の石柱もきっとコオルウミの石柱のように周りに木々は生えていないと考えていた。
「この島にはないな」
六艘はまた、徐々に間を広げながら北に進んだ。
「族長、前方に小さな島があります」タカトモが叫んだ。
広い淡海の中の小さな島である。注意深く見なければ見落としてしまいそうな小さな島だった。アキトモは声には出さなかったが、これだと確信した。
島というより大きな岩が海面から顔を出しているといった方が良い。舟をつける場所もない。寄せるだけ寄せると、アキトモはそばの岩場に降りた。そして、大きな岩を取り囲む岩を足場に上に登った。頂上はわずかに平らになっていて、その中央に六角の石柱があった。コオルウミの石柱とそっくりの石柱が。
「タカトモ、見つけたぞ」
田植えの時期を終えていたので、スサノオは収穫を終えた秋に国替えをしてはどうかと提案したが、タカシレウクはすぐにでも国替えをしたいと言う。
農民は自分が植えた苗の収穫をしたいと考えるものだが、タカシレウクにはそのような農民の気持ちもわからないようだ。出雲国の交易で出る利益が欲しくてたまらないのだろう。
いずれにしても、クノマクスビに異論はない。ワニ一族を淡海国で保護するには早い方が良い。国替えは国王だけが入れ替わるのではない。土地だけを残し住民すべてが入れ替わる。道具も何もかもである。年寄りにとっては、生まれ育った土地を離れる不安は、大きな負担だっただろう。
クマノクスビは、移ってきた住民の配置に気を配った。まず、ワニ一族が目指してきたという六角の石柱の場所がまだ見つかっていない。アキトモは、ワニ暦の十二月にならないと光の帯がどこに降りるかわからないという。それまでは国王の館近くに一行を住まわせることにした。国王の館はタカシレウクの使っていた淡海が狭くなる南の畔の館を、そのまま使うことにした。この辺り一面は田圃で米の収穫の中心地である。淡海国は淡海を取り囲むように土地が広がり、舟を使えば広い淡海国の行き来にも便利である。そのため、農民と漁民は広い範囲に住まわせても不自由はなさそうである。
しかし、朝鮮半島との交易で働いていた住民はその職を失ってしまった。そこでクマノクスビは新しい仕事を見つけ出さなければならない。そこでまず、鉄を作る鍛冶屋と隣国との物の交換に携わる商人を作った。
そうこうしているうちに、ワニ暦の十月に入った。アキトモはこの淡海のどこかに六角の石柱があると考えていた。しかし、国替えで元の住民一人もいない。自分たちで探すしかない。
ただ、クマノクスビの世話になっているので、一族の全員が探すのに狩りだすわけにはいかない。男十人を選び出し、あとの者は米作りや漁の手伝いをするように命じた。
淡海をぐるりと取り囲むだけで五百八十里にも及ぶ。しかし、見て回ったがそれらしい石柱は見当たらない。次に淡海に浮かぶ島である。広いところでは対岸は見えない。島がいくつあるのかさえ分からない。
王の館近くの狭くなった場所から、六艘の舟を用意し二人ずつが乗り込むと、北に向かって相手の舟が見える範囲まで広がりながら進んだ。右手に大きな島が見える。
島を一周したがそれらしい石柱は見つからない。アキトモは、淡海の石柱もきっとコオルウミの石柱のように周りに木々は生えていないと考えていた。
「この島にはないな」
六艘はまた、徐々に間を広げながら北に進んだ。
「族長、前方に小さな島があります」タカトモが叫んだ。
広い淡海の中の小さな島である。注意深く見なければ見落としてしまいそうな小さな島だった。アキトモは声には出さなかったが、これだと確信した。
島というより大きな岩が海面から顔を出しているといった方が良い。舟をつける場所もない。寄せるだけ寄せると、アキトモはそばの岩場に降りた。そして、大きな岩を取り囲む岩を足場に上に登った。頂上はわずかに平らになっていて、その中央に六角の石柱があった。コオルウミの石柱とそっくりの石柱が。
「タカトモ、見つけたぞ」
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